転6
転6
その日、空はとても高かった。
見える範囲すべてが青で埋め尽くされ、子どもでさえ気持ちいいと思えるほど、よく晴れていた。
太陽から注がれる暖かさと、夜のうちに冷やされた空気が混ざり合い、日中の空気はちょうどよい温度で身体を包み込む。季節の変わり目が、最適な体感を与えてくれているようだった。
学校が終わり、家に着いた黒川は、今日も猫の世話に出かけた。いつも通り、牛乳を持って。いつも通り、空き家までの道を歩く。
空き家に着く。敷地内は相変わらず雑草が生い茂っており、それを掻き分けながら奥へと進んでいった。
猫は、死んでいた。
目を閉じたまま、小さな口を開けて横たわっている。牛乳を舐めていた小さな舌は、戻す力を失い、だらりと外へ垂れていた。
本当に死んでいるのか確かめようと、黒川は手を伸ばす。だが、あと数センチのところで、その手は止まった。怖くて、触れない。
蚊を殺したこともある。飼っていたカブトムシが死んだことも、学校で育てたひまわりが枯れたこともあった。それらとはまったく違う――命の重みを伴った「死」が、そこにはあった。
黒川は、その場に膝をついた。
せめて、由依がまた学校に通えるようになるまで、生きていてほしかった。一緒に世話をして、笑顔にしてあげたかった。
同時に、黒川はどこかで、猫と由依を重ねていた。自分がこの猫の世話をしていれば、猫が元気でいてくれれば、きっと、由依も元気になってくれる――そんな、根拠のない願いを抱いていた。
猫の死は、由依までもが戻ってこないのではないかという焦燥を呼び起こし、守れなかった自分に責任があるのだという罪悪感を黒川に突きつけた。
お墓を作ってあげようかとも思った。けれど、やはり死体には触れなかった。せめてもの償いとして、持ってきた牛乳を、猫の口元に置く。
「……ごめんね」
それだけを残し、黒川は家へ帰った。
帰り道、由依にこのことを伝えるべきか、考え続けた。正直に話すべきか。それとも、入院している間だけは「元気にしている」と嘘をつくべきか。答えは出ないまま、家に着いた。
その日の夜、病院から電話がかかってきた。受話器を取った母親に、由依の容体が急変したことが告げられる。
両親は慌てて病院へ向かった。
黒川は、行かなかった。一人、布団に潜り込み、身を縮めた。




