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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第七章:海上国家
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争奪戦

続きです、よろしくお願い致します。

 ――会議城での謁見から二日、俺達はいよいよ『ボードレース』本番に臨む事になっていた……結局、碌に練習もせず。


「……がんば……」


 今日は羽衣ちゃんはタテとチームを組んでいる為、俺の頭の上はパルカが一人乗りしている。おんぶにするか、抱っこにするか悩みどころであったが、パルカ本人の希望により肩車形式となった。


 ――俺達選手は今、それぞれのレーンで、丁度スキージャンプの選手みたいな感じで待機しているのだが――。


「おやっさん……今日は負け無いッスよ!」


「ふふ……エサ王よ、ケーキバイキングは、もも缶が貰う!」


「――そう上手くいくと思うなよ? それと、もも缶……いつ、ケーキバイキングにクラスアップした?」


 隣のレーンから、ミッチーともも缶が宣戦布告をかましてくる、俺はなるべくニヒルな感じで、プレッシャーがかかります様にと祈りつつ笑い掛ける。


「おじさん、今からでもあたし達と賭けない? ――ケーキ……バイキングを!」


「あら、そらええどすなぁ?」


 二つ向こうのレーンから悠莉とハオカのペアまでそんな事を言い出し始めた。――これは……引くわけには行かないな……。


「――オイオイ……俺を誰だと思ってるんだ? 何も秘策無しでこの場にいるとでも?」


「……ひっしょう……」


 ――パルカの一言が『必笑』に聞こえてしまうのは、気のせいだろうか……。


「む、なら……皆で賭けるッスか?」


「良いわね……あたし達はノるわよ?」


「もも缶に不可能は無い!」


「旦那さん、お覚悟どすぇ?」


「うーいーもー! 仲間はずれにしちゃや!」


「僕だって、負け無いです!」


 皆やる気で結構な事だ……チッ。


「ふふふ……かかって来るがいい!」


「……あくそくざん……」


 うん……パルカに仕込んだ言葉がイイ感じだ……。


 ――そして、レースが始まる。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――貴賓観覧室。


「んごご……」


「アンちゃんや? お小遣いあげようか?」


「えっと……ウカト様、妾、もう子供ではないんですのよ?」


 アン王女と浮遊議会のメンバーは、レース会場を見下ろし、レースの開幕を待っていた。


「ほほう……子供では無い? なら、今晩ワレとどうじゃ?」


「――ギタカ様っ! 他国の王女に何て失礼な事を!」


「まあまあ、ライアさん……ギタカ様流の冗談ですよ?」


 厭らしい視線でアン王女を見るギタカに対して、同じ女性として不快感を顕わにするライアをワースがニヤニヤしつつ押さえる。


「しかし……」


「静まれぃ!」


 ――イリャーカの一喝で、その場が静まる。


「――そろそろ、開始である。ライア、ワース、準備せよ!」


「「ハッ!」」


 イリャーカの指示を合図に、ライアはレースの監視台に、ワースはその隣の監視台にと、それぞれの配置に着く――。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「それでは……」


 ――ライアさんが手を振り上げると、シグナルが一つ、二つと点灯していく……そして、三つ目が点灯し、その時が来た――。


「スタートッ!」


「――行くぞパルカァ!」


「……ぶっこみ……」


 俺とパルカは気合を入れ、『ボード』を力強く踏みしめる。そして――。


「チーム『営業部』、失格です!」


 開幕ダッシュと同時に……俺とパルカのチームは、見事に『ボード』を一回転させ、海に沈していた――。うん……だって俺、『ボード』の練習してないもん……。海上でのあの時、ギルドカードで椅子を組んでサボっていたのが悔やまれる。


「おじさん、何――」


 ドップラー効果を実演しながら横を通り過ぎて行った悠莉の、ポカンとした表情を見れただけ、良しとしておこうか……。


「……けーき……」


「あ、すまん、パルカ……」


 ――この世の終わりの様な表情でパルカが泣きそうにしている。


「あー、えっと、ケーキならちゃんと食べさせてやるから、なっ? だから、泣くな?」


「……ばいきんぐ……」


「お、おお……それで良いから……」


 何とかパルカの機嫌を元に戻すと、俺達は失格者の席まで泳いでいく。――お? あれは、VIP席か……アンさんが見える。


「あ、呆れた顔してる……」


 ――一応、こちらに手を振ってくれてはいるが……さぞかし呆れている事だろうな……。


「――ん?」


 俺達に手を振るアンさんの後ろに人影が……アレは、議会の誰かか?


