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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第八章:鎖の国と……
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ブラッディ・ラディッシュ

続きです、よろしくお願い致します。

「へらっしぇー! チェイン・ギルドへよっこそ! 本日は、何にしゃっそ?」


「――はっ? あ、えっと……」


 チェインのギルドは、正直、狭い……。――以前、コンティノ村のギルドは場末のぼったくりバーって感じだったんだが、こっちは正統派のバーって感じだ。


「あ、お客さん、こういう所は初めて? なら、こちらのメニュー表からどうぞ?」


 ――案内係らしき、お姉ちゃんは俺の後ろに立つミッチーに……俺の後ろに立つミッチーにメニュー表を渡し、微笑んでいる。


「ガールズバーってこんな感じなんスかね……?」


 おしぼりと共に受け取ったメニュー表をギルドのロビーに置いてあるソファに座って眺めながらミッチーが呟く。


「いや、アレはこんなグイグイ来ないからな……」


 どちらかと言えば、キャバに近い。――ギルドって役所じゃないの?


「――(ミトさん)を置いて来て良かったッス……」


「まあ、取り敢えず、メニュー見ようぜ? 何か、怪しそうなの無いか?」


 ――早速、『伯獣』関連っぽい情報が無いかチェックだ。ペタリューダの情報によれば、この国で何かやらかす筈なのは確か……スプリギティスだったはずだ。とすれば――。


「ミッチー、鳥系の魔獣に関連しそうな情報は無いか?」


「ちょっと、待ってください………………うん、無いッスね」


「って事は、やっぱり首都まで行かなきゃ駄目かな?」


「そうッスね、そうなるとこの、『酒の運搬護衛』ってどうっすか?」


 ――どれどれ……? 『チェイン酒の運搬、首都ミミナにある居酒屋『止り木』まで』か……うん、良いかもな。


「行きの――と言うか、これが帰りか? ともかく片道の護衛だけみたいだから丁度良いな」


 早速、愛里に電話を掛けてみる――。


『護衛依頼ですか? 良いと思います。悠莉ちゃん達もこの様子なら、明日の朝には出発出来そうですし』


「うん、ありがとう」


 そして、俺は通話を終了させる――って、何だこりゃ? 後輩から、偉い数の着信とメールが入って来た。何事かと思って開こうとするが――。


「姐御、何か言ってました?」


「え? あ、ああ……受注して問題無いってさ、それで――」


「お客様ぁ? ご依頼はお決まりですかぁ?」


 猫撫で声で、先程のお姉ちゃんがやって来た。そして、ミッチーに肩を擦り付け、指で『の』の字を描きながら、メニューを押し付けてくる――何だ、このサービス、けしからん! ――俺には……ないのか?


「あ、そそそその、この『チェイン酒の運搬護衛』って奴を……」


「あら、そこ……イッちゃうの? 残念、寂しくなるわぁ?」


 口ではそう言いつつ、淡々と受付手続きを済ますお姉ちゃん。――コイツ……出来るっ!


「――はいっ、手続き完了です。ご利用ありがとうございました、ご一緒にお酒でもいかがですか?」


 ――お姉ちゃんは、ギルド内の一か所……飲酒ブースを指差し、勧めてくる。何だろう……この街、酒とポテトが同格扱いなのか?


「おやっさん、どうします?」


「折角だし、な?」


 俺とミッチーは……ほんの一杯のつもりで、飲酒ブースにフラフラと立ち向かっていった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――翌日。


