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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第七章:海上国家
120/204

わがまま

続きです、よろしくお願い致します。

 ――スプリギティスとゲリフォスに逃げられ――と言うか、俺が逃がしてしまったんだが――その後、スファーノとデルフィニは、ギタカ様達が連行して行き、俺達はレース会場に残して来た羽衣ちゃんとタテを迎えに来たんだが……。


「みんなっ! ういは怒っています!」


 腕を組み、頬を膨らませる羽衣ちゃんの前で、俺達は皆、正座させられていた……。


 どうやら、レースが終わって俺達の姿を探してみたが姿が見えず、泣いている所をライアさんに保護されてたらしいんだけど……。


「――おじちゃんっ! きいてるの?」


「はぃっ! 聞いていますっ!」


「んっ! よろしいです! じゃあ、ういがなんで怒ってるかゆってみてっ!」


 ――えぇ……置いてけぼりになったからか?


「えっと、置いてけ――っ!」


 俺が思った通りに言おうとすると、羽衣ちゃんの後ろに立つタテが両手を頭の上で交差させ、首を横に振っている――そうか……俺の考えは間違っているらしい。


 続けて、タテはゴソゴソと何かを取り出し――ってアレ……トロフィー? ――えっ? この子達、優勝したの?


「え、えっと……表彰式に出れなかった……から?」


 少しずつ、タテの反応を伺いながら、言葉を紡ぐ……。すると、羽衣ちゃんが鼻の穴をプクッと膨らませ、目を輝かせ始めた。


「おじちゃん、知ってたの……?」


「――っ! お、おうっ! もちろん、ちゃあんと知ってた……よ?」


 ――ドキドキしながら、審判を待つ……羽衣ちゃんは暫く「むむむ……」と口に出して悩んでいる様な感じだったが――。


「う! ごーかくです!」


 ある意味、こっちの方がゲリフォスより強敵だよな……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『――それで、敵に逃げられて、羽衣ちゃんに怒られて……って、何してるんですか……』


 ――翌日、改めて議会と謁見する事になり、その前に後輩に事の顛末を報告していたのだが……。


「いや、だってさ……こう、犬に追いかけられてる猫とか見ると、逃がしたくならないか?」


『う……。そ、それは同感ですけど……それなら、ゲリフォスを確保してからとか……出来るじゃないですか! ――全く……昔から先輩は詰めが甘いんですよ――』


 迎えのライアさんが来るまでは、そんな感じで説教され続けていた……。


 そして――。


「あの……今から、謁見ですが……大丈夫ですか?」


 会議城跡地に臨時の謁見室――と言うか青空謁見室を設営したらしく、テントの前でライアさんが俺の状態を確認してくる……。


「あ、大丈夫ですよ? いつもの事ですから」


 悠莉は俺の頭を優しく撫でつつ、ライアさんに向かってニパッと笑っている。うん……さり気なく、頭頂部を周りの髪で隠すの止めてって言うか、そんな気になる程なの?


「――ライアです、『ファルマ・コピオス』の皆様がいらっしゃいました」


「――あい、どぉぞぉ?」


 ――俺の動揺に気付くはずもなく……。ラシム様の声に頷いたライアさんが、テントの中へと俺達を招き入れる。


「やあ……昨日ぶり――かな?」


 モカナート様が軽く右手を上げ、手を振っている。


「あ、どうも――あ、羽衣ちゃん、パルカ、ジッとしてて」


 ――俺の頭上(指定席)で、二人がモカナート様に反応し、手を振るお蔭で、バランスが取り辛い。


「んふふっ。まあまあ、元気な良い子じゃないか」


「うぃーっ……ちょっと、酔い覚ましてくるぁ……ガキ来るなら先に言えよぉ――」


「いや、すまないだぁね……こんな、朝も早くから」


「んむっ! 飴……いるかぁっ?」


 ギタカ様、ウカト様、ラシム様、イリャーカ様も好々爺の様な表情で、こちらを見てくる。


「皆様――本題を……」


「ん、ああ、すまないね――ライアもあんな頃があったなぁ……」


 ――ライアさんが咳払いすると、議会メンバーの皆様、遠い目をしている。


「あぁん?」


「いや、本題だぁね? その本題は、今回捕獲した二人の処遇についてだぁよ」


 その瞬間、俺達の空気――特にパルカの身体が強張るのが分かる……ってか――。


「パ、パルカ……しめ、締めすぎ……」」


 俺の頭が咲き誇ってしまうっ!


