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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第八章:鎖の国と……
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今そこに無い危機

続きです、よろしくお願い致します。

「あ、そうだ、さっきの店でおつまみ用に干し肉買ったんだ……食うか?」


「良いのか?」


「子供が遠慮するもんじゃ無いッスよ」


 ――すっかり仲良くなった、俺、ミッチー、コラキは地べたに座り、晩酌用に持っていたおつまみを食べながら、ボーイズトークに勤しんでいた。


「む、それ、もも缶の!」


「コッケェェ!」


 視界の端では、オーシの時同様、涙目で走り回るスプリギティスさんを、もも缶が追い回している。


「なぁ、あの状態だと喋れないのか?」


 モチャモチャと干し肉を齧りながら、コラキに聞いてみる。


「いや、喋れるよ? ただ、忘れてるだけだから……」


「そうか、なら……教えてあげたら? ――多少はもも缶の食い気を抑え込めるかもよ?」


 ――流石に喋る相手を食べたりは……するかもなぁ……。


 俺が一人悩んでいると、コラキがスプリギティスに喋れる事を教えてあげる。


「――コッ!」


 スプリギティスさんは、何かに気が付いた様に驚いた顔をした後、もも缶に向き直り、「コッコッコ……」と不敵に笑い(?)だした。


「んん、どおですかぁ? 聞こえますかぁ?」


「――むぅ、喋る、鳥肉……」


 お? もも缶が動きを止めて悩み始めた。――スプリギティスさんは先ほどまで追いかけられていたにもかかわらず……。


「あぁ、私、喋れるのすっかり忘れてましたぁ……」


 などと、もも缶の傍に近付きのほほんとしている。


「――おじさん、ミッチー……何、休んでんの?」


 ――俺達がのんびりしているのを見つけた悠莉が、呆れたと言いたげな顔で俺達の所に来た。どうやら、愛里は少し離れた所でイグルの手当てをしてくれているらしい……。


「お、悠莉か……。それが、聞いてくれよ――」


 俺は怒られないためにも、コラキから聞いた話を悠莉にも話してみる。


「――え、じゃあ、何であの二人止めないのよ!」


 悠莉はスプリギティスさんともも缶を差し、俺達を怒鳴り付ける。


「まぁ……見てみろよ? ――ある意味、安心できるからさ」


「そっスね……お菓子食べるッスか?」


「――で、でも……?」


「まあ、まあ」


 戸惑いながら、お菓子はしっかりと頂く悠莉……。俺はそんな悠莉の肩をガッチリと掴む。


「――ふゃ?」


 ――真っ赤になった悠莉を、そのまま、強引に地べたに座らせる。ついでに、ハオカと、ペタリューダ、愛里も呼んでみる――が。


「じゃあ、この子運ぶの手伝ってくれますか?」


 と、愛里が言うので、イグルと、ついでにハオカとペタリューダの傍で痙攣しているペリを、揃ってコラキの横に寝かせる。


 ――そして、俺達はスプリギティスさんともも缶の戦闘を観戦し始めた……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「んんんんん……うん、イケる」


 ジュルリ……と、もも缶は湿った音を出し、何かを決意したかの様に、ナイフとフォークをスプリギティスさんに向ける。――やっぱり、イケるのか……。


「え? あらあら……?」


 大鳥姿のスプリギティスさんは、何かヤバイモノを感じたのか、一歩、二歩と後退り、もも缶と距離を取ろうとする。


「もも缶は、容赦、しない」


 ナイフとフォークをカチンカチンと打ち鳴らし、もも缶は距離を詰め様とする。


「ティス様ぁ! 変身ですって! へ・ん・し・ん!」


 ――おっと……、ここで観ていられなくなったのか、コラキがスプリギティスさんにアドバイスを送ってしまった。


「え……あっ! ああ、そうねぇ? 忘れてたわぁ……」


 スプリギティスさんは、「コケッ」と一鳴きすると、大量の羽毛を撒き散らし、恐らく――もも缶と同じ様に甲冑姿に変身し、よう……と……?


「――ティス様ぁ……」


 スプリギティスさんは、「コケェェェェェ」と、気合を入れながら羽毛を放出し続けているが、一向に変身する気配が無い……。――もう分かった、忘れたんだな……?