「「頭痛い……」」


 俺とミッチーは敗北していた、何だあの酒……美味いのは良いんだけど、度数が高かったのか? 正直、宿屋の前に着いてからの記憶が無い。


「おじちゃーん、ミッチー、だいじょうぶ?」


「ピュイ、水飲むか?」


「あぁ、羽衣ちゃん……おじちゃん、負けちまったよ……後、頭叩くの少し待ってくれないかなぁ?」


 頭の上(指定席)で羽衣ちゃんとピトちゃんがバタバタしている……心配してくれるのは有難いが……響く……。


「うう……ミ、ミトさん……そんなに、怒んないで下さい」


 ふと横を見れば、ミッチーが赤熱した(ミトさん)に土下座している……ふふ、見事に尻に敷かれてやがる。


「む、エサ王、にく、今日は、まずそう?」


 もも缶はアルコールの匂いが駄目になった様で、困り顔でこちらを見ている。今度、フルーツポンチでも作ってみるか? 何て事を考えていると――。


「椎野さん、三知さん、大丈夫ですか? 『ヤッセ』」


 心配そうに、愛里が俺とミッチーに手をかざす……。そして、指輪からエメラルドグリーンの光を放ち、俺達にスキルを掛けてくれる――あら?


「気が付きましたか? 昨日、覚えたんですよ」


 どうやら、愛里は皆を看病している内に二日酔いの効果を『ヤッセ』に追加出来る様になったらしい。俺とミッチーが頭痛と吐き気から解放され、喜んでいると――。


 ――グニッ! 久々の衝撃(ご褒美)が走る……。


「じゃ、おじさん達も元気になったみたいだし、そろそろ行く?」


 にこやかに……あくまでも、にこやかに、悠莉が俺の顔面にスタンプを押し付けてくる……。


 ――グニグニッ! む、この感触は!


「そうどすなぁ、旦那さん、護衛対象とん合流時間はなん時頃どすか?」


 愛里……「私も踏んだ方が良いですか?」みたいな顔で見ないでくれ……耐えろ、俺、耐えろ! ――どうでも良いが、ペタリューダの表情が……舌なめずりが怖い!


「えっと……?」


「――で? どうなの?」


 にこやかな微笑みと、低めの声で悠莉が再度聞いてくる。――もしかして……皆を放って、飲んでたから怒ってらっしゃる? 両サイドから俺の頬をスタンプ(素足)で挟み込む悠莉とハオカに急かされ、俺は時計を見る――うん、ギリギリ……。


「皆、急ごうか?」


 ――俺とミッチーは、皆に怒られつつ、護衛対象と合流したのだった。道中、暫くの間、土下座させられていたのは、まあ……仕方ないだろう……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――ひれ伏しなさい……『百叩き(コールミークィーン)』!」


 ペタリューダが柄だけの鞭を振るうと、その柄から大量の鱗粉が吹き出し、鞭の形に纏まると幾束にも分かれ、馬車上空に群がる鳥の魔獣を叩き落とす。


「ピュイ、討ち漏らしは貰う、『口弾』!」


 ペタリューダの鱗鞭を避けた数羽に向けて、ピトちゃんが口から毒水鉄砲を放つ――ワンヒット、ツーヒット……うん、結構な命中率だ。


「肉、鶏肉、焼き鳥、『カトラリ・クシヤキ』!」


 ――何それ……呪文? もも缶が何か呟くと、持っていたナイフとフォークの形をグニャリと変え、投げ槍の形にする、更にそれを指と指の間に挟まる位の大きさに分割し、投げる。


「皆、修行の成果が出ている様で、何より……ね」


 一匹、また一匹と墜落していく鳥魔獣を見ながら、悠莉が呟く。


「だから、言ったじゃん……地獄だったって」


 ――もも缶は別口だけどな?


