彼が助かるまで
燃える炎
目の前には怪物
後ろには中学生くらいの少年
怪物は苦しんだ
俺は勝った、そう直感した
でも焦りは消えない
少年が苦しそうな顔をした後
また、まだ、もういっかい
「―――」
目を開ける。
見慣れた天井、蒸し暑い部屋。
「なんだったんだ」
俺は汗まみれのこの布団から這い出る。
まったく、今のはどんな夢だってんだ。
「・・・まぁいいか」
時間は午前11時。
大遅刻だ。
「ちょっとお兄!
さっきから電話うるさいんだけど!!!」
妹にドアを開けられる。
「おー
次かかったら出る」
そう言って振り向いた時にはドアは閉まっていた。
人の話はちゃんと聞け。
着替え終わり居間で電話を待つ。
六回コールが鳴ったのを確認して受話器を上げる。
「おはようみちる、あっちぃな」
俺の声を掻き消すようにデカい声が帰ってくる。
『あちぃも糞もあるか!!!!
まさか今起きたなんて言うんじゃねーだろ!?』
こいつはみちる。
俺の幼馴染。
喧嘩早い上口が荒い。
「正式には10時54分に起きた。
安心してくれ、ちゃんと行くから」
『本当だな!!
お前の事だからビビッて来れねぇって事はねーだろうし信じてやる』
一方に切られる。
事の始まりは、夏休みに入る少し前。
「おいお前等!
肝試ししようぜ!」
放課後の教室にみちるの声が響く。
「お前等って言われてもなぁ。
お前を入れて三人しかいねぇぞ」
俺の言葉に付け足すように、隣に座っていた女子も口を動かす。
「夏休み親仕事で居ないし・・・
妹一人家に残すのも気が置けないんだけど。
それに肝試しってどこに行く気よ」
彼女は千夏。
女友達とだけ紹介しておこう。
クラスのギャーギャー喚いてる女子とは違って
なんかこう強気で一人でいる事が多い。
中々誰も近寄れない
元々みちるが喧嘩を売ったのが絡みの最初だったな。
それに中々スタイルもいいし顔のバランスも整ってる。
可愛いというより、綺麗、美人と呼んだ方がいいな。
まぁみちるもかなりのイケメンの部類に入るんだよな・・・
俺こんな美男美女に囲まれてるのに凡顔なんだぜ・・・くそ
――って、こんな事はいいか。
千夏の言葉にみちるは笑って答えた。
「清華院病院。
知らないなんて言わないよな?」
固まる。
むしろ千夏は溜め息を吐く始末だ。
「みちる、正気か」
俺の言葉にみちるは「勿論」と返した。
千夏がやっと声を出してくれた。
「あの病院には近寄るなって言われてるよね。
山奥にあるし、所々ヒビ入ってるし蔦張ってあるし。
確か十何年くらい前入ってた人出てきてなくて
取り壊そうとしてもその作業員全員居なくなっちゃったんでしょ?
・・・あんたそれ知ってて言ってる?」
そう、その病院。
ここ近所の人間で知らない人間はいない。
まぁ人喰い病院とでも言ってもいいか。
「正直俺そういうの信じてねぇんだよなぁ・・・
身内に入った奴も居ねぇし。
知り合いからも何も聞いちゃいねぇ。
だからそれを確かめる為の肝試しなんだよ」
みちるは何一つ顔色を変えない。
「で、俺達は巻き添えか?」
「証言者は多い方がいいと思ったからな。
お前等が行かなくても俺は行くが」
千夏と顔を合わせる。
「・・・
正直あんたが心配だけどね。
言って帰って来れなかったらどうすんの」
千夏の言葉にみちるが黙る。
考えてなかったっぽいな。
「その時はその時、コレもあるし」
言ってみちるは携帯をちらつかせる。
「電波通じなかったら?」
「・・・確かに」
俺達の言葉にみちるは頭を掻く。
「あー!
