承2
ペットショップの奥の部屋に入ると、小さなケージがいくつも積まれた空間に通された。
中には布が掛けられたケージもあり、その下からは微かな鳴き声や物音が聞こえてくる。
ケージの中の子猫たちは、美月たちが入ってきたことに興奮して動き回る子もいれば、まるで自分には関係ないと言わんばかりに眠り続けている子もいた。
「えー!こっちにもたくさんいる!君たちは、あっちの子たちと何が違うの?」
美月は、答えが返ってこないとわかっていながら、猫たちに話しかけた。
「こちらは保護猫たちで、病気を持っていたり、繁殖させすぎてブリーダーに見捨てられた子たちなんです」
猫の代わりに、店員の梓が答える。
「ん〜、かわいそうだね……君たちは悪くないのにね。布を被せてる子は何か理由があるんですか?」
「来たばかりで緊張している子もいれば、時間が経っても人に馴染めない子たちです。もしかしたら、人間にいじめられた経験がある子もいるかもしれません」
「そうですか……」
美月は胸の奥に小さな痛みを覚えながらも、猫たちに優しく微笑んだ。
本多と美月は、保護猫のフロアをひと通り歩いた。
そのとき、美月の目に一匹の猫が留まった。
全身が淡い灰色のその猫は、見知らぬ人間を怖がるように身を小さくしていたが、上目遣いでそっと美月の方を見ていた。
だが、美月がその視線に気づいた瞬間、灰色の猫は慌てたように目を逸らし、まるで初めから見ていなかったかのように目を閉じて、寝たふりをした。
「君、今こっち見てたでしょ? 目が合ったの知ってるぞ〜。寝たふりしてるな」
美月は猫の前に回り込み、笑いながら話しかけた。
梓が近づき、猫について説明した。
「その子もちょっと病気がちなんです」
「え〜、重い病気なんですか?」
「いえ、風邪が少し長引いているだけで。大人になって体力がつけば、きっと大丈夫です。ただ……店の商品としては扱えなくなってしまって」
「そうかぁ……こんなに可愛いのになぁ」
猫たちを見終えた本多と美月は、店を後にした。
帰宅した美月は、家事を済ませ、湯船で体を温め、肌の手入れを入念に済ませてから布団に入った。
だが、瞼を閉じても、頭の中にはあの灰色の猫の姿が浮かんでくる。
何をしていても――あの猫のことが、どうしても頭から離れなかった。




