〈9〉
「ギターが上達すると自分に才能も情熱もないことがわかるんだ。あ、逆か才能も情熱もないことがわかることが上達してることなんだ。まあどっちでもいいか」
金井君は何かを発見したような感じでうれしそうにこういうことをよく言う。
こういう明るいんだか暗いんだかよくわからない感じが美樹のツボに入っているらしく。初めは私を通じて3人でしか話さなかったが、金井君と美樹はよく2人でも話していることが多くなった。
傍目には2人は「いい感じ」に見えたが不思議と元取り巻きたちの嫉妬は買っていないようだった。一見美樹を独占しているように見える金井君だが彼の低スペック度合いが安全弁になっているらしい。
金井君は金井君で美樹のことをこれっぽちも意識しておらず、おそらく金井くんには美樹は2次元の存在に見えていて美樹には金井君がただの男子ではなくただの人間…ですらなく金井翔太という1つの生命体のように認識されていてこの2人の関係は種族を超えた何がしかなのだろう。
こういう雰囲気をクラス全体が察していて美樹という女王が金井翔太というペットを愛でているだけの放課後の光景がよくあった。