〈1〉
無論ブスである。なので私は男子とも屈託なく話せる。何も期待していないからだ。しかしその中に誰かの好きな男子がいたらアウトだ。上履きに画びょう、机にゴミ、逆もあったか。まあ古典的なのを何個も食らった。その中に私のことをかわいいと言ってた子もいたか。
そんな中学時代を過ごしてから高校2年になった。
ブスはブス同士固まるのが常である。昼休み舞香と絵美里と私、教室の左前の隅っこでお弁当。そして今日も加藤美樹は教室の真ん中の机に座って周りの男子とでかい声でしゃべってる。その席の椅子にはその席の男子が座っているがそいつは何も言わずイヤホンで音楽でも聴いてる。美樹の背中というかほぼケツを見ようと思えば見れるが、なんか下を向いて聴いてる。
美樹はハッとするほどの美人だ。私は美人を見ると三島由紀夫の金閣寺に出てくる有為子役にふさわしいかを無意識に考える癖があった。そして美樹は今までで一番有為子のイメージに近かった。
切れ長の目はどこか刃物のような鋭さがありながら涼し気、輪郭は細面で、肌は白くきめが細かい。髪はストレートのロング。目があえば、女の私でもドキッとして、一瞬で心臓をその瞳の刃で刺されたような衝撃を受ける。
美樹はそのクールな印象とは真逆にふるまった。笑う時はぎゃははと屈託なく、よく言えば明るいが、机の上に座って片足をあぐらのように組んでの雑談はむしろ下品でもあった。イメージと逆に振る舞うことによって無用な恋慕を防ぐ算段であるのだろうと私には見えた。美人には美人なりの気苦労がありおそらく彼女なりの結論がそう振る舞うことなのだろう。しかしその豪胆さは一種の気さくさや親しみやすさともとらえられ、取り巻きはすぐに増えていった。
そんなある日、美樹はあのアイドルグループ「エレメントガール」の3期生に応募していることが分かった。
鈴音ちゃんが教えてくれた「まだ内緒なんだけど」って。
美樹はエレメントガールの最終選考にまで進んでいた。しばらくしてネットやテレビでも顔が公開され、もちろん学校中で噂は持ちきりになった。美樹が学校を歩くと必ずその周辺では振り返る、少し距離をとる、隣の子とひそひそ話すなどのリアクションが見られるようになった。
という超美人がクラスにいるので私など他のクラスメイトの眼中に入りようもなく、卒業まで教室の隅っこで静かで平穏な毎日が待っているはずだった…
早朝散歩は私のささやかな楽しみだ。新城川を3キロほど歩くのだが今日見てしまった。美樹を。美樹はジョギングをしていた。隣の中学出身で近所なのは知っていたが会ったことは一度もなかった。おそらく最終選考に受かるためのダイエットなのだろう。向かいから走ってくる美樹は私を発見し、一瞬目を大きく見開き、またすぐ美樹に戻って「葵ちゃん!」と私を下の名前で呼んだ。私は美樹の影の努力を見てしまった。影の努力を見られる快感ゆえの「葵ちゃん!」だったのだろうか。影の努力を見られるほど気分のいいものはないのだろう。私は「加藤さんすごいねえ」と一応なんとなく褒めておいたら
「葵ちゃんもダイエットなの?」
とキラキラした笑顔で言った。
「あ、いや私はただの散歩だから…」
「そっかあ葵ちゃん別にやせる必要ないもんね」
と私より細い美樹が言う。そして何となく番号を交換し別れた…。彼女と友達になったのか…?私は…
2024 4月26日10000PVになりました。いいね、高評価、感想などいただいた方に深謝いたします。また読んでいただいた方も本当に感謝です。