出港
続きです、よろしくお願い致します。
「それで、何であんな事になってたの?」
――貝を焼きつつ、パパディさんに聞いてみた。
どうやら、パパディさんは多額の借金を抱えている様だ。もしかしたら、誰かご家族の医療費か何かかと聞いてみれば――。
「あ、いえ、ちょっと先物で失敗しまして!」
それで、悩んだ挙句に国からの依頼を受けたついでに『イルマニ』のギルドの依頼も受けて、さっさと借金返済しようと考えたらしい。
「それで、魔獣の宝石を採りに来たんですけど……この広間で色々試してたら、養殖出来てしまいまして――」
つまり、調子に乗ってポコポコ増やして、気が付いたら逃げ場が無くなってたらしい……。それにしても、恐るるべきは魔獣の繁殖力……と言うか、この人、典型的なダメ人間っぽい。
「何にしても、無事で良かったです」
呆れつつだが、本心からの言葉だ。
「いや、ホントすいません……それと、あの時も……余裕が無かったもので」
そう言うと、パパディさんは『ヤラーレ』で『天啓』を行った時、やる気が無かった事を謝ってくれた。
「――さて、それじゃ帰りますか!」
「あ、ちょっと待っててください。一匹持ち帰って、養殖を!」
俺達は未だに懲りてない様子のパパディさんを引きずる様に『イルマニ』へと帰還していった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――その日の夜更け、俺達は『イルマニ』に帰還し、パパディさんをギルドに引き渡した。
パパディさんは早速、他の職員からの説教を食らい始めたため、俺達は宿屋に戻る事を伝えるとすぐその場を去る。去り際のパパディさんが助けを求める声は聞かなかった事にした。
「――おじちゃん、おかえり!」
「父上、お帰りなさい!」
「グハッ……た、ただいま。こんな夜遅くまで待っててくれたの?」
――小さく感激し二人を撫でる。その間、羽衣ちゃんとタテの突撃で、胃の中の貝が激しく暴れ回ったが、何とか口を押さえ我慢する。
「あのね? ほらこちゃんと遊んでたの!」
「気が付いたら、こんな時間でした……ごめんなさい」
どうやら、俺達を待っていてくれたわけではないらしい……。
「お早いお帰りだね? それで、どう? どうなんだい? 標的は見つかったのかい?」
「――標的って……そんな倒すみたいな……」
衛府博士の言葉に苦笑しつつ、無事救出できた事を報告する。そして、もう一つ。
「道中疑問に思ったんですけど……『賭博士』を確保したとして、こっちの世界ってスロットあるんですか?」
――確か、スロットって地球でも大流行しているのは日本とか、一部の地域だけだった気がする……。
「ん? んん? そうだなあ……ちょっと、今からギルドに行ってきいてみるよ」
「あ、ちょっと待った!」
流石にこの時間に押しかけるのもアレだし、と言う事で衛府博士に明日まで待ってもらう事にする。――今はお説教中だろうしな。
仕方なく部屋に戻って行く衛府博士を見送ると、悠莉が大きく伸びをする。
「――疲れたぁ……おじさん、あたし達もう部屋に戻るね?」
悠莉は眠気の限界らしく、フラフラとした足取りで部屋に戻ろうとする。
「悠莉ちゃん、危ないわよ? ――それじゃあ椎野さん、お疲れ様でした。お休みなさい……」
「お休みなさいませ……」
「――ペペッ!」
愛里がふらつく悠莉の肩を支えながら、一緒に部屋に戻って行った。その後に続く様に、ペタリューダとピトちゃんが続く……。
――ピトちゃん、そろそろ俺の心は折れそうです。
「おやっさん、お疲れさまッス!」
「おうっ! 皆、ゆっくり休めよ? 明日からは船旅だからな?」
「「「「「はーい」」」」」
――さて、と……。
「ほな、旦那さん、うちらもそろそろ寝まひょか?」
「ああ、そうだな……」
――羽衣ちゃんを頭に乗せ、腰にしがみ付き半分寝ているタテを引きずり、左手でもも缶と手を繋ぎ、右腕にハオカが絡んでくる――。
そして、そのまま部屋に入った所で、このままじゃマズイかな? と思って、ハオカに話しかけてみた。
「なあ、ハオカ?」
「何どす? 旦那さん?」
――部屋のソファに座り込んだハオカが下駄を脱ぎ、疲れた足をほぐす様に、足を組んでプラプラさせ、足指を開いたり閉じたりしている……。
「なんでもないです!」
疲れているなら仕方ないよな!
「――ええんどすぇ?」
「何が……とは言わんが、今日は拝むだけにしとく」
――子供の前で、その手の冗談は……いや、お誘いはいかん。
ほぼ寝ている羽衣ちゃん、もも缶、タテ――薄目を開けていた――を寝かしつける。
「ほれ……」
添い寝位なら、今更だしな? と思い、布団を広げハオカを呼び寄せる。
「やった!」
子供の様にはしゃぐハオカを宥めた所で、俺の中に住む睡魔が全力で仕事に励み、俺の意識が途切れた――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――良い朝だ……」
目が覚めると、目の前に至宝が……。相変わらず、寝相が悪いが、そんな事はまあ良い。まだ、朝も早い事だし少しゆっくり見学してから起きよう……。
「――うむ……」
ハオカの足指を少し弄りながら観察してみる。――見事に俺の好みを反映してんだな……。五本の中で一番長い足の人差し指を上下に動かしてみたり――。
「――ふふふ、旦那さん……こそばいどす」
どうやら、いつの間にかハオカも目を覚ましていた様で布団を跳ね上げ起き上がり、その勢いで羽衣ちゃんとタテも目を覚まして来た。
「……う? おじちゃん、ハオカちゃん……おはようございます……」
「ああ、羽衣ちゃん、お早う」
「……父上、抱っこ……」
寝ぼけまなこのタテを抱きかかえると、同時に羽衣ちゃんがよじ登って来る。最近、首回りが強くなった気がする……。
「ほら、ももちゃん起きぃ?」
「う……はおか、ごはん……」
ハオカは苦笑しつつ、口をパクパクしているもも缶をそっと、俺の背中に押し付けた……。
「――何故……?」
「パパ役なら、お子たちは平等に愛してあげな! ですやろ?」
まあ、そうか、な? 何か腑に落ちんが、ここは頑張ってみますか!
