バーズ
続きです、よろしくお願い致します。
「あらぁ? やっぱり、お知り合いさんですかぁ?」
――スプリギティスは口に手の平を当て、驚く様な仕草をすると、そのまま頭を下げる。
「すいません、私、ちょっとだけ物覚えが悪くって……。――人の顔と名前と、ちょっと昔の事とかすぐ忘れちゃうんですよぉ……」
ペコペコと頭を下げる、スプリギティスを目にしながら、俺達はヒソヒソと相談する。
「どう思う?」
「私は、嘘を付いている様には……」
「あたしも……愛姉に賛成かな?」
「もも缶は、それより、注文、急ぎたい」
「あたくしも、人型のスプリギティスは見た事ありませんし……」
「――また、栗井博士の企みっすかね……?」
――ミッチーがそう言った時だった……。
「コケ……? ま、まさか……主のお知り合い、ですか?」
手に持ったトレーを床に落とし、アワアワと狼狽えながら、スプリギティスが呟いた。――あ、これ、確定じゃね?
「――ハッ! い、いえ、私、主の事なんて知りませんよ? ――知りませんからぁ!」
そして、スプリギティスはそのまま、厨房に逃げていった……。
「――エサ王、注文……」
唖然とする俺の意識を引き戻したのは、今にも死にそうなもも缶の掠れた声と、腹の爆音だった……。
「うん、今は考えても仕方ないな……」
「そっスね、じゃ、店員さん呼ぶっス。――スンマセン!」
すると、厨房からトコトコとウェイトレスがやって来た……。
「はぁい、ご注文ですかぁ?」
――この時の俺達の気持ちを、どう表現したら良いんだろうか……。
結局、その後、同じやり取りをしない様に気を付けながら、注文を行い、飯をたらふく食べ、俺達は酒屋の裏で待ち伏せをする事にした。――もちろん、スプリギティスの真意を問い質すためだ……。
「旦那さん、お子達は宿屋に寝かして来ましたぇ?」
羽衣ちゃん、タテ、ピトちゃんを宿屋に送って来たハオカが、ついでだからと温かいお茶を持って、張り込み中の俺達と合流する。
「それにしても……ギルドに潜り込んで、酒屋に潜り込んでって……もしかして、内部から切り崩すつもりなのか?」
「どうでしょうか? 私は、スプリギティスがそこまで――いえ、何と言いますか、悪い子に見えないと言いますか……」
――愛里が言葉を選びながら、そう告げる。確かに、何かを企むのも、指示を受けるのにも向いていない気がするが……。
「あ、おじさん、出て来た!」
悠莉が指差す方を見ると、スプリギティスが「お疲れ様でしたぁ」と言って、帰宅する様子なのが分かる。
「――よし……後を追うぞ?」
もしかしたら、アジトが分かるかも知れない。俺達は余り一塊になら無い様に注意しつつ、スプリギティスの後を追う。
――時々、スプリギティスは何かの気配に気付いた様子だったが、首を傾げ、暫くすると何事も無かったかのように歩き出す。
「あれ……気配に気付いて、なんに気付いたんか忘れたっちゅう顔どすなぁ」
ハオカの言う通り、スプリギティスは「ハッ!」とした表情になるんだが、直ぐに「あれ?」と言う顔をしてまたトコトコと歩き出すのだ……。
やがて、スプリギティスは人気の少ない、教会みたいな所に入ろうとしていた――が、ドアのカギを忘れたのか、開け方を忘れたのか、ドアの前に立って何かを考え込んでいる……。
「ねえ、おじさん……あたし、帰って良い?」
「――おいおい、悠莉。それは俺のセリフだぜ?」
「やだ……格好良いッス……」
余りに馬鹿馬鹿しくなって、悠莉とミッチーが遊び始めてしまった。――まあ、俺のノッてるけど……。
「あなた方、何を遊んでいますの?」
ペタリューダが冷めた目で俺達を見ている――クセになりそう。
何て事を考えた、その時――。
「む、エサ王、来る! 『カトラリ・トレー』!」
突然、もも缶が俺の前に飛び出して、大きなお盆を取り出す。すると、何かがそのお盆にぶつかる音がする。
「――敵か?」
「多分、そう、半熟卵!」
――えっと……つまり……?
