修行の成果と忘却の……
続きです、よろしくお願い致します。
「なあ、ミッチー……相談があるんだが?」
「なんスか? おやっさん」
――教会裏の林の中、俺達の三メートル程前方を褐色の肌の少年――コラキが歩いている。既に十五分は歩いただろうか? 恐らく、俺達と戦うのに都合が良い場所を探しているんだろうけど……。
「――逃げない?」
「おやっさん……気持ちは分かるんスけど、そんな「お茶しない?」みたいに、情けない事言わんで欲しいッスよ……」
「そうは言うけどさ……、流石に、小学生位の――もも缶と歳が変わんない位の背格好の奴を、大人二人がかりってのもな?」
俺の言い分は、ミッチーも考えていたらしく、少し悩んだ後――。
「ありかも知れないっスね……」
そう言って、了解してくれた――が……。
「ねぇよっ! 『八咫』!」
――どうやら、俺達の会話を聞いていたらしい……。コラキは、手に持った錫杖をトンッと地面に突く。
「おわぁ……地面が、揺れる?」
「――クッ、これは……」
俺達の耳には、シャンシャンと沢山の鈴が鳴る様な音が響き、立ち眩みで目の前が真っ赤に染まる。
「おやっさん、音――音波っス! 前も似た様なスキルを使う奴が居たっス!」
――音か……。見えないってのは厄介だな。
「ふふんっ。広い場所に行くとでも思ったカ? 僕の狙いは……この林に入る事だ! 『灰』!」
コラキがスキルを発動させると、地中から何か動物の骨が這い出して来た。地中から出てきた骨はボロボロと崩れながら、コラキの右手にある錫杖に集まっていく。そして――。
「これが……俺の剣だ!」
――錫杖ごとその右手を骨に包まれたコラキは、見た目チェーンソーの様になってしまった錫杖を振りかざし、俺達に襲い掛かって来た。
「おやっさん……」
「――分かってる……残念だ……」
――ゴゴリンッ!
「ぶへっ!」
あのまま、音波で攻撃してりゃ良かったのに……。気絶し、白目を剥いているコラキをミッチーに担いで貰い、俺達は来た道を戻る。
「おやっさんの成果って、アレっスか?」
「――ん? ああ、師匠の提案でな? 『塗り壁』にもう少しだけ、工夫を重ねたんだよ」
俺の修行成果である新方式の『塗り壁』は二段構えである。二組の『塗り壁』をくの字に配置し、二組の継ぎ目――角部分を相手に向け、相手が突っ込んで角の部分にぶつかれば、衝撃に反応して上下、もしくは、左右から二組の『塗り壁』が襲いかかると言うものだ。
「名付けて……んん……『塗り壁:虎挟』で良いかな?」
「――また……何も子供で試さなくても……」
――あっ。
「内緒で……お願い」
「良いッスけど、次からは一言、本っ当に相談してほしいッス……」
ミッチーの肩に担がれるコラキにも両手を合わせ、人知れず謝罪し、俺達は教会に戻って行った。そこで目にしたモノは――!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――ウン……ショ!」
ゆたかな――ペリと呼ばれた少女が、太くて黒い棍棒をペタリューダ目がけて振り下ろしていた。――おお、揺れる……。
「――甘くてよ! 『潤滑』!」
――ペタリューダの全身がテラテラと輝いたかと思えば、次の瞬間、トゥルンっと棍棒がペタリューダの身体を滑る様に、地面に落ちていく。それをたまたまだと判断したのか、ペリは何度も何度も、棍棒をペタリューダ目がけて振り下ろす。
――トゥルン……トゥルン……。
「えっ? 何これぇ? アタシの武器が……」
一分も続ければ、遠目でも分かる程に、棍棒はテラテラと輝き、ペタリューダのぬめりがうつっていた。――ペリは涙目で棍棒に砂を被せ、ぬめりを取ろうとしているが――戦闘中にそれはいかんな……。
「――ちょっと、可哀想ですけど……『爆鱗』!」
「ほな、軽めにいきますね? 『雷電』!」
ペタリューダが、棍棒を必死にさすり、ぬめりを取ろうとしているペリの周囲に赤い鱗粉をばら撒くと、それに続く様に、ハオカがエイトビート? で、バチを振り回し(ドラムを叩いている様にも見えるが……)、数発の朱雷をペリの周囲に落とす――。
「――ポッ?」
ペリが気付いた時には既に遅く、朱雷が鱗粉に触れると、瞬く間に電気の檻――簡易版の『雷檻』の完成だ。――哀れ、ペリは電気ショックで、その場にへたり込んでしまった……。
「おーほっほっほ!」
「ペタはん……そら、あかん」
高笑いをしながら、ペリを踏み付けようとするペタリューダをハオカが必死で押さえつけている。――気のせいか、ペリの顔が紅潮している様な……いや、気のせいだ……。
「皆、もう決着つきそうッスね?」
――どうやら、教会の傍を離れたのは俺達だけだったらしい。それぞれ、俺達が移動している間に戦闘を進め、もう決着が付きかけている。
今も、ハオカ、ペタリューダが危なげなくペリを下し、既に介抱を始めている。そして――。
「ヴァァァ!」
「愛姉っ! 来るよ!」
「――うん、悠莉ちゃん、合わせてみる! 『ヨァレ』!」
三白眼の少女――イグルは、その姿を『伯獣』らしく、半人半獣と言った感じに変え、空からその爪で悠莉達に襲い掛かっていた。
「――あれ……?」
――そう言えば、何でこいつ等……部下が三人も……?
