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コハのアロとピー【~《電子レンジ》ミーツ"ガール"!?!!?いずれ魔法少女になる女の子の不思議な不思議な物語~】  作者: ふるなゆ☆


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8話◇インフェリア

 一面草木が茂る道。伸びた雑草を踏みならしていく。澱んだ空気が広がっている。

 ふとラメルがペンダントを開いた。そこには家族写真が入っていた。

「ラメルの……家族?」

「ビンゴ! 時々こうやって見るんだ。今はいないパパを思い出すのと、ママの無事を願って……な。」

 彼女は思い出したかのようにアロの方向を向いた。 

「そうだ。ねぇ、あなたの復讐動機を聞かせてよ。」

「バアルの軍団に故郷を滅ぼされたんだ。アンタは?」

「ベルフェゴールに実の父を目の前で殺された。」

 さらっと話してるけど、内容はどこか重い。こんな異質の空気感では口を開くことなんてできない。

 目の前に木が見える。その木に向かって人間離れした跳躍力で彼女は幹付近の枝に飛び移った。

「ラメルはねー、この力、魔法少女の力はさぁあ、"大切なもの"と引き換えに手に入れたんだよねぇ。あちきの友達やクラスメイト、先生……大切な人の犠牲で手に入れたんだぁ。」

 その木の付近まで辿り着くと、突然ラメルが足を木に引っ掛け、それを軸にしてぶら下がった。私は思わず驚いて立ち止まった。魔法少女には変身していないが、通常時にも垂れ流している魔法によるものなのか不思議なオーラも感じる。スカートが垂れ下がらないのは多分、そのオーラによるものだろう。私の顔と彼女の顔は僅かの差しか空いていない。立ち止まらなければぶつかっていた。

「コハっちの魔法少女の力はさぁ――」と話しかけたので思わず「魔法少女の力?」と聞き返した。

「あの時、森を黒くしてクリスタル作ったよねぇ? あれだよ。あれが魔法少女の力。」

「あれって魔法少女の力だったんだ……」と思わず感嘆した。初耳だった。

 突然、声のトーンを落とし、強めの口調となるラメル。「その力を得るために何を"犠牲"にしたの?」

 ヒリヒリと張り詰める空気感。

「ごめん、分からない。」

「え? 大切なものと引き換えに手にしたんじゃないの? え?」

「いや、この力は偶然で――。」

 質問の問いに対する答えを間違えたと思った。彼女は私に飛び移り、私は地面へと倒れその上に乗られた。

「は? 何も犠牲にしないでその力を得てるの? こっちはママ以外の何もかもを失ったのに? ムカつくなぁ。」

 今度は腕に手のひらを当てて「ははは。腕一本犠牲にしたら、あちきと同じになれるかもよ?」とどこか歪んだ笑顔で囁かれた。

 ピーちゃんの体当たり。これによって彼女は吹き飛ばされ、難なきを得た。

 彼女はため息混じりに少しばかり冷たい表情を向けてきた。

 アロが剣を抜いた。

「冗談だよ。冗談。真に受けないで! 本当にやるつもりなら変身してるからさぁ。」

 剣が鞘に仕舞われた。

 そんなもので今入った亀裂は完全に元通りになる訳でもなかった。

 緑の土地を抜けて、再び赤茶色の大地が開かれる。私達はその境目でテントを張り一夜を過ごした。


 テントの中で彼女は「今日はごめん」と呟いた。

 暗闇の中で開かれたペンダント。前よりもはっきりとラメルの家族の写真が見える。

「あの時……ムカついたのは許せなかったからだ。コハにじゃなくて……自分自身にムカついたんだ。パパを失って、何にもできないあたしは力を求めた。"大切なもの"を失うことは分かってたのに、それでも力を求めて大切なみんなを殺しちゃったんだぁ。」そこから少し涙声になり始めていき「馬鹿な自分が惨めになってきて思わず、あんなことしちまった。本当に許せないのはあちき自身なのに、な!」とどこか空元気のような言葉を投げかけてきた。

