Gの衝撃
続きです、よろしくお願い致します。
「――良いわぁ……良いわよぉ!」
「クッ……重くなったっスね!」
スファーノの弓とミッチーの剣がぶつかり合い、衝撃を生み出し、周辺の壁や柱を崩していく――。
「にく、どけ!」
ミッチーと入れ替わる様に前に出たもも缶が、左手のフォークでスファーノの弓と弓を受け流し、ナイフを振るう。
「んふふ……そろそろかしらねぇん? ア・タ・シの華麗なアッロゥ……ご覧なさぁい! アタシと言う天使が放つ――『愛の弓』!」
――スキルを発動させ、スファーノがミッチーの懐に飛び込み、その横っ腹目がけて右の弓を打ち込む。ミッチーは辛うじてその弓を剣の腹で受け止めるが、剣越しに伝わってくる衝撃を受け流す事に失敗し、壁に叩き付けられる。
「グゥ……!」
「にくっ!」
「あら……アタシの弓を喰らって動けるなんて……アンタ頑丈ねぇ……良いわぁ、アタシ、そう言う男……好きよぉん? アンタ……アタシの物にならなぁい?」
もも缶と打ち合いを続けながら、スファーノはミッチーを見て、ジュルリと湿った音を鳴らす。
「――遠慮……するっス! 自分……ミトさん一筋なんで、それとアンタ……それ、弓使って無いッスよ――『イバラ』ッ!」
ミッチーは赤熱する剣を一振りし、スファーノの足を絡めとる。そして――。
「――もも缶っ!」
「む! 『カトラリ・クシヤキ』!」
ミッチーの合図に応え、もも缶はナイフとフォークを一つにくっつけ投槍の様な形状に変えると、そのまま、スファーノに向かって投げつける――。
「んん……これは、マズイわねぇん! 『愛の弓』!」
スファーノはもも缶の串を受け止め、踏ん張り――。
「グ……ググ……」
「むぅ……」
――拮抗する串と弓の衝撃で両者の間の床が崩れ始めていた。
「もも缶っ! 今加勢するっスよ!」
ミッチーがスファーノの足元を絡め取る『イバラ』を引き寄せたその時――。
「――ブゥルゥァァァァァァァァァァァ……!」
――彼らの間を……ナニかが通り抜け、屋上へと駆け上がって行った……。
「な、何なんスか……?」
「え……何なのぉ? こ、このドキドキ……もしかして……こ・れ・が……恋?」
「――むっ! にく!」
「え、あ――『ノコギリソウ』!」
両頬に手を当て、クネクネと蠢いているスファーノ目がけ、ミッチーの斬撃が直撃する――。
「んごぉ! な、何すんのよぉ! アンタらには恋するおとぅめに対する思いやりってモンがないのぉん?」
「鯉……魚肉、食べる!」
「何よ! その連想ゲーム! ――良いわよ! やったろぅやんけぇ! 『愛の弓』!」
スファーノはミッチーともも缶から少し距離を取り、その手の弓をしっかりと握ると、静かに――正拳付きの動作を行った……。
「――むっ! 『カトラリ・トレー』!」
――もも缶が咄嗟に串状の形をお盆状に変えるが、スファーノの弓はそのお盆に力強く跡を残し、もも缶を吹き飛ばしてしまった。
「ま・だ・ま・だ・だ・ぞぉぉ! 『愛の弓』ぃぃゃ!」
「――クゥッ!」
ミッチーは剣を地面に突き刺し、腕を交差させ――衝撃に備えようとしていた……。
『――っ!』
自らを盾として使わず、弓を受け止めようとするミッチーに向けて、剣が声にならない叫びを上げたその時――。
「――若い子が、そんな命を粗末にしちゃ……駄目だよ?」
――穏やかな声と共に、スファーノの弓は掻き消されてしまった……。
「んふぅ……『癒雲』!」
もう一人――ふくよかな声で発動されたスキルで、ミッチーともも缶の怪我と疲労が薄れていく……。
「あらぁん……? アンタら……」
――スファーノが二人の闖入者を見て、何かを思い出そうとしている……。
「ん? 君のその声……」
「んふぅ……僕らを突き落した奴と同じだね」
「――……っ! ああっ!」
そして、スファーノは今度は驚きの表情で呟く……。
「まさか……生きてたなんてね……」
「ふふ……このモカナート、年老いたとは言え、海に落ちた位じゃ死なないよ?」
「んふぅ……あの変異種君が通り掛からなきゃ、死んでたけどね?」
「いや、ギタカ――どちらかと言うと、彼との喧嘩の方が死にそうだったよ?」
二人の老人――モカナートとギタカは、そんな軽口を叩き。――いつの間にか、スファーノの目の前まで迫っていた。
「――……えっ?」
スファーノが間の抜けた声を上げたと同時――。
「んふぅ……『ピン・パゥワ』!」
ギタカがスファーノの腹部に手を当て呟く。すると、緑の光が輪になってスファーノの腹部に浮かび上がり、流れる様な動作でモカナートが輪の中心にそっと拳を当て、呟く。
「――『スアレス』」
「――ガァッ……!」
埃がスファーノ、ギタカ、モカナートを中心に舞い上がる。そして、次の瞬間――スファーノの身体がくの時に折れ曲がり、その場に蹲る……。
