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その2

 それから新行内さんと一直さんが、長い立ち話を始めてしまったので、奥様がしびれを切らせてダイニングへと皆を引っ張って行く。

「はいはい、そんなところでお話ししないの。こちらにお昼を用意してあるんだから」

 そこで新行内さんの奥様、柚月ゆづきさんの、とっても美味しい手料理のランチを頂く。

 柚月さんは私の事をしきりに「可愛い、可愛い」って言うんだけど、ご自分の方がよっぽど可愛いし、もし那波がいたらどんな感想になるのかしら、などと考えて思わず笑ってしまうと、

「どうしたの? 思い出し笑い?」

 と、聞いてこられるので那波のことをお話ししたりした。


 そして食後のお茶を楽しんでいると、壁際のテーブルに置かれたディスプレイから、電話のベルのような音がした。

 柚月さんが立って行き、ボタンをいくつか押すと、いきなり小さな画面が新行内さんに向けて浮かび上がる。

 すごーい、まるでSF映画みたい。

「俺だ」

「お休みのところ申し訳ありません、国王。急ぎの案件が持ち上がってしまいまして」

「わかった、すぐに行く」


 え? え? 国王?

 今、確かに国王って言ったわよね。

 新行内さんは、一直さんを見て、そして驚いている私をちょっと楽しそうに見ながら言う。

「せっかく来て頂いたのに、申し訳ない。俺はこれからしばらく出かけなければならないが、どうかゆっくりしていてくれ」

 そう言うと、

「柚月」

 と、奥様を呼んで一緒に部屋を出て行く。


 私はドアが閉まると同時に、一直さんに慌てて質問を繰り出した。

「一直さん! 国王って? 新行内さんってここの国王なの? なんで国王がホテルのオーナーなの? 一直さんも、お父さんも、どうして国王と知り合いなの? 」

「まあまあ、落ち着いて」

「これが落ち着いていられますか! 」

 その時は長くなるからと、ちゃんとした説明をしてくれなくて、新行内さんが昔、一直さんのお父様の部下だったこと。そして、色々あって今この世界の国王をしていること、と言う話だけをしてくれたのだった。


 柚月さんが帰ってくると、勢い込んで話し出そうとする私を押さえるように、一直さんが慌てて言う。

「じつは、郊外にドライブにも行きたかったんですよ。なのでちょっと出かけたいのですが」

「まあ、そうなの。それなら行ってらっしゃい。でもまた帰りに必ず立ち寄ってね」

「はい」


 玄関でお見送りを受けて車に乗ったあと、私は一直さんにブーブー文句を言う。

「もう! せっかく色々聞こうと思ったのに」

「ごめんごめん。でも、さっき恭がアトラクションって言ったからちょっと思いついたことがあってね」

「え? なになに? さっきの電話みたいなすっごいハイテク絶叫マシンがあるの?」

「いや、超古典的な移動手段だよ」


 可笑しそうに笑う一直さんの言った意味が、到着してわかった。

 そこは広い広い牧場のようだ。一面の草原には、ところどころに木が立っていて、まわりには色とりどりの花が咲いている。

 木々の枝で小さな鳥がさえずっていたり、木の根元には、リスかな? それともウサギかな? と思えるような小動物もいる。

 そして、遠くに馬? みたいな動物が見えるけど、なんだかカラフルな気がするのは私だけかしら。

「すごい…」

「この先は乗り物禁止だから、ちょっと歩いてもらうよ」

「うん! 全然平気」

 車を駐車場のような所に置いて、しばらく歩くとログハウスっぽい建物があり、そこで乗馬申し込みが出来るらしかった。受付で話をしていた一直さんが戻ってくると、裏へ回るように言われた。

 すると私たちを待っていたのは…。


 ブルゥ!


 馬じゃなかった。

 えーと、この生き物は。

 頭に1本だけツノが生えていて、さっきのカラフルって言う印象はあたっていた。顔や身体がキレイな黄色と水色の配色をしている。

 私がまた声なく驚いていると、一直さんが言った。

「一角獣って言うんだ。さ、ちょっと一回りしてこようか」

 そして、私を乗せて、自分もうしろに一緒に乗る。

「あれ、一緒に乗るの? 乗馬なら1人でも大丈夫なのに」

「言ったよね、アトラクションだって」


 そして、ブルゥ、とその子がいななくと!

「え? きゃあーー!、うわあーー!」

 足を宙にうかせたかと思うと、すいーっと空へ舞い上がったのだ!

「そ、空! 空飛んでる! 」

「だから言ったの」


 かなりのスピードで空高く舞い上がったその子は、行き先がわかっているように、ゆっくりと足を動かしながらどこかへ飛んで行く。

 まず始めに、赤茶けた台形の山と緑の草原が広がっているところ。

 そして、さっき入って来た高い高い壁へ。

 そして、今度は天文台のような建物が見えるところへとやってきた。そのあたりは碁盤の目のように見事に区画整理されていて、なにかの工場か会社みたいな建物がたくさん建っている。

 そして、王宮が建つ街の上を飛んだあと。

 最後にまた開けた場所へやってきた。そこはどうやら広い広い墓地のようだ。

「お墓?」

「ああ」

「降りる?」

「いや、ここから…」

 言いながら目を閉じて祈るようにする一直さん。私も同じように目を閉じ頭を下げると、乗っているこの子が、ういーんと首を上げる。

 するとどこからともなく金銀の光が飛んで来て、私たちのすぐ下にあるお墓の回りにふわふわと浮かぶ。その回りを何度か旋回して、私たちは元来た道、いえ、空を帰って行ったのだ。



