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その1

 今年の一直さんへのバースデー&バレンタインプレゼントは、ようやく納得してもらえるネクタイを贈ることができて、とっても嬉しかったのよね。(「バレンタインとバースデー」参照)


 で、3月14日はホワイトデーなんだけど、その少し後に私の誕生日がやってくるので、実は毎年ホワイトデーのお返しはなくて、お誕生日プレゼントが豪華になる。

 それはお付き合いし始めた頃に私が言ったお願いだ。小市民の私の豪華なんてたかがしれているんだけど。

 とはいえ一直さんは、なにより私のリクエストを尊重してくれる。


 たとえば、ちょっとお値段の張る素敵なフラワーアレンジメントだったり。

 それにプラスして、つきあい始めた頃に、初めて2人で泊まった、すごく素敵なリゾートでのお泊まりだったり。

 一直さんの知り合いがオーナーをしているそのリゾートホテルが、私のお気に入り。

 ホテルと名がついてるけど、お部屋に露天風呂がついていたりなんかする、とっても趣のあるお宿なの。


 今年もそこでの一泊をリクエストしたんだけど。

 なぜか一直さんは、うーん、と考え込んでいる。


「どうしたの? やっぱり毎年同じ所じゃ芸がないかな。だったらもうちょっと考えるけど…」

「ああ、ごめん。恭があのホテルをすごく気に入ってくれて、俺も嬉しいんだけど」

「うん」

「そう言えば、恭はあそこのオーナーに会ったことないよね」

「ああ、そう言えば…」


 そのホテルは、一直さんの、と言うより、一直さんのご両親の知り合いがオーナーをされているらしいんだけど、何度も泊まりに行ってるにしては、一度もオーナーにお会いしたことがないな。

 一直さんがとってもいい人だよ、と言っていたので、1度くらいご挨拶したいなって、前々から思っていたのよね。

「じゃあ、今年はこの時期じゃなくてもいいから、オーナーさんがいるときに…」

「いや、それよりも」

「?」

「そうだな、こちらからオーナーに会いに行こう。父さんに言えばいいから。…ちょっとずるいとは思うけどね」

「わあ、お目にかかれるの? うれしーい、ありがとう」

 私はその時、オーナーさんに会えるという事がただただ嬉しくて、一直さんの漏らした一言、ちょっとずるい、を深く考える事もなかったのだった。




 そして、今年のお泊まりは私の誕生日が近い土曜日曜をその日にあてた。

 当日は、一直さんの運転で目的地へ向かう。

 オーナーさんの自宅へ行くのかな~。それってどこだろう、と、わくわくしながらナビを見てちょっとビックリ。

「あれ? 目的地、いつものホテルになってるわよ? 」

「ああ、それでいいんだ」

 一直さんがあっさりと言い切るので、もしかしてオーナーさんが来られることになったのかしら? と、いつもと同じあのホテルに泊まれるのも、また嬉しかった。


「いらっしゃいませ」

 フロントでにこやかにお出迎えをしてもらい、チェックインのあとはお部屋に荷物を運んでもらって。

 しばらく部屋で2人、まったりと過ごしたあと、携帯を確認した一直さんがおもむろに言い出した。

「じゃあそろそろ行こうか」

「あ、はい」

 私はてっきり、オーナーさんがホテルに着いたんだと思って、ウキウキしながら一直さんと部屋を出た。

 フロントに行くと、さっきのフロント係の横に、とても雰囲気のあるおじさまが立っていた。

 わあー、この方がオーナーさん? 私は嬉しくなって挨拶しようと思ったところで、その人が一直さんと私に向かって言った。

「お待ちしておりました。今ご案内しますので、どうぞこちらへ」

「ありがとう」

 え? この人はオーナーさんじゃなかったのね。私はえへへっと苦笑いして、2人のあとについて行く。その人はホテルのお庭に出て、向こうに広がる森、というか、公園をずんずん奥に入って行く。


 どこへ行くのかしら?


