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この出会い、最悪じゃないですか?

 ――……息が切れる。 もう休みたい…もう走りたくない…。


 俺は、かなり頑張ってここまで進んできたと思う…。

 本当に…ほんっとーーーーに、長かった…。


 あまりにも起こった事の密度が高すぎて、時間感覚がマヒしているのかもしれないが…

 リッチさんの所に居たのは体感 三ヶ月。

 そしてダンジョン脱出の為に出発してからは……多分一ヶ月だ。


 ポイズンリザードに襲われ、動く鎧たちに追われ…そこからは、牙が鋭すぎる狼、クソデカイ芋虫、水中を離れ、空飛ぶ魚…そんな奴らに追い回され…。


 時にはトラップにかかって死にかける…なんてこともあった。

 突然落とし穴が開いたり、壁が迫って来るタイプのトラップはホント良くないと思います。リッチさん。

 いや、リッチさんが仕掛けたのかは知らんけど。


 なにはともあれ、俺達は残りのマップが()()()()という所まできた。

 周囲のモンスターも、えげつない物から小型のものに変わって来て、本当に出口が近いんだな、と強く感じる。


 見てみろよ、あのスライム。

 ポイズンリザードと比べて可愛いもんだろう? まるで…出会ったばかりの頃のクロを見ているようだ。


 あ、ちなみに。 俺達は今、大量のスライムに追われています。



「流石に無理だってぇえええええ!!!!」



 俺達もいろいろ経験してきたし、二・三匹ならまだ何とかなったかもしれない。

 けど、流石にこの洪水みたいな量は無理!!多い!!流石に!!!


 ダンジョンの細い通路を上まで覆いつくし、ドバドバとあふれ出すように迫って来るスライムたち。

 クロは同族にもかかわらず、追って来るスライムたちを、その黒鋼の脚と生やしたエグ剣ではじき続けている。

 俺としては超ありがたいけども、なんで同族にも容赦ねぇんだ お前は。


 いつかクロに寝首を掻かれるんじゃないかという想像をしつつ、兎に角走り続けている。 冒頭でも言った通り、本当にもう休みたい。 しかし、ここは一本道。

 どこかに隠れて、アイツらをやり過ごす事も出来ない。

 あと、何故か最近妙にケツが寒い。


 それに…地図が正しければ、この先がダンジョンの出口なのだ


  …だったら、走り抜けるしかないだろう。


 前へ、前へ…まっすぐに出口へ…


 と、思ったのだが…。


  ――…見えてきたのは、行き止まりだった。


「なんでェ!!???」


 口の中が鉄の味で充満していたが、思わず大声が出る。


 ここが出口じゃなかったのか?

 …いや、道中様々な道が崩落していたことを考えると、これもあり得るのかもしれない。

 一番起こってほしくなかったことだけど。 よりによって、こんな追われてる時に。


 ポイズンリザードの時も同じような事が起きていたが、今回は別格だと感じた。


 もう行き場がない。

 スライムたちは押し寄せている。

 クロの攻撃も追いつかない。



 これでもう終わりなのか…?

  折角、地上まであと一歩なんだ。

 ここまで何とか生き抜いてきたんだ。

 ここで死んだら、それこそ俺も外への未練たらたらで、ゴーストやらアンデッドにでもなってしまいそうだ。


 諦めずに壁に触れて突破口を探る。


 …少し、壁が柔らかい。


 どうやら、この壁は土で出来ているらしく、手でも少し崩す事が出来た。


 しかし、手で崩れるとはいえ、土は土だ。

 流石に掘り続けていると爪が痛くなってくる。


 何か掘るのに使えそうなものは…と鞄を探っている間に、クロは体をねじり始めた。


 …ググ…ミシ…そんな音が出るほど、体をねじる。

 というか、スライムってねじったらそんな音すんの?


 そして、鋭く細い螺旋(らせん)状になった体を、勢いよく土壁に突き立て、ドリルのように回転しながら掘り始めた。

 良いぞ!!やってる事がスライムとは思えないけど!!

 全くもってスライムとは思えないけど!!


 クロ(ドリル)がガリガリと土壁を削り続けていると、不意に穴の向こうから光が差す。


 その光に、俺の心は一気に明るく照らされた。


「おっしゃ!!貫通した!!これで抜け出せる……――」



 ………ん?


 穴、ちっちゃくない?