「おやっさん、どうかしたんスか?」
「ん? あ、ああ、ちょっと考え事だ、気にしないでくれ」
何か、色々聞きたい事が出て来たぞ……?
「セイヤァァァァ――」
イグルは、愛里が宙に出した『ヨァレ』の輪を、何かの攻撃と思ったのか、「それごと叩き潰す」と言いたげなドヤ顔で蹴りを放っている。――実際は、輪を通過する度に蹴りの威力が落ちていると言うのに……。
「――掛かった……悠莉ちゃん、お願いね? 『ピン・パゥワ』!」
クスリと微笑むと、愛里は悠莉の胸の当たりにエメラルドグリーンの楕円形の輪っかを作り出す。――『ピン・パゥワ』……全身を強化する『パゥワ』の効果をただ一か所に集中させるスキルだ。
「うん、愛姉……殺るよ!」
――何か、今、物騒な……?
「――ァァァァァァァァッ!」
そんな、二人の、のんびりしたやり取りを引き裂く様に、イグルの蹴りが――ってまだ叫んでたの?
「ふぅぅぅぅ……『一等星』!」
悠莉の蹴りは『ピン・パゥワ』の楕円を綺麗に通過し、イグルの蹴りとぶつかる。
「「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」
――火花を散らす、二人のおみ足を――いや、雄姿を俺は一秒たりとも見逃さない様に見つめる。やがて、悠莉の足に軍配が上がり、イグルは足を弾かれ、一回転して地面に顔から突っ込んでしまった……。
「――ニャァッ!」
悠莉はガッツポーズを取ると、そのまま愛里とハグして喜び合っていた。そして――。
「ヴァァァァァァァァンッ!」
――人型に戻り、地面に突っ込んでいた顔を引っこ抜いたイグルは、人目を憚らず泣き出してしまった……。
「うわぁ、胸が痛い……」
「――おやっさん、鏡持ってきましょうか?」
既に地面に座り込み、俺とミッチーは観戦モード――いや、この後に控える一戦の為に、体力を温存していた。
そう――。
「あらぁ? イグルちゃん、なんで泣いてるのぉ?」
「ん、地面、顔から行った、痛い」
スプリギティスと戦うもも缶を加勢する為に――って……。
「あらぁ……。イグルちゃーん、ほら、痛いの痛いの飛んでけって! 私、応援してるわぁ!」
「ん、エサ王、もも缶も、応援、欲しい……」
――あいつ等、何を戦ってるんだ……? そんな俺の視線を感じたのか、もも缶は恥ずかしそうに微笑み、誤魔化す様にいきなり白桃色の甲冑姿になってしまった。
「あっ……。そうそう……戦うのよねぇ?」
そして、スプリギティスも漸く変身し――て?
「コッケェェ!」
――変身は変身だけど……何か、違わないか?
「――いや、でも……アレが奴のベストフォームかもしれ無いッスよ?」
「そ、そうだよな……?」
俺とミッチーはいつ助太刀に入るべきか、タイミングを計りつつ、そんな事を話していた。すると――。
「――そんな訳ないだろう……」
ミッチーの肩に担がれているコラキがそんな事を言い出した。
「あの人は……ティス様はなぁ……忘れてんだよ!」
大きくため息を吐くコラキを地面に下ろし、俺達は続きを促す。
「――お前らに分かるか? あの人の忘れ癖の恐ろしさが! ――あの人はなぁ……戦闘中も自分が強いの忘れるし、任務中は任務を――と言うか主の事自体忘れるし……主から預かったこの国での活動資金を空から落とすし!」
――堰をきった様に嘆くコラキの肩を優しく叩く……若いのに苦労してんなあ?
その後も、コラキの愚痴は続く……。
――どうやら、スプリギティスはこの国での活動資金を栗井博士から受け取り、この国でのアジトに向かう途中、口に軍資金を咥えている事を忘れ、ご機嫌で歌を唄い、口を開けた拍子に落してしまったらしい……。
その落した所が、この教会っぽい所――孤児院らしい……。
「え、じゃあ、返してもらえば良かったんじゃ?」
俺の質問に、コラキは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「お前っ! 言えるかよ! ティス様、人型になるコツを途中で忘れて、背中に羽根生やしたまま回収しに行ったんだぞ? ――その時の、ココのガキどもの顔見て……そんな事言えるか!」
――どうやら、スプリギティスさん……羽根を生やした状態で真昼間に孤児院に降り立ったそうで……。
「――ガキどもが……「天使様だぁ」ってはしゃいでよ? そんな奴らに「金返せ」なんて言えるかよぉ……」
因みに、スプリギティスさんが落としたお金で、孤児院は五年は飢えと寒さを気にしないで良いそうです……。
「うん……無理!」
「無理……ッスね……」
「だよなぁっ?」
――そんな感じで俺達三人は意気投合し……。睨み合い? を続けるスプリギティスさんともも缶を他所に、女所帯における野郎の肩身の狭さを語り合い始めたのだった……。
※2014/08/01
前話「バーズ」の誤用修正しました。
「――良し……後を追うぞ?」を「――よし……後を追うぞ?」に変更。
ご指摘、ありがとうございます。