 しばらくするとこんな森の中に豪華な門が見えてきた。あれ、こんなもの前からあったかな?

 でもその門はとっても変わってたの。だってね、門しかないのよ。その向こうに豪華なお屋敷があるもんだと思ってた私は、ちょっとガッカリ。

 すると、門を見てガックリ肩を落とす私を可笑しそうに見ていた一直さんが、いきなり私をお姫様抱っこした。

「え? え? 」

 アワアワとする私をなだめるように言う一直さん。

「驚かせてごめんね、恭。足下をとられるといけないから」

 そして、ここまで私たちを案内して下さったおじさまに言う。

「よろしくお願いします」

「かしこまりました、どうぞお気をつけて」

 おじさまが言いながら、門をおもむろに押し開ける。お気をつけてって、この向こうにはちゃんと整備された道がないのかしら。でも実際はそんなんじゃなかった。

 開いた扉の中はトンネルのようになっていて、とても明るい金銀の光が私たちを包み込むように降り注いでいる。

「わあー! なんなのこれ?」

「驚くよね? でも大丈夫だよ」

 言いながら一直さんが一歩進むたび、何かがパチンパチンとはじけるような感覚がして。

 最後に目がくらむ程の光に包まれたあと、どこか開けたところへ出たような感覚がした。




 まぶしさにくらんだ目が慣れてきたところで、一直さんが優しく私を下ろしてくれる。

 うわー、なんなのここ。

 目の前の道はあちこちに枝分かれし、そのひとつひとつごとに、ものすごく可愛いお店や、雰囲気のあるお庭の広がる家や、市場のような出店やらが並び、とても賑やかだ。

「すてきー、まるでおとぎの国ね。あのホテルの奥にこんな素敵なところがあったのねー。あ!ていうか、もしかしてここってあのホテル直営の遊園地か何か? ねえ、なんで今まで連れてきてくれなかったのー」

 そう言ってはしゃぐ私を、ちょっと苦笑しながら見ている一直さん。


 で、あちこち見まわしているうちに、やっぱりここが遊園地だって言う証拠を見つけた。

「あ! お城が見える! なあーんだ、やっぱり。ねえ、あのお城はここのメイン城なの? じゃあアトラクションとかあるのね。ねえ、乗りに行きましょうよ」

 すると、一直さんはそんな私の言葉が途切れるのを待って、おもむろに言い出した。

「違うんだよ、恭。ここはホテルの遊園地じゃないよ。ちょっと理解しにくいんだけど、ここは俺たちの次元とは少し違う次元なんだよ」

「え?」

「聞いたことないかな。俺たちの世界にはいくつか次元があるって話」

「うん、あるけど…。でもそれってアスラたちがいる、魔物の住む異界なんじゃないの?」

「ああ、それもあるけど、今確認されている次元はもう一つあるんだよね。隠してる訳じゃないけど、通り抜けるのにすごく煩雑な手続きがあって、普通なら一ヶ月以上かかるんだよ。その上、さっき通ってきた通路は人を選ぶんだ」