「おじさん、『伯獣』だってば!」
あ、そう言う事か。――やがて、もも缶のお盆を叩く音が消え、俺達は様子を伺う。
「そろそろ帰る頃かと思って出迎えに来てみれば……。お前達……何モンだ!」
「ティス様を狙う不届き者め!」
「――成敗だっ!」
――声は少し上、教会の屋根から聞こえて来た。屋根の上には、三つの人影があり、その背丈はどれも子供っぽいが……。
「お前ら『伯獣』だな?」
俺の指摘に、屋根の上の三人はビクッと震え、静かに地面に降り立つ。
「も、もしかして、お前ら……」
ビクビクと震える、褐色の肌の少年は、その手に錫杖の様な物――と言うか、錫杖を自らの前に立てかけ、そこからのぞき込む様にこちらを見ている。
「あ、主の使いか……?」
これまたビクビクしている、身体の一部がとてもふくよかな少女が、両手をその一部の前でギュッと握り締め、尋ねてくる。
「まさか……バレた?」
最後の少女は鋭い三白眼に涙を滲ませながら、俺達を睨み付けている。――しかし、何だ……? スプリギティスの部下もこんなんばっかか?
「いや、違う……お前らと敵対している――と言えば分かるか?」
取り敢えず、正直に答える。すると、三人はあからさまに安堵していた――が、直ぐに緩んでいた表情を引き締め、俺達を見据える。
「ちっ……サブラ様とゲリフォス様をやった奴らか……」
――褐色の肌の少年が錫杖を構え、舌打ちをしている。
「あれ……? ちょっと待って? ――こいつ等、倒せば……ばれても許してくれるんじゃない?」
すると、三人の真ん中に立つ、一部とてもふくよかな少女が、ガッツポーズではしゃぐ。
「――え? 何それ、良いアイディア!」
――最後に、鋭い三白眼の少女が真ん中の子と同じ様にはしゃぎ……そこで、スプリギティスが騒ぎに気が付いた様だ――ってか、遅いよ……。
「あらぁ? みんな、どうしたのぉ?」
三人に気付いたスプリギティスは、トコトコと三人の傍に近付く。
「もしかして、お出迎えに来てくれたのぉ? ありがとぉ! ――エライエラァイ……」
「あ、ティス様……僕、もう子供じゃないんですから……」
「クルックゥ……」
「ヴァッヴァ……」
心地良さそうに目を細める三人に満足したのか、漸く俺達の存在に気が付いた――と言うか、思い出したスプリギティスは俺達と三人を見比べ――。
「喧嘩しちゃだめよぉ? ――おいたが過ぎると、「滅」ってしますよぉ?」
――一瞬、物凄いゾワッと来た……。
悠莉達の様子を見ると、もも缶、ハオカ、ペタリューダも同様のイメージを抱いたらしく、冷や汗を垂らしている。
「ち、違うの! ティス様、あいつ等……主の敵だから!」
「そ、そうです! あいつ等、ティス様の後をつけてたんです!」
ふくよか少女と三白眼少女が揃って、言い訳を始める――まあ、その通りだけど……。
「――主……主……あっ!」
暫く、スプリギティスは「主って何だっけ?」みたいな顔をしていたが――やがて縮こまり、急にオドオドし始めた。何か、「ばれちゃった?」とか「あいつ等、関係ないですから」とか聞こえてくるんだが……。
「なあ、今、攻撃しちゃ駄目か?」
何か、結構隙だらけな感じがする……。
「えっ? いや、どうしよう、愛姉」
「えっ? じゃあ、三知さん……」
「え、これ姐御の仕事――いえ、もも缶、どうするっス?」
「めんどい、ごー」
「もも様……」
「ほな、旦那さん? 後は、よろしゅうお願い致します」
――結局、バトンが戻ってきてしまったので……仕方ない!
「やっちまいな!」
皆の「うわぁ」って感じの表情も慣れてみれば心地いい……。
「あ、あいつ等! ――ティス様、強そうなのお願いします! ペリ、イグル! 手分けしてやるぞ!」
――褐色少年がスプリギティス、ふくよか少女、三白眼少女に声を掛けている。――チッ、バレたか!
「うん!」
「まっかせて!」
――うん、何だろう……この感じ……。
「おじさん、あたし達、悪者扱いじゃない?」
「まあ、言うてる事は悪者やしね……」
「はっはっは、そう言う事は後で考えるとして――」
あっちもやる気満々だ、し?
「コラキちゃん、私は何すればいいの?」
――一人、状況を全く見てない奴が居た……。
「あ、えっと、じゃあ、そこの女の子の相手して下さい!」
「はぁい」
コラキと呼ばれた褐色少年は、もも缶を指差すと、ミッチーと俺に向き直り――。
「付いて来い……ここじゃ、狭い」
そう言って、俺達を相手に指名したのだった……。
※2014/07/31
キャラ紹介の「必殺!キャラ・エクスプラネイション」にてスプリギティスが「鷲型」になっていたのを「鶏型」に修正しました。




