7話◇零
煙が集まっていく。そこに突然アロが現れた。まるで瞬間移動のようだ。
真っ暗闇を照らすのは朧気な月夜だった。今ではこの場所が巨大な赤い箱の中にいるように真っ赤な壁と天井に閉じ込められていた。紅のエネルギーが地面から溢れ出している。
突如として咲き誇る薔薇の花。その花びらが華々しく可憐に散っていく。まるで儚い時間を示すかのように。
アデイルは何もない所を攻撃し始めていた。ピーちゃんが横から体当たり。少し吹き飛んでいた。
「なるほど。幻覚か……。」
この空間では幻覚症状を引き起こされるみたいだ。
ふと周りを見るとメリカの姿が変わっていた。私が変身した時の落ち着いたおしゃまな、お淑やかな漆黒のドレスとは真逆の雰囲気を醸し出している。例えるなら激情的で情緒的な雰囲気。深紅のドレスには赤を基調とした様々な装飾が施される。腰についた大きな薔薇が一番のチャームポイントに見える。
ハイヒールで強く地面を踏むと、薔薇が生えてきていた。それと同時に妖艶な煙が周りに広がっていく。
ソレは無抵抗のままにピーちゃんの攻撃を受け続けていった。
が、それは長くは続かず、振られた一撃がピーちゃんを吹き飛ばした。
「残念ながら、もう幻覚は聞かないのです。なぜならば、対処法を見つけましたから。」
突撃するピーちゃんに合わせて攻撃する。本当に対処法を見つけられたみたいだ。「ふん。鈍臭いからそうなるのよ」と何にも思っていないことを示す言葉が妙に苛つくが、それ以上にピーちゃんのことが心配だ。
急いでピーちゃんの元に駆け寄る。
「他人の心配をしている場合ですか?」
私の元へ一直線と向かってくる。無抵抗な私にはもう何もできない。
カキンッ。鉄の音が響いた。
「ほんと痺れた。麻痺ってあんなにも動けないもんなんだな。」
剣と剣がぶつかり合う。
アロが蹴りを入れると思いっきり遠く遠く後ろの方へと飛ばされていった。もう姿が見えないほどだ。
「なるほど。この空間……"能力上昇効果"がかかるのか」と呟いた言葉が聞こえた。
「うん。アロ君のための能力だから」なんて戯言もどこからか聞こえてきたような気がした。
遠くから勢いよく進んでくるベルフェゴール。アロに近づくと流れるように剣を振るってきた。それに対応して剣と剣がぶつかり重なっていく。
今度は両手に剣を持って、二刀流での素早い剣さばき。互角の戦いだ。
「ふむ。パワータイプの剣豪。ならスピードで手数で攻めるが吉。」
押されていく姿。
仄かな赤い光が広がった。
今度はアロも負けず劣らずの素早い剣さばきで対応していった。振られる剣、その振る方向を止めないように、まるで流れるように次の攻撃へと映る。そうやって何度も何度も連撃していくことで二刀流と何とかタメを貼って互角に打ち合っていく。
「剣のスピードが著しく上がったが、その分、著しくパワーが下がったな。それじゃ戦局は変わらない。」
茨が咲く。その先がベルフェゴールに向かって進む。それを受けて、ソレは真後ろに跳んでは回転しながら四方八方に空中を斬り裂くことで茨を断ち切った。
そこに向かって進むアロ。そんな彼に向かって左手に持っていた剣が投げ入れられる。投擲攻撃は外れて地面に刺さる。
勢いよく地面に突き刺さった剣に向かって進み出すソレ。空中を蹴った訳でもないのに空中を自由に動いているみたいだ。
さらに、地面に降りると刺さった剣を引き抜いては弧を描くように投げた。その軌道上にいるアロの腹が切られた。赤い血が流れ出る。さらに、地面を転がっていく。
その赤が私に強い寒気を感じさせて、存在しない痛みを思わせていく。気を緩めたら涙が出そうだ。
「糸……か。二つの剣の持ち手同士を糸で繋いでいるのか。その糸は巻き取り自由ってことだな。」
「ご名答。詳細には、柄頭の先から硬糸で繋いでいる。だから、どうしたという話であるがな。」
ふっ、とアロの姿が消えた。
パッとアロが現れるといつの間にかアロは腹を突き刺されて血を流していた。私は思わず何事もなく無事な腹を抑えた。
「幻覚には惑わされん。この摩訶不思議な領域の外からの位置情報を参考にしているからな、貴様らがどこにいようと我には分かる。終わりだな。」