「――何か、おじさんの言ってる意味が分かっちゃった……」


「そうどすなぁ、何や手助けしとぉなりますぇ……」


「あぁ……躾けたい……躾けたいですわ……」


「敵を応援したくなるって……、どうなんでしょうか?」


 悠莉、ハオカ、ペタリューダ、愛里は何かが刺激されてしまった様で、「ああっ」とか叫びつつ、手に汗握り――スプリギティスさんを応援し始めている。


 ――しかし、その何かが刺激されているのは、どうやら、悠莉達だけではないらしく……。


「――むぅ……」


 もも缶は構えていたナイフとフォークをどこかに仕舞うと、トコトコとスプリギティスさんに近付いて行き、身振り手振りで何かを伝えている。


 やがて――。


「あぁっ!」


 スッキリした声と共に、スプリギティスさんの身体が光り出し、その全身をモコモコとした白い甲冑で包んでいた。


「ん、やった!」


「あらぁ……お手数をおかけしますねぇ?」


 もも缶とスプリギティスさんは、「イェイ」と言った感じでハイタッチを交わすと、お互い変身を解き、スッキリとした顔で俺達の所に駆け寄って来た。


「コラキちゃん、私、出来たよぉ?」


「ティス様……苦しい……」


 スプリギティスさんは、はしゃいでコラキに抱きつくと、火が出そうな勢いで頬ずりしている。一方、もも缶も、ドヤ顔で俺の前まで来ると――。


「エサ王、もも缶、やった!」


 頭と両手で作った手皿を、俺に差し出して来た。


「お、おお……偉いぞ? この干し肉をやろう!」


 ――何だろう……? スプリギティスさんと戦うと、忘れ癖が感染(うつ)るんだろうか? 俺はそんな事を考えながら、もも缶の頭を撫で、手ずから干し肉を食わせてあげた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「へぇ……それで、バイトを掛け持ちねぇ?」


 ――一通りはしゃぎ終わり、落ち着いたスプリギティスさん一味から、俺達は改めて事情を聞いていた。


 どうやら、スプリギティスさん達はここにいる四人と、あと一人、スプリギティスさんの参謀役の様な人と一緒に、酒屋やギルドのバイトを掛け持ちし、失った金を補填しようとしているらしい……。


「あれ……? じゃあ、お金が戻ったら、やっぱりこの国を潰すつもり?」


「「「「――え?」」」」


 まさか……、こいつ等その事考えてなかったのか? ――あからさまに動揺し、四人は小声で何か相談を始めてしまった。


「――なあ、お前らさ?」


 ここで、俺はちょっと気になっていた事を聞いてみる。


「はぁい、何ですかぁ?」


 ――出来れば、他の奴が良かったけど……。


「言ってみれば、お前ら……今、栗井博士――主の命令に逆らってる状態だよな? 何か、こう……苦しいとか、痛いとか、ないのか?」


 俺はペタリューダの顔を見ながら聞いてみる。すると、ペタリューダも、俺の言おうとしている事が分かった様で、後に続いて来た――。


「皆さん……頭痛とか、吐き気はしないんですの?」


 ペタリューダの質問に対して、ペリがおずおずと手を上げる。


「女王様、発言をお許し下さい……。――私達の部隊は、ティス様が完全な人型になれる様になってからは、皆、頭痛――と言うか、主への忠誠心まで薄くなり、ほぼ、ティス様の親衛隊となっております……」


「そうでしたの……。ありがとうございます、後で、ご褒美を差し上げますわ?」


 ――どうしよう? 何か、いつの間にか、躾けられてる? 余りにも自然に「女王様」とか言うから、ツッコミのタイミングを逃したっぽいんだけど……。


「――愛里姉様……。お手数ですが、スプリギティスさん達の診察をお願い致します」


 戸惑う俺達を他所に、ペタリューダはチャカチャカと事を進めていく。そして、愛里も戸惑いながら、四人の頭に手を当てる――。


「――あ、その……スプリギティスさん以外の方は、『欠片』が見当たりませんね……」


「やっぱり……って、え? スプリギティスさんはあんの?」


 どう見ても、頭痛に悩まされてないっぽいんだけど?


「?」


 ――ほら、本人も何の事か分かって無いッぽいし!


「その……病は気から、と言いますか……多分、痛いのを忘れているんではないかと……」


 愛里は眉に皺を寄せ、納得できないと言った表情で、俺にそう伝えた。――羽衣ちゃん……おじちゃん、もう、疲れたよ……。今から帰る……。


 ふと、悠莉達を見れば、皆、同じ様に苦虫を噛み潰したような顔で、スプリギティスさんを見つめていた。


 ――うん、もうこの国、大丈夫っぽい……。

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