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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第七章:海上国家
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ラッセラ教徒は全身甲冑を許さない

続きです、よろしくお願い致します。

 ――会議城一階から二階に続く階段……その踊り場で、愛里、悠莉、ピト、ペタリューダはゲリフォスの部下であるディロスと対峙している。


「ク……ハハハッ! 女子供だけで、この俺に……ディロス様に勝てるとでも思っているのか? 言っておくが、俺は「『口弾』!」――ヒギィッ!」


「あ、ピトちゃん駄目よ? お話の途中で邪魔しちゃ」


 ピトが口から吐き出した毒の弾丸は、無防備なディロスの急所を直撃していた。ピトは愛里に叱られ項垂れていたが――。


「え? 良いのよ、愛姉。戦闘中に雑魚っぽい事言うのが悪いのよ!」


「そうですわ! ピト姉様は悪くありませんわ!」


「――そう、なのかな? ごめんなさいね、ピトちゃん?」


「ピュイ!」


 ――三秒後には立ち直っていた。


「き、貴様らには……戦闘における美学と言うものが無いのか……?」


「え? だって、おじさんが「勝てば官軍」って言ってたし……『三等星(サード)』!」


「あたくしも、昔は貴方みたいに考えていた時期がありましたが……『百叩き(コールミークィーン)』!」


 まるで世間話でもするかの様に――悠莉とペタリューダがディロスに近付き、スキルを放つ。


「なぁ……クソッ……スファーノと言い、お前らと言い……とことんまで俺を馬鹿にしやがって――『水顎』!」


「やば、逆効果だったみたい――ごめん、愛姉!」


「――もう……悠莉ちゃんったら……」


 ディロスが壺の口に手をかざし、スキルを発動させると、壺の中から大量の水が溢れだし、悠莉達を階段の下まで押し戻す。


「あーもうっ! また、濡れちゃったじゃない!」


「――あの壺……少し、怖いですわね」


「ピュイ! ――割る?」


「そうね、ピトちゃん……狙ってみて?」


「ピュイ! 『口弾』!」


 愛里の合図で、ピトがスキルを放つ、ディロスはそれをニヤニヤと笑いながら――。


「弱いなぁ――『反顎』!」


「ピュッ?」


「――ピトちゃんっ!」


 毒の弾丸は、壺に吸い込まれたかと思えば、間髪入れずにそのままピトを目がけて返って来る。――咄嗟に愛里が肩に乗っかるピトをヒョイっと摘み上げ、それを回避する。


「愛姉……あたし、気付いたんだけどね?」


「――なあに? 悠莉ちゃん」


「この面子……防御薄くない?」


「うーん……そうかなぁ?」


「――何を相談している? 俺の強さに恐れをなしたか……クク……そうだろう……そうだろう! 俺の武器『顎壺』は、主が俺の為に調達してくれたものだ! さぁ……恐怖しろ、俺のスキルは後――」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――悠莉達が階段の下まで押し戻された頃、会議城前。


「アナヅオユリエッタニノトキオリソモ、アラユオヂ……オイノノノノメアガワ」


「んふぅ……やっと着いたね」


「何だか、中が騒がしいね……」


 ――ラッコ男が鼻をひくひくと動かし、凄惨な笑みを浮かべると、同行者達も中で起っている事を想定し、ため息を吐く。


「さて、じゃあ僕達も行こうか?」


「んふぅ、人を突き落した責任――取って貰わなきゃね!」


「オズキ! アヌルサトマトモ!」


 そう叫ぶと、ラッコ男は今までとは違う……全力疾走で会議城の中へと突っ込んで行った――。


「やれやれ……年は取りたくないねぇ」


「んふぅ、ゆっくり行こうよ?」


「――だから、君は少しは焦ろうよ……」


 ――そして、彼の悲劇が始まり……終わろうとしていた……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――『炎壺』!」


