SvS3
続きです、よろしくお願い致します。
――俺の目の前で、大量の水が天井からラッコ男に降り注いでいるが、奴はそれを受けても全く動じる事無く、俺達――特に俺を睨み付け、笑みを浮かべている……。
「アカチエチキ、オノメアガワグササ……」
ゆっくりと、ラッコ男が近付いてくる……。
さて……どうするか。――残念ながら、俺のギルドカードは俺の選択肢を用意してくれたりはしないからな……。
「コイツァ……何だ?」
リンキは険しい顔で、ラッコ男を見つめ――いつの間にか、先程スカサリと戦った時の様に黒褐色の甲冑姿へと変わっている。
「――何なんだろうな……?」
「ラッコちゃんだよ?」
「――『ちゃん』なんて、可愛いもんじゃねえよ……」
俺と羽衣ちゃんからほぼ同時に答えが出る。それで、俺達にもよく分かって無いと言う事を分かってくれたのか、リンキはため息を吐きながら呟いた。
「アコナチアヒニアケソノカギシネソノドヘロコ……ォホン?」
まずは、リンキに狙いを定めたのか、ラッコ男がリンキに顔を向けながら徐々にその歩みを速めていき、その頭のテンガロンハットを頭から外れない様に少し深めに被ると――一気に駆け出した。
「リンキッ!」
「チッ……時間がねぇっつうのに――よ!」
リンキは迫るラッコ男との衝突に合わせる様に、その大鎌を構える。
「ブルゥァ!」
そして、リンキの大鎌とラッコ男の拳がぶつかり合う――。
「――クソッ……ミッチー、もも缶、悠莉、俺達も行くぞ! 愛里、『門』を作るから、準備よろしく! ペタリューダ、ハオカは子供達四人を頼む!」
「分かりました……『パゥワ』!」
手早く四人分の『門』を作り、愛里に合図する。俺とミッチー、もも缶、悠莉の四人は愛里が強化スキルを施したその門を潜りラッコ男に飛び掛かる。
「アンタ何でここにいるのよ! 『三等星』!」
「フンヌァ!」
悠莉とラッコ男の拳がぶつかり合い、衝撃が足元の水をまき上げる――そして、悠莉と拳をぶつけ合っているラッコ男に向かって、ミッチーが剣を振るう。
「喰らうッス! 『イバラ』!」
ミッチーの振るう剣先から放たれた、赤く輝く斬撃がラッコ男に絡みつき、その動きを止める。
「にく、良い仕事……『カトラリ・ミート』!」
もも缶もリンキ同様に姿を変え、白桃模様の甲冑を纏い右手に大きな鋭いナイフ、左手に大きなフォークを持ち、斬撃に絡めとられたラッコ男に襲いかかる。
「――ブルォァァ!」
ラッコ男は気合一閃――ミッチーの拘束を弾き飛ばし、その拳でもも缶を迎え撃とうとしている。
「――もも缶っ! 『塗り壁』!」
咄嗟に俺は『塗り壁』をラッコ男の手前に、その拳を受け流す様に配置する。
「――オタダ! ……ンアヌツゥ?」
俺の『塗り壁』に勢いを逸らされたラッコ男は、丁度もも缶に背を向ける様に回転し――その瞬間、俺の顔を見てひどく驚いた様な、喚起している様な不思議な表情を浮かべていた。
「ふっ!」
もも缶の攻撃をモロに無防備な背中に喰らったラッコ男は、流石に一歩、二歩とふらつき――。
「――イイとこ、貰うぜ? 『咢』!」
その隙を逃すはずも無く、リンキが頭上高く掲げた大鎌を、そのままラッコ男目がけて振るった。
「ブ……ルゥァ!」
そして――。
「うそ……」
「うん……俺は何となく、そんな気がしてた……」
「――マジかよ……オイラのガチ技だぜ?」
ラッコ男はリンキの大鎌を――その歯で受け止めていた。
「オザッタコイ……ラナカ、ホナミ?」
まるで……ジェットコースターを楽しんでいるかの様に、ラッコ男ははしゃいでいる。――正直、もう帰りたい……。
「ブルァッ!」
「――ガァッ!」
リンキの大鎌を加えたまま、ラッコ男はリンキを殴り飛ばし、吹き飛ばされたリンキは壁にぶつかると、そのまま気を失ってしまった様だった。
「――おやっさん……どうするっスか?」
「あいつ……前より強くなってない? どうする? 逃げる?」
「――良しっ! AプランとBプラン、どっちが良い?」
――ラッコ男と睨み合いながら、俺達は相談する。
「エサ王、もも缶は、Aランチ」
「……Aプランな? Aプランは、何とかしてアイツを倒す」
「――無理じゃん……。Bプランは?」
悠莉が肩を落とし、俺に再度問い掛けてくる――うん、まあ……。
「――Aプランと一緒だ!」
これが言いたかっただけなんだけどな……。
「おじさん……?」
「うん、冗談だから……そんなに、睨まないでくれ」
――そんな無駄話をしている間にラッコ男がこっちに駆け出して来ている。
「ああ、もう!」
悠莉が何かを諦めた様にラッコ男と向かい合う――そして。
――パリンッ!