「パルカ……あそこ、見えるか?」


「……きけん……!」


 そう言うと、パルカは俺の頭をペチペチと叩き、あそこまで行く様にと急かして来る。


「え、パルカ……?」


「……ごー……」


「――取り敢えず……行ってみるか、『高架橋』!」


 ――VIP席と失格者席を繋ぐ、ギルドカードの橋を組み上げると、俺はパルカと共にVIP席目がけて駆け出した……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「椎野様……どうして……」


 スタートと同時に、見事なループを描いた椎野を見ていたアン王女は頭を抱え、呟いていた。


「――ほれ、アンちゃん……知り合いなんじゃろ? 前に出て、手を振ってやらんか」


「ギタカ様……。そうですわね」


 ――そして、アン王女は一歩前に踏み出し、椎野達に向けて手を振る――。その背後に忍び寄る影に気付かずに……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――『高架橋』を走る事五分。


「――アンさん!」


「え……椎野……様?」


 VIP席に駆けつけた俺達が見たのは、思わず二度見したくなる様な光景だった。


「グヌゥ……ラシムゥ……!」


「――ギタカ……お前さんのエロ――いや、怪しい行動はずうっと……見とったぁよ?」


 ――恐らく……アンさんを襲おうとしていたんだろう。拳を振り上げたギタカをラシム様が横から赤い鉄棒を差し込み、抑えている。


「ギタカ様っ!」


「動くな! ――ヒック……」


 飛び出そうとするワースさんをウカト様が前に出る事で牽制している――。


「ギタカ様……どうやら、ばれていた様です」


「――ムぅ……」


 まるでそれが決め手であるかの様に、モカナート様の首をイリャーカ様が掴み上げ、睨んでいる。


「――えっと、すいません……どう言う状況?」


「それが、妾にも……サッパリですわ?」


「……じじ……?」


 戸惑う俺達三人の前に、ライアさんが静かに近付いて来た。


「お騒がせして申し訳ありませんでした――」


 ライアさんの話によると、ヘームストラとテイラ相手に親書のやり取りをした後位から、ギタカとモカナート様の様子がおかしくなって来たらしく、ラシム様が一計を案じた結果……今の状態になったらしい。


「――つまり、妾は囮に使われたと?」


「も、申し訳ありません!」


「まあ、アンさん……無事だったんだし――」


 と、言おうとした所で高齢対決に決着が付きかけていた。


「『超重』!」


「グェッ!」


 ラシム様が棒をギタカに押し込むと、崩れ落ちる様にギタカが地面に這いつくばる。


「――ヒック……『電電』」


「ヒギィ!」


 いつの間に取り出したのか、ウカト様は左手に持った三叉の太鼓を、同じく三叉のバチで「ドドンガドン」と軽く叩く。すると、電撃がワースさんに襲い掛かり、その身を黒焦げにしていた。


