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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第八章:鎖の国と……
127/204

修行の成果と忘却の……

続きです、よろしくお願い致します。

「なあ、ミッチー……相談があるんだが?」


「なんスか? おやっさん」


 ――教会裏の林の中、俺達の三メートル程前方を褐色の肌の少年――コラキが歩いている。既に十五分は歩いただろうか? 恐らく、俺達と戦うのに都合が良い場所を探しているんだろうけど……。


「――逃げない?」


「おやっさん……気持ちは分かるんスけど、そんな「お茶しない?」みたいに、情けない事言わんで欲しいッスよ……」


「そうは言うけどさ……、流石に、小学生位の――もも缶と歳が変わんない位の背格好の奴を、大人二人がかりってのもな?」


 俺の言い分は、ミッチーも考えていたらしく、少し悩んだ後――。


「ありかも知れないっスね……」


 そう言って、了解してくれた――が……。


「ねぇよっ! 『八咫』!」


 ――どうやら、俺達の会話を聞いていたらしい……。コラキは、手に持った錫杖をトンッと地面に突く。


「おわぁ……地面が、揺れる?」


「――クッ、これは……」


 俺達の耳には、シャンシャンと沢山の鈴が鳴る様な音が響き、立ち眩みで目の前が真っ赤に染まる。


「おやっさん、音――音波っス! 前も似た様なスキルを使う奴が居たっス!」


 ――音か……。見えないってのは厄介だな。


「ふふんっ。広い場所に行くとでも思ったカ? 僕の狙いは……この林に入る事だ! 『(アッシュ)』!」


 コラキがスキルを発動させると、地中から何か動物の骨が這い出して来た。地中から出てきた骨はボロボロと崩れながら、コラキの右手にある錫杖に集まっていく。そして――。


「これが……俺の剣だ!」


 ――錫杖ごとその右手を骨に包まれたコラキは、見た目チェーンソーの様になってしまった錫杖を振りかざし、俺達に襲い掛かって来た。


「おやっさん……」


「――分かってる……残念だ……」


 ――ゴゴリンッ!


「ぶへっ!」


 あのまま、音波で攻撃してりゃ良かったのに……。気絶し、白目を剥いているコラキをミッチーに担いで貰い、俺達は来た道を戻る。


「おやっさんの成果って、アレっスか?」


「――ん? ああ、師匠(ラシム様)の提案でな? 『塗り壁』にもう少しだけ、工夫を重ねたんだよ」


 俺の修行成果である新方式の『塗り壁』は二段構えである。二組の『塗り壁』をくの字に配置し、二組の継ぎ目――角部分を相手に向け、相手が突っ込んで角の部分にぶつかれば、衝撃に反応して上下、もしくは、左右から二組の『塗り壁』が襲いかかると言うものだ。


「名付けて……んん……『塗り壁:虎挟』で良いかな?」


「――また……何も子供で試さなくても……」


 ――あっ。


「内緒で……お願い」


「良いッスけど、次からは一言、本っ当に相談してほしいッス……」


 ミッチーの肩に担がれるコラキにも両手を合わせ、人知れず謝罪し、俺達は教会に戻って行った。そこで目にしたモノは――!


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――ウン……ショ!」


 ゆたかな――ペリと呼ばれた少女が、太くて黒い棍棒をペタリューダ目がけて振り下ろしていた。――おお、揺れる……。


「――甘くてよ! 『潤滑(お舐め)』!」


 ――ペタリューダの全身がテラテラと輝いたかと思えば、次の瞬間、トゥルンっと棍棒がペタリューダの身体を滑る様に、地面に落ちていく。それをたまたまだと判断したのか、ペリは何度も何度も、棍棒をペタリューダ目がけて振り下ろす。


 ――トゥルン……トゥルン……。


「えっ? 何これぇ? アタシの武器が……」


 一分も続ければ、遠目でも分かる程に、棍棒はテラテラと輝き、ペタリューダのぬめりがうつっていた。――ペリは涙目で棍棒に砂を被せ、ぬめりを取ろうとしているが――戦闘中にそれはいかんな……。


「――ちょっと、可哀想ですけど……『爆鱗』!」


「ほな、軽めにいきますね? 『雷電』!」


 ペタリューダが、棍棒を必死にさすり、ぬめりを取ろうとしているペリの周囲に赤い鱗粉をばら撒くと、それに続く様に、ハオカがエイトビート? で、バチを振り回し(ドラムを叩いている様にも見えるが……)、数発の朱雷をペリの周囲に落とす――。


「――ポッ?」


 ペリが気付いた時には既に遅く、朱雷が鱗粉に触れると、瞬く間に電気の檻――簡易版の『雷檻』の完成だ。――哀れ、ペリは電気ショックで、その場にへたり込んでしまった……。


「おーほっほっほ!」


「ペタはん……そら、あかん」


 高笑いをしながら、ペリを踏み付けようとするペタリューダをハオカが必死で押さえつけている。――気のせいか、ペリの顔が紅潮している様な……いや、気のせいだ……。


「皆、もう決着つきそうッスね?」


 ――どうやら、教会の傍を離れたのは俺達だけだったらしい。それぞれ、俺達が移動している間に戦闘を進め、もう決着が付きかけている。


 今も、ハオカ、ペタリューダが危なげなくペリを下し、既に介抱を始めている。そして――。


「ヴァァァ!」


「愛姉っ! 来るよ!」


「――うん、悠莉ちゃん、合わせてみる! 『ヨァレ』!」


 三白眼の少女――イグルは、その姿を『伯獣』らしく、半人半獣と言った感じに変え、空からその爪で悠莉達に襲い掛かっていた。


「――あれ……?」


 ――そう言えば、何でこいつ等……部下が三人も……?