じゃあ窓から中除くだけでもいいだろ!?
それだけなら少なくとも安全だろうし、千夏も妹が心配なら連れて来ればいいじゃねーか!」
「・・・それでも危険って事は変わんないよね
ま、その日の状況を考えるけど・・・」
「俺も、2人とも心配だしついてく」
という訳で今に至る。
「ってなんだ、結局連れてきたのか」
千夏の傍には中学生くらいの少女。
千夏にべったりくっついてる。
「何か事情説明したらついてきちゃってさ
危険だっていうのは、解ってると思うんだけど。
ほら、自己紹介」
千夏の言葉に少女は静かな声で
「・・・小雪・・・」
「そうか、小雪ちゃんか、千夏から離れるなよ」
なんか千夏とは真逆な可愛い系の綺麗な顔立ちの子だ。
確かに千夏があの時庇おうとしてた意味が解らなくもない。
「・・・うん」
微笑んでくれた。
めちゃくちゃかわいいじゃねーか。
「んで、みちる、この道で合ってるんだろうな・・・」
俺達の先をスタスタ歩いているみちるに聞く。
「おー、もうちょっとだ!」
そう笑顔で返された。
・・・その笑顔が怖ぇんだよ。
ふと服を掴まれてその方向を視る。
千夏が居た。
千夏は俺を一瞬見て下を向いた。
どうやら俺の服を掴んでいたのは小雪ちゃんだったようだ。
小雪ちゃんは俺を見上げて笑った。
「・・・
あんたも自己紹介しなさいよ。
気に入られちゃったみたいだし」
千夏が笑う。
・・・まぁ自己紹介は礼儀だもんな・・・
「・・・はぁ。
俺は千歳。
正直女みたいだから俺は気に入ってないんだけどなー」
「顔も女っぽいもんな」
前からみちるが会話に割り込む。
「うっせぇ」
その会話のお陰かちょっと気が紛れた。
皆そうみたいで顔がさっきより柔らかい。
「さぁーって!!!
ついたな!
清華院病院!!!!」
「・・・あぁ、ついたな」
相変わらず不気味な場所だ。
今は科学が進歩してて戦場ではロボがうろつき・・・
さらには能力者なんて存在も露わになって日々殺し屋が歩き回っているというのに。
・・・科学が発展したばかりの。
まだ古い病院。
・・・いや、こっちの時間が進みすぎてるのか。
とにかく、もう何十年は建ってるだろう。
近寄りたくもない・・・。
「本当にお前怖くないんだな・・・」
壁をベタベタ触るみちるを見て呟く。
「まぁなー
ほれ、見て見ろ見て見ろ」
腕を引っ張られ窓から中を覗かされる。
「・・・ま、見事に廃墟ってやつだな」
「・・・何がしたいの」
俺達の言葉にみちるは笑った。
「俺の想像はさ、ここでいっぱい人が消えたんだったら
一個ぐらい骨とか落ちててもいいと思ったんだ。
それが見て見ろ、骨どころか争った跡もない。
つまりただの噂だったってこった」
みちるのしてやったりな顔にまた千夏と溜め息で返す。
ただ、小雪ちゃんは不安そうな顔で病院の中を見つめていたが・・・
「じゃあただの思い違いって訳で、帰るかぁー!!」
みちるが伸びをしながら歩き出す。
千夏と小雪ちゃんも歩きだしたし。
俺も帰・・・
「・・・おい」
俺の言葉に全員が振り向く。
「・・・すまん、俺、やっぱり・・・!!!!」
「お、おい!
どうしたんだ!!!!?」
走る。
俺は見た。
見たんだ。
「・・・ちょっ!!!
あんた待ちなよ!!!!
