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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第七章:海上国家
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兄セッパリ

続きです、よろしくお願い致します。

「ふぉぉぉぉっ!」


 ――ゲリフォスが飛ばす甲羅を『塗り壁』で受け止め、やり過ごす……。今のところ、防げているがもし、ゲリフォスが遊んでいるだけだったとしたらやばいよな……。


「――どうした……? それで全力か?」


 俺は『ポーカーフェイス』を発動させ、出来るだけ「何ともないですよ?」と余裕たっぷりにゲリフォスに告げる。


「ん?」


 気のせいか……? 今、懐が光った様な……。


「ふぉふぉ……中々言うではないか。――ワレの全力が、この程度の訳なかろうが! 喰らえ! 『万――」


 俺の戸惑いなどお構いなしに、ゲリフォスがスキルを発動させようとするが――。


「『札落とし』!」


 俺はスキルを発動させようとしたゲリフォスの足元に仕込んだギルドカードを手繰り寄せ、足元を掬う。


「――ぶふぉ!」


 背中から地面に転がったゲリフォスを、なるべく見下ろす様に見ながら、俺は告げる――。


「もう一度言うぞ……? ――それで全力か?」


「な、な……貴様ぁ! ワ、ワレをここまで馬鹿にしたのはお主が初めてじゃ……この代償――高くつくぞい!」


 顔を真っ赤にして、ゲリフォスがその姿を以前見た姿に近付けていく。


「うわぁ……」


 ただ、その身体は少し大きく、以前は毛皮っぽかった体表が、今は鎧の様な質感となっている――つまり、もも缶達の様に……。


「ふぉふぉ……驚いた様じゃな? これぞ、ワレの完成された姿よ!」


 ――これが……ゲリフォスの全力か……。さて、俺の方は――ハンカチが少し輝き始めているが、まだ使えそうにないな……。


「ふん……鎧を着た程度で、俺に勝てるとでも?」


 当然勝てるでしょうね! ――真っ正面から勝負すれば。


 ――だから、俺は……とことんまで、横っ面から殴ってやる!


「言いおるわ……ならば、お主の強さ――見せて貰おうぞ!」


 ゲリフォスはそう言うと、グローブの様に甲羅を装着し、俺に向かって突っ込んで来た――。


 ――ゴインッツルッ!


「ヘヴァッ!」


 ――ふう……引っかかってくれた。


「どうした、ゲリフォス! ――俺はここだ! どこを見ている?」


 転んで空を見ているゲリフォスに、そんな事を叫んでみる。――しかし、『塗り壁』はともかく、『札落とし』に二回も引っかかるとは……。


「ギ、ギギギギギ……」


 ――ゲリフォスは転んだのが恥ずかしいのか、俺にしてやられて悔しいのかは分から無いが、顔――と言うか兜を真っ赤にして、俺を睨み付けている……。さて、こっからどうしよう……?


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「……キュゥ……」


「……『水盾』……」


 パルカの拳がデルフィニの出した水の盾にぶつかり、弾き飛ばす。デルフィニはそれを見るとすぐ、バックステップで距離を取るが――。


「お兄ちゃんなら、妹はんの想いを無碍にしてはあきまへんよ?」


 ハオカの朱雷がその逃げ道を塞ぎ、その隙に、再びパルカが接近する。


「……それにしても、やり辛おすなぁ」


 ――ハオカとパルカは終始、デルフィニを圧倒していた……。それでも尚、デルフィニに傷一つ無いのは……。


「……むぅ……」


「……あんちゃん……」


 デルフィニに止めを刺そう――となった時点で、パルカが泣きそうになり、ハオカも……もちろん、パルカも寸止めしてしまっているからだ。


「……隙……『水龍』……」


 ――デルフィニが「クケケケ」と一鳴きすると、宙に水で出来た龍が現れ、パルカとハオカに襲いかかる。


「こら、ちょい危ないどすなぁ……『大太鼓』!」


 パルカに迫る龍を、ハオカが朱雷を当て、蹴散らす。――その隙を逃すまいと、パルカが再びデルフィニに近付き、拳を振りかぶる……。


「……うぅ……」


「……?」


 ――何度も繰り返されるこのやり取りに、デルフィニもまた混乱していた。最初は弱い自分を弄んでいるのかと。そして、今は――。


「……あんちゃーん……」


 自分と姿の違う――人の子に「あんちゃん」と呼ばれ、ポロポロと涙を流されている。


「……っ……」


 ――その女の子の泣き顔を見ていると、頭がズキズキと痛む……。


「……うぅ……」


 チカチカと何か、映像がチラつき頭痛が酷くなる。


「……う、み……」


「……あんちゃん……?」


 デルフィニの脳裏に、自分では無い――筈の魔獣が海を泳いでいる姿が浮かぶ……。


「……うぅあぁ……」


「――っ! こら、あかん!」


 白目を剥き、泡を吹き始めたデルフィニの様子を見て危険を察したハオカがデルフィニに近付き、その首筋に弱めの朱雷を叩き付ける。


「……まま……?」


 ――ガクリと力を失い、倒れたデルフィニを見てパルカが不安そうにハオカを見る。


 ハオカはそんなパルカの頭を優しく撫で、告げる――。


「大丈夫どす……頭ん中の悪モンが暴れたみたいやから、ちびっと眠って貰ったやけどすぇ?」


「……あんちゃん……しんじゃや……」


 気を失い、それでも僅かに身体を震わせているデルフィニの手を握り、パルカは涙を流した――。


「……う……うぅ……!」


 その想いが通じたのか……デルフィニはゆっくりと目を開け、パルカの頬を撫でる。


「……あんちゃん……?」


「――驚きどすなぁ……」


 ――ハオカは、愛里に診せる時間を稼ぐために、少なくとも三十分は気を失わせておく程の電撃を打ち込んだつもりだった……。


「……うぅっ……!」


「……だめ……」


「大人しう寝てなはれっ! 立ち上がるんも辛い筈どすぇ?」


 ――パルカとハオカ、二人の制止も聞かずに、デルフィニはフラフラと歩いて行く……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉぉ!」


