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転4

転4


子どもの手のひらにも収まってしまいそうなほど小さな猫は、わずかに残った体力を振り絞るように四本の足で立ち上がり、小刻みに震えていた。

黒川と由依の存在に気付き、「ミャア、ミャア」と絞り出すように必死に鳴き続けている。

「……ほんとに、いた」

由依の行動を半ば疑っていた黒川の口から、思わず本音がこぼれた。

「でしょ?」

「こんなにちっちゃい声が聞こえたのか?」

「うん。こんなにちっちゃいのに、聞こえたの」

二人は猫の前にしゃがみ込み、じっと様子を観察した。

「この子、なんで一人なんだろ。ママ、いないのかな」

「……うーん。ママとはぐれちゃったか、飼ってた人に捨てられたかとか?」

「このままだと死んじゃうよ。お家に連れていけないかな」

「パパとママに聞かないで連れてくのは、ダメだよ」

「じゃあ……お腹空いてそうだし、家から食べるもの持ってこようよ」

二人は急いで家へ戻った。

由依の危なっかしい小走りを見ながら、黒川は気が気ではなかった。無理をして体調を崩さないだろうか。もし今日また由依が寝込むことになったら、きっと自分が怒られる――そんなことまで頭をよぎる。

家に着くと、二人で猫が食べられそうなものを探した。

黒川は牛乳を小さな器に移し替え、食パンを一枚だけビニール袋に入れる。

「お兄ちゃん、これどうかな?」

由依は両手で果汁グミのぶどうを持ち、嬉しそうに差し出した。

「……なんとなくだけど、それはちょっと違う気がする」

「えー。柔らかいから、いけそうな気がするけど」

再び空き家へ戻り、まずは牛乳を猫の前に置いた。

猫は「ミャア、ミャア」と鳴きながら器に顔を埋め、子どもの爪よりも小さな舌を伸ばして、懸命に牛乳を飲み始める。

「飲んでくれたね」

由依は黒川を見上げ、ほっとしたように笑った。

「これからもご飯持ってくるから、大きくなってね」

食事の邪魔にならないよう、由依は人差し指と中指で、猫の小さな頭をそっと撫でた。


それから毎日、黒川と由依は学校が終わると牛乳を持って猫のもとへ通った。

通学路にできた水たまりや、道端の雑草に足を止めることもなく、由依は学校が終わると一目散に家へ帰り、そして空き家へ向かった。

毎日、毎日。

黒川はそのすべてに付き合った。


――由依が再び体調を崩し、入院するまで。



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