そこは・・・!」
千夏の言葉で一瞬立ち止まる。
・・・病院の、入口。
中には、誰も居ない・・・
「・・・。
ごめん。
俺、行かなきゃ」
一歩踏み出す。
俺は見たんだ。
この中に人が居るのを。
そしてその人物が、夢の少年だった事も・・・
入口を通った瞬間、視界が歪んだ。
身体を揺さぶられて起きる。
目の前には小雪ちゃんが居た。
「・・・あ!
よかった・・・」
微笑む小雪ちゃんに安心してる暇などない。
「・・・お前等・・・
何で・・・」
目の前の小雪ちゃんも、その奥にみちるも千夏もいる。
見渡すと恐らくあの病院の内部。
ただ窓から見た景色とは違って骨がゴロゴロ転がってるが。
「何でって・・・
あんたを止めようと手伸ばしたら逆に手引っ張られて連れ込まれたの」
「・・・まったくだ。
ほんとうにこんな事があるなんてな・・・
窓の外は真っ黒で出られない。
妙に明るすぎる内部も不気味だよな・・・」
確かに外が塗りつぶしたようにまっくろだ。
「・・・俺達、消えたんだな。
あっちで」
つぶやく。
全員が黙ってしまった。
「正式には行方不明だけど」
「―――――!!!」
真後ろから声がかかって振り向く。
綺麗な灰色の髪。
水色の瞳。
青色の帽子を深く被った・・・
―――夢に出てきた、少年。
「・・・とりあえず、そこに居たら危ない」
少年が後ろを指差す。
「・・・?!」
「・・・ひぁっ!?」
「・・・!」
全員が立ち上がる。
さっきまで物だと思っていた。
それでなくても、気に留めても居なかった。
「・・・人間・・・なんだよな・・・?」
みちるの言葉に少年は鼻で笑った。
「その方がまだ優しいよね・・・
まぁ、まだ人間だよ。
君たちには人間だと思うの?」
少年の言葉に言葉を失う。
パッと見普通の患者に見える。
・・・でも。
眼に光がない。
意識も無いように見える。
それでも、目と首はまるで何かに取りつかれているように・・・
何かを必死に探すように・・・
動き回っていた・・・
「・・・あ、あんまり見過ぎると危ないよ。
そいつら目合わせたら・・・」
「・・・っ!!!?」
みちるが後ずさる。
いままで動いていた三人ぐらいの患者の首が集中的にみちるを見る。
目は見開いてる。
「・・・こいつら本当に・・・!!!!」
うわなんか突進してきた・・・!!?
目を瞑る。
ぐちょり。
嫌な音。
目を開ける・・・
みちるは無事。
ただ・・・
「・・・う・・・っ」
襲ってきた患者らしき人物はよく判らない事になってたけど・・・
首も手も足も、どうやってこんな一瞬で・・・
「・・・だから言ったのに、目合わせるなって」
溜め息混じりの声が響く。
「・・・お前か・・・?」
声の主、少年に聴く。
少年はしばらく俺の顔を睨む。
が、また溜め息。
「僕じゃない。
とりあえず、此処と、此処の連中について話さなきゃだから。
――付いて来て」
しばらく歩いて、一室の部屋に連れてこられた。
「連れて来たよ、姉さん」
少年の声の先を見る。
此処は監視室なのか、監視カメラの映像が小さなモニターが一面に散らばる。
物音がして横を見る。
メガネをかけた女性が無心で何かを食べていた。
「・・・パン・・・
パン・・・嫌い・・・」
・・・でもその食べてるの、パンだよな・・・
それでも食べ続ける女性に俺が話そうとした瞬間奥から声が響く。
「お疲れ様。
それから、感染者に声はかけないようにね」
方向を視る。
腰まで伸びたふわふわの灰色の髪、朱色の瞳。
・・・なぜかブルマを着用。何故。
