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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第七章:海上国家
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しゃるうぃ

続きです、よろしくお願い致します。

 受付に『ボードレース』のチラシを持っていき、職員さんに申込期限を確認すると、どうやら申込期限は明日までで、大会の開始は一週間後であるとの事。


「明日か……」


「取り敢えず、皆に相談っスね」


 考える時間は一日ある事だし、一旦集合して相談しようと言う事に。俺達はギルドを後にして、宿屋のある方に向けて歩き出す。


「――あ、椎野さん!」


「ホントだ、おじさーん! こっちこっち!」


 宿屋に向かう途中、喫茶店っぽい店の前を通り掛かると、愛里達がのんびりとお茶をしていた様で、俺達に声を掛けて来た。


「やけに来るのが遅いと思ったら……何やってんの?」


「すんまへん旦那さん、宿屋の人にこん店のケーキが美味しいと勧められてしもて、つい……」


 愛里、悠莉、ハオカが気まずそうに俯き、頭を下げる。


「まあ、良いけど……っつうか、悠莉よ……頭を下げつつ、ケーキにパクつくなよ……」


「え? えへ……ばれた?」


「いや、それでばれないと思われてるって……」


 若干、ミッチーがショックを受けている。――しかし、更にショックを受けている奴がいた……。


「ゆ、ゆうり……もも缶の分は?」


 この世の終わりの様な顔で、もも缶は悠莉の手元のケーキを見ている。それも、盛大な腹の音を鳴らしながらだ……。


「ん? え! も、もも、泣いてるの? え、嘘!」


 そう言えば、入港してから珍しくもも缶が何も食べていなかったか? 途中まで寝てたし……。


「あらあら……ももはん、うちの食べかけで良かったら、これどうぞ? ――ほら、涙を拭かな美人はんがわやどすぇ?」


「ほら……ももちゃん、私のもどうぞ?」


「――っ。分かったわよ……ほら、アーンして?」


 次々に差し出されるフォークにパクつくもも缶……。


「親鳥と雛鳥みたいッスね……?」


「そうだな……」


 ミッチーとそんな事を話している内に、どうやらもも缶の機嫌が直って来たようで椅子に座ってメニューを見始めている。――と言うか、まだ食う気か?


「おじさん達も座ったら?」


 悠莉のその言葉で、俺達も我に返り席に着く。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ほして、何やええ依頼おましたか?」


 席に着いた俺に、ハオカが尋ねてくる。さて……どうしたものか。


「うん! あったよ!」


 俺の代わりに羽衣ちゃんが答える。羽衣ちゃんはパルカ、タテ、ピトちゃんとケーキの交換をしていたが、先程の『ボードレース』の事を思い出した様で、羽衣ちゃんのリュックに俺が突っ込んでいたチラシを取り出す。


「えっと……『ボードレース』ですか?」


「これって、おじさんとタテが悪ふざけしてた奴よね?」


 愛里と悠莉が俺とタテの顔を見比べながら聞いてくる。


「いや、悪ふざけって……」


「そうです! 父上だけです!」


 ――この時の俺のショック度合いは、カエサルさんに匹敵するものだっただろう……。


「……ぷふっ」


 パルカは俺のショックを受けている顔が面白かったのか、肩を震わせて笑いをこらえている。――どうやら、顔芸に弱いッぽいな。


「取り敢えず、見せてよ」


 悠莉がチラシを羽衣ちゃんから受け取り、愛里とハオカがそれを横から覗き込む様に見る。


「さて、俺もケーキを……?」


 おかしい……俺は皿を注文したつもりはないんだが……。


「ん? どした?」


 いつの間にか、隣に着席していたもも缶が、口をモキュモキュと動かしながら、俺の顔を不思議そうに見つめている――。


「いや、俺のケーキがな……」


「うん、美味かった」


「そうか……」


 そのまま、無言でもも缶のこめかみを両拳で押さえつけ、数回ねじる。


「あ、エサ王! それ、ダメ!」


 もも缶が苦痛に顔を歪め、ジタバタともがく。


「……ぷふっ」


 ――もしかして、何でもいいのだろうか……?


「――成程ねぇ……」


 もも缶、パルカとじゃれていると、悠莉達がチラシを読み終わったらしい。


「私は、良いと思います。面白そうですよね?」


「うちも、同感どす」


 結構評判は良いらしい。羽衣ちゃんが腕を組み、鼻息を荒くして「うんうん」と頷いている。


「それで? どうするの?」


 突然、悠莉が尋ねて来た。


「ん? どうするって、参加するで良いんだろ?」


「それはそうだけど、そうじゃなくて……チーム分け、どうするの?」


 ――うん? チーム分け……?