「あ、やっぱり、足止めにもなんないか……」
折角ラッコ男の進路上に仕掛けていた『塗り壁』は、ラッコ男の突進にあっさりと破られてしまった。
「――『クルミ』!」
「イアスカラヤサ!」
ミッチーの斬撃はラッコ男の裏拳一つで弾かれ――。
「え、えっと……『一等星』!」
「ウツァガダ……ヂレキイ!」
「え、キャア!」
悠莉は繰り出した蹴り足を掴まれ、そのまま壁に投げ飛ばされた――。
「――っ! 悠莉!」
「父上、大丈夫です! 『風壁』!」
どうやら、咄嗟にタテが風で受け止めてくれた様だ……気を失ってはいる様だけど――。
「――アナドッタヨ……ッタヤ」
ん? 侮った……? 何を?
――漸く意味の分かる言葉を喋ったかと思うと、ラッコ男は凄惨な笑みを浮かべ……拳を振り上げた。
「やば――『塗り壁』!」
咄嗟に、『塗り壁』を配置し、ラッコ男の拳の向きを逸らす――良し……受け流すやり方なら、壊されないみたいだな……。
「オォジオリソモ……イオリソモ……イヌオトノフ……フフフ!」
更に凶悪な笑みを浮かべ始めると、ラッコ男は今までの様に一撃必殺――と言う風では無く、ジャブの様に拳を使い始めた。
「――ここに来て学習とか……性質が……悪い……っつうの!」
――『塗り壁』、『塗り壁』、『塗り壁』、『霞』、『塗り壁』、『塗り壁』、『塗り壁』、『塗り壁』、『親父の拳』……あ、避けられた……『塗り壁』、『塗り壁』、『塗り壁』――。
「え、えっと……おやっさん……何か、手伝えることは?」
「い、今、それどこじゃない! ちょ、ちょっと、待ってて!」
今援護されても、(主に俺が)危ないし!
「ブルゥゥゥゥッハァ!」
「――このっ! 楽しそうにしやがって……」
ふと横眼で見てみると、皆、下手に手が出せない状況になってしまって、オロオロして見ている。
「――ラッコちゃん、たのしそう!」
――羽衣ちゃん、おじちゃんは死にそうですよ?
そして、そのまま十分程経ち……その時は訪れる――。
「ブフブファ!」
コイツ……大爆笑じゃねえか! クソ――『塗り壁』、『塗り壁』、『塗り壁』、『霞』、『塗り壁』、『塗り壁』、『塗り壁』……『札落とし』!
――ツルッ!
「ブルァ?」
「――『親父の拳』……!」
散々逸らして、避けて、惑わして――最後に足元に『札落とし』を仕掛ける……止めに後頭部に当たる様に『親父の拳』を置いてみる。
多分……無防備な状態で後頭部に衝撃を受ければ、流石に少しは油断が出来るかも――。
「――あっ。おじさん!」
――何て、甘い考えが上手くいくはずも無く……。
「え……?」
俺のすぐ目の前――顎の辺りを目がけて、転んでいくラッコ男のつま先が飛び込んできている……。
「うぁ――」
――その光景を最後に、俺の意識は途絶えてしまった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――ん?」
目を覚ますと、数時間ぶりの太陽が眩しかった……。
「あ、おじさん、目が覚めた?」
――悠莉の声が聞えてくるが身体が動かない……どうやら、俺は死んだらしい。最後に見たのが毛むくじゃらの足とか……何の罰ゲームだよ……。
「ここは……あの世か?」
「は? おじさん、やっぱり頭打ったの?」
「いや、悠莉ちゃん……多分、まだ起きたばっかりで、意識がはっきりしないのよ」
「ほな、これでどうやろか?」
――グニッ!
「――むっ!」
――グニグニグニグニグニ……。
「――むむっ! ここは……天国か?」
とても良い……。
「まだ、眠いみたいね? ――ミッチー!」
悠莉の合図で、ミッチーが「押忍」と返事をする。
「おやっさん、自分も協力するん「はい、目が覚めました!」」
ミッチーがブーツを脱ぎ始めた辺りで、俺は飛び起き様とする――が、身体が動かない?
「あれ? 何で……身体が?」
「ん? あ、そっか」
「旦那さん、ご自分の状況をよう見ておくれやすな?」
悠莉とハオカに促されるままに、俺は目線を自分の身体に向ける。
「――あぁ……」
――俺の頭は羽衣ちゃんとパルカにガッチリホールドされ、身体には、タテ、もも缶、リンキ、スカサリがくっついていた――って……。
「何で、この二人まで?」
俺の疑問は、誰にも答えが分から無いらしく、皆一様に首を振っている。
「――まあ良いや……それで、あの後どうなったんだ?」
周囲を見渡しても、ラッコ男の姿が見当たらない……アレで倒せたのか?
「うん……もう、何て言うかね……」
「自分、ホント、アイツに関わりたく無いッス……」
「――何でしょうね? アレ……」
悠莉、ミッチー、愛里が遠い目をしている……本当に何があったのさ……。
「それじゃ、私が説明しましょうか?」
「頼む」
そして、ハオカは俺が気を失っている間に何があったのか……語り始めた――。