「いやだぁ……ん!」


「――『粉砕』を!」


 これで止めと言わんばかりのイリャーカ様の一撃は、モカナート様の喉を綺麗に抉り取っていた。


「――強ぇ……」


「それはもう……『オーシ浮遊議会』と言えば、最強の名をほしいままにしたかった老人会として有名っぽかったんですから!」


「こりゃ、ライア! 有名っぽかったじゃのうて、有名なんじゃ!」


 我が事の様にはしゃぎ、胸を張るライアさんにラシム様が頬をふくらまして抗議する。――それにしても……。


「……つよい……」


「――ですわね……」


 傷一つ無く佇む三人を見て、パルカもアンさんもそれ以上、言葉に出来ない様子だった。


「さて……お主ら……何者じゃ?」


「うぃ……うっ!」


「立てぇい!」


 リバースするウカト様と、基本的に威厳と強さだけのイリャーカ様が尋問に向いていないせいか、主にラシム様が中心となって、地面に転がる三人を問い詰め様としている。


「ラシム様……恐らく、そいつらは……」


「……ぱぱ……」


 ――俺が心当たりのある奴らを上げようとすると、パルカがいきなり飛び付き、俺を押し倒した。


「――え? ぱ、ぱぱ?」


「……あれ……」


 いつの間にか増えてしまった扶養家族に戸惑いつつ、パルカの指差す方を見ると、そこには――。


「やっぱり……『伯獣』か!」


 恐らく魚型なんだろう……白黒模様の毛皮に、目の下のくまが特徴的な『伯獣』がそこにいた。


「……げりふぉすさま……てったい……」


「――チィ……仕方ないのぅ……」


「だ・か・ら、言ったじゃないですかぁん? 部下の減らし過ぎですよぉんって……」


「黙れ! ゲリフォス様に逆らうか!」


 ――声に振り向くと、先程まで虫の息だったギタカ、モカナート様、ワースさんがボロボロのまま立ち上がり、元気な声で喋っている……。


「やはり……偽者か! 本物のあ奴らはどうした!」


 顔を真っ赤にし、棒を突き付けながらラシム様が叫ぶと、ギタカ――いや、ギタカに擬態したナニかが、厭らしい声で答える……。


「あ奴らか? 今頃は海の底じゃろうな」


「馬ぁ鹿な! あ奴らがそう簡単に――」


「うふっ! ――後ろからポーン……ってね?」


 恐らく不意打ちで――と言う事なんだろう……。クネクネと身を捩らせながら、モカナート様に擬態したナニかが答える。


「さて、と……デルフィニ!」


「……はい……」


「――キャッ!」


 ――いつの間に回り込んだのか、先程の白黒の『伯獣』がアンさんを担ぎ上げていた。


「アンさん!」


「……ひめ……」


「――邪魔はさせんぞ、サラリーマン――出ろぉ! 『創伯獣(アークラフツ)』ゥ!」


 ワースさん――に擬態していたナニかが指を鳴らしながら叫ぶと、俺達とアンさんの間を埋める様に『創伯獣(アークラフツ)』が湧き出して来た。


「ゲヒヒ……そろそろ、お暇しようかのぅ?」


「良いんじゃなぁい?」


「了解です……ゲリフォス様」


 三人はボロボロになった身体の皮を剥ぎ取る。そこにいたのは、やはり――。


「ゲリフォス……スファーノ……誰?」


 やっぱり、この国でも動いていたのか……。


「ふぉふぉ……改めて自己紹介じゃの――ワレは『甲伯獣』――ゲリフォス様じゃ!」


 ゲリフォスは、サブラ同様に以前とは違う――より、人間に近い……と言うか仙人みたいな姿となっていた。そして――。


「お・ひ・さー? みんなのアイドゥル、『爬伯獣』『鱗竜』の――スッファーーーーーノ様よーん! 雑魚ちゃぁん……覚えてんだろぉなぁ?」


 ――その瞬間、俺達の目の前の『創伯獣(アークラフツ)』が何匹が爆発し、紫の煙を上げる……正直、助かります。


「お初にお目にかかる、俺は『爬伯獣』『正顎』の――ディロスだ……」


 尖った口が特徴的な――恐らくワニっぽい、ディロスと名乗った『伯獣』は、何故かスファーノを睨み付けながら、俺達に自己紹介をしていた。


「……デルフィニ……」


「あら、だっめよぉ、主から貰った立場はちゃんと示さないとぉ……この子は『海伯獣』『色分』のデルフィニちゃんよぉ? そぉねぇ、そこの雑魚ちゃんの――お・な・か・ま……だった子よぉん?」


 ――その言葉で、パルカの顔が崩れる……。


「……あんちゃん……」


 あんちゃん……って、兄ちゃん?


「パルカ、あの子は……お前のあんちゃん――本当に兄ちゃんか?」


「……たぶん……すがたちがう……けど……」


 ――俺の目から見てもパルカとデルフィニと名乗った『伯獣』は、その姿が余りにも違い過ぎている様に見える。パルカも自信が持てないんだろう、戸惑った顔で俺とデルフィニの顔を見比べている。


「ふむぅ……何ぞ因縁のある様じゃが、デルフィニ、スファーノ、ディロス、さっさと撤退じゃ! ――サラリーマンよ……アンちゃんを返して欲しくば、会議城まで『赤い石』を持って来い」


「――待てっ!」


「「「「「チキチキチキチキチキ」」」」」


 ゲリフォスを止め様とする俺の前に、『創伯獣(アークラフツ)』が立ち塞がる――。


「さらばじゃ!」


 そして、情けない事に……俺達はゲリフォス達を取り逃がしてしまったのだった――。

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