 そんな感じで、道中、結構な割合で鳥の魔獣と遭遇し、その都度、皆で撃退していた。護衛対象でもある、酒場のご主人は大層感謝してくれた。


 そして、色々雑談している内に、俺のジョブを聞いて――。


「え、アンタ……もしかして、『おやっさん』? ッてえ事は、そっちの指輪の嬢ちゃんが『癒しの姐御』で、剣闘士のあんちゃんが『つるぎの恋人』かい?」


 どうやら、知らない内に二つ名が……。――良いなぁ、比較的まともで……。因みに、他のメンバーにもそろそろ二つ名が付きそうだとの情報も頂いた。


「まともなのが良いなぁ……」


「そうどすなぁ……」


 二人ほど、祈る様に呟いていたが……そうはいかないんだろうなぁ。ふふふ……。


「お、おやっさん、見えてきたッスよ!」


 御者台からミッチーの声が響き、馬車は帝国首都『ミミナ』に辿り着いたのだった……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――x県x市 市役所最上階会議室――


「――説明、してくれるの?」


 市長はボクをジッと見ながら、聞いてくる。そりゃ、その為に、ここにいるんですよ? 何言ってるんですかね?


「それでは、資料の六ページを開いて下さい――」


 そして、ボクは今回の事件のあらましを資料に沿って説明する。


 ――x月八日 午後一時頃――


 xx小学校、飼育小屋にて『兎型の魔獣』が発生し、即座に自衛隊が出動――戦闘開始。


 ――同日 午後三時――


 対象の毛皮は硬く、動きも素早い為、苦戦を強いられるものの、ヘームストラ研究員と衛府博士のアイディアによる新兵器『ドリル弾』によって、討伐完了――尚、捕獲は無理との判断らしい。


 ――同日 同時刻――


 戦闘中に、新たな同型の『魔獣』が二匹発生、自衛隊の弾薬等が尽きていた為、現場は大混乱であったとの事。


 ――同日 午後四時――


 二匹のうち、一匹は小学校の敷地内から脱走、一部の自衛官が後を追う。


 残った戦力で何とか、もう一匹を足止めしていたが、そこに近隣住民への避難勧告を聞いていなかったのか、逃げ遅れたらしき一般人女性が小学校敷地内に紛れ込み、それを見た『魔獣』が、その一般人女性に襲いかかる。


 悲鳴を上げる主婦を見て、誰もが絶望するが、次の瞬間、『魔獣』はその場で動きを止め、やがて倒れたとの事。


 ――同日 同時刻――


 小学校敷地内から逃げた『魔獣』はたまたま通りがかった、一般人男性が倒していたとの事。


 ――同日 午後六時――


 了承を得た上で、一般人女性と一般人男性への取り調べ開始。


 まず、一般人女性から――。


「これに関しては、撮影データがありますから、再生しますね?」


 ボクはプロジェクターとパソコンを接続し、会議室の壁に画面を写して、撮影データを再生する。


「え、あらやだよぉ……こんなおばちゃん撮ってどうするのよぉ?」


 ボクは無言で早送りをする。


「職業は主婦かしらね? 年齢は六十三歳で、スーパーからの買い物帰りだったんだけど、何かうるさかったから小学校を覗いてみたのよ……。――そしたら、いきなり大きな兎ちゃんが、とびかかってきたから、おばちゃん、咄嗟にスーパーの袋からはみ出してた大根をこう……えいって感じで前に突き出したのよぉ。――そしたら、何か……ねぇ? 大根って案外丈夫なのねぇ?」


「――大根……?」


 思わず画面に向かって市長が呟く。――うん、ボクもそれは思ったよ……大根て……。


「では、続いて………………男性です」


 ボクはモニャッとした気分で、次のファイルを再生する。


「え、いや、通りすがりの会社員ですよ? 年齢は二十五歳ですね、たまたま、散歩していたら兎の魔獣と出くわしたんで、ビックリして拳を突き出したら――って感じです。――あれですよ、兎にとっては『油断は死に繋がる』って奴ですよ」


 ――全ての資料を見終わった後、市長はボクに向かって、真面目な顔で告げた。


「ヘームストラの研究員を集めて下さい、市民の調査を行います」


 ――会議室を後にしたボクは、先輩宛に『先輩……イイカゲンデンワシテコイ……』と、フレンドリーなメールを送信した後、先輩の部屋のコレクションをまた一つ、廃品回収に出す事を誓い、エレベーターのボタンを連打していた……。

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