蹴りによって剣が取り出されては後ろに蹴り飛ばされてしまう。
見てることらが痛々しい。何もできない自分が嫌になる。
「貴様はベルフェゴール破壊者としてブラックリスト入りしている。バアル様直々の護衛兵として貴様には重症もしくは死を持って償わせる。覚悟を決めよ。」
「覚悟を決める? 安心しろ。もうとっくに覚悟は決まってんだよ。今から見せてやるよ、その覚悟の強さをな。メリカ、幻覚で俺を消してくれ!」
それを受けて「分かったわ」と承諾。アロは再び消えた。
「全くだ。我には幻覚は効かぬというのに。」
次の瞬間。
ベルフェゴールは体制を崩した。さらに次の瞬間には少し後ろへと吹き飛ばされていた。
「ちと大きめな石には気づかなかったみたいだな。もしかして投げた剣にも気づけなかったか?」
アロがベルフェゴールの場所に走り辿り着き、突き刺さった剣の束を握った。体を横向きで回転させていった。
「《大車輪》――。」
ベルフェゴールは上下真っ二つに切り裂かれた。
赤い空間が消えていく。
血が溢れるアロは膝を着いた。急いで駆け寄ろうと私は右足を出そうとした。
「動いてはいけませんよ。」
私は機械の腕に抱きつかれるように掴まれてしまった。身動きが取れない。悲鳴すら上げられないぐらいに身の毛がよだっている。
「まさか軍隊をも退ける実力のあるバアル護身兵を破壊するとは驚きなのです。まあしかし、私の目的はあくまでコハの誘拐と交渉ですから、私にとっては些細なことですがね。」
「おい。待て!」
体が持ち運ばれていく。人間離れしたジャンプ力で落とされれば死ぬような高さまで高く跳んでは降りるを繰り返しながらどこかへと連れ去られていく。遠ざかっていく仲間たち。見える景色が段々と変わっていく。
「助けて――。」って言った頃にはもうすでに遅かった。涙だけが頬を伝っていく。
◆
どこか分からない場所。周りは草に包まれた岩場。少し先へと行けば落下してしまうだろう。落下したら命は一溜りもないことは一目瞭然だった。他には無垢な景色が広がっている。
良い香りがする。レトルトのシチューだ。それから本格派の匂いがした。
「食べなさい。身が持ちませんよ。もちろん、毒なんてもの入れてませんから安心しなさい。」
しかし、それを受け入れる気持ちになれない。ただ、お腹が鳴ってしまった。
きっとアロ達が助けにきてくれる。だから、こんな物を受け取ってしまうのは邪道だ。しかしながら、体は正直に腹を鳴らす。本能的には食べたいけど、意識的には食べたくない。そんな葛藤だ。首を横に振って自分に打ち勝っていく。何度も打ち勝っていく。
「わざわざ食べる時間を設けたのに、もったいない。」
私は黙った。
彼はため息をついた。
「君は何か好きなものはあるのかね? なに、物で釣ろうという訳でもないですよ。ただ、誘拐されるという辛いことをさせてしまうから、せめて報酬ぐらいは立派なものを、と思いましてね。大人であれば何も考えず金で解決しそうですが、子ども相手では私もわかりかねますから。」
私はそれも無言で返した。
彼は私に背を向けて、出された折りたたみ式の鍋を片付けている。
今がチャンスだ。
私はひたすら逃げた。多分、すぐ追いつかれるだろう。だけど、追いつけた所で見つからなければいい。
私は岩場の先にある茂みの中へと入った。草を掻き分けて進む。「どこにいった?」という声が近くからした。草むらに潜めて先に行くのを待った。
音沙汰が消えた。
そのままゆっくりと移動する。
林の中、木々がさんざめく。心寂しい風の音がする。
「見つけました。そう逃げないで下さい。できれば丁重に扱いたいのですが、反抗されると乱暴に扱わないといけなくなりますのでね。怪我させるつもりはないのに怪我させてしまう。」
見つかってしまった。鼓動が早くなり息が荒くなるのが分かる。
踵を返して走ってもすぐに手を掴まれてしまった。
ピュンッ――。
何が起きたのか分からないが、突然にしてベルフェゴールは後ろへと飛ばされて、掴まれた腕は解放される。