 それっぽい上っ面の言葉を返すことしか私はできなかった。緩やかな夜の匂いを嗅ぎながら、ゆっくりと眠りについた。



 目的地のバアルの拠点には、歩き続ければ今日にでも辿り着ける計算だ。

「あともう少しだね。残りの道も頑張ろう。」

「れーちんは人間じゃないから気楽すぎぃ。」

 どうしてかラメルはピーちゃんのことをれーちんと呼んだ。理由は何となくらしい。

 突然、ティアラの赤い宝石が輝きを放った。私達はその場で立ち止まって周りを警戒した。が、空回りに終わった。いや、何も無いに越したことはない。その後もルビーが度々光った。その光は鮮やかな赤ではなく珈琲のような少し黒みかかった赤い光だった。

 ひたすら歩いた。

 足が棒になりそうだ。そんな時、ピーちゃんが私を乗せてくれた。暫しの休息時間。アロと魔法少女のラメルはまだまだ余裕そうだ。

 それなりに進んだ。

 一度昼の休憩となる。少し遠くに川があることを発見した。アロとピーちゃんは川へと水汲みに、残った二人で火起こしと準備を行うことになった。

 適当な木の枝を重ねて藁に被せる。次の工程は、ライターでシュポッと火をつけるのと、濾過のための装置をつくるの二つだ。

「ねぇ、コハっちはさぁ、アッ君のことをどう思う?」

 作業中に話されたその言葉。真意が読み取れず率直な感想で「とっても助かるよね」と返す。

「男としては?」

 その言葉に思わず「えっ?」と返した。

「ちょっとでも気があるんじゃねぇのぉ?」

「いや、そんなことは――」

「じゃあ、ラメルがアッ君のこと告っちゃおっかなぁ。」

「それはやめてっ。」

「どうして?」

「だって、旅の途中だし。旅に集中しなきゃ。」

 鼓動が早くなっているのが分かる。ちょっと身体が暑い。

「ひひっ、冗談、冗談。けども、奥手じゃ誰かに取られちゃうぞー。恋のライバルがいなくなった今がチャンスだよねぇ。」

 そんな時にアロが戻ってきた。思わず「あっ」と声を出す。まだ火をつけてすらいない。会話に集中していて忘れていた。慌てて火をつけて、鍋を準備する。

「怪我しないように気をつけろよ」という声掛け。普段なら何とも思わないはずなのに今はどうしてか心拍数が上がり続けて、それを隠そうと本能が躍起になっている。

 鍋に川の水を入れる。それを直に火を当てて沸騰させた。その鍋は真ん中に水受けがあり、そこに溜まった水は管を通って鍋の外に排出される特別仕様に改造したアロお手製の鍋だ。その上に川の水の入った料理用鍋で蓋をした。

 水が沸騰する。水蒸気は窪みのある上の鍋に冷やされて真ん中に水滴を落としていく。その水は管を通って、水筒の中へと垂れていく。

 時間がそれなりに経った。水筒に水が溜まったが、ゴールまでの距離を稼げなかった。仕方ない、何よりも水の確保が大事であるという認識を共有した。

 夕暮れ時になったのでテントを張ることになった。私達は非常食を利用した簡単な料理を作り終えた。そこで分かったことがある。ラメルは料理が絶望的に下手であると。

 腹拵えも終わった。その時でさえ胸の鼓動は相変わらず早かった。アロに話しかけられるだけで鼓動がキャバオーバーしそうで、それを隠すのに手一杯だ。

 後はテントで一晩寝るだけになった。ようやく寝袋の中で落ち着ける。

「楽しかったねー。」

 ラメルの言葉に「うん」と返した。今日まで、この旅が始まって楽しかったと心から思っていなかったのだろう。その言葉を聞いて思わず涙腺に触れそうになった。「楽しい……か。」誰にも見られないようにふふっと笑った。

 


