表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/22

承5

承5


自宅から通える高校はいくつかあった。将来の夢や就きたい仕事が決まっていなかった美月は、いくつか見学に行った学校の中で、一番トイレがきれいな学校を選んだ。

美月の通う中学校は歴史があり、伝統もある。しかしその分、設備は古く、特にトイレの老朽化はひどかった。

三年間、ずっとそのトイレに我慢し続けた美月にとって、清潔なトイレは天国だった。

だがしかし、その判断は入学からわずか3日で間違っていたと気づく。その高校には、美月の中学から進学した生徒が、美月以外いなかったのだ。


話せる人がいない。


思春期の女子にとって、それは一大事だった。

他の生徒たちは中学時代からの友人同士で休み時間を過ごし、昼は連れ立って弁当を食べている。

美月には、その「一緒にいる相手」がいなかった。

休み時間は、次の授業の準備が1分30秒で終わってしまい、あとはトイレに行くか、窓の外の景色を眺めて過ごす。

昼休みは、一人で弁当を広げ、黙々と食べる。味はいつも通りでも味気ない。

寂しいというより、自分がクラスメイトからどう見られているのかが気になって、ただただ気まずかった。


入学から二週間ほど経ったある朝。


教室に入っても「おはよう」と声をかける友達がいない美月は、すぐに自分の席に座り、机の右側にバッグをかけて、最初の授業の準備をする。

今日も、ひとりの一日が始まる…と思ったそのとき、美月の頭の上から声がした。


「あ、それ、色違いじゃん」


驚いた美月は顔を上げ、「えっ?」と答える。突然の呼びかけに声は少し上ずった。

そこに立っていたのは、斜め前の席の高倉詩織だった。詩織はたった今、教室に入ってきたらしく、まだバッグを肩にかけたままだ。

思いがけず話しかけられ、緊張で固まる美月。そんな彼女に、詩織は歯を見せて笑い、自分のバッグを指さした。

そこには、灰色の「猫男爵」が同じようにぶら下がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