しゃるうぃ
続きです、よろしくお願い致します。
受付に『ボードレース』のチラシを持っていき、職員さんに申込期限を確認すると、どうやら申込期限は明日までで、大会の開始は一週間後であるとの事。
「明日か……」
「取り敢えず、皆に相談っスね」
考える時間は一日ある事だし、一旦集合して相談しようと言う事に。俺達はギルドを後にして、宿屋のある方に向けて歩き出す。
「――あ、椎野さん!」
「ホントだ、おじさーん! こっちこっち!」
宿屋に向かう途中、喫茶店っぽい店の前を通り掛かると、愛里達がのんびりとお茶をしていた様で、俺達に声を掛けて来た。
「やけに来るのが遅いと思ったら……何やってんの?」
「すんまへん旦那さん、宿屋の人にこん店のケーキが美味しいと勧められてしもて、つい……」
愛里、悠莉、ハオカが気まずそうに俯き、頭を下げる。
「まあ、良いけど……っつうか、悠莉よ……頭を下げつつ、ケーキにパクつくなよ……」
「え? えへ……ばれた?」
「いや、それでばれないと思われてるって……」
若干、ミッチーがショックを受けている。――しかし、更にショックを受けている奴がいた……。
「ゆ、ゆうり……もも缶の分は?」
この世の終わりの様な顔で、もも缶は悠莉の手元のケーキを見ている。それも、盛大な腹の音を鳴らしながらだ……。
「ん? え! も、もも、泣いてるの? え、嘘!」
そう言えば、入港してから珍しくもも缶が何も食べていなかったか? 途中まで寝てたし……。
「あらあら……ももはん、うちの食べかけで良かったら、これどうぞ? ――ほら、涙を拭かな美人はんがわやどすぇ?」
「ほら……ももちゃん、私のもどうぞ?」
「――っ。分かったわよ……ほら、アーンして?」
次々に差し出されるフォークにパクつくもも缶……。
「親鳥と雛鳥みたいッスね……?」
「そうだな……」
ミッチーとそんな事を話している内に、どうやらもも缶の機嫌が直って来たようで椅子に座ってメニューを見始めている。――と言うか、まだ食う気か?
「おじさん達も座ったら?」
悠莉のその言葉で、俺達も我に返り席に着く。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ほして、何やええ依頼おましたか?」
席に着いた俺に、ハオカが尋ねてくる。さて……どうしたものか。
「うん! あったよ!」
俺の代わりに羽衣ちゃんが答える。羽衣ちゃんはパルカ、タテ、ピトちゃんとケーキの交換をしていたが、先程の『ボードレース』の事を思い出した様で、羽衣ちゃんのリュックに俺が突っ込んでいたチラシを取り出す。
「えっと……『ボードレース』ですか?」
「これって、おじさんとタテが悪ふざけしてた奴よね?」
愛里と悠莉が俺とタテの顔を見比べながら聞いてくる。
「いや、悪ふざけって……」
「そうです! 父上だけです!」
――この時の俺のショック度合いは、カエサルさんに匹敵するものだっただろう……。
「……ぷふっ」
パルカは俺のショックを受けている顔が面白かったのか、肩を震わせて笑いをこらえている。――どうやら、顔芸に弱いッぽいな。
「取り敢えず、見せてよ」
悠莉がチラシを羽衣ちゃんから受け取り、愛里とハオカがそれを横から覗き込む様に見る。
「さて、俺もケーキを……?」
おかしい……俺は皿を注文したつもりはないんだが……。
「ん? どした?」
いつの間にか、隣に着席していたもも缶が、口をモキュモキュと動かしながら、俺の顔を不思議そうに見つめている――。
「いや、俺のケーキがな……」
「うん、美味かった」
「そうか……」
そのまま、無言でもも缶のこめかみを両拳で押さえつけ、数回ねじる。
「あ、エサ王! それ、ダメ!」
もも缶が苦痛に顔を歪め、ジタバタともがく。
「……ぷふっ」
――もしかして、何でもいいのだろうか……?
「――成程ねぇ……」
もも缶、パルカとじゃれていると、悠莉達がチラシを読み終わったらしい。
「私は、良いと思います。面白そうですよね?」
「うちも、同感どす」
結構評判は良いらしい。羽衣ちゃんが腕を組み、鼻息を荒くして「うんうん」と頷いている。
「それで? どうするの?」
突然、悠莉が尋ねて来た。
「ん? どうするって、参加するで良いんだろ?」
「それはそうだけど、そうじゃなくて……チーム分け、どうするの?」
――うん? チーム分け……?
