ゴールドバスターズ
続きです、よろしくお願い致します。
「――釣れないな……」
「うー。つれないねぇ?」
「釣れ……ませんね……」
「お腹、一杯」
「ピュイ」
「………………」
――さて、どうしよう?
あの後、甲板を包み込む光が収まると例によって……何かいた。船長及び、俺達のメンバーによる話し合いで、その何かの身柄は俺達で預かる事になったのだが……。
何かはグリヴァの言う所の『人獣』形態を取る様になった。
その姿は、目は垂れ目、髪はハネ気味の両横髪を尻尾……と言うよりはヒレの様な感じで括り、後ろ髪を尾びれの様に括った、何と言えばいいのか、トリプルテール? そして、白黒模様のモコモコした服装で、年齢的には、羽衣ちゃんと同い年位の少女となっていた。
「……」
その子は未だに俺達と同じ言葉を喋れないらしく、沈黙を保っていたが、何を考えたのか俺の頭に無言でよじ登り始めていた。
「あ、ずるい!」
それを見た羽衣ちゃんは、釣竿を放り投げ同じ様に、俺の頭をよじ登っていく。
「……」
「…………」
両者は睨み合う――と言うよりは、見つめ合い互いの領有権を測っている様だ。まあ、それは良いんだが、髪を……髪を掴むのは止めてくれ……。
――最近、悠莉とか愛里がふと頭上を見つめて、直ぐにそらすんだ……。
「うい、この子、「使っていーい?」と聞いてる」
硬直状態が暫く続いていたが、もも缶が羽衣ちゃんとこの子の意思疎通が出来てい無い事に「ハッ」と気付き、翻訳してくれた。
「――もも缶……使っ「うん、いーよ!」……だそうです」
――俺の頭部は既にその所有権が俺に無い様だ……。
「こっから……ここまで、ういの! それでね? お顔がハオカちゃんので、お腹がタテちゃんの、左手がももねーちゃんので、右手はあいねーちゃんと、ゆうりちゃんの! それで……こっから、ここまでが『パルカ』ちゃんの!」
俺の身体を一つ一つ、指差しながら誰に所有権があるのかを説明していく羽衣ちゃんは最後に頭の半分を差す――ん?
「羽衣ちゃん……『パルカ』って?」
「うん、『パンダイルカ』だから『パルカ』ちゃん!」
うん……まあ、もも缶よりは良いのか?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――何はともあれ、子供達はしっかりと打ち解けてくれた様だ。俺の頭上でタテも交えて三人で俺の髪を弄りまわしている。
「なあ、もも缶……この子――パルカと会話できるんだよな?」
「ん……時間かかるけど、出来る」
パルカの身柄を引き受ける事になった時に聞いた、船長たちの話によると、パルカの元になった魔獣は元々、非好戦的な魔獣で、巣の辺りは観光スポットにもなっていたらしい。
それだけに、今回の様に大量に殺されてしまう様な討伐依頼は出ない筈だった。
「……キュ」
パルカはまだ上手く喋れず、慣れない船上で落ち着かないらしく、両サイドと後ろの三本の髪を、上下に揺らしながら周りを見てビクビクしている
「もし……パルカが大丈夫……と言うなら、何が起きたのか聞いて貰えないか?」
もも缶は暫く考え込んだ後、コクリと頷いた――。
「キィヤ……」
「…………」
どうやら、もも缶が事情を聞いているらしい。
「――話せる……でも、思い出すの、怖い、言ってる。ギュってしてあげて?」
――俺は地面に座り、頭上の三人を地面に下ろすとそのまま三人を膝の上に座らせる。
「これで良いか?」
「……」
パルカが俺と羽衣ちゃんの服をギュッと掴み、もも缶を見る。
「ん、大丈夫……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――パルカから聞いた話は、大体が俺の予想通りだった。
パルカ達の群れは、いつもの様にこの辺の海を泳いでいたらしい。すると、海の向こう――丁度、俺達が向かっている『オーシ』の方角から紫色の大群がやって来たそうだ。
その紫色の大群――恐らく『創伯獣』は海を泳いで来るモノと空を飛んで来るモノの二種類がいたらしく、突然、パルカ達の群れに襲い掛かって来たらしい。