「人を選ぶ?」

「ああ、気に入らない人物は、何度通り抜けようとしても必ず元の入り口へ帰ってしまう」

「へえー」

「だから今はほとんどここへ来る人もなくなってるのが現状。けど、今回、とりあえず手続きを父さんに頼んで短縮してもらってね」

 ああ、それであのとき、ずるいと思うなんて表現をしたのね、一直さん。

「でも、そのあとは通路次第だったんだけど…。大丈夫だとは思っていたけど、恭は合格したみたいだね」

「そうなの、良かったー。じゃあ、あのお城って」

「ああ、正真正銘の王様が住んでたお城。今は一般の人が住む、マンションみたいなものかな」

「ええー? そうなんだ」

 私はあらためて、まじまじとそのお城を眺めてみる。

「?」

 するとお城の向こう、もっと奥の方に何やら山のようにそびえるものが見えた。

「あれは、山? 」

「ハハ、山じゃないよ。あとでわかると思うけど。じゃあ、オーナーに会いに行こうか」

 私の問いかけに、するっと答えて一直さんは街の中へと歩いて行ったのだった。


 「歩くにはちょっと距離があるから」と、途中で一直さんはスポーツカーのような車を借りてくれた。助手席に乗ると、車はお城の方へ快適に進んで行く。

 そうして、山に見えていたのが、実は高い高い壁? のようなものだと気がつくのに少し時間がかかった。

「あれって、もしかして壁? 」

「もしかししなくても、壁」

 一直さんがちょっとからかうように言う。

「なんであんなに高くできるの…」

 そうなの。その壁は、本当に空に突き刺さるんじゃないかって思うほど高くそびえ立っている。

「昔、ここは戦場でね。あれは、敵から街を守るために作られたものなんだよ」

「そうなんだ」

 歴史のある街なのね。

 数々の戦争をくぐり抜けてきたのかー。

 ここの歴史の教科書には載ってるのかしら、などと思っているうちに、これまた背の高いゲートのようなものが見えてきた。けど扉は開いていて、いつでも誰でも自由に通り抜けられるようだ。


「外へ出るよ」

 スウーっと車は扉を通って外へと出た。

「うわあー! 」

 本日、何度目のビックリマークかしら。

 扉の向こうは、今度は広い庭園? 公園? というのかしら、完全なシンメトリーの広大なお庭が広がっていて、その向こうに宮殿のような建物が建っている。

「すてき…」

 うっとりする私に、一直さんは優しく微笑みながら、色々説明してくれる。

「あれは王宮だよ。ここの市民は国王が大好きで、とても尊敬していてね。あの王宮も皆が是非にと嘆願して作り上げたんだそうだ。けど現国王は、こんなぜいたくな住まいはいらないと言って、執務室と、行事を執り行う部屋以外は、全部公共の施設として市民が使っているんだよ」

「へえー」

 車は王宮の前まで行くと、すっと横にそれて行った。しばらくすると、道の両側に家が建ち並ぶ住宅街のような所へ出た。その一番手前、住む人の品の良さがにじみ出ているような落ち着いた邸宅の前に車が止まる。


 すると、ちょうど良いタイミングで、玄関から人が現れた。

 うちの母と同年代だと思われる女性なのだが、なんて言うか、こんなこと言っちゃ失礼かもしれないけど、可愛いーの。那波が歳をとったら、きっとこういう感じなんだろうなっていう感じの人だった。

「まあ、やっぱり時間ピッタリね。ようこそおいで下さいました。お待ちしてたわよ、一直くん」

「はい、ご無沙汰しています」

「堅苦しい挨拶はあとあと。とにかく入って。それで、彼女が奥様? まあ、なんて可愛い。さあ、どうぞどうぞ」

 一直さんは少し照れたように私を促して、開け放たれた玄関から中へ入る。

 嬉しそうに私たちを通してくれた部屋は、どうやらリビングのようだ。私たちの姿を確認して、ゆったりとした動作でソファーから立ち上がった男性が、微笑んで言う。


「良く来てくれたな、一直くん。そして奥様も」

 その人は奥様とすごくお似合いなの。その上、うちの父と同じくらいのお歳だと思うんだけど、だけどね…なんていうか、すごく…、カッコイイー! さっきと同じく、この年代の人にそんな感想は失礼だと思うんだけど、本当にかっこいいんだもん。

 ほけっとしている私に握手の手を差し伸べながら、その人が自己紹介した。

「はじめまして、ホテルオーナーの、新行内しんぎょうじ 璃空りくと言います」





「異界シリーズ」のホワイトデーの少しあと、恭ちゃんのバースデーのお話しです。

1話完結のつもりでしたが、続いてしまいました。

あのシリーズの、あの方たちが出て来てしまいましたね(笑)

恭ちゃんたちの時代には次元の扉がどうなっているのか、とても興味深かったので、つい。

このあとの展開もどうぞお楽しみに。





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