俺のポカンとした表情で大体察してくれたのか、悠莉がため息を吐きながら説明してくれた。
「おじさん、ちゃんと読んでないでしょ……。ここに、二人一組のチーム戦って書いてあるじゃない!」
チラシを机に叩き付け、何かが書かれている一行を差す悠莉。
――どれどれ……? 『参加は二人一組である事』……? うん、見落としてたな。
「さて……ジャンケンでもする?」
俺は誤魔化す様に、静かに皆の顔を見渡して告げる。
「椎野さん、呼んでなかったんですね……?」
――ご名答です。と考えながら、俺は現在のメンバーを数える。
「十一人か……」
「うい、タテちゃんとっぴぃ!」
しまった……先手を取られた。
「あ、すいません……私、応援に回りますね?」
「あたくしと、ピト姉様も遠慮いたしますわ」
「ピュイ……」
愛里は「何かあった時のため」と言って、同時募集されている『救護チーム』に応募する様だ。ペタリューダとピトちゃんは流石に『伯獣』の姿で出るわけには行かないと遠慮している様だ。――まあ、二人供水は苦手らしいので、あんまり気にしてないと言っていたが……。
――そうなると……。
「もも缶……自分と組むっスか?」
「ん、組む!」
出遅れた……。ミッチーがケーキを差し出しもも缶をゲットしていやがる。
「ほな、悠莉はん、うちと組みまへんか?」
「あ、いいわね」
次々とチームが出来上がっていく。
――そして、俺は地面に片膝を付きパルカの目を見つめ、右手を差し出す。
「しゃ、シャルウィダンス?」
「……キュ……」
パルカは首を傾げ、俺の手の平に握り締めた拳をポンと置く、どうやら意味は分かってい無い様だが了承はしてくれた様だ。
「それじゃ、ここからは皆ライバルっすね?」
「そうね! 負けないわよ!」
皆、思い思いに燃えている様だ……しかし、残念ながら勝利は俺とパルカのモノなんだよ……。
何故なら――!
「――あっ。どうやら、ルールに妨害行為禁止ってありますね。どうやら、純粋に『スキル』を利用した『ボード』の操縦技術で勝負するレースみたいですね」
――愛里の言葉が、俺の胸にズキュンと突き刺さる……終わっちまったよ。
「す、すまないパルカ……俺は役に立てそうもない……」
「……キュゥ?」
「おじさん……諦めるの早いよ……」
無理だ……『塗り壁』が使えない俺なんて、ただのおっさんだぞ?
「おやっさんの考えている事が、自分でも手に取る様に分かる気がするッス」
「うん……妨害ありきでレースする気だったんだね?」
ミッチーと悠莉が呆れ顔で俺を見ている。図星を射られた俺はその場で崩れ落ち、呟く。
「その通りです……」
――ああ、崖の上の犯人はこんな気持ちだったんだろうか?
「おじちゃん、あきらめちゃだめだよ?」
「父上なら……その……えっと?」
「――はっ! エサ王、賭けよう? ケーキ、賭けよ?」
「……がんば……」
羽衣ちゃん達に背中をポンポンと優しく叩かれ、俺は静かに立ち上がる……何か一人違う気がするが……。
「良し! 頑張ってみるか……」
――そして、その夜。
『あー、ツチノっち役立たずじゃん!』
俺はサッチーに愚痴っていた。
「――今回ばかりは否定できん……」
『まあ、でもさ……ツチノっち!』
「うん?」
もしかして、何か秘策でもあるのかと思い、俺は静かに電話に耳を傾ける……。
『ばれなきゃいいんじゃね?』
「――っ!」
――俺の脳裏にサッチーの言葉が繰り返し、再生される……。正直、目から鱗だった。そう言えば、そうだ……よな?
「ば、ばれないかな?」
『だって、『塗り壁』ってそもそも透明じゃん? ばれるわきゃねえって! イケるイケる!』
――おおっ!
「俺は、今、かつてないほどサッチーを尊敬しているよ……」
『おお、父は強しってやつだべ? ぱないっしょ?』
――その後、互いの近況などを語り合い……。
「じゃあな、助かった!」
『おう、またな? あ、そうだ、ダリーちゃんがさっきからお願いされてんだけどよ?』
「ん?」
『二、三日前に送って来た写真の子は誰だってさ? 羽衣と一緒に写ってんの見て、鼻血ダラッダラなんよ』
――何かと思えば……。
俺は、パルカの事を簡単に説明し、通話を終える。
「ふう……ばれなきゃ……良いよな?」
決意を新たに、その日は眠りについた。しかし、翌日、ダリー経由で俺とサッチーのやり取りを聞いた悠莉やハオカに怒られ、俺は顔面をハオカと悠莉に踏みつけられると言う脅しに負け、結局『塗り壁』を含む妨害無しを固く誓わされたのだった……。