 朝焼け。

 今日も新たな一日の始まりで、今日もまた旅路を進む。

 無味無臭の大地を踏み締めていく。

 幾許か歩くと変わらない赤茶色の景色がずっとズラっと並んでいた。

「待ち侘びましたよ」と一人のベルフェゴール。

「また、お前か」アロが剣を抜く。

「剣士さんとは何度も戦った縁がありますから、この私アデイル直々に決闘を行いましょう。しかし、本日はコハに決闘を申したいと言う人がおりましてね。」

 彼はそんな怪しい挨拶の後に私の前方近くに剣を投げ入れた。

 そこに二体目のベルフェゴールが現れた。

「コハさん。そこの剣を抜き、一対一の決闘を行うのです!」

 そんな言葉に「くだらない」と吐き捨てて「俺が行く」とアロが前に出た。


「これは私とコハとの決闘なの。アロ君はちょっと退いてて! 邪魔しないで!」


 空気が固まったのが分かった。もう一体のベルフェゴールが近寄ってくる。その放たれるオーラを私は知っている。

「コハ、あんたのせいで私は色々と失った。ルーボ君もアロ君も、あんたさえいなきゃ全て上手く進んだはずなのに。あんたさえいなければ!」

「メリカ……ちゃん?」

「ええ、そうよ。だから、何?」

 想像していない展開に心が逃げたがっている。昨晩までの鼓動とはどこか違う、早くなっていく胸の鼓動。昨日までは鼓動が早くなる度に幸福感を感じていたのに、今は早くなる度に嫌悪感を抱いてしまう。

「私はね、アンタに復讐するためにバアルの力を手にしたの。アンタを殺すためだけにね!」

 放たれる殺気と憎悪が心身から凍らせる。

 彼女は私が戦うのを羨望している。逃げることを忌み嫌い、戦うことを心理的に強制しようとする。ある意味嫌いという負の感情が逃げ場を失わせる。

「そうそう。逃げるのは、無しね。」

 背後に落ちる雷撃。稲妻が檻のようになってその場に留まっている。

「これが復讐の力よ。アンタさえいなきゃ、今頃私は――幸せになれてたのに。」

 体が震える。

 

 やらなきゃいけないのかな――。

 

 剣を握って、抜いたが、落とした。手の震えが邪魔をしてる。彼女は「早くして。じゃないと、さっさと殺すわよ」と催促する。

 分かっている。分かっているけど「手が震えて……」落としてしまう。

「無駄な時間を過ごさせないでくれる? こっちはね、プライドを犠牲(・・)にしてまでこんなことやってるの。無駄にさせないでよね。」

 ガタガタと震える視線。その先にいるベルフェゴールの中身はメリカ。


 ピュンッ――。


 次の瞬間、メリカが後ろに仰け反った。

 私の代わりに前に出たのはラメルだった。

「犠牲ってさぁ、そんなちっぽけなプライドだけぇ? 大切なものを失ったわけでもなく?」

「はぁ? 悪役になんかなりたくないのにならなきゃいけないって、結構失うものでかいじゃない?」

「それと、フラれたからって、そんなつまらない理由で復讐しようとしてる訳?」

「つまらなくなんかない。ちゃんとした大きな理由よ!」

「ふーん。それでそんな強さを手に入れたんだぁ。それも安全地帯から操ってるから死ぬ不安もないよねぇ。それでそんなに強い力も持ってる。まー、地雷原の上でブレイクダンスを踊ってるなんてあなたには一切分からないかもね。」

 言われて見ればそうである。メリカの言い分がラメルの地雷を踏みに踏みまくっていた。もはや一つ二つの話ではない。それ故に大爆発を起こしてしまっている。

「いいなー。簡単に復讐とか犠牲とか言える人生で。それだけ人生に恵まれてるんだからさぁ。ほーんと嫉妬しちゃうよねぇ。」

 そこから溢れ出るドロッとしたオーラ。それを見たメリカは「ごめん」と呟いた。

「謝らないで。それに安心して。理解して、なんて言わないから。復讐を誓う動機も、大切な人を自らの手で穢《(けが)》す代償も、心底から理解できるわけないもんねー。どうせお願いしたところで、理解したフリで表面上の慰めをかけるだけっしょ?」

 彼女は笑いながら魔法少女へと変身した。それは楽しいのか面白いのか、はたまた悲しいのか虚しいのか、気持ちを読み取れないように振舞っているように見えた。


「だからさぁあ、憎悪も、嫉妬も、羨望も、苦しみも、ぜーんぶまとめて、あなたに足んない感情――倍倍に味わってね! 苦しいぐらい。」


 不穏な空気を漂わせている。

 向けられた指。放たれるレーザー。遠距離攻撃にメリカは後手に回っていた。やられるのも時間の問題だろう。

 と思った矢先、剣で攻撃を防ぎ始めた。

 さらに前方広範囲に一瞬の電気ショックによって動きを止められる。その合間を抜い、距離を詰めたメリカは蹴りをお見舞いする。ラメルは後ろに吹き飛んだ。

「あら、大したことないのね――。」

 その言葉がラメルから表情を消した。

 力なく立ち上がる彼女は地面に向かって鋭い目を向けていた。そして、ペンダントを開いてそっと見ては、それを閉じた。

 