目の先に見える一人の女の子。どこか強気な性格に見える。彼女は枝の上に乗っていた。
「ちゃおっ」と降りた後に挨拶してきた。
「ごめんねぇ。なーんか、悪っぽっかったから攻撃しちゃったぁ。まっ、バアルだし壊れても仕方ないよね。」
「毎度毎度、邪魔が現れますね。宿命として受け入れましょう。悪だ邪道だと言われても私は大義のためにコハを誘拐せねばならないのでしてね。」
「きゃはっ。この人、誘拐とか言っちゃったよ。誘拐だってぇ。とーんだ悪者だぁ。じゃあ倒しちゃっていいよね。どうせ死ぬことないし、機械だもん。ね!」
両手を前にしている。指を真っ直ぐ向けている。その指先が光った。放たれるレーザーがベルフェゴールを襲う。
このまま勝てる――。
そう思った矢先、攻撃は無効化されたみたいだ。何ともない様子で近づいてくる。
少しばかし目を凝らすと、レーザーはソレが持つ剣の腹に当たって反射していた。
「ちっ。能力の弱点に気づきやがったか。アンタ、逃げんぞ!」
今度は手のひらを開いて向けていた。
「全て跳ね返すまでです。」
「んな、分かりきってるよ。」
特大レーザーが目に見える程度の素早いスピードで放たれた。さらに追い討ちをかけるようにもう一つ同様のレーザーが放たれた。一つのレーザーが剣によって反射し、そのレーザーに後追いしたレーザーがぶつかる。
爆風とそれに乗る煙が視界を悪くする。
その間に私は手を引かれてこの場所を離れた。
◆
少し静けさの残る森の中、倒れた大木の上に座る。風が緩やかになびいている。
「誘拐されかけてたけど、あの中身は誰なの? 何で誘拐されかけてんの?」
「私もよく分からないんだけど、市長さんって言ってた。理由は私にもよく分からないんだ。」
彼女は「ふーん」と返した。
「自己紹介がまだだったやな。あちきはラメル。魔法少女だ。」
「魔法……少女?」
「見たよな、さっきのレーザー。あーんな異能力を持って悪い奴と戦う戦士が魔法少女なの。凄いっしょ?」
「うん。凄い。私もそんな凄い魔法少女になれるかな?」
ちょっと苦い顔をされた。「なっちゃダメ。魔法少女になるには"大切なもの"と引き換えにしなきゃ駄目だからさぁ」とどこか含みのある言葉で返された。
「そうなんだ。あっ、私はコハ。よろしくね。それとね――」と私は仲間たちと共にバアルの居場所を目指して旅をしていたことを伝えた。その際に突然襲ってきたアデイルに誘拐されかけたことも。
「バアルの居場所? 奇遇ねっ。ラメルもバアルの居場所に行きたかったの。まっ、理由は言えんけどなぁ。」
私達は握手を交わした。
草むらが揺れる。
体が硬直する。つまり身構えている証拠だ。
そこから現れたのは……ノラだった。
懐へと飛び込むノラを抱き抱えて撫でた。雄叫び……いや、おにゃけびを上げてゆっくり目を瞑っていた。思わず「可愛い」と呟いてしまった。
「ねぇ、その猫……。いや、気の……せい?」
何故か彼女は猫に動揺していた。
ちょっとした心の安らぎ。その安らぎによってお腹は思い出したのか音を出した。横から「これ食いな」と栄養食品バーを手渡された。「ありがとう」とそれを食べ始めた。
ほんのり甘いヨーグルト味だ。隠し味にレモンが入っている。食べると口の中に程よい甘さとレモンの酸っぱさが広がっていく。ただ、やはり単なるバーで、酸味は騙し騙しのレベルでしかない。ジュワッと弾ける果実感などは存在していない。食べれば食べるほどに口がパサパサしそうだ。だからと言って、お腹を満たすためにサクサクサクと平らげていく。それを食べ終えた。
唾液が口の中で量産されていく。
ゴクン。私が唾を飲み込んだ頃――
再び草むらが揺れた。
「ようやく見つけました。今度は逃げないで下さいね。」
「こいつ執拗いわね。」
「申し訳ないですが、今度こそ無理やりでも連れていきますよ。」
そこに現れるベルフェゴール。体が震え出すので、それを見せまいと猫をちょっぴり強く抱き締めた。
「ねぇ、女の子を誘拐しようと思ってるなんて、アンタ、とんだ悪党よね。正義なんか持ってないわけぇ?」
「正義ですか……。ある意味、これも正義なのです。」