 ……そう思っている間に、クロはちゅぽんと穴へ入っていき、一人で外へと脱出した。



 ~ Fin ~



「クロさぁぁぁああああああん!!!!????」


 あの野郎!!一人で逃げやがった!!!

 ここまで一緒に頑張って来た俺を残して!!

 いや、確かに俺は戦闘も獲物の解体も出来ないけどさ!!なにも置いてくことないじゃない!!!

 あとFinじゃねーよチクショー!!!まだ終わってねーわ!!終わりは見えてるけど!!


 そうやってドンドンと土壁を殴り、騒いでいる間にもスライムたちは押し寄せて来る。


 あああああああもうダメだ…!!!



 ―――…ドボンッ! その音共に、俺の体はスライムの群れに飲み込まれる。


 …圧迫感が凄い。


 体を全方向から押し込まれるような、そんな感覚が続く。


 スライムたちは今も尚、前へ前へと進み続けているのだろう。


 …クロのやつ…死んだらぜってー化けて出てやる…!!

 あと、ついでに俺を送り出したリッチさんと女神の枕元にも…!


 ……そう思った瞬間。


 土壁からミシミシという音が響き始める。


 圧迫され、開きづらい瞼を開けてみると…どうやら、スライムたちの圧で先ほどクロが開けた穴を中心に、壁の崩壊が始まっている。


 それを見て、助かるのかどうかなんて考える暇などなく…


 ―― 壁は一気に崩壊した。


 そして俺はスライムと共に濁流……いや噴水のように勢いよく押し出される。


 きっと、その衝撃で弧を描きながらぶっ飛んでいく俺は、一本釣りされたカツオが、船の中へ飛び込んでいくような有様だっただろう。


 そのままの勢いで、地面に向かって落ちていき……



 馬車に轢かれた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 時間は少し巻き戻り、数分前。


 金髪のツインテールを、緩く三つ編みに編んだ女性が、木製の馬に引かれる荷馬車の中で、手綱を握る銀の鎧の騎士を、うっとりと見つめている。

 その鎧は、地下で見たあの動く鎧たちに良く似ているように思える。


挿絵(By みてみん)


 ほう、と満足げにため息をつき、女性が正面を見ると…




 空 か ら 降 っ て 来 る 半 ケ ツ の 俺 が



「ギャアアアアア!!!!!臀部(ケツ)が!!!!!!!!」


 その声に驚いたのか、鎧の騎士は手綱を強く引っ張り、馬が暴走。

 そのまま俺は綺麗に轢かれ飛んだのだった。


 女性は、荷馬車から降りて騎士と共に慌ててこちらに駆けよる。


臀部(ケツ)…じゃなくて、そこの方ーっ!大丈夫ですかーーーっ!!??」


 ケツ呼びに若干違和感を覚えつつも、轢かれた衝撃で上半身が地面に埋まってしまった俺は、全力で足をバタ突かせる事しか出来ない。


「今引っ張り上げま……――キャッ!?」


 俺は、女性の小さな悲鳴が上がると同時に引っ張り上げられた。

 ガッツリ宙づり状態。


 何事かと思い、辺りを見回すと……



 ――居た。クロだ。


 クロは、俺をゆっくり地面へと下ろす。


 そうかそうか、クロが引っ張り上げてくれたか。

 ダンジョンも無事脱出できたよ。ありがとな。

 それはそうと許さんからな。


 そうやって睨む俺とクロを、女性は交互に見見続けている。

 女性は口元を両手で覆い、フルフルと震え続けている所を、騎士にポンと肩をたたかれ我に返る。


「そ、そうでしたね…!!あ、あのっ…お怪我は…。」


「問題ないですッ!!は、ははは…。」


「ですが…!轢かれたんですよ!?馬車に!!」


「い、いや、ホントに大丈夫グワーーーーーーーーーーッ!!!!!」


 クロに横っ腹を小突かれると、俺のありとあらゆる傷口から、血が噴き出していく。

 そうです。格好つけました。凄く格好つけました。

 だって、この人すげー可愛いんですもん。

 紫の瞳と服が、絹のような金髪に映えてて、マジで素敵なんです。格好つけたくもなるって。


 なのにクロ、お前ってヤツはァァアア…!!!!


 クロには絶対敵わないと知りつつも、俺はクロの胸倉(?)を掴んで取っ組み合いを始めたけど当然惨敗です。対戦ありがとうございました。


「あの…、」


 女性は、おずおずと口を開く。

 そりゃそうだよな。こんな所見せられて、良い気はしないよな…と向き直り…――


「と、とりあえず…!