これよりないくらいの美人だった。
しかも胸デカ・・・ってか何処見てんだ俺。
「・・・感染者?」
千夏が聴く。
彼女は俺達の眼を視ず説明してくれた。
「まず、この病院にいる変な奴ら。
アレは十六年前此処に入院してた患者たち。
ここの医院長が変な研究始めちゃって、それが失敗になっちゃった訳。
アレはもう人間の心なんかもってないの。
まず、アレには本体がある。
感染したあと心があった時、一番大切にしていた物。
それが本体。
ブレスレットとか指輪・・・特に人形とかは凄くタチが悪いわね」
「・・・物と人間が入れ替わるってのか」
みちるが呟く。
彼女はしばらくだまった後。
「・・・似てるけど、ちょっと違うのよ。
入れ替わるんじゃないの、乗っ取られちゃうって事。
アレ、人間本体を殺してもすぐ再生する。
だから、物本体を壊せばいいの。
私達は意識ある今だけ、せめてアレを少なくしようって思って
アレを殺し続けてる。
・・・まだ正体が解らないのが
アレを動かしてるボスみたいなのが居るはずなのに。
そいつが見つけられないって事」
「・・・そいつを壊せば、その、感染者は・・・」
彼女が何も躊躇わずに言った。
「全員死ぬわ。
・・・さて、自己紹介が遅れたわね。
私は清華院 杏奈。
そしてあんた達をここまで連れてきてもらったこの子は弟の
清華院 礼央。
それから・・・そこのパン喰ってるのが私の双子の妹の
清華院 綾奈。
――――もちろん皆感染者ね」
その言葉にちょっと身構える。
小雪ちゃんが涙目で抱き付いてくる。
・・・杏奈さんは笑った。
「・・・あはは。
やだなぁそんなに怖がらないでよ。
私達はまだ完全に乗っ取られてないし。
それに、苗字みて気付くでしょ。
私達、此処の医院長の子供なの。
だったらやっぱり責任は取らなくちゃ駄目でしょ?
だからアレを出来るだけ壊して、最後は私達三人でお互いの物を壊すって
そう約束してるの、ね、礼央」
杏奈さんの言葉に少年、礼央君は少し黙ってから
「・・・うん。
でも、かなり時間がかかる。
姉さん此処から動けないし
僕はわざわざ感染者を見つけて監視カメラを見てアイコンタクトを取らなきゃいけない」
・・・ん?
「じゃあ、さっき感染者の手足を・・・やったのは・・・」
「あら、私よ?」
杏奈さんは平然と答えた。
「だって私達能力者だもの。
・・・何故か先祖の人がそういう能力もってたみたいでね。
どんなに離れていようが姿が視えればそれを枉げる能力。
・・・礼央は――――」
「余計な事言わなくていい。
僕の能力は殺傷とかそんな物じゃない。
唯の逃げるだけの物・・・正直いらない・・・」
杏奈さんの言葉を礼央君は遮る。
能力者って人を殺すイメージしかなかったけど、そうじゃないのもあるのか。
っていうか種類みたいなのがあったのか。
「・・・ということは、綾奈さんは・・・」
小雪ちゃんがオズオズ話す。
杏奈さんはパンを貪り続ける綾奈さんを見て
「あの子は・・・能力無し。
それに私達三人の中で一番進み具合が早い。
今私達の声聞こえてないの。
ただ自分を抑えるためにパンを食べてるだけだから・・・
・・・正直、目合わせちゃ駄目っていうのがつらいのよね」
・・・思えば杏奈さんも礼央君も、俺達とは一回も目を合わせていない。
姉弟であっても、目を合わせてはいけないのは、辛いだろうな・・・
「・・・俺達、何か手伝えないかな」
「・・・え?」
俺の言葉に全員が聞き返す。
「ようは、目を合わせなかったらいいんだろ?