「誘拐することが正義なのぉ? 馬っ鹿みたい。」
「立場が違えば見える景色が違うように、真実はいつも一つだとしてもその真実をどう受け止めてどう考えるかは十人十色のように、正義は一つではなく、無限なのです。そして、完全なる正しさなど零なんですよ。」
「はぁ? どういうこと? 意味不明すぎ。」
「貴女達が間違いだと思っていても、私にとってはこれが正しい選択だと思っているということです。愛する市民のため、未来のため、そして私の贖罪のため、コハさん、君には犠牲になって貰うしか無さそうでしてね。もちろん、理解して貰おうとも思ってもいませんが。」
ベルフェゴールが飛び出してきた。手には刀を盾のようにして持っている。それでレーザーを跳ね返すつもりなのだろう。
ラメルが魔法少女へと変身した。
鮮やかな変身だ。
レーザーが、ベルフェゴールの頭上の方向、斜め上に放たれた。レーザーが枝を切り取り落とす。それらが落下する。ベルフェゴールはそれらに視線を向けた。その落ちていく枝に視線を取られた隙に敵へと近づくラメル。
その行動を読まれていたみたいだ。
右手の剣で盾にして、左手で剣をしまう鞘を持って殴りかかっていく。
「すみませんね。怪我させることは私の正義に反しますが、こうでもしない限り君は止まらない。」
振られる鞘。その大きな筒がぶつかりかけた。
「駄目っ!」
【ソルティーブラック・ダイヤモンド】
「これはあの時の不思議な力……。」
ラメルを囲うように現れる結晶。決死の想いがこの能力を引き出した。
森は漆黒に飲み込まれる。私はドレスを見せびらかしながらその力を遺憾無く発揮する。
「ラメルちゃん。レーザーお願い!」
「えっ、あっ、うん」と唐突の状況に戸惑いながらもレーザーが放った。私がクリスタルを召喚してレーザーの軌道を変える。
今度は幾つも放たれるレーザー。それがクリスタルによって反射していく。ベルフェゴールはレーザーを目で追いきれずに四方八方からダメージを受けていた。
剣が落とされた。すかさずそれを拾う。
そして、結晶を踏み台にして高くへと来た。ビルで言ったら二階ぐらいだろう。そこから飛び降りて剣を突き刺す。きっと致命傷のはずだ。
一方で私は足を大きく痛めた。ズキリと痛みが広がっていく。ありがたい事に、この能力で回復していくものの、すぐには動けない。
腹に突き刺さった剣を引き抜くベルフェゴール。まだ立ち向かうみたいだ。
「せっかく……頑張ったのに」なんて私はつまらない言葉を口にしていた。本当に無意識の内に、だ。
「諦めるには早くない?」
そんな言葉で意識が立ち直る。まだ能力は終わっていない。まだ戦える。
ザンッ――。
ベルフェゴールが真っ二つになり、上半身が崩れ落ちた。剣が鞘に収められる音が響く。
そこに響く「おまたせ」の四文字。彼の声が私の心の氷を溶かしてくれている。彼の傷は少しずつ治っているように見える。それが私による能力効果であることはすぐにピンときた。
「ほら、無事じゃない。どうせ戻ってくるんでしょ。痛みを我慢してまで急いで行く必要なかったじゃない。」
「何を言っているんだ。早くに無事を確認できた。それだけで良かっただろ?」
今まで圧縮されていた心。この時、解放された。まさに今雲の上にいるかのような気持ちだ。安心感と感謝が血液を通って体中を駆け巡る。
ふと気になったことがある。「よくここが分かったね?」
遅れてピーちゃんがやってきた。
「こいつが教えてくれたんだ。」
「えっへん。僕がここまで導いたんだ。なんかここだって、ピンときてね!」
彼は近づいて私の頬を触れた。
「バアルを倒す最後の勇気……見てたよ。何よりも無事で良かった。」
何か頬についていたのだろう。それを拭うような動作をしていた。その時の顔はどこか儚い描写をしたキャンパスの中にあるような美しい表情をしていた。
この気持ちを抑えきれずにすぐ目の前のアロにハグをした。
包みに行ったのに包まれる感覚。カッコ良さ、勇気やら優しさやらが私の心に入り込んでくる。とても温かな時間だった。
長く感じるこの時間。けど、終わったら短く感じる今の時間。