 その臀部(おしり)どうにかしませんか……?」



 ――…その言葉に、俺は布に包まれていると思っていた尻に手を当てる。


 俺は、今ようやく……



 自身が半ケツだったという事に気が付いた。



 ………やれやれ。格好つけるかどうか以前の話じゃあないか。

 つまり俺は……この子の目の前で()()()()()()()()だったって事だろ?はっはっはっは…。



 死にたい。



 俺の脳内で生成された良い感じの妄想は、ガラガラと崩れ落ちていく。


 え、これいつから?

 …もしかして、ポイズンリザード戦から?

 いや、だとしてもあの時は平気だった……。

 と、言う事は……。多分だけど、鞄を洗い流した時に付着して、それでジワジワ溶けていった…ってこと…?


 で、半ケツに…?


 なるほど、納得だ。最悪だ。


 俺は、どうにかして声を絞り出したのだが…蚊の鳴くような「…ハイ……。」という声しか出す事が出来なかった。



 そんな中、俺は騎士に手を引かれて荷馬車へと向かって行く。

 荷馬車の中にあった荷掛け布を借り、腰に巻かせてもらった。

 どうも、男性用のズボンは旅に不要だったらしく、この荷馬車に積んでで居なかったらしい。


 ――ん…?


 じゃあ、この騎士は……?


 もしかして…


 ……女騎士っ!?


 麗しの女騎士のイメージが、すぐに頭の中に湧き出る。

 が、「この人にも俺の半ケツ見せちまったんだよな。」と、悲しみと羞恥の方が強くなっていく。

 とてもつらい。


「あぁいえ、違うんです…この子は。」


 その声は、あまりにもあっさりしていた。

 女性は、何のためらいもなく、キュポッいう音をたてて騎士の頭を外す。


 そこには何もなく、ただただ虚無が広がっていた。


「この子、動く鎧さんなんです。

 お名前はアイゼン。とても良いお名前でしょう?」


 それだけ言うと女性はアイゼン頭を戻し、うっとりと眺める。

 そしてハッと向き直り、優美なポーズでこちらに深々と頭を下げた。


「申し遅れました、私はリンセ。ただの…――ポーション職人を目指しております、リンセです。

 この度は、申し訳ございませんでした…。」


「そ、そんな!不運が重なった事故ですし…………あっ。」


 これは…今名乗れば、女の子に下の名前で呼んでもらうチャンスでは…!?

 これまでの人生、女の子には「茂手」か「モテナイ」としか呼ばれる事はなかった。

 今まで俺の事を「(ない)」と呼んだ異性は、親…もしくは俺をフッた幼馴染の姫奈(ひな)ぐらいだろう。


 だったら、その悲しい思い出を消し去る為にも、ここは下の名前で呼んでもらうのが良いんじゃないか…?

 そう考え、すぐに俺は自分の名を「(ない)」と告げた。


「まぁ、ナイ様とおっしゃるんですね。」


 聞いた?ナイ様。ナイ様って呼ばれたよ俺。

 良いんですか、そんな風に呼んでもらっちゃって。ウヒャア。

 多分、今の俺の顔はニヤけるのを必死に我慢しており、変な顔をしているに違いない。


 そんな俺にも、普通に対応してくれるリンセさんが天使…いや女神のように感じた。


「そうだ!良ければなのですが…良ければ私の回復ポーション、お試しになりませんか?