だったら、出来る限り手伝えないかな。
どうせ帰り方も解んなくて逃げたり隠れたりするより、俺はそのほうがいい」
俺の言葉に全員が黙る。
しばらくの沈黙のあと
「・・・たしかにな。
そう考えると、こっちの方がマシだな。
お前にしちゃ、良い事思うじゃねーか」
みちるが俺の肩を叩く。
「ま、危ないとは思うけど、それが自分を守るのには最良の手だっていうなら。
仕方ないかも」
千夏が笑う。
小雪ちゃんも、静かに頷く。
それを黙って視ていた杏奈さんは唯、驚いたような顔をして礼央君を見ていた。
礼央君に至っては辛そうな顔をしてたが。
杏奈さんは溜め息の後、俺達に言った。
「・・・本当に手伝ってくれるのね?
命に係わるけど、いいの?」
俺達は頷く。
杏奈さんはそっと微笑んでから真面目な顔に戻って
「・・・じゃあ、注意点だけ・・・
まずさっきも言ったように、ぜったいにアレには目を合わせないで。
それからアレを殺すなら一瞬で。
戦うと色々厄介。
あとは、エレベーターには近寄らないで。
あそこは危険なのよ、色々と・・・
殺し方はまぁ、物本体をこわせばいい。
アレは自分の物を絶えず持ってるから、すぐわかると思うわ」
エレベーターの件が気になるけど、とりあえず頷く。
「じゃあ、僕と千歳さんはこっち。
みちるさんと千夏さんと小雪さんはあっちを回って欲しい」
「おう!
頑張れよ!」
「ちゃんと生きてまた会いましょ!!」
「・・・頑張ってね」
一応チーム分けで回る事になった。
「・・・で、何で俺とお前だけはこっち?」
礼央君に聞く。
礼央君は黙る。
30分くらい経過しただろう。
「・・・!!
いた」
感染者発見。
とりあえずネックレスを付けてるのが解ったから後ろから近付いてパイプ椅子でブッ叩く。
・・・やった。
感染者が動かない。
礼央君が無言でネックレスを引き千切る。
「・・・やっぱり千歳さんには行動力がある。
それを見込んで僕と一緒に来てもらったんだ・・・」
振り向く礼央君。
その表情は、すこし嬉しそうだった。
・・・ん、何かひっかかる・・・
「・・・礼央君、何で・・・」
「あああああああああぁぁぁぁぁあああああっあぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁあぁあああっ!!!!!」
悲鳴。
「・・・あっちからだね」
礼央君の言葉に咄嗟に走る。
あれは、あの声は。
考えるな、走れ。
まだ、間に合うかもしれない。
間に会え。
間に合って―――――
立ち尽くす。
ウソだろ。
閉まったエレベーターから腕が飛び出していた。
血が垂れる。
泣き叫びエレベーターに向かおうとする小雪ちゃん・・・
それを必死に止めるみちる・・・
「・・・ち、あ・・・き?」
俺の声に2人がこっちを向く。
「・・・あ・・・あぁ・・・っ
千歳さ・・・ん・・・っ!!」
「お姉ちゃんが・・・っ
お姉ちゃんがぁぁああぁ・・・っ
うああああ・・・!!!」
「・・・・・・」
「・・・」
「・・・あのエレベーター、どういう理由でかは解んないけどランダムで人を殺すの・・・
・・・説明不足で・・・ごめん・・・」
杏奈さんの台詞に小雪ちゃんが泣き崩れる。
「・・・恨むなら好きに恨んでくれてもいいの。
私達だって色々見てきてるんだから」
悲しそうな目で杏奈さんは綾奈さんを見つめる。
綾奈さんは相変わらずパンを食べ続けている。
「・・・!」
綾奈さんの手からパンが落ちる。
「・・・パン。
私のパン・・・?
・・・・・・パ、パ・・・
あ、ああ、ああああああああああ」
「―――――?!」
「・・・こっち!」
礼央君に手を引っ張られ全員で部屋から出る。
立ち止まって振り返る。
・・・杏奈さんが、いない・・・?!
「いやあああああああああああああああああああっ!!!!!」
悲鳴が響くと同時に部屋から影が伸びる。
大きい、さっきまで人間だったとは思えないバケモノだった。
口から灰色のフワフワの髪が伸びている・・・
「・・・喰っ・・・!!!!」
「―――!