 ――『乱れ霞』、『塗り壁』、『塗り壁』、『霞』、『塗り壁』、『塗り壁』、『塗り壁』、『塗り壁』……。


 俺は、『塗り壁』、『霞』、『乱れ霞』を駆使して、ゲリフォスの拳と、飛んで来る甲羅を避け続け、防ぎ続けている。


「――どうした、どうしたぁ! 当たらんぞぉ?」


 ――もう無理っ! こいつ、爺、爺言ってる割に、全然疲れを見せねぇ!


「ふぉふぉ……お主こそ、防戦一方じゃのぉ? ――一発位、ぶち込んでこんかぁ!」


 ――ハンカチは……微妙か?


「む……隙アリ――じゃ!」


 ――ツルッ!


「――それは、こっちのセリフだぁ!」


 正直……三度も引っかかる奴がいるとは思わなかった。――お蔭で、でっかい一撃(嫌がらせ)をお見舞いできそうだ。


「こ、こんなモン……直ぐに立て直して――」


「そんな暇、与えると思うか?」


 ――そして、俺は心を込めて……腰を折る……。


「どうも、私、薬屋椎野と申します!」


 その時だった……。俺の懐から赤い光が溢れ出し――。


「ぬ、な……何じゃ、これは……ワ、ワレの身体が――」


 思わず顔を上げ、ゲリフォスを見るとゲリフォスは先程までの甲冑姿では無く――老人の様な姿に戻っていた。更に――。


「ふぉ? お、おお……か、身体が勝手に? お、お主……何をしたぁ!」


 ゲリフォスは両足を揃え、地面に膝を付き、両手の平を揃えて地面に沿えている――これはっ!


「ふぉぉ? ワ、ワレは、『四伯獣』が一人、『甲伯獣』のゲリフォスじゃ……どうぞ、よろしゅうのぉ……」


「――土下座……?」


 ゲリフォスは三つ指をつき、それはそれは見事な土下座で、俺の前に伏している。


「……」


「…………」


 ――呆然とする俺とゲリフォス。一体、どう言う事だ? ――さっきの赤い光、もしかして……あれが石の力……なのか?


 ゲリフォスは未だに何が起こったのか分から無いと言う様子ではあったが、『名刺交換』の効果が切れたのか静かに立ち上がり、俺の顔を見ている――あ、しまった。


「――あ……そ、そうじゃ!」


 どうやら、ゲリフォスも戦闘中である事を失念していたらしい、咄嗟に俺と距離を取り、再び鎧を纏おうとしている。


「妙な事を……しかし、次はそうは――」


「……『水槍』……」


 ゲリフォスの目が大きく開かれ、自分の身に何が起きているのか――何が自分の腹を突き破っているのかをゆっくりと確認する。そして、俺も突然の出来事に、その呟きとゲリフォスの腹を突き破る腕の主――デルフィニを凝視する……。


「な、ああ、デル……フィ、ニ……?」


「……よくも……」


 ――デルフィニの声と目は、ゲリフォスに対する憎しみで溢れている様だった……。


「グギギ……」


 ゲリフォスは驚愕の表情を浮かべながら、手元に何かのスイッチを取り出している様に見える――と言うか、そのままスイッチだ。


「死なば……諸共じゃぁあぁぁあ!」


 ――カチリと言う音と共に、会議城のあちこちで爆発音が轟く……。


「――爆弾かよっ!」


 と言うか、何でそんなモンがあるんだよっ!


「旦那さんっ!」


 パルカを抱えて、ハオカが駆け寄って来る。――俺はそれを目で追いながら、携帯電話を取り出す。


「どないしはるんどすか?」


「まずは、他の皆に逃げる様に連絡だっ! ハオカはデルフィニ連れて来いっ!」


「――はいなっ!」


 ――俺がグループ通話を開始すると同時、ハオカがデルフィニとゲリフォスに近付いて行く。


「……いい……!」


 すると、デルフィニがハオカの前の床に水の弾を打ち込み――拒否する。そして――。


「……こいつ、連れてくんだっ」


 ジタバタと動くゲリフォスを顎で差し、デルフィニは叫ぶ。


「――でもっ!」


「……あんちゃん……!」


 こうしている間にも爆発は続いている。俺は皆と連絡を取り終わると、すぐに大きめの『塗り壁』を作り、ハオカとパルカをその上に乗せる。


「…………」


 ――『塗り壁』に乗ったパルカに微笑むと、デルフィニはゲリフォスの腹に刺さっていない、もう片方の手に水を纏い、ゲリフォスの頭を掴む。


「ひ、何が望みじゃぁ! ワ、ワレに逆らって――」


「……みんな……かえせ……『水掌』!」


 デルフィニが呟くと、その手に纏った水がドンドン膨れ上がっていき、逆にゲリフォスと周囲の床が干からびていく――。


「ふぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ――そして、デルフィニとゲリフォスの足元が崩れ、二人は成す術も無く落ちていく……。


「……キュイィィィィィィィィィィィィ!」


「まだ……『高架橋』!」


 パルカの叫びで我に返った俺は、ギルドカードをつなげ、縄の様にデルフィニに向かって伸ばす――。


「……いい……」


「――このっ!」


 何かを諦めた様に、デルフィニはその縄を足で蹴飛ばしてしまった……。


 そして、俺達の目の前で……会議城は、瓦礫の山と化した――。

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