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大・出・張!  作者: ひんべぇ
第七章:海上国家
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巡り巡って

続きです、よろしくお願い致します。

 ――『海上国家オーシ』……『ウズウィンド大陸』の玄関口として知られている国だそうだが、正確には『ウズウィンド大陸』にあるわけではない。


 嘗て、『ウズウィンド大陸』の一部が海中に沈み、その上に浮かばせる様に出来たのが『オーシ』と言う事らしい。


 現在、『オーシ』は『ウズウィンド大陸』と何本もの太い鎖で繋がれている。地図で確認した所、その形状は首都『セイタン』を中心に四つの衛星都市で構成されている。


 まずは『ウズウィンド大陸』と鎖で繋がっている北部都市『クヨーサ』、続いて南部都市『ヨウク』、西武都市『ビョク』、そして東部都市にして俺達が入港しようとしている『シュキ』――以上の四つの都市だ。


 航海中の俺達を襲ってきた『伯獣』――スファーノを撃退してから四日……今は、船長が入港手続き中らしく、俺達は『シュキ』を手前にした海上で待機中だ。


「――おじさん……」


「ん?」


 ボンヤリと『シュキ』を眺めていると、悠莉が話しかけてきた。悠莉は、スッと『シュキ』を指差すと――。


「何かテーマパークみたいよね?」


 ――確かに、『シュキ』自体は『イルマニ』とそう変わらない港町って感じなんだが、『シュキ』の背後に見える『セイタン』は中央に向かうにつれて、段々と背の高い建築物が多くなっていく感じで、一番高い建物である『セイタン城』に至っては、どこかの夢の国みたいな感じだった――しかし。


「そうだな……けど、どっちかっつったら、今の俺の方がテーマパークっぽいんだけどな?」


「うん……まあ、それは見慣れたから……」


 視線をそらして悠莉が呟く。現在、俺は右肩に羽衣ちゃん、左肩にパルカが座り、俺の頭の上に盤を置いてオセロに興じている。ついでに、膝の上ではタテが昼寝中、背中にはもも缶が張り付きダラダラしていている……お蔭で一歩も動けない。


「――椎野さん、日に日にバランス感覚が良くなってますよね……」


 タテの頬をツンツンと突きながら、愛里が心底感心した様に呟いている……確かに、何か鍛えられてる気がするが……。


「最近、ピトちゃんも乗っかって見たそうにしてるんですけど、やっぱり、煙草の匂いが気になるみたいで……」


 愛里はチラチラと俺の顔を見ている……つまり、遠回しに禁煙しろと言われているっぽい――努力はするけど……。


「まあ、うん……頑張る」


 次の地球接近時には、水煙草でも送って貰おうかな……。


「――あっ!」


 地球接近で思い出した……。本社(後輩)に連絡取るの忘れてた。


「どしたんどすか、旦那さん……顔色が悪おすよ?」


「――っ! 本当っス、おやっさん……おやっさんも救護室行くッス!」


「いや……大丈夫だ、ちょっとめまいがしただけ――っつうか、ミッチー、さり気なく俺を道連れにしようとするなよ……」


 ――ミッチーはこの航海中、何度も救護室(ラッセラ部屋)に薬を受け取りに行っている……そろそろ船酔いより、ストレスがやばいらしく、船から『シュキ』が見えた頃には感動の涙を流していた。


「なるべく一人であそこに行きたくないんスよ……(ミトさん)も『キャーキャー』って喜ぶだけで……」


「まあ……何と言うか、災難だったな?」


 そんな話をしていると、船室のドアをノックする音が響く。どうやら、船長がやって来たらしい。


「――皆さん、こちらにいらしたんですか?」


 船長は無事入港手続きが終わったと告げ、俺達に下船を促しに来たとの事。下船後は『オーシ』の役人が入国審査を行うので、その時に『テイラ』、『ヘームストラ』からの親書を提出する様にとの事だった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――はい、これで入国審査終了です」


 ――二つの国とコネを持つ……素晴らしい効果だ。他の乗客がボディチェックやら入国目的やら、色々調べられている中、俺達は親書を提出するなり、あっさりと通してもらえた。


「やばいよね……おじさん」


「そうだな……ちょっと引く」


 悠莉と共に小市民らしく、その効果に引いていると、目の前に今日の宿泊先が見えて来た。


「ほな、うちがチェックインして来ますから、皆はんはおさきにギルドに行ってておくれやす」


「ああ、よろしく」


 ――入国審査担当官の話だと、『オーシ』の上層部に俺達の話が通るまでは、なんやかんやで最低五日かかるらしい。それならば、と……謁見までの暇潰しに、俺達は『シュキ』や『セイタン』で依頼を受けようと話していた。