――身支度を済ませ、食堂に着くと他の皆が席を確保してくれていた。
「ふふ……椎野さん、凄い格好ですね?」
俺の兜、鎧、具足を見つけ、愛里が笑う。すると、同じく笑いをこらえている悠莉が小鳥形態のピトちゃんを俺の頭に掴まる羽衣ちゃんの頭に乗せる。
「良し……ピトちゃん、羽根を広げて?」
「――ピューイ!」
悠莉の指示に従い、ピトちゃんが楽しそうに羽を広げ、悠莉がその姿を携帯に収める――。
「これ、サッチー達に送っておくね?」
「――せめて、タイトルは格好よくしておいてくれ……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お待ちしておりました」
宿屋をチェックアウトし、ギルドに立ち寄るとすぐさま衛府博士達が待つ部屋まで案内された。
「あ、サラリーマン君、お早う!」
「衛府博士、おはようございます。もう来てたんですね?」
「ああ、やはり昨晩の話が気になってね? 朝も早くから、こうしてパパディちゃんに協力して貰っていたんだ」
衛府博士の視線の先を追うと、パパディさんが机に突っ伏していた。どうやら、衛府博士のスキルの洗礼を喰らったらしい……全身びしょ濡れ、所々服が焦げている……。
「うぅ……詐欺だ……国から詐欺られた……」
虚ろな目で国への恨みごとを呟いている。
「――衛府博士……『目押し』のスキル開発しようとしてましたか?」
「ん? ほう? 分かる?」
「何となくは……ただ、どうせなら衛府博士の『xx実験』じゃなくて、普通のスロット機を作るか取り寄せるかした方が良いですよ?」
俺の提案に、衛府博士は「その手があったか!」と叫ぶと、そのままパパディさんを連れて、どこかに行こうとしている。
「あ! そうだ、衛府博士!」
「ん? ん? 何なんだい? 私は今から、彼女を連れて研究室に戻らないといけないんだよ? ここで立ち止まっている暇なんてありはしないんだ!」
振り向いた衛府博士に、俺は栗井博士から渡されたディスクを投げ渡す。
「――これは?」
「イケメン博士からのプレゼントです。念の為、洗脳とかから防御してくれるスキル持ちとかに協力して貰って見た方が良いと思います」
「ふむ……了解したよ。サラリーマン君達は今から船に乗るんだよね? ――良い旅を!」
「はい、衛府博士もお気を付けて……」
こうして、衛府博士はそそくさと、パパディさんを引きずって、『イルマニ』を出ていってしまった。
俺達もその後に続く様に、『イルマニ』のギルドから出て、船着き場へと向かう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「愛姉、酔い止めのお薬とかある?」
「大丈夫よ、悠莉ちゃん。私のスキルで治せるわよ」
「あ、なら、自分もお世話になると思うッス」
船着き場に到着してからはこんな感じの会話で、皆船旅への不安で一杯の様だ。
「もしかして、皆、船に乗った事無いのか?」
俺の言葉に俺以外の全員が頷く。
「うん……修学旅行とかも飛行機移動だったし……」
悠莉の言葉に、地球出身者が全員頷く……。そうか、そんなモンなのか……。
――やがて、船が到着し、俺達は恐らくナーケさんが用意してくれたであろう、貴賓室に案内された。
「船が出るぞー!」
船員の掛け声を耳にしながら……俺達は、遂に『イナックス大陸』を後にしたのだった――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――イルマニ周辺――
「――行ってしまいましたね……貴方はどうするんですか?」
「オイェダムオオウェロサヘラワ、ラヌラタヲウィムアゴノメアガヲ、トカテリシ!」
――切り立った崖の上から、椎野達の船を見下ろす影が二つ……。
「でも……貴方、船に乗れるのかしら? 密航でもするの?」
「イオヤベキエッチサハ、バラニアナゲヌフ!」
次の瞬間、影のうちの一つが頭上の帽子を押さえながら、崖の下の海に向かって飛び下りた。
「あら……? 沈まないのね?」
海面に着いた瞬間、飛び下りた茶色の影はグングンとスピードを上げ、船を追いかけ、遂には追い越していってしまった……。
「オヨトカンナタナキ、イアベサドウィサイラヂヒ、ネアムムジサギサイギミー!」
茶色い影――ラッコ男は叫びながら、船の遥か先『ウズウィンド大陸』に向かって行った……。
「――せめて、言葉位覚えていけば良いのに……最近の子は、どの子もよく分から無いわ?」
見送る影は、水面を走るラッコ男を呆れ顔で見つめ、その姿が見えなくなるまで見守っている。そして――。
「王よ……貴方は今、どうしていますか?」
そう呟くと、空を見上げ、見送る影――グリヴァは崖を後にした……。
百話♪