この幸せの余韻に浸っていたい。
ビックリした。驚きだ。先程の余韻が瞬く間に破壊されたのだ。
「あーもう。ねぇ、アロ君、コイツの何がいいの?」
怒りの声がこの無音の空間に反響する。
私はあの行為を反省して俯いた。
「……仲間だろ? 良いも悪いもないと思うけどな。そもそも恋愛対象に見られていると思ってたの?」
「……え? 違うの。私の何が駄目だって言うのよ。」
空気が変わった。
「お前を一人前の――人として見れない。赤子と同じで、恋愛対象外だ。」
「どういうことなの……?」
「例えば、君は安全な轍を進むことはあっても、怪我を承知で薮を開拓して進むことはない。して貰うことには貪欲なのに、してあげることは消極的だ。とっても自己中心的で醜い。幼稚な子どもと同じだろ?」
「どういうことなのよ!」
「アンタにとっては少し難しい話をしよう。世の中において、何かを得るには身を削って対価を得るか、もしくは奪うしかない。そして、奪うんなら奪われ傷つく覚悟をしなきゃならない。だのにメリカは、身を削ろうとしないから与えるものが全く無い。それなのに自己主張は激しい。堂々と奪われる覚悟も持たないから奪われないようにと姑息に弱者を虐げる。例えばコハへの態度が……そうだろ?」
最後の一言に凝縮された圧により雰囲気が気圧される。
「いや……それは。その……。アイツが、わ――」
「何も持ち合わせず、何も与えられないアンタに恋愛的な価値なんて見出だせない。逆に問うが、アンタの価値はなんなんだ? 教えてくれないか?」
静寂を切り裂く鳴き声。涙が土に落ちていく。
一瞬、彼女が顔を上げた。瞳がギラッと光ったような気がした。
「もういいわよ。こんなチーム。抜けてやるっ。」
「旅の仲間から抜けろとは一言も言ってないんだけどな。ただ、その言葉は脅しの道具にならない。撤回するなら今のう――」
「知らないわよ。あんたらなんか知らない。あたしはもう抜けてやるから!」
力強く大地を踏み締めてどこかへと進んでいった。私達はただひたすらその背中を見ていた。
「追いかけ……ないの?」と聞いてみた。
「ああ。仲良しこよしの友達グループとはわけが違うんだ。別れる宣言は脅しの道具にはならない。言った時点で引き金は引いているんだ。そう易々と言っていいものじゃあない。」
「私の時は追いかけてくれたのに?」
「コハは無理やり連れ去られた。メリカは自分から抜けていった。大きな違いだ。現に、アレを言われた瞬間に関係性にヒビが入った。一度入ったヒビは元通りには治せない。普通なら絶縁されても文句は言えないことだ。」
あれ程まで毛嫌いしていたのに、いざ抜けるとなるとどこか憐れみの気持ちを感じてしまう。本当にこれで良かったのだろうか。
命懸けの旅をしてきたアロの言い分。無知蒙昧な私には口出しなんてとんでもないことだ。きっとこれが正しいことなのだろう。
「ただ、もし関係を戻したいと戻ってきた時は、自分から謝罪をするのならば認めたいと思っている。」
木にもたれかかったラメルが「あららぁ、そこは甘いんだ?」と訊ねた。それに対して「まあな」と軽く返されていた。
「それでお前は誰だ?」
「あちきはラメル。たまたまベルフェゴールに襲われてたこの子を助けに入った魔法少女――。ラメルはねぇえ、バアルの拠点に用があるんだぁ。理由を知りたい? 理由はぁ――復讐のため。」
一人で先々と進んでいくようなタイプに見えた。
「奇遇だな。俺達もそこを目指して旅をしていたんだ。そして、俺個人も復讐のために目指している。」
「利害が合致してるよねぇ。だから、旅に付き添ってもいいかなぁ?」
「俺はいいぞ。他は……?」と私と視線が合った。もちろん「私も良いよ」と答える。ピーちゃんも同様に答えた。
私達の旅の仲間はメリカが外れてラメルが入ってきた。
「流石に無いとは思うが、もしメリカが敵として立ち塞がったら、容赦なく戦わないといけない。情けはかけられない。それが旅という厳しさだ。一応、伝えておく。」
それはどこか淡々としたような虚しいような物言いだった。
木の葉が舞い落ちていく林の中を私達は進んでいった。