「さて、不意打ちのお礼はこれで返したね?」
「んふぅ……じゃ、次はあんな怪物と喧嘩する羽目になったお礼だね?」
モカナートが「モリ」っと大胸筋を膨張させ、ギタカが腹を「ポン」と叩き、ミッチーともも缶の顔を見る。
「――君達は少し休んで、この爺達の戦いを見学していなさい……僕が、筋肉の使い方――見せてあげるよ」
「んふぅ……じゃ、僕は再生能力持ちの戦い方――その極意でも見せてあげようかな?」
ポカンと口を開ける、ミッチー、もも缶を置きざりに……会議城二階の戦闘は――クライマックスを迎えていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――会議城最上階。
階下から、派手な――「ドドド――」っとまるで走り回っている様な戦闘音が聞こえてくる……どうやら、ミッチー達とスファーノが本格的に戦い始めたみたいだな……。
俺と、ハオカ、パルカは、ミッチー達と別れた後、最上階――つまり、屋上でゲリフォス、デルフィニの二人と対峙していた。
「ふぉふぉ……お主らだけか?」
――何も前情報がなければ、好々爺と言っても信じられる様な微笑みで、ゲリフォスは俺達を――特にハオカを厭らしく見つめている。
「まあな……」
「――ふむ、まあ良い……それで、石はどこじゃ?」
「その前に、アンさんはどこだ?」
俺とゲリフォスの間にピリピリとしたモノが走る。――暫く睨み合った後、ゲリフォスはため息を吐き、デルフィニに視線を向ける。
「……うん……」
――何が分かったのか知らんが、デルフィニが両手を点に掲げる。すると――。
「あら……何どすか? 水の……檻?」
ハオカの視線の先には、丁度バランスボール位の大きさの水球があった。そして、その中に頭だけが出る様に入れられているのは――。
「アンさん!」
「つ、椎野様……申し訳ございません」
アンさんは空中に浮かぶ水球から俺達の姿を見つけると、顔を歪めてそう呟いた。
「――待っててください、今、出しますから!」
そして、俺が一歩踏み出した時だった。
「それ以上は、通行料を貰わんといかんのぉ?」
「ゲリフォス……」
ゲリフォスは、俺達とアンさんの入った水球の間に立ち塞がり、ニヤニヤと笑っている。
「ふぉ! 怖い怖い……あまり年寄りを睨まんで欲しいのぉ?」
「分かった……石は、くれてやる。だから――」
俺が石を取り出そうとすると、ゲリフォスは「チッチッチ」と人差し指を左右に振る。
「――それじゃあつまらんじゃろ? じゃから、ルールを決めようぞ?」
「ルール……どすか?」
「然様……ワレらとお主らで戦い……勝った方の総取りじゃ! ――大丈夫、ワレは女子は殺さんよ――喰うて、ワレの中で永遠に生き続けるだけよ」
――そして、ゲリフォスとデルフィニから、ピリピリとしたモノが……。
「――ハオカ、パルカ……あのセクハラじじいは俺が相手する。お前らは、あの子――デルフィニを相手してやってくれ」
何とか、パルカが呼びかけてデルフィニを抑えてくれれば……。
「旦那さん……分かりました!」
「……ありがと……」
さて、サブラがあんだけ強かったんだ……ゲリフォスも同じか、それ以上って考えた方が良いな。
「ふぉふぉ……来んのか?」
「ん? そっちから来るんじゃないの?」
――俺とゲリフォスは再び睨み合い、互いの出方を伺っている。正直、現状ではハンカチは何かの条件を満たしていないのか、使える気配が無い、他の道具にしてもそうだ。――何だろう、衛府博士の言う通りだとすると、神様のお気に召す行動が足りていないのか?
「なら――こちらから行くぞい! 『千甲』!」
俺が考え込んでいる隙に、ゲリフォスがスキルを発動させる。すると、ゲリフォスの周囲に大量の小さな甲羅が浮かび上がる――これはっ!
「ゆけいっ!」
そして、甲羅の群れは一斉に俺目がけて飛んで来る――。
「――『千羽鶴』!」
――咄嗟に技を繰り出すが……失敗した!
「ふぉふぉ! 選択ミスじゃのぉ?」
ゲリフォスの言う通り、千羽鶴で相殺するはずだった甲羅は、二つ、もしくは三つ、四つと分断され、勢いを殺すことなく俺に向かって飛んで来る。
「ちっ! 『塗り壁』!」
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴティロリロリンゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
咄嗟に張った『塗り壁』のお蔭で、大量の甲羅は砕け散っていく――しかし……。
「どうじゃ? ワレとお主は……良い勝負になりそうじゃろ?」
「――だから、総取りの賭けをしてみたかったってか?」
俺の答えで正解らしく、ゲリフォスは厭らしい笑みを一層厭らしく変え、再び大量の甲羅を出現させていた――。