 ――一分後。


「――ぜぇぜぇ……」


「旦那さん、どぉもないどすか?」


「はい、椎野さん、吸って……吐いて……」


「だ、大丈夫かな……?」


「あ、えっと、続けて下さい……おじさんも聞こえてると思うんで」


 ――ハオカと愛里に看護されつつ、俺は頭を振り、悠莉の言葉を肯定する。モカナート様もそれで納得してくれた様で、一つ咳払いをすると、続きを話し始めた。


「――まず、スファーノだが、彼、彼女? ともかく、彼女は目を覚ました後、自分のやって来た事を悔い、嘆き悲しみ、自ら牢屋に入って座禅している、暫く様子を見る事になるが……まず危険は無いだろう」


 ――どうやら、スファーノも……『獣士』化した事で脳内の『欠片』が消滅して、今までの事を反省中らしい。しかし、それなら何でゲリフォスは前と同じ様に栗井博士達に従っているんだろう……? アイツらはまだ、何か違うのか?


「そして、デル坊――デルフィニに至っては、同情の余地ありと我々は考えている」


「――デル坊……?」


 余計な事を考えていたせいで気付くのが遅くなったが……デルフィニの話題になった途端、議会の皆様……凄い破顔した気がしたんだが。


「んふふっ……デルちゃん――いや、デルフィニは念の為、僕達で監視しようと考えている……」


「つまり……?」


「ここからは私が説明しましょう……」


 ライアさんがぺこりと一礼し、何かの資料を取り出すと、それを読み上げ始めた――。


「オカ――スファーノ、それと、デルたんについては、更生の余地ありと言う事で、『オーシ浮遊議会』監視の元、都市長教育を受けて貰います――つまり、議会の後継ぎとして、鍛えられると言う事ですね」


「――えっ? 本気ですか……?」


 俺の質問にライアさんが答えようとすると、ラシム様がそれを抑え、俺を見る。


「言いたい事は分かるだぁよ……でんもなぁ、議会メンバーはそれなりに強くあるべきってぇのが、ウチの方針でなぁ? それに、壊したモンは自分で償わせる――それが筋だぁな?」


 ――ラシム様の言葉に、他の議会メンバーも頷く……。


「まあ、それなら……問題無いです。後は、攫われたアンさん次第ですね」


 俺は一応、悠莉達に異議が無いか確認し、議会の決定を肯定する。そして、アンさんは――。


「あら? 妾、何かされましたっけ?」


 ――うん、問題無いみたいだ。


「――ありがとうございます……」


 ライアさんが頭を下げる――そして、続ける様に一枚、手元の資料をめくり、口を開く。


「それで……あの、非常に言い辛いんですが……」


「――良いよ、ライアちゃん、そこから先は僕から言うよ」


 そして、モカナート様は俺の頭上――パルカを見つめ、告げる。


「デル君の妹さん――パルカちゃんだっけ? その子も……お兄さんと一緒に後継者になってくれないかな?」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――あの後、俺はモカナート様に「少し時間を下さい」としか言えなかった。


 そして、今は宿屋に戻り、パルカを含めた全員で会議中である。


「おじさん、どうするの……?」


「俺個人の意見――と言うか、わがままを言わせて貰えば……もう、情が移ってるからな……反対だ」


「――でも、椎野さん……」


 悠莉の質問に対する俺の答えが意外だったのか、愛里が何かを言いたげな表情だ……。


「うん……この歳で、あんな事があった以上……兄妹を分かれさせる事は――もっと反対だ……」


 この話が始まってから、パルカはずっと俺の顔から目を離そうとしない。――俺は妹の小さかった頃を思い出し、その頭を撫でてみる……。


「じゃあ、おやっさん……パルカを預けるんスか?」


「でも……旦那さんっ!」


 ――ハオカがパルカを抱きしめ、離すまいとした時だった――。


「やっ!」


「……わ……」


「ひ、姫ぇ?」


「ピュイ?」


「うい?」


 突然、羽衣ちゃんがパルカの手を取り、タテ、ピトちゃん、もも缶と共に部屋の中を走り始め――。


「えっ?」


 呆然とする俺達の前で、羽衣ちゃん達は部屋の片隅のクローゼットに入り込み、立てこもりを開始してしまった――。

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