ティキン
続きです、よろしくお願い致します。
「……あんちゃん……」
「――パルカ……」
「旦那さん……今は……」
――ゆっくりと地面に下がっていくギルドカードの上で、パルカはジッと瓦礫の山を見つめている……。
どう声を掛ければ良いのか分から無い……。――クソッ……。
「――どうやら、悠莉はん達は……無事みたいどす」
「ん……」
会議城の跡地前に、皆の姿が見えるが……何か人数増えてる? 俺が目を凝らしたその時――。
「――ブゥルゥァァァァァァァァァァァ……!」
突然――会議城跡から大量の瓦礫が柱の様に舞い上がる。
「――なぁっ?」
「だ、旦那さん……あれっ!」
驚きの声を上げるハオカが、俺の肩を揺さぶり、ある一点――瓦礫柱の天辺を指差す……。
「――ハハッ!」
――アイツの姿を見て、喜ぶ時が来るとは正直……思ってなかった!
「パルカ……見ろっ!」
「……?」
拳を天高く突き上げ、瓦礫柱の天辺に立つラッコ男――その肩には、白と黒のモコモコ服を着た少年が……更に、その少し上空にはきりもみ状態で宙を舞っているゲリフォス……。
「――ちの様……! 椎野様!」
同時に俺達の上空から声が響いてくる。
「――ああ……忘れてましたね……」
――上空から、水球に包まれたアンさんが俺達に声を掛けてくる……本当に忘れていたよ……ごめんなさい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アンさんを確保した俺達は、地面に着陸し皆と合流した。――因みに、ラッコ男達はまだ空にいる……。
「さて、じゃあ……まずは、そっちから聞こうか?」
上空をチラリと見た後、俺は会議城の崩壊から先に脱出していた悠莉達を見る。
「――上から見てた時も気になっていたけど、どう言う事?」
俺の目の前には、確か死亡したと言う様な事を聞いていた――恐らく本物の、ギタカ様とモカナート様、そして、縛り上げられているスファーノがいた。
「ウッス! それは自分が説明するっス――」
ミッチーの話によると、ギタカ様とモカナート様は、スファーノと戦闘している所に現れ、そのまま戦闘に参加すると巧みな戦闘技術でスファーノを翻弄し、ノックダウンさせてしまったそうだ。
「――んふぅ、止めは天井からの瓦礫だったんだけどね?」
――とは、ギタカ様のお言葉だ。と言うか、偽ギタカと違い過ぎて、戸惑うな……。
「あれ? でも、そんなに強いなら……何で?」
悠莉のツッコミで、お二人が恥ずかしそうに俯く――うん、お爺さんのモジモジは微妙だな……。
「ん、んふぅ……流石に、僕らでも泥酔して良い気分で崖の上からアーチを描いている時に後ろから襲われたら……ね?」
「――そう言う事だよ……」
お二人の説明で、俺とミッチーは「あー」と頷く……悠莉達はピンと来ないのか、首を傾げていたが、ハオカが教えてあげたらしく、真っ赤になっていた……。
「じゃあ、それは分かったんだけど……」
――問題は……ゲリフォスよりヤバイのが、徐々にこちらに落ちて来ていると言う事か……。
「あ、彼を連れて来たのも僕らだよ?」
俺の視線が宙に向けられたのを見て、モカナート様が告げる。
「んふぅ……あの時はビックリしたよぉ。海に落ちて直ぐにラシムと連絡取って……怪しいって事で潜伏してたんだけどね?」
「うん……突然、僕達が潜伏してた船の前で海が割れて――」
お二人は遠い目をして、続ける――。
「何事かと思って甲板に出て、暫く見ていたら、彼が突っ込んで来て……」
「んふぅ……そのまま、喧嘩になったんだよねぇ」
――この人達……人間、だよな?
「まあ、そんな訳で彼とは喧嘩友達――みたいなモノだよ」
「んふぅ、何か今回も付いて来ちゃったしね?」
「――世界は広おすね……」
「そうね……」
何か、同窓会みたいなノリで笑い合うモカナート様とギタカ様を見て、ハオカと悠莉が呟く……うん、俺も同意見だ。
「む、エサ王、エサ王、来た!」
「ん?」
――そして、空から奴が……降って来た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「アドノミソト……」
「ん、「落し物だ」って」
――俺達の前に降臨したラッコ男は、その手に掴んでいた物体――ゲリフォスを、俺達に向かって放り投げる。
「ねえ、おじさん……そいつ、生きてるの?」
「うん、多分だけど……」
白目を剥いてはいるが、ピクピクッと痙攣しているから、生きてはいるんだろう。念の為に、スファーノみたいに縛るか――。
「良し、縛ろう……スファーノに使った縄ってまだあるか?」
すると、もも缶が少しモジモジしながら俺のスーツの裾を引っ張る。
「ある、けど……バイキング」
「え? ああ、もも缶のスキルか? ――良いけど……今更ケーキバイキングで恥じるなよ……」
俺との交渉を成立させたもも缶は、ドヤ顔でゲリフォスに向けて人差し指を向ける。そして――。
「むふぅ……『ロースト』!」
え、焼くの? と、思ったら人差し指から白桃色の縄が出て来て、ゲリフォスを縛り上げる。
「んふぅ……僕の指導が活きた様で何よりだよ」
どうやら、ギタカ様が何かをもも缶に教えたらしい。――後で聞いてみよう。
「これで、後は――」
俺達の視線は、ラッコ男の肩に担がれている少年――恐らく、デルフィニ……に向けられた。
「椎野さん……あれ、誰ですか?」
「多分……例のデルフィニ――パルカの兄ちゃんだ」
「多分ってどう言う事よ……おじさん達、直に戦ったんでしょ?」
「うん……だけど――なぁ?」
「へー、うち達と戦った時と、えらい姿がちゃいますね……と言うか、完全に人型どすなぁ」
「……でも……あんちゃん……」
――一体……どう言う事だ……?
