表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/21

承4

承4


猫受け取りの日。

美月は、手続きに必要な印鑑と、猫を連れて帰るためのキャリーケースを手に、ペットショップへ向かった。

慎重にドアを開ける。キャリーが思ったよりも大きく、店に入るだけでも少し手間取った。

「いらっしゃいませ。――あ、篠崎さん。お待ちしてました」

店内には梓がいて、美月を見つけるなり、ぱっと明るい笑顔を見せた。

その笑顔と、整った体のライン。女性の美月から見ても、思わず目を奪われるほど梓は女性らしさに溢れていた。

「猫ちゃん、連れてきますね。書類を書いてもらいますので、あちらでお待ちください」

店の奥には簡易的なテーブルと椅子があり、美月はそこに腰を下ろした。ふと横を見ると、犬のケージがあり、中には黒いパグが眠っていた。椅子を引いたときの音で気づいたのか、パグはちらりと美月を見たが、すぐに興味を失ってまた目を閉じた。

「君、黒いね〜」

思ったままの言葉が口をつく。だがパグは何の反応も見せず、寝息を立て続けていた。

やがて、梓がケージを運んできた。

中には灰色の猫がいる。突然の移動に驚いたのか、四本の足で立ち上がり、尻尾を下げ、足の間に巻き込むようにしている。

美月の前にケージが置かれると、その猫はじっと美月を見つめた。

「こんにちは。具合どう? ご飯、食べられてる?」

美月の顔は笑顔がベースだか、少し心配そうな目で話しかけた。

「まだ少し鼻風邪が残っているので、落ち着いたら病院で診てもらってください。よろしければ、病院をご紹介します」

猫の代わりに、梓が答える。

「でも、ご飯はけっこう食べてるよね〜」

そう言って猫に微笑む梓の表情を見て、美月は少し安心した。


世話の仕方やご飯の量、ペット保険などの説明を一通り受け、美月は書類にサインした。

控えを受け取ると、すべての手続きが完了した。

「はーい、お待たせ。たくさん可愛がってもらうんだよ〜」

梓はケージから猫を抱き上げ、美月のキャリーに移し替えた。キャリーの隙間から外を覗く猫に、美月はそっと声をかける。

「狭くてごめんね。新しいおうち、行こうね」

「これも一緒に入れてあげていいですか?」

梓がケージの中から一枚のタオルを取り出し、美月に差し出した。

「きれいじゃないタオルでごめんなさい。でも、自分のにおいがついたものがあると、猫も落ち着くんです。よかったら入れてあげてください」

「ありがとうございます。もちろん、いただきます」

美月はタオルを受け取り、キャリーの上の扉を開けて中に入れようとした。慣れない状況に警戒心を強めた猫が、わしゃわしゃと手を伸ばしてくる。

「出ちゃダメだよ〜。ね、もう少し待ってね」

美月は手を挟まないように注意しながら、そっと扉を閉めた。

「ところで、さっきお話しした病院のことなんですけど……」

猫との攻防が落ち着いた頃、梓が口を開いた。

「もちろん、ご自宅の近くにいい先生がいればそこで構いません。ただ、うちの子たちをよく診てくださる先生がいて。よければお伝えしますね。口数は少ないけれど、優しくて信頼できる先生ですよ」

「あ、はい。ありがとうございます」

美月はスマホを取り出し、メモアプリを開いた。

梓はタイミングを見計らって、その病院名を告げる。


「北原動物病院の北原先生です」


その名を口にした梓の表情は、いつもと同じように優しく、穏やかだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