 轢いてしまったお詫びもしたいですし…。」


 そんな…ただの不幸のピタゴラスイッチなんだから気にしなくていいのに…。

 そう思いつつも、ファンタジー感満載の、回復ポーションには かなり興味がある。

 ここは、リンセさんの提案を受け入れ、頂くことにした。


「では、今から調合させていただきますね。」


「今から?」


「はい、ちょうど回復ポーションを切らしてしまっていたので…。」


 リンセさんは、三角のガラスの中に液体が入った髪留めを、一つ外す。

 それは何かと尋ねると、どうやらリンセさんの魔力を抽出したポーションらしい。


「髪には魔力が溜まりやすいので、髪に一番近い所に置いておくと、質のいい魔力を含んだポーションが出来るんです。」


 と、リンセさんが教えてくれた。


「へぇ。」と感心しながら見ていると、リンセさんはそのポーションを、積み荷から降ろした薪にポイと投げ、魔法で火をつけ始めた。

 どうやら、魔力を含んだポーションは、魔法の火を灯す為の燃料にもなるらしい。


 なるほど、魔道具に使う魔石と似たような役割か…と、納得している間に、リンセさんはアイゼンを呼ぶ。


 ポーションと言えば、やはり大釜でグツグツ煮込むイメージがある。

 その大釜を持ってきてもらうのだろう、と想像していたのだが……



 アイゼンを



 火の上に放り込んだ。



 しかも躊躇なく。



「リリリリリリンセさん!!!!???アイゼン大変な事になってますよ!!?」


「大丈夫ですよ~、いつもの事ですので!」


「いつもの事なの!!???」


 その後は、慣れた手つきで片開きのアイゼンのチェストプレートを開け、懐から出した素材と髪留めの魔力ポーションをポイポイと放り込んでいく。


「アイゼンのような動く鎧さんって、中にたっぷり魔力が詰まってるんです。

 なので、こうやって鍋として使えば、いつものポーションがさらに魔力たっぷりになって、良い効果を発揮してくれるようになるんですよ。」


 と、天使の笑顔を向けて来るリンセさんに、少しゾッとしてしまう。

 隣のクロも、全力で体をネジってビビり散らかしている。気持ちはわかるよ。


 …そういえば、アイゼンってワード…俺の居た世界では、ドイツ語で「鉄」って意味だったような…。

 …まさかね。素材として見てるわけじゃないだろう。たまたまアイゼンってついてるだけだ。


 …………あんまり深くは考えない事にした。



 ……やめてアイゼン。こっち見ないで。

 水蒸気で、頭のヘルムから「ボボボボッ」って出て来る音が、「タスケテ」って言ってるように空耳しちゃって怖いんだから。マジで。


 暫くして、リンセさんは火を止め、木製の器に おたまでポーションを注いでくれた。


 …色は、綺麗な赤色をしていて、香りも甘く…少し美味しそうに見える。


 あの状態のアイゼン(鍋扱いの動く鎧)さえ見なければ。

 ……そんなアイゼンは「お飲み」と言わんばかりにサムズアップをしている。

 本当にそれでいいのか、お前は。


 …俺は、全てから目をそらし、ポーションを飲む。

 爽やかな、りんごっぽい味がした。


 突如、急に体が軽くなっていくのを感じる。


 腕を見ると、無数についていた細かな傷まで消えていくのが見て取れる。

 傷が綺麗に全て治ったためか、クロが何度俺を小突いても、先ほどのように血が噴き出る事はなかった。

 けどクロ、小突くの普通に痛いからやめてね。


 しかし、このポーションという物は本当に凄い。


「これ、凄いですね…!?」


「でしょう?ふふ、回復ポーションには自信があるんです!」


 リンセさんは、アイゼンの胴鎧を丁寧に洗い、組み立て直しながら「えっへん」と胸を張る。

 手慣れてるゥ…。「いつもこう」という言葉に説得力を増さないでもらいたい。


「そういえば、ナイ様はこちらで何を?」


「俺ですか?」


 …そう言えば、ダンジョンから脱出するのが最優先で、それ以降は各地を見て回る…としか考えてなかったな。

 ハーレム作りたくて各地を回る……だなんて、そんな確定でドン引きされる事は絶対に言えないし。


「せ、世界を旅している途中で…とりあえず近くの町まで行く所だったんです。」


 そんな俺は、咄嗟にそれしか言葉が出なかった。

 ある意味世界をめぐる旅だし、嘘は言っていない。


「でしたらっ!よろしければ、私の馬車で行きませんか?

 私たちも、ちょうど街の商業ギルドに行く所だったんです!

 是非、そちらの方もご一緒に…」


 かなり食い気味で、リンセさんはこちらに詰め寄る。

 そんなリンセさんの視線は、がっつりクロに向いている……。


 …。


 クロがエグ剣を生やして地面に突き立て、全力で乗車拒否する中……俺は笑顔で承諾した。

 散々ひでー目に合わされた恨みを晴らしてくれるわ。


 こうして、俺達はリンセさんの荷馬車に(一部強制的に)乗り込むことになったのだった。

初めてのブクマ!うれしい!うれしい!!


うれしくなって、つい勢いだけで挿絵描いてしまいました。反省してます。

それと明けました、おめでとうございます。

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