再会
続きです、よろしくお願い致します。
――仲間内でのチーム分けを行った翌日。
「ほな、旦那さん……オイタしちゃあきまへんよ?」
「いい? おじさん、正々堂々! はい、言ってみて!」
「せーせーどーどー……」
こんなやり取りの後、俺達は『ボードレース』の参加申し込みを行う為、再びギルドを訪れていた……。
「――チーム名は『肉缶』で良いんですか? ……本当に? はい、それでは、これで参加登録完了です……」
最初は、ミッチーともも缶が登録を終えた……確かに、もも缶はミッチーの事を『にく』と呼ぶが……。
「なあ、ミッチー……良かったのか?」
すると、ミッチーは何を心配されているか分からない様子で――。
「え? にく最高じゃ無いッスか!」
――一瞬、ミッチーの後ろに七三分けに眼鏡を掛けた神様が見えた気がした……。
「はいはい、次の人達待ってるんだから、じゃれてないでそこの休憩所で待っててよ!」
悠莉に怒られ、ミッチーともも缶はそそくさと休憩所に逃げ込んでいった。悠莉はそれを呆れ顔で見届けると、ため息をつきハオカと共に受付に向かう。
「これ、受付頼んますね?」
「あ、はい……えっと、チーム名は『ファルマ・ガールズ』ですね?」
「へー、よろしゅうお頼申します」
その様子をボーっと眺めていると、愛里が俺のスーツの袖をチョンチョンと摘み、クスクスと笑いながら囁いて来た。
「……『ボンドガール』みたいですね?」
「……はは」
内心、ドキリとしつつ、曖昧に返す。そして、視線を受付に戻す。
「と、ところで、もし、よろしかったら……ゆ、夕飯でもどうですか?」
――何か、ハオカ達の受付を担当したギルド職員と、もう一人どこかから出て来た、ギルド職員が悠莉とハオカをナンパしてた。
「……はは」
笑いつつ、受付の前に勢いよく申込用紙を叩き付ける。――とは言っても順番的に羽衣ちゃんとタテの申込用紙だが……。
「――これ、よろしくお願いします……ね?」
「あ、す、すすすいません!」
慌てて用紙の内容を確認する職員君……少し、大人げなかったか?
「あら、旦那さん……妬いてくれはるんどすか?」
「え、嘘! 見てなかった、おじさん! もう一回、もう一回やって?」
「――別に、そんなんじゃないよ? 後、もう一回って意味が分からんから……」
二人を押し出す様に休憩所に追いやり、俺はギルド職員を睨み付ける。
「あ、すいません……奥様とは知らず!」
「……取り敢えずこの子達の受付、お願いします」
「はいっ! えっと、お子さんの年齢ですと『子供の部』参加となりますが、よろしいですか?」
みっともない所を見せてしまった手前、何となく気まずい俺は、無言で頷く。
「えぅ、うい、おじちゃんと一緒のが良い……」
「僕も……」
「あ、ごめんね? 規則だから、駄目なんだ」
羽衣ちゃんもタテも、俺達に混じって参加したかった様だが、安全上の問題等でそれは出来ないとの事だった。
「あれ? そうなると、俺とパルカのチームは参加できないのか?」
「い、いえ! 親御さん同伴となりますと、正規部門での参加で問題無いのですが……」
その後、しどろもどろになりながら職員君は説明してくれた。どうやら、保護者同伴なら正規部門で参加可能だが、保護者が子供をおんぶする形でないといけないらしい。しかも、おんぶはレース終了までは外せないようにするとの徹底ぶりだ。
「――それでは、チーム名『ウイズ』で登録しておきます」
「はい! おねがいします!」
「お願いします!」
ペコリと頭を下げる二人を見て、漸く職員君も落ち着きを取り戻した様だ……。
羽衣ちゃんとタテはその後、何度か職員君にお礼を言って、休憩所に向かって行った。
「うーん……奥様扱いしてくれるなら、私も出た方が良かったですかね?」
羽衣ちゃんとタテの後に、救護班として登録を済ませた愛里がそんな事を言い出した。
「――さっきのは忘れてくれ……」
そこでまた、愛里はクスクスと笑い、俺をからかう。
「さ、次だ次!」
耳が熱くなるのを誤魔化しつつ、俺とパルカの申込用紙を叩き付ける。
「ひっ! す、すいません、こちらですね? チーム名は『営業部』で良いですか?」
「ああ、それで頼むよ!」
その後、休憩所に戻るまで愛里にからかわれつつ、皆と合流する。
「あ、おやっさん、終わったんスね?」
休憩所に着くと、どうやら俺達以外は利用者がいないらしく、貸し切り状態になっていた。
「ああ、お待たせ、それでさっき職員に聞いたんだけど、この後別室で説明会を開くらしいから是非参加してくれだそうだ」
――そして、俺達は職員に場所を聞いて説明会の会場へと向かう。