「む、これは」
「――っ! 分かるのか、もも缶」
「多分、栄養、たっぷり、成長期」
どうやら、適当に言ってただけらしい――ん? 何か、ラッコ男がこっちに近付いて来る……。
「――アカッタヲアヒサナハ?」
「ん、「――話は終わったか?」って」
ラッコ男はそのまま、俺達に向かってデルフィニを放り投げる。そして、俺の顔をジロリと見ると――。
「ブゥルァァァァ……」
「ん、「ブゥルァァァァ」って」
「え、そこはそのままなんだ……?」
悠莉が驚いているが、俺は目の前で凄惨な笑みを浮かべているラッコ男に『ポーカーフェイス』で平然を装う事だけで手一杯だ……とてもツッコミ入れる所じゃない。
「ブルァッ!」
――そして、ラッコ男はクルリと俺達に背を向けると、そのままどこか――北の方に飛んで行ってしまった……。
「――ふぅ……」
やっと一息入れられる……。
「さて、彼も行った事だし……この子達、どうしようかな?」
モカナート様が、縛り上げられたスファーノとゲリフォスを見……て……?
「なあ、ハオカ……ゲリフォスは?」
「え、あんお爺はんなら、そこん地べたに……あら?」
俺達がゲリフォスが居た筈の地面を見ると――そこには何もなかった……。
「――おじさんっ! あれっ!」
――悠莉が大声をあげ、指をさす方向を見ると……。
「――コケッ?」
「こいつ……確か……」
――ミッチーが眉間にしわを寄せ、ソレを見ている。
「――スプリギティス……ですわね」
ペタリューダが言う通り、俺達の前には以前、栗井博士がスプリギティスと呼んでいた大鳥――と言うか良く見ればでかいニワトリが、その嘴でゲリフォスを咥えている。
「馬鹿な……僕達も気付かなかった……」
「ん、んふぅ……」
「普通にトコトコ歩いて来てた……」
ピトちゃんがそう教えてくれているが、モカナート様とギタカ様は、その言葉を聞く余裕が無い様で、額から冷や汗を流し、身構えている。そして、そんな空気の中――。
「――と、と、と……とりにく! でかいっ!」
「――ココッケッ!」
――突然、もも缶がナイフとフォークを取り出し、スプリギティスに襲い掛かり始めた。
「コケッ! コココッケ……? ココォ……」
目から涙を溢れさせ、首を左右に振りながら、スプリギティスは何かを必死に訴えている。
「――何て言ってるんでしょう……?」
必死なその様子を見て、愛里が少しだけ同情の目を向けている。
「……いやぁ、たべないで……て」
――いつの間に登ったのか、俺の上からパルカが通訳してくれた。
「――飛びゃ良いじゃん……」
俺の呟きが聞こえたのか、スプリギティスは「――ハッ!」と驚いた様な表情を浮かべる。
「コッケェェ……」
「……わすれてた……て」
――何だろう……力が抜ける……。
「コッ……ケッ……コォ……?」
俺が脱力していると、スプリギティスが助走を付けて、「タッタッタ……」と走り――首を傾げて、止まった……。
「――おじさん、三歩だったっけ?」
「ああ、鳥頭だっけ……?」
俺と悠莉がそんな会話をしていると、スプリギティスが再びもも缶に襲い掛かられ、逃げようとしていた事を思い出し、再び走り出す。
――そんなやり取りが暫く続き……。
「ああもうっ! ――もも缶、こっち来い!」
「んんっ!」
走り回っているもも缶の手を掴み、強引に引き寄せる。
「コケェェ……?」
「――抑えててやるから飛べ? なっ?」
――何か、これ以上見ていられない。
「あ、だめ、にくが……でっかい、とりにくがっ!」
そして、スプリギティスはその翼を大きく広げ――。
「コケコッコォォォッ!」
俺の顔をチラリと見て、ぺこりと頭を下げると、そのまま飛び去って行った。
「――ふぅっ!」
スッキリしたっ! とか、考えていたら――。
「椎野さん……?」
「おじさん……」
「旦那さん……」
「おやっさん……逃がしちゃダメッスよ……」
皆の責める様な、呆れている様な表情で我に返り、俺は周りを見渡す……。
「――ああっ……!」
――ゲリフォス持っていかれた……。