「許せないよね。人の命を犠牲に得た力よりもたかがプライドで得た力の方が強いだなんてね。ほーんと、不平等すぎて許せない。この世界が許せない。全部許せない。」

 

 風がラメルに元へと集まっていく。不思議な力が彼女に集まっていく。

 赤茶色の大地が緑単色の大地に変わった。草木が生えた訳ではなく、ただの緑色が支配した。その地面からシャボン玉みたいな泡が沢山でてきていた。

 彼女の服装に緑色が加わっていく。元の青色の服に緑色の色が加わったツインカラーの服装から漲るパワーが溢れ出している。

 指を前に向けた。メリカはそれを見て、剣を盾のようにして構える。

 放たれたレーザー攻撃。メリカは横方向へとふらついた。

 次々に放たれるレーザー。それは正面ではなく四方八方あちらこちらから攻撃を与えているみたいだ。

「この領域内のシャボンはね、触れたレーザーの反射角を自由に操作できるんだよねぇ。これが。」

 レーザーがシャボンの中に入ると進む方向が変わる。そうやって変わっていき、最後にはメリカに直撃する。

「ウザいっ!」

 剣でシャボンを切り裂き破裂させた。

 どうしてだか彼女の動きが鈍くなったように見える。隙が生まれ始めた。

「そーだ。いい事教えよっか? 【翡翠玉色(エメラルド)()酸世界(サワー)】の領域内でシャボンを壊すとねぇえ、近くの敵に"能力下降効果(デバフ)"をかけられるんだよねぇ。もしくは――」

 その効果を知った彼女はシャボンを異常に警戒して立ち回る。レーザーが彼女の近くのシャボンを撃ち抜き破壊する。その破裂に彼女は巻き込まれた。

「何かしらの"状態異常"をかけられるんだぁ。見るに麻痺っぽいねぇ。」

 電撃がまとわりついているように見える。明らかに動きが鈍っている。

 鈍化した彼女にレーザー攻撃が襲っていく。赤子の手をひねるかのように一方的にダメージを与えている。

 しかし、機械の体だからか鈍っていた動きが元に戻り始めていた。全方向から来るレーザーを注意しているのが見える。

「注意散漫になってるよ。じゃあ、おやすみ!」

 レーザーに気を取られていた彼女はすぐそこまで来たラメルへの対応が遅れた。手のひらから放たれるレーザーがベルフェゴールの体に穴を空けて戦闘不能状態に変えた。


「今度は私が――」と遠くからアデイルが動き始める。二人目の機械人間の出陣だ。

「はーあ、もうチェックメイトなんだけどなぁ。」

 四方八方から一斉に襲うレーザーが彼の体の位置で一斉に衝突した。それと同時に大爆風が引き起こされる。

 風で舞う砂煙。

 塵粉が消え去る頃にはアデイルの姿はなくなっていた。緑色の領域も消えていった。

 

 消失感すら残る沈黙。


「邪魔者も消えたし、さっ、行こうぜ。」

 さっきまで前線で戦っていたはずの彼女は全然余裕という態度を示している。善戦していたからだろうか。戦々恐々とした気持ちになった私とは違った前例なき行動に、思わず頬じわ前線が緩いだ。

「ほら、行くぞ」という言葉に背中を押された。

 そんな時、アロから提案を受けた。

「分かると思うが敵は機械だ。壊したところでまた出動させればいい。そうなれば消耗戦になる。そこで少し時間をかけて迂回しようと思う。Dプランの道に合流して進む。」

 彼の言うDプランの道は確か……。

「確かベルフェゴールが攻めてきた場合の迂回道だね」とピーちゃんが先に言った。

 事前にいくつかの道のプランを決めてきているのだ。

「相手側にメリカがいるから簡単な変更はすぐなばれる。だから強引にDルートの道に変える。さらに一泊することにはなるが、食的物資を調達しやすいのと見つかりにくいという利点がある。ここからは隠密行動も視野に入れて進もうか。」

 私達は首を縦に頷いた。ラメルも詳しい説明を受けて同じく縦に振った。

 