どうやら、『創伯獣』の目的はパルカの群れから数体をどこかに連れていく事らしく、突然の襲撃に対応できなかった女子供や老体があっと言う間に連れていかれてしまった。
しかし、非好戦的とは言え、そこは魔獣……仲間が半数ほど連れていかれても黙っている筈が無く、盛大に抵抗した様だ。
――意外に戦闘能力は高かったらしく、『創伯獣』を順調に撃破していたらしいのだが、ある程度抵抗した所で『伯獣』が出て来たらしい……。
いくら強いと言っても、『伯獣』と『ただの魔獣』では話になる筈も無く……。
やがて、最後には皆パルカを守る様にして、敗れ去ったらしい……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――ごめんな?」
――話し終えたパルカは、静かに泣いていた。
「もう少し、時間を置けば良かったな……」
謝罪の意味も込めて、パルカの頭を撫でる。
「キュ……」
「――気にしないで、と言ってる。ただ……お願い、有るらしい」
「お願い?」
「そう……パルカ、お兄ちゃんが連れていかれた、言ってる。取り返したい、らしい」
――栗井博士……アンタ「地球の敵ではない」って言ってたけど……ソレは……本当に正しいと思ってるのか?
「「「な、なんだ!」」」
――その時、船首の方が騒がしくなってきた。
「――エサ王……来た、『出来損ない』達!」
「出来損――『伯獣』か!」
その場にいない悠莉達に『報連相』で連絡を取り、甲板に来るように伝え、俺自身も船首に向けて走る。
「あっはーん? 雑魚の死体だけでもって思って戻って来てみれば……アンタら、主の怨敵でっしょー?」
――船の船首には空に浮かぶ大量の『創伯獣』と、その先頭に立ち、弓を持つ灰色の『伯獣』がいた。
「ア・タ・シは! ゲリフォス様の忠実な部下、『爬伯獣』『鱗竜』のスファーノ様よーん!」
スファーノが名乗りを上げた瞬間、背後の『創伯獣』が何匹か自爆し、紫の煙を上げる。
「――お前が……あいつらを襲ったのか?」
スファーノの姿を見たパルカが先程から怯え、俺のスーツの裾を掴んで離さない……。どうやら、コイツが……。
「ああ、あの雑魚の事? それだったら、そうよーん? 主がそろそろ海戦用の部隊を作るつもりらしくってねぇ……? その素体として、アレが選ばれたのよ! 光栄に思って欲しいわね!」
その時、タイミング良く愛里達が駆けつけて来てくれた。
「――愛里、悠莉……来てくれて早速で悪いんだが……船員と船客の避難、頼む」
「うん、分かった!」
「椎野さん、その前に……『パゥワ』! ピトちゃん、ペタちゃん、行くわよ?」
――愛里が去り際に強化スキルを施してくれた。危うく忘れる所だった……。
「さて……ハオカ、タテ、もも缶、ミッチー……いけるな?」
「はいな!」
「大丈夫です、父上!」
「不味いけど、仕方ない……」
「ウッス!」
「――さて……」
こうしている間にも、コッソリとカードをばら撒くことは忘れずに……。
「まずは、『創伯獣』から行くぞ?」
ハオカとタテに目線を送り、合図する。もも缶とミッチーはその間、スファーノを引きつけるため、奴に肉薄する。
「行きます、ハオカ姉さん! 『祭囃子』!」
「ほな、うちも! 『祭囃子』!」
ハオカが太鼓で拍子を取り、タテがそれに合わせて笛を吹く。やがて二人から放たれた朱雷と藍風が混じり合い、響き合う。
「「――『獅子神楽』!」」
――嵐が『創伯獣』を巻き込み、掻き消していく。そして、俺は止めとばかりに『獅子神楽』の進行方向にギルドカードを配置する。
「ちょこっと、威力は落ちるかも『獅子神楽・乱れ打ち』!」
ギルドカードに当たった『獅子神楽』は、反射し次のギルドカードに辺り、更に反射して――と繰り返し、その進路上に浮かぶ『創伯獣』を次々と撃破していく。
「――アタシ一人じゃ、キッツイわねぇ……」
スファーノは脂汗を浮かべ、何とかミッチーの剣と、もも缶のナイフとフォークをその手に持つ弓で凌いでいる……射ないんだ?