「すごかったー、すごかったー。本当に素敵なアトラクションだったわ。ありがとう一直さん。それから、あなたも」

 牧場へ帰って、馬? じゃない、一角獣から降りたあと、一直さんとその子にお礼を言って、ギュウと一角獣の首に抱きつく。

 その子は嫌がりもせず、私のするがままにしてくれていた。

「そんなに喜んでもらえたら、来たかいがあったなって、俺も嬉しいよ」

「うん」


 そのあとね、本当に嬉しかった私は、いつもは恥ずかしくて絶対にしないんだけど、駐車場までの道すがら、あたりに人がいないのを確認すると、

「一直さん」

 と呼びかけて、その頬にチュッと自分の唇を押し当てた。離れたあと、恥ずかしさをエヘッと照れ笑いでごまかしたんだけど。

 でも、一直さんはちょっと固まって無言で見つめてくるだけだった。

「えっと、イヤ、だった?」

 最後の「た?」は言葉にならなかった。なぜならそのあと、息をつく暇もないような深いkissが降りてきたからだった。


 その後車に帰ると、ポワンとしている私を横目で見ながら、すごく上機嫌な一直さんの運転で、再度、新行内さんのお家へと引き返す。

 ちょうど新行内さんも帰って来られたところだった。

「まあ、どちらも帰って来たのね。お帰りなさい」

 玄関に出迎えてくれた柚月さんは嬉しそう。

「じゃあ、すぐに午後のお茶にしましょうね」

 今度は居心地の良いリビングで、お茶とお菓子を頂くことになったんだけど…。


 たぶん、初めての経験ばかりでちょっと疲れてた上に、ホッとするようなハーブティーを飲んだ私は、ものすごい眠気に襲われてしまった。

「恭? どうしたの?」

「一直さん~なんだかものすごく眠いのー。どーしよー」

 すると柚月さんが、

「あらあら大変。疲れちゃったのね」

 と、ふわふわの毛布を持って来てくれて、強制的に横にならされてしまう。

 ああ、初めて訪問したお宅で寝ちゃうなんて、なんて厚かましい。しかも国王の邸宅よ! と、最後の力を振り絞って、何とか意識を浮上させた私の耳に、ドアを開ける音と早口のセリフが飛び込んで来た。


「うっわー、一直くん、ひっさしぶりー! ねえねえ、この子が一直くんの奥さんなの? 可愛い~。ねえー、なんでもっと早く教えてくれなかったのさー。そしたらさ、仕事ほっぽってでも飛んで来たのにー」

「ご無沙汰しています、神足こうたりさん」

「ホントご無沙汰すぎー。一直くんももう奥さんもらう歳になっちゃったんだねー。俺も年取るはずだよな~」

「もうそのくらいにしておけ、れい

「はい、了解しました、指揮官! なーんて、今は国王、です! 」

 そのあとも、なんだかんだとしゃべるその人と、楽しそうに答える一直さんと柚月さんの声を子守歌代わりに、私は深い眠りに入ってしまったのだった。




「う……ん」

 目が覚めると、そこはいつものホテルの部屋。

 私が寝ているベッドで隣に座って本を読んでいた一直さんが、優しいしぐさでおでこにかかった髪をどけてくれる。

「よく寝てたね。おはよう」

「おはよ…。って朝なの?」

「はは、冗談だよ。でもけっこう寝てたかな、もうすぐディナーの時間だね」

 私はうーんと伸びをしてから、ゆっくりと起き上がった。

「せっかく連れてきてもらったのに眠っちゃったんだ、ごめんね。あ! でも、すごい夢見たのよ! あのね、ここのホテルのオーナーがね」

「うん、異界では国王なんだよね? 」

「え? 」

「それで、そこのお宅を訪問して、空飛ぶ動物に乗って、」

 私はびっくりして、一直さんをまじまじと見つめ返す。

「あれって、夢じゃなかったの? 」

「いや、夢だったんじゃない?」

 いたずらっぽく微笑んで、パタンと本を閉じた一直さんは、

「さて、それより愛する旦那さまは放っておかれて、とても寂しかったんだよ」

 と、また私をベッドに寝るようにもっていく。

「え? え? でももうすぐディナーの時間なんじゃ、」

「だいじょうぶ」


 おりてきた極上のkissに、あとでちゃんと聞き出すんだからね、と思いつつも、もうその後は夢心地。

「誕生日おめでとう、恭」

「ありがとう…。これからも、末永く、よろしくね…」

 そんな風に言うと、一直さんはちょっと吹き出しながら言う。

「何でそんな言葉がでてくるかな」

「うん…。新行内さん夫妻に刺激されたかも」

「そうだね、あんなふうに歳をとって行ければ、いいね」

「はい」

 そうして、あとは言葉のいらない幸せに浸っていく2人だった。





ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


もともと「バリヤ」シリーズは、

「バリヤ~barrier~」のエピローグ、

一直ベイビーのお話しが最初に頭に浮かんだものだったので、

「異界」シリーズとつながっている話です。

それにしては、趣が違いすぎますけどね(^_^;)

興味のある方は、「バリヤ」シリーズにも目を通してみて下さい。


毎回、駄文にお付き合い下さり、ありがとうございます。

また季節の節々には、何かしら巻き起こしてくれると思いますので、

どうぞ恭ちゃんたちに会いに来てやって下さい。


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