 ルート変更の最初の山場は絶壁だった。

 が、それは何にも問題なかった。秘密兵器である脚立を広げて壁を登っていく。脚立を買っていて良かったと思った。

 枯れた土地の先に見える草木。樹海が広がる。安定しない地面をゆっくりと進んでいく。

 いつしか夕暮れ時。テントを用意した。

「あらあらぁ、進まないの?」

「ああ。これ以上進めば暗くなる。暗闇の中で進むのは怪我のリスクに繋がるし、もし怪我しても応急処置が難しい。それにバアルは機械が故に夜目が効く。下手に進むよりも隠れて休眠した方が得策だ。」

「なるほどぉ。まぁ、旅はあちきだけではないもんねー。」

 ちょっとした岩場に隠れた所にテントを張る。

 火を使うのは控えて、火を使わない非常食の羊羹を簡単に口に入れる。緊迫した中で、今この瞬間に感じるこの甘みと渋みだけが幸せと感じさせる。たった味覚にしかリソースを避けられないが、それだけでも充分に満足できそうだ。程よい弾力と口の中で潰れて消えていく感覚。噛めば噛むほど味が出てお腹が満たされていくような感覚を与えていく。


 あっという間に日は落ちた。

 やっぱり戦闘で疲れていたのだろう。ラメルは床に就くや否や夢の中に秒で入った。私も寝よう、そう思った頃には寝袋から出た彼女の足が寝るのを妨げる。あまりの寝相の悪さに笑うしかなかった。

 眠れないテントの中で何にもない迷彩柄の布を眺めた。ここからでは見ることなどできないその先にある星空を想像しながら、じっと時間が経つのを待った。待てども眠れない。旅の記録が思い出されていく。たった数日で色々なことがあった。それを脳が整理しているのだろう。眠れないまま、思い返していく。そうしている内に、いつの間にか夢の中へと入っていったみたいで、朝になれば私はハッと目を覚ました。



 森林を抜けた先に見える豪邸。見方によっては工場のようにも見える。壮観たる景色だ。

 柵の外から中を見ていた。

「中へお連れしましょうか?」

 突然後ろから話しかけられる。振り返るとベルフェゴールだった。私達は身構えた。

「そんな物騒な。危害を加えるつもりはありませんから、どうか気楽に。」

 罠かも知れないとは思いつつもソレに連れられて玄関へと向かう。

「左手に見えるのがラボです。ベルフェゴールに関する装置が置かれています。我々ベルフェゴールに関する運営チームの働いている宿屋もそこに併設しています。」

 圧巻の一言だった。豪邸と言うには相応しい景色だ。

 少し進むと、この豪邸との景色と比べるとちっぽけな普通の一軒家程度の家が見える。きっと「これがさっき言っていた宿屋だよね?」――私の代わりにピーちゃんが言う。

「いいえ。宿屋は反対側でアパートのような建物です。ここがバアル様のご住宅です。初めは豪邸のような家に住まわれていましたが、『維持費が高い』『落ち着かない』何より『広すぎて暇』だとおっしゃり、わざわざ建て壊してこの家にされたのです。」

 わざわざ壊して建て直す方がよっぽどお金がかかりそうだと思ったけど、誰もそんなことを口にはしなかった。いや、できる雰囲気ではなかった。

 そんなにボロくはないが豪勢ではないその家のインターホンが押される。

「さて、お入りください」とそこにいたベルフェゴールがドアを開けた。

 ソレに連れられて進むがままに居間の椅子へと座った。廊下は私の家とあんまり変わらないレベルだ。

 掃除はされていて汚くはないが、お世辞にも綺麗とまではいかない。キッチンには物がぐちゃっと出っ放しである。リビングはソファとテレビ、そして簡易なマットと生活感丸出しの空間だ。

 先程までの豪邸を見た後だと、この感覚に総スカンを受けてしまいそうだ。普通の家として考えれば何にも思わないのだろうか、やっぱり豪邸の中にあるという事を考えると肩が下がる。

「ベルフェゴールになっていたメリカはここにいるかもな」なんて言葉をアロが言い、それに対して「メリカ氏ならアデイル氏と一緒に外に出ていきましたよ」と背後から現れた男が返答した。

 背の高くちょっと猫背。少しボサッとしたパーマかかった髪。眼鏡。そして、何よりも家着。そんな男がそこにやって来ていた。

「いらっしゃい。僕がここの責任者のバアルです。ようこそ、俺ン()へ――。」

 このパッとしない男が……バアル?

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