 俺のポカンとした表情で大体察してくれたのか、悠莉がため息を吐きながら説明してくれた。


「おじさん、ちゃんと読んでないでしょ……。ここに、二人一組のチーム戦って書いてあるじゃない!」


 チラシを机に叩き付け、何かが書かれている一行を差す悠莉。


 ――どれどれ……? 『参加は二人一組である事』……? うん、見落としてたな。


「さて……ジャンケンでもする?」


 俺は誤魔化す様に、静かに皆の顔を見渡して告げる。


「椎野さん、呼んでなかったんですね……?」


 ――ご名答です。と考えながら、俺は現在のメンバーを数える。


「十一人か……」


「うい、タテちゃんとっぴぃ!」


 しまった……先手を取られた。


「あ、すいません……私、応援に回りますね?」


「あたくしと、ピト姉様も遠慮いたしますわ」


「ピュイ……」


 愛里は「何かあった時のため」と言って、同時募集されている『救護チーム』に応募する様だ。ペタリューダとピトちゃんは流石に『伯獣』の姿で出るわけには行かないと遠慮している様だ。――まあ、二人供水は苦手らしいので、あんまり気にしてないと言っていたが……。


 ――そうなると……。


「もも缶……自分と組むっスか?」


「ん、組む!」


 出遅れた……。ミッチーがケーキを差し出しもも缶をゲットしていやがる。


「ほな、悠莉はん、うちと組みまへんか?」


「あ、いいわね」


 次々とチームが出来上がっていく。


 ――そして、俺は地面に片膝を付きパルカの目を見つめ、右手を差し出す。


「しゃ、シャルウィダンス?」


「……キュ……」


 パルカは首を傾げ、俺の手の平に握り締めた拳をポンと置く、どうやら意味は分かってい無い様だが了承はしてくれた様だ。


「それじゃ、ここからは皆ライバルっすね?」


「そうね! 負けないわよ!」


 皆、思い思いに燃えている様だ……しかし、残念ながら勝利は俺とパルカのモノなんだよ……。


 何故なら――!


「――あっ。どうやら、ルールに妨害行為禁止ってありますね。どうやら、純粋に『スキル』を利用した『ボード』の操縦技術で勝負するレースみたいですね」


 ――愛里の言葉が、俺の胸にズキュンと突き刺さる……終わっちまったよ。


「す、すまないパルカ……俺は役に立てそうもない……」


「……キュゥ?」


「おじさん……諦めるの早いよ……」


 無理だ……『塗り壁』が使えない俺なんて、ただのおっさんだぞ?


「おやっさんの考えている事が、自分でも手に取る様に分かる気がするッス」


「うん……妨害ありきでレースする気だったんだね?」


 ミッチーと悠莉が呆れ顔で俺を見ている。図星を射られた俺はその場で崩れ落ち、呟く。


「その通りです……」


 ――ああ、崖の上の犯人はこんな気持ちだったんだろうか?


「おじちゃん、あきらめちゃだめだよ?」


「父上なら……その……えっと?」


「――はっ! エサ王、賭けよう? ケーキ、賭けよ?」


「……がんば……」


 羽衣ちゃん達に背中をポンポンと優しく叩かれ、俺は静かに立ち上がる……何か一人違う気がするが……。


「良し! 頑張ってみるか……」


 ――そして、その夜。


『あー、ツチノっち役立たずじゃん!』


 俺はサッチーに愚痴っていた。


「――今回ばかりは否定できん……」


『まあ、でもさ……ツチノっち!』


「うん?」


 もしかして、何か秘策でもあるのかと思い、俺は静かに電話に耳を傾ける……。


『ばれなきゃいいんじゃね?』


「――っ!」


 ――俺の脳裏にサッチーの言葉が繰り返し、再生される……。正直、目から鱗だった。そう言えば、そうだ……よな?


「ば、ばれないかな?」


『だって、『塗り壁』ってそもそも透明じゃん? ばれるわきゃねえって! イケるイケる!』


 ――おおっ!


「俺は、今、かつてないほどサッチーを尊敬しているよ……」


『おお、父は強しってやつだべ? ぱないっしょ?』


 ――その後、互いの近況などを語り合い……。


「じゃあな、助かった!」


『おう、またな? あ、そうだ、ダリーちゃんがさっきからお願いされてんだけどよ?』


「ん?」


『二、三日前に送って来た写真の子は誰だってさ? 羽衣と一緒に写ってんの見て、鼻血ダラッダラなんよ』


 ――何かと思えば……。


 俺は、パルカの事を簡単に説明し、通話を終える。


「ふう……ばれなきゃ……良いよな?」


 決意を新たに、その日は眠りについた。しかし、翌日、ダリー経由で俺とサッチーのやり取りを聞いた悠莉やハオカに怒られ、俺は顔面をハオカと悠莉に踏みつけられると言う脅し(快楽)に負け、結局『塗り壁』を含む妨害無しを固く誓わされたのだった……。

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