「旦那さん、あちらさん……加勢はいらんみたいやね?」
「そうだな……」
もう決着が付きそうだ――と思ったら、タテが何やら言いたそうにしている。
「どうした? タテ?」
「――あの……出来れば、その、パルカちゃんに……」
タテの視線を追いかけると、もも缶達とスファーノの戦いをパルカが拳を握りしめて見つめていた――いや、あれこそ睨んでいた……って感じだ。
「そうか……なら――」
俺は、タテに少しだけ条件付きでパルカに伝言を頼んだ。
パルカの元に行き、タテは俺からの話をパルカに話した様だ。タテがコクリと頷くのが分かった。
「――もも缶、こっちに飛ばせるか?」
戦闘中のもも缶に尋ねると、もも缶はチラリとパルカを見て、コクリと頷く。
「楽、勝!」
「オゥフ!」
もも缶はフォークをスファーノに突き刺し、そのままこちらに放り投げる。
「な、何なのよぉ!」
そして、俺はスファーノの前にゆらりと近づき、その鼻っ面にギルドカードを差し出し、告げる。
「どうも、私、『ファルマ・コピオス』の薬屋椎野と申します――」
「――んっま!」
――どうやら、スファーノは礼儀作法を知らないらしく、今までの『伯獣』達と違って、その場に硬直してしまった。
「さ、パルカちゃん!」
タテがパルカをスファーノの前に連れていく。
「んな、何……何なの? ――あっ! この感じ、あ、アンタ……まさか……?」
どうやら、スファーノは目の前のパルカの正体に気付いたらしい。
「……キュ!」
スファーノを恨みと恐怖の混じった目で見つめるパルカの拳が黒く光り出す。
――さて、条件を忘れさせない様にしないとな……。
「パルカァ! そのまま、拳を振り上げろ!」
俺の言葉が通じたかどうかは分から無い……しかし、その瞬間、パルカの目が暗い感情を写す光を失った瞳から、キラキラとした瞳に戻った気がする。
そして、パルカの拳の光が白に変わり――。
「キューーーーーイ!」
その小さな背丈のお蔭で、スファーノの――丁度股下から、見事なアッパーが決まる。
「――お見事っ!」
「うぁ……えぐい……あれ、おやっさんの指示ッスよね?」
「――はい……」
俺とミッチーとタテはその痛みを想像して、つい内股になってしまう。
「キュッキュッキュッキュッ!」
「――そろそろ……止めるッスか?」
――止め時を逃したせいで、先程からコインブロックを叩くかの様に、パルカがアッパーを繰り返している。
「パ、パルカちゃん、もう、良いよ!」
タテに抑えられ、パルカは漸くその動きを止めた。スファーノは目を真っ赤にして、泡を吹きながらも、どこかに待機させていたらしい『創伯獣』に両腕を掴まれ、その場から立ち去ろうとしていた。
「――キュッ!」
止めの一発とばかりにパルカが大きくジャンプすると、見事にヒットし……。
「お、ぼ、えで……ど!」
そう呟いて、気を失った様だった。
「差し詰め……『黄金潰し』って所か?」
――俺はスファーノが涙目で撤退していく様子を眺めながら、パルカの必殺技の名前を考えていた……。
新キャラ……レギュラーにすべきか、この章のみのゲストにすべきかどうか、迷っていますので、ご意見お待ちしております。