「ん……? おじさん、あたしと愛姉もハオカの付き添いしてくるから、先に行ってて?」


 そう言うと、ハオカ、悠莉、愛里が宿屋の中に入って行った。


「じゃあ行こうか?」


「押忍……ところでおやっさん……」


「ん?」


「その、少し引き受けましょうか?」


 ――ミッチーの視線は俺の頭上にある。頭上では羽衣ちゃんとパルカが未だに熱いバトル(オセロ)を繰り広げていた……と言うか、将棋崩しみたいな遊びを始めている。


「ん? ああ、そうだな……」


「何なら、あたくしもお手伝い致しますけれど?」


 珍しくペタリューダが俺の頭上をヒラヒラと舞いながら声を掛けてくる。


「申し出は有難いけど、流石にこの人混みでいきなり変身は不味いかもな……」


 ペタリューダもピトちゃんも、もも缶が『獣士』なる存在である事を聞いてから、不完全な人型から完全な人型を取れる様に『伯獣』から『獣士』への昇格を目指し、もも缶指導のもと修行しているらしいのだが……。


「――そうですわね……もどかしい限りですわ」


 どうやら、『伯獣』の成り方自体が間違った進化――何と言うか中途半端な『半獣士』とでも言う感じで手間取っている様だ。この辺りはもう少しグリヴァに聞いておけばよかったと今更ながらに後悔している。


「まあ、地道に依頼でもこなして修行していこう」


「そう、栄養取る、それが、一番大事」


 ――とは、もも缶先生のお言葉である。要は『伯獣』は経験と背負っているモノが不足しているから『中途半端』であると言う事らしい。


「分かりましたわ……あたくし、愛里姉様とステディな関係を築くためにも、死ぬ気で頑張りますわ!」


 ペタリューダもピトちゃんも、動機はアレだが「愛里の役に立ちたい」と言う想いだけは本物だ。どことなく『伯獣』嫌いのもも缶も、この二人は気に入っているっぽい。船での釣り中に「美味しくなりそう」と言っていた。


「まあほどほどにな? それと、ミッチー預かってくれるなら、起きてるくせに背中に張り付いてる奴をどうにかしてくれ」


 ミッチーに背中を向け、もも缶を差し出す。


「えー、エサ王、イケズ……」


 どこでそんな言葉を覚えてくるんだか……。もも缶はミッチーに引っ張られると、渋々と言った感じだが、自分で歩き始めた。


「――じゃあ、タテ預かるっすよ……」


 熟睡中のタテをミッチーに預け、俺達は再びギルドに向かいだした。


 ――そして、俺達は『シュキ』ギルドに到着し、その扉を開ける……。


「さて、掲示版はどこかな?」


「こっち、あった!」


 もも缶が手招きする場所に向かってみると、一メートル四方程の掲示版一面に、色々な依頼が張り出されてあった。


 俺達はミッチー、もも缶、ペタリューダ、俺に分かれて依頼を吟味する。どうせなら、『セイタン』に向かう道すがら出来る依頼が良いな。


 ――そんな事を考えながら、俺は掲示板を眺めていた……。


「おじちゃん、おじちゃん」


 すると、羽衣ちゃんが声を掛けて来た。どうやら、パルカとの決着が付いたらしい。


「お、終わったか、どっちが勝ったの?」


「うい!」


「……ぱるか……」


 ――どうやら、引き分けらしい。互いに自分の勝利を主張し、にらみ合っている。パルカも航海中の短期間で大分言葉を覚えたようだ。


「……ぷふっ」


「ういの勝ち!」


 いつの間にか、にらめっこ勝負になっていたらしい。


「それで、羽衣ちゃん何か言い掛けてなかった?」


「――あっ! そーだった! おじちゃん、あれ!」


 パルカとはしゃいでいた羽衣ちゃんは、掲示板に張り付けてある一つの広告を指差す。


「――これは……」


 その広告にはこう書かれていた――『ヘームストラ王国発祥の新スポーツ『ボードレース』が遂に、『オーシ』風海上スポーツに進化してやって来た! 記念として、この度レース開催が決定! 現在、参加者を大募集――』……と。


「ほんけのいじをみせるの!」


 ――どうやら、やるしか無い様だ……。

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