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休憩室  作者: 暮夜夢
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花嫁の母

 私は真奈、25才。

高校を卒業してから何をしよう、何になりたいとかの目的がさだまらず、いまだフリーのアルバイター。しかも、ひとつのところに落ちつけない。楽しく働ければいいけど、もめごとなんかあると面倒くさいから辞めちゃう。母や兄からはこらえしょうがないといつも小言を言われている。本当のことだから耳が痛いな。今朝も出がけに

「石の上にも三年て言葉知ってるな。しっかり働いてこいよ」なんて兄貴に嫌みを言われて急いで家を飛び出した。もうっ!ほっといてよ!ブツブツ言いながらバス停に向かう。

 今の仕事は結婚式場の引き出物センターと売店。ずっと立ち仕事でつらいのなんの。足がぱんぱんにむくんでこれぞ大根足!同僚は私より年上の女性ばかり。なかには花嫁さんの介添えの仕事をしている人もいて、結婚式にまつわる話しを聞かせてくれたりする。これがけっこう面白い。売店の中にある小さな休憩室で、今日もある作り酒屋の一人娘の話を聞いた。

 その娘の家は、地方で古くから作り酒屋を営んでいるかなりの家柄らしい。招かれている客もそれなりに上流のようだった。それに比べて新郎側はあきらかに不釣り合いな感じで、とてもちぐはぐに感じたと言う。ふつう、祝宴が始まると和やかな雰囲気になるのに、時間がたつごとにしらけた空気が漂ってきて会話も弾まない。それというのも新婦の母親が花嫁にまとわりついてさめざめと泣いてばかりいるからなのだと。

「結婚なんか辞めて今すぐ帰ろう。」

周りも目にはいらない様子である。新婦の叔父も酔って新郎の身内にしきりに不釣り合いだといっていたらしい。お色直しで退出したとき移動のエレベーターの中で新郎が新婦に

「お前の叔父さんにさんざん嫌み言われたよ…」

と愚痴をこぼしていたという。 母は地元に娘に最良の縁談を用意してひたすら帰るよう説得していたらしい。作り酒屋を維持していくためにもそんじょそこらの婿では役不足なのだ。その話をきいて私は同僚に聞いてみた。

「それで梅子さんはその新郎をどう思ったの?」

梅子さんは私に言った。

「ありゃダメだ〜、すぐに別れるよ。」

即答する彼女に驚いて理由をたずねると一口お茶を飲んで彼女は言った。 新郎は今日の披露宴の新婦側の顔ぶれを見て驚いていた。新婦の叔父の一言に心が萎縮してしまった。

「ここまでの家柄とはたぶん思ってなかったのね。卑屈な感じで屈託があった。ちっともかっこよく見えなかった。プライドが傷つけられているばかりで、なにくそという気持ちが無いのね。これから生活していっても今日の事が頭の隅に小さくくすぶり続けて無くなることはないだろう。「花嫁さんだって今は親や家に反発しているから意固地になっているけど、気持ちがやがて冷めたらなぜ、母親や叔父たちがあんなに反対したのかわかるようになるだろうね。とにかく母親の姿はみっともなくて見られたもんじゃなかったよ。せめてお式がすんでお客様がお帰りになってから、もう一度娘と話し合えば良かったねのにね。」

梅子さんは、ほーっと一息つくと目をしばしばさせた。 結婚式場で働いているとさまざまなお客様がいらっしゃる。

いまどきのカップルは結婚は自分達本人の自由と思っているだろう。しかしまだまだ家と家の結びつきであったり、地方なりのしきたりなどけっして無視できない事柄があり、式の打ち合わせから対立してしまう両家も多い。私は今のところ彼氏もいないのでいらぬ心配だけど、結婚するときは南の島で誰にもじゃまされずに静かに厳かにしたいなあ。あんな口うるさい母や兄貴にあれやこれや言われるなんてガマン出来ないよ。梅子さんは

「真奈ちゃんのときは私が介添えしてあげる」

だって。う〜ん、ここで式をあげたら安くなるのか、それもいいかもって、まだ彼氏いないって!自分で突っ込んでどうするよ、もう!

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