表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/64

〈1〉

 無論ブスである。なので私は男子とも屈託なく話せる。何も期待していないからだ。しかしその中に誰かの好きな男子がいたらアウトだ。上履きに画びょう、机にゴミ、逆もあったか。まあ古典的なのを何個も食らった。その中に私のことをかわいいと言ってた子もいたか。


 そんな中学時代を過ごしてから高校2年になった。

 ブスはブス同士固まるのが常である。昼休み舞香と絵美里と私、教室の左前の隅っこでお弁当。そして今日も加藤美樹は教室の真ん中の机に座って周りの男子とでかい声でしゃべってる。その席の椅子にはその席の男子が座っているがそいつは何も言わずイヤホンで音楽でも聴いてる。美樹の背中というかほぼケツを見ようと思えば見れるが、なんか下を向いて聴いてる。

 美樹はハッとするほどの美人だ。私は美人を見ると三島由紀夫の金閣寺に出てくる有為子役にふさわしいかを無意識に考える癖があった。そして美樹は今までで一番有為子のイメージに近かった。

 切れ長の目はどこか刃物のような鋭さがありながら涼し気、輪郭は細面で、肌は白くきめが細かい。髪はストレートのロング。目があえば、女の私でもドキッとして、一瞬で心臓をその瞳の刃で刺されたような衝撃を受ける。

 美樹はそのクールな印象とは真逆にふるまった。笑う時はぎゃははと屈託なく、よく言えば明るいが、机の上に座って片足をあぐらのように組んでの雑談はむしろ下品でもあった。イメージと逆に振る舞うことによって無用な恋慕を防ぐ算段であるのだろうと私には見えた。美人には美人なりの気苦労がありおそらく彼女なりの結論がそう振る舞うことなのだろう。しかしその豪胆さは一種の気さくさや親しみやすさともとらえられ、取り巻きはすぐに増えていった。

 そんなある日、美樹はあのアイドルグループ「エレメントガール」の3期生に応募していることが分かった。

 鈴音ちゃんが教えてくれた「まだ内緒なんだけど」って。

 美樹はエレメントガールの最終選考にまで進んでいた。しばらくしてネットやテレビでも顔が公開され、もちろん学校中で噂は持ちきりになった。美樹が学校を歩くと必ずその周辺では振り返る、少し距離をとる、隣の子とひそひそ話すなどのリアクションが見られるようになった。

 という超美人がクラスにいるので私など他のクラスメイトの眼中に入りようもなく、卒業まで教室の隅っこで静かで平穏な毎日が待っているはずだった…


 早朝散歩は私のささやかな楽しみだ。新城川を3キロほど歩くのだが今日見てしまった。美樹を。美樹はジョギングをしていた。隣の中学出身で近所なのは知っていたが会ったことは一度もなかった。おそらく最終選考に受かるためのダイエットなのだろう。向かいから走ってくる美樹は私を発見し、一瞬目を大きく見開き、またすぐ美樹に戻って「葵ちゃん!」と私を下の名前で呼んだ。私は美樹の影の努力を見てしまった。影の努力を見られる快感ゆえの「葵ちゃん!」だったのだろうか。影の努力を見られるほど気分のいいものはないのだろう。私は「加藤さんすごいねえ」と一応なんとなく褒めておいたら

「葵ちゃんもダイエットなの?」

とキラキラした笑顔で言った。

「あ、いや私はただの散歩だから…」

「そっかあ葵ちゃん別にやせる必要ないもんね」

と私より細い美樹が言う。そして何となく番号を交換し別れた…。彼女と友達になったのか…?私は…



2024 4月26日10000PVになりました。いいね、高評価、感想などいただいた方に深謝いたします。また読んでいただいた方も本当に感謝です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