千歳さん・・・!!!!
しっかり!」
ガクンと眩暈。
目が合った。
合ってしまった。
怖い。
立てない・・・。
『あははははははははっ!』
バケモノが走ってくる。
もう、駄目だ・・・
「馬鹿っ!
・・・走るぞ!」
ひょいっとみちるに抱き上げられる。
・・・俺ってこんなに軽かったのな。
降ろしてもらって自力で走る。
「・・・きゃぅっ!」
「・・・!
小雪ちゃん!」
小雪ちゃんがこける。
振り向くがバケモノはもうすぐそこまで・・・!
「―――・・・みちる?」
みちるが木切れを持って小雪ちゃんの前に立つ。
「ここは俺が食い止める。
お前等は走れ。
安心しろ、ちゃんと後からついて行ってやるからよぉ」
微笑まれる。
「・・・でも」
「いいから行け!!!
こうなっちまったのは俺の責任だ!!!
今更何を謝っても、千夏は帰って来ねぇ!!!!
俺は、この罪を償う」
言い返す前に礼央君に手を引かれる。
しばらく走る。
礼央君が一個の病室に入って鍵を閉める。
「・・・しばらくは姉さんも入って来れない。
大丈夫?千歳さん」
・・・黙って礼央君を睨む。
「・・さっき言い逃したんだけど。
礼央君、なんで俺の名前知ってるんだ」
俺の言葉に礼央君は明らかに動揺を隠せないようだ。
「それに最初っからこうなるって解ってた顔もしてた。
・・・正直どうなんだ」
しばらく礼央君は黙る。
震えてる。
「今朝、俺は夢を見た。
その夢に、礼央君が出てた」
俺の言葉に礼央君が顔を上げる。
しばらく俺を見つめた後、礼央君は話す。
「僕の能力はやり直し。
ずっと、ずっと僕が助かるようにやり直してきた。
今バケモノになってるのが、杏奈姉さんだった時もある。
それでも、何度も何度も何度も何度も」
「じゃあ、手っ取り早く親玉を見つけて壊せば――」
「それじゃ駄目なんだよ!!!!」
礼央君の言葉と同時にドアが破壊される。
・・・来た・・・
バケモノが笑いながらゆっくり近づいてくる。
ふと足元に、ライターが落ちてた。
「・・・これで!」
火をつける。
部屋が燃える。
――あれ?
この風景、どこかで・・・
燃える炎
目の前には怪物
後ろには中学生くらいの少年
怪物は苦しんだ
後ろを見る。
礼央君は必死に自分の腹部を守っている。
良く見る・・・
研究書・・・?
「まさか・・・お前が・・・」
目が覚める。
見慣れた天井、蒸し暑い部屋。
時計を見る。
午前11時。
大遅刻だ。
「ちょっとお兄!
さっきから電・・・って、どっか行くの?」
「――あぁ。
ちょっと助けに行ってくる」
俺は笑って、まだ事件の起きていない清華院病院に向かった。
あんまり怖くないです。
見た夢をいじっていじっていつもの私の話になっちゃいました。
しかし男子が主人公なんて珍しいですね私。
そして漢字の誤字が無いかビクビクしてます、こあい。
初めてこういうループ物を書きました。
何番煎じだよ・・・て。
夢ではエレベーター内で千夏ちゃんが死ぬ所と杏奈さんと綾奈さんの容姿(三人共顔は見れなかった)
あとは綾奈さんのバケモノ姿。
あとは設定を杏奈さんから聞いたり感染者倒したり。
悪夢でしたけど。
ちなみに夢の最後は皆を逃がして礼央君だけ永遠に繰り返すっていうものでしたけど。
ショタ可愛いです。
今思えば植木を拾ったら生首になってて~っていう夢の方が怖かったけどそれ思い出したのもう予告文出した後でした。
くそぅ。