「おやっさん、どうかしたんスか?」


「ん? あ、ああ、ちょっと考え事だ、気にしないでくれ」


 何か、色々聞きたい事が出て来たぞ……?


「セイヤァァァァ――」


 イグルは、愛里が宙に出した『ヨァレ』の輪を、何かの攻撃と思ったのか、「それごと叩き潰す」と言いたげなドヤ顔で蹴りを放っている。――実際は、輪を通過する度に蹴りの威力が落ちていると言うのに……。


「――掛かった……悠莉ちゃん、お願いね? 『ピン・パゥワ』!」


 クスリと微笑むと、愛里は悠莉の胸の当たりにエメラルドグリーンの楕円形の輪っかを作り出す。――『ピン・パゥワ』……全身を強化する『パゥワ』の効果をただ一か所に集中させるスキルだ。


「うん、愛姉……殺るよ!」


 ――何か、今、物騒な……?


「――ァァァァァァァァッ!」


 そんな、二人の、のんびりしたやり取りを引き裂く様に、イグルの蹴りが――ってまだ叫んでたの?


「ふぅぅぅぅ……『一等星(ファースト)』!」


 悠莉の蹴りは『ピン・パゥワ』の楕円を綺麗に通過し、イグルの蹴りとぶつかる。


「「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」


 ――火花を散らす、二人のおみ足を――いや、雄姿を俺は一秒たりとも見逃さない様に見つめる。やがて、悠莉の足に軍配が上がり、イグルは足を弾かれ、一回転して地面に顔から突っ込んでしまった……。


「――ニャァッ!」


 悠莉はガッツポーズを取ると、そのまま愛里とハグして喜び合っていた。そして――。


「ヴァァァァァァァァンッ!」


 ――人型に戻り、地面に突っ込んでいた顔を引っこ抜いたイグルは、人目を憚らず泣き出してしまった……。


「うわぁ、胸が痛い……」


「――おやっさん、鏡持ってきましょうか?」


 既に地面に座り込み、俺とミッチーは観戦モード――いや、この後に控える一戦の為に、体力を温存していた。


 そう――。


「あらぁ? イグルちゃん、なんで泣いてるのぉ?」


「ん、地面、顔から行った、痛い」


 スプリギティスと戦うもも缶を加勢する為に――って……。


「あらぁ……。イグルちゃーん、ほら、痛いの痛いの飛んでけって! 私、応援してるわぁ!」


「ん、エサ王、もも缶も、応援、欲しい……」


 ――あいつ等、何を戦ってるんだ……? そんな俺の視線を感じたのか、もも缶は恥ずかしそうに微笑み、誤魔化す様にいきなり白桃色の甲冑姿になってしまった。


「あっ……。そうそう……戦うのよねぇ?」


 そして、スプリギティスも漸く変身し――て?


「コッケェェ!」


 ――変身は変身だけど……何か、違わないか?


「――いや、でも……アレが奴のベストフォームかもしれ無いッスよ?」


「そ、そうだよな……?」


 俺とミッチーはいつ助太刀に入るべきか、タイミングを計りつつ、そんな事を話していた。すると――。


「――そんな訳ないだろう……」


 ミッチーの肩に担がれているコラキがそんな事を言い出した。


「あの人は……ティス様はなぁ……忘れてんだよ!」


 大きくため息を吐くコラキを地面に下ろし、俺達は続きを促す。


「――お前らに分かるか? あの人の忘れ癖の恐ろしさが! ――あの人はなぁ……戦闘中も自分が強いの忘れるし、任務中は任務を――と言うか主の事自体忘れるし……主から預かったこの国での活動資金を空から落とすし!」


 ――堰をきった様に嘆くコラキの肩を優しく叩く……若いのに苦労してんなあ?


 その後も、コラキの愚痴は続く……。


 ――どうやら、スプリギティスはこの国での活動資金を栗井博士から受け取り、この国でのアジトに向かう途中、口に軍資金を咥えている事を忘れ、ご機嫌で歌を唄い、口を開けた拍子に落してしまったらしい……。


 その落した所が、この教会っぽい所――孤児院らしい……。


「え、じゃあ、返してもらえば良かったんじゃ?」


 俺の質問に、コラキは顔を真っ赤にして叫ぶ。


「お前っ! 言えるかよ! ティス様、人型になるコツを途中で忘れて、背中に羽根生やしたまま回収しに行ったんだぞ? ――その時の、ココのガキどもの顔見て……そんな事言えるか!」


 ――どうやら、スプリギティスさん……羽根を生やした状態で真昼間に孤児院に降り立ったそうで……。


「――ガキどもが……「天使様だぁ」ってはしゃいでよ? そんな奴らに「金返せ」なんて言えるかよぉ……」


 因みに、スプリギティスさんが落としたお金で、孤児院は五年は飢えと寒さを気にしないで良いそうです……。


「うん……無理!」


「無理……ッスね……」


「だよなぁっ?」


 ――そんな感じで俺達三人は意気投合し……。睨み合い? を続けるスプリギティスさんともも缶を他所に、女所帯における野郎の肩身の狭さを語り合い始めたのだった……。

※2014/08/01

 前話「バーズ」の誤用修正しました。

 「――良し……後を追うぞ?」を「――よし……後を追うぞ?」に変更。

 ご指摘、ありがとうございます。

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