 ディロスの壺から炎が飛び出し、悠莉達に襲いかかる。


「だぁっ! もうっ! 『一等星(ファースト)』!」


「ほぉ、蹴りで炎を掻き消したか……だが!」


 ディロスが再び壺の口に手をかざそうとする――。


「させませんわ! 『魔犬(ドッグプレイ)』!」


「グ……」


 ペタリューダが鞭でディロスの手を絡め取り、スキルの効果で四つん這いの態勢へと持ち込むと、その隙を逃さず悠莉がディロスに肉薄する。


「喰らえ! 『三等星(サード)』ォ!」


 悠莉の拳がディロスの長い口を跳ね上げ、吹き飛ばす。


「んはぁ……!」


 肉の潰れる音と、骨の折れる音が不快に混じり合い、悠莉が顔をしかめる――が。


「――『縛顎』……」


「え、きゃ!」


 ディロスはその隙を見逃さず、壺から縄を出し、悠莉を縛り上げる。そして――。


「悠莉ちゃんっ!」


「おっと……動くなよ?」


 縛られ、地面に転がっている悠莉に、ディロスが近付いたその時――ソレは起こった。


「ブゥルゥァァァァァァァァァァァ――!」


 階段が存在する広間に、猛スピードで茶色い影が突入して来た。


「――は?」


「ふぁ……?」


「ほ?」


「あ……」


 悠莉、ピト、ペタリューダが呆気に取られ、一人冷静にその影――ラッコ男の進路を見ていた愛里がこの先発生する悲劇を予想し、思わず声を上げる。


「ん……? なっ、何だお前! と、止ま――ヘブルァッシャ!」


 ――彼の悲劇(人生)は、今ここに、その幕を下ろした……。


「えっと……愛姉、どうしよう?」


「先……進もうか? 今なら、椎野さん達に追いつけるかも……」


 今そこにある肉塊を見ない様に、悠莉と愛里は階段の上に目を向け、敵ながら哀れなその境遇に……ひっそりと涙を流した。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――会議城二階。


 悠莉達にディロスを任せ、二階に上がった俺達はそのまま、屋上への階段を上ろうとしていた――が。


「イカセない……わよぉん?」


 今、俺達の目の前に、クネクネとした灰色の怪物が立ち塞がっている――そう、スファーノだ……。


「うふ……そんなに緊張しなくても良いのよぉん……? 優しく抱きしめて、あ・げ・る――『愛の抱擁』!」


 スファーノは右手に弓を持ったまま、俺達に抱き着こうとしてくる――危ねぇ!


「お前っ! 武器使わねえのかよ!」


「あら……心外ねぇん? ちゃぁんと使うわよ――『愛の打ち上げ花火』!」


 ――スファーノは弓を持った右手をアッパーの様に打ち上げてくる……。


「む……『クルミ』!」


 ミッチーの斬撃とスファーノの拳がぶつかり合い、火花を散らす。


「――エサ王……先に、行って」


「そうッスね……」


 もも缶とミッチーがスファーノの前に立ち塞がり、俺にそう告げる。しかし――。


「あら……なぁに? アンタ達がアタシの相手してくれんのぉ? ――で・も、イカセないって……言ってんだるぉがぁ!」


「ん……『フルコース』!」


 呟きと共に、もも缶の身体が白桃の光に包まれる――そして、光が収まると、そこには白桃色の甲冑姿に身を包んだもも缶がいた。


「――いつの間に……」


「ふふ……妻の夫、教えてくれた、「変身は呟く様に」って、だから、もも缶、呟いた!」


 もも缶はまるで犬の様に「褒めて褒めて」と言いたそうに、俺を見ている……って言うか、『妻の夫』って……サッチーか? 何余計な事を教えてんだ……。


「――何て事なの……」


 とか考えていたら、スファーノが驚き――と言うか、衝撃を受けた様な表情を浮かべ、目を見開いていた。


「『四伯獣』の方々と……アタシ以外にそんな芸当が出来る子がいるなんて!」


「――は?」


 今……コイツ……。


「――思えば、そこの雑魚ちゃんには感謝しなきゃいけないのかもねぇん? アンタが! アタシの! 余計なモノを消し去ってくれたお蔭で! 地獄の苦しみと引き換えに! アタシは――」


 一言ずつ、イラッと来るポージングを取りながら、スファーノは徐々にその姿を――人に変えていく……。


「ビューチィに! パーヘクツに! か・わ・る・のぉん!」


 ――最後にくるっと一回転したスファーノの姿は、完全な――人型(ラッセラ)だった……。


「マズイッスね……」


 ミッチーが歯をカチカチと鳴らしながら、冷や汗を流している――筋肉か? お前が恐れてるの……筋肉だろ?


「ん、美味そうに、なった」


 甲冑姿のもも缶は、じゅるりと音を鳴らし、両手のナイフとフォークを構えている。


「パーヘクツレデー・スファーノ様とお呼びなさい? ――そ・し・て……『筋肉武装(マッソー)』!」


 スファーノはチラリともも缶を見た後、呟く。すると、薄汚れた黄色い光にスファーノが包まれ――。


「これで……アンタと一緒よねぇん?」


 スファーノは、その全身を――灰色の鱗で包まれた様な甲冑姿となっていた。


「む……勝てそうな気がしてきたッス。――おやっさん、良いから先に行くッス!」


「――分かった……気を付けろよ?」


 そして、俺はハオカとパルカを引き連れて、階段の上を目指す――。


「イカセないって――」


「『カトラリ・ミート』!」


「フンッ! 『ノコギリソウ』!」


 スファーノの拳ともも缶のフォークがぶつかり合い、そこにミッチーの斬撃が襲いかかる――。


「――チッ!」


「肉は、ナイフとフォーク……」


「――筋肉を捨て、全身甲冑に走った筋肉(ラッセラ)など……自分の敵じゃ無いッス!」


 ――良いコンビ……なのか? まあ、それはともかく……。


「頼むぞ、二人供!」


 ――最後に、スファーノに「弓使えよ!」と言いたいのをグッとこらえ、俺達は恐らくアンさんと……ゲリフォスが待つであろう最上階へと、駆け上がって行った。

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