「ルール説明とかかな?」
「多分、そうじゃないか?」
そんな会話をしながら、海上に入る。すると、そこには……。
「あら? 説明会にいらした方です……か……?」
「――あっ!」
俺達が扉を開けると、そこには何故か……ヘームストラ王国王女――アーニャ=ファミス=ヘームストラ、その人がいた。
「い、い……」
「い?」
「ら、ラッシャーセー!」
何かを誤魔化す様に、王女様――アンさんは俺達を会場隅の席に押しやる。そして、始まる説明会――。
「あの人、王女様っすよね……」
「椎野さん……どう思いますか?」
「どうもこうも……アンさんの格好からすると、あれ、騎士団の制服だろ?」
「騎士団のお仕事で来てるって事?」
俺達のヒソヒソ話が気になるのか、アンさんは時々こちらを見ながら、レースの説明をしていた。
――そして、説明会終了後。
俺達はアンさんを誘って、昨日の喫茶店に来ていた。
「で? 何で、ここにいるんですか?」
俺が質問すると、アンさんは悪戯がバレた時の羽衣ちゃんやタテの様に、口を尖らせながら――。
「お、お父様が……」
――アンさんの話によると、数週間前に余りに小さな事まで、騎士団を情報源にしていたらしく、その事で王様から大層怒られたらしい……。
「それだけでは無くて……どうやら、騎士団内部どころか、街でも妾の素性がバレかけていたらしいんですの……それで、お父様が妾の素性を誤魔化す為にと……」
どうやら、騎士団の雑用をこなす事で、噂を誤魔化す気だったらしい。同時に、アンさんに対するお仕置きの意味も込めてあるんだろう。
「レース前日までは騎士団として、レース当日は王族として働いて来いと……」
「成程……でも、結構楽しんでいるんじゃないですか?」
――先程の説明会の時も楽しそうだったしな。
「ええ、ええ、妾……椎野様とタテちゃんが作ったと言う『ボード』にすっかり嵌ってしまいましたの……それで、お父様に怒られて気落ちしていた妾を見かねた、ラヴィラ騎士団長が機転を利かせてお父様に進言して下さったんですのよ?」
どうやら、怒られるアン王女を庇ったラヴィラさん苦肉の策であるらしい。労働としてはこき使われて、休む時間は少なく疲れるかもしれないが、好きな競技を観戦できるって言うのはある意味、ご褒美なんじゃないだろうか……。
「へぇ、あの人も苦労人よね……」
悠莉が俺をチラリと見て、そんな事を呟く。――もしかして、俺の苦労を労ってくれるつもりか?
「アンちゃん、アンちゃん! これ、どーぞ?」
「あら、よろしいんですの?」
アンさんの膝に抱えられた羽衣ちゃんがケーキを差し出している。まあ、アンさんにとっては、これだけでも結構なご褒美なんじゃないだろうか?
「――あ、いたいた……って、貴方達まで?」
そんな感じで俺達がくつろいでいると、昨日の入国審査担当官の人がやって来た。
「あれ……昨日の? どうしたんですか?」
「ん、ああ、貴方達にも用事はあるんですが……まずは、そちらのお方に……」
そう言うと、担当官さんは片膝を付き、アンさんに手紙を手渡す。
「ご苦労様です……」
アンさんは優雅にお辞儀をすると、その手紙を受け取り読み始めた。その間に、担当官さんは改めて俺に向き直る。
「――で、こっちが貴方達宛です、確かに渡しましたよ?」
「どうも、お疲れ様です」
さて、誰からかな……?
「あ、『オーシ浮遊議会』……?」
――耳慣れない言葉に首を傾げる。
「『オーシ浮遊議会』は、この国を治める機関です……ご存知なかったのですか?」
今度はパルカからケーキを「アーン」して貰いながら、アンさんが教えてくれた。
「議会形式ってのは聞いてたけど……なあ?」
俺は皆に同意を求めると、皆一斉に視線をそらす。
「言い難いんっスけど……船で船長が語ってたッス」
「旦那さん、途中でおねむさんどしたなぁ……」
「椎野さん、最後はいびきかいてましたよ?」
――そうだったっけ?
「ま、まあ良いや! それより、中身だ中身!」
そうして、開けた手紙には謁見の日取りが書かれていた。
「これって、レースの前日じゃない?」
横からのぞき込んでいた悠莉が確認する様に俺を見る。
「結構、待たされるな……アンさんの手紙はなんて?」
「妾ですか? 妾の手紙にはただ、明日議会からお迎えに上がりますとだけ……」
「おじさん……」
「……ん、何だ?」
「アンさん来るの分かってたら……最初っからそっちのコネ使えば良かったね?」
「――そうだな……」
――間が悪いなあ……。どこかで、厄払いでも出来ないだろうか……。




