過去の因縁に溺れて 四話
流石に三回も同じ森に入るとなると慣れてくるものがある。似たような景色が続いてきたがここは僕が初めて戦った場所だ。
「目的地に着いたのはいいが。精霊で引き寄せちまうと一匹じゃすまねえだろ」
「私はレンに邪魔させないようにするから。後は任せた。」
「だから私達を連れてきたんですね」
そう言うと前と同じように僕たち二人を残して距離をとって配置につく。
「相棒、起きて」
「きゅー?」
相棒は眠そうな声を出しながら顔を前足で擦っている。どうやら朝に弱いようだ。
相棒が動物を引き寄せるのは条件がある。それが起きたのはおそらく二回、宝晶兎に囲まれた時と狼が来た時だ。あっ熊が来た時も入れていいかも。
どちらにしろ共通するのは相棒の魔力が外部にでていたということだ。一回目は相棒が冷気で頭痛を治してくれた。二回目は練習の時と木にぶつかりそうになったのを助けてくれた時だ。
問題はその二つが契約する前の話っていうことなんだけど、相棒が契約の繋がりを通して作戦に問題ないことを教えてくれた。
「キュー!」
相棒が叫ぶとそれに呼応するかのように次々と葉が揺れる。そして周りから前よりも明らかに多い数の宝晶兎が三方向から飛び出してくる。
「先頭の一匹をレンに向かわせるから、残りはそっちで対処しろ」
「了解です。アルさんなるべく静かにですよ」
「お、おう」
まず最初にグラナさんが動いた。静かに膝をつけて服の衣擦れ音が聞こえないほど滑らかにそして素早く矢をつがえる。
<怨矢・抱擁>
放たれた矢は先頭の兎の少し上を通過して後ろの地面に刺さった。外れたと思うより早く地面が黒に染まりそれに触れる兎たちが何かに縛られたように動けなくなる。
前に見たのと同じだ。地面に刺さった後に効果が発動してる。一手で十匹以上の兎を捕らえてさらに一匹を誘導するのはすごいけど、残りの群れはどうしよう。
<障壁>
突如、ガキンガキンと硬い壁に兎がぶつかる音が響く。びっくりして音の鳴る方を向くとオリーブさんが銀色の枝のようなアクセサリーを右手にぶら下げて兎に突き出しているのが目に入った。
<沈静>
穏やかなでも少し眩しい、そんな光が兎たちを包み込むように放たれる。反対側で見ている僕もなんだか心が落ち着く。
余裕ができた僕は改めて貰った剣を抜いてみた。抜いて構える、ゲームのような動作を少しやってみる。それだけでも感じるものがあった。抜く時の清涼感ある金属音、負担を感じない軽い刀身と反対に手の中で収まらないほどの存在感、
そしてグリフさんらしいシンプルな剣の飾り、無骨で無機物を全面に押し出した冷ややかな滑らかさから、鋭いけど優しいそんな思いが一点に込められている温もりを感じた。
見ただけの僕でも緊張が解けるほどの光。それを直に受けた兎たちは完全に戦意を無くして森へ帰っていった。
「おいおい静かにしろって言った奴が一番うるさいじゃねえか」
「すみません。沈静が完全に効く前に突っ込んできたので、いつもより速いですね兎たち」
軽口を叩く暇があるのだろうかと、アルマンさんの様子を見てみたら異変に気づいた。アルマンさんの足元に無数の兎たちの死体が転がっている。
しかしそれよりも気になるのは背にある斧を使ったあとがなく、手に持っているのが僕の持っている剣よりさらに小さいナイフだということだ。
分かっていたことだけど皆さんは強くて僕が知らない戦い方あるということ。その事実に心を躍らせていると、コツンと頭の上に手が置かれた。
「よそ見しない。そろそろ君の相手が来る。」
残った一匹は周りをキョロキョロと見回したあと、仲間がいないにもかかわらず僕に、正確には服の中にいる相棒に向かって突っ込んできた。
来る!僕はいつの間にか両手で握っていた短剣を構える。兎が飛ぶ狙いは前と同じ胸の中心、そこまで分かれば簡単だ。今度は側面から首を攻撃すればいい。
タイミングを合わせて右足を一歩踏み出す。そして飛んできた兎の首元目掛けて左下から切り上げるように剣を振った。初めて体験した命を切る感覚。それよりも今は首ではなく肩を切ったこと、そもそもかすり傷程度しか与えられてないことに困惑した。
「踏み込みが甘い。力みすぎ。」
確かにそうだ。僕はまだ覚悟ができていないのかもしれない。でもごめんなさい。僕は強くならなきゃ、変わらないといけないんだ。ごめんなさい?、、そこが引っかかり兎を回避しながら考える。
本当にそうなのかな。強くなるため生きるために犠牲にしたものに謝りながらこれから過ごしていくの?違う気がする。今言うべきことはこれじゃないはずだ。
ふとお父さんの言っていたこと思い出す。命を奪っていることを受け止めることは少なくとも許してもらうために謝るようなことじゃない。
だからこそお父さんは今まで自分を作ってきたものに感謝しろって言ったんだ。今一度自分がするべきことを決めた。
もう一回やり直すように丁寧に構える。握りを緩めて肩の力を抜いた。そしてただ自然と右足を出す、転びそうな体を支えるように自然と。
これまで逡巡してきたのと反比例して結果は一瞬だった。狙い定めた刃は喉元から首までを容易に切り裂いた。切った時の感触はなかった。でも感じたことは多かった。
静かにただ寝ているだけのように動かない兎の前で手を合わせる。
「ありがとう。君の命を使って僕はこれから生きてみせるよ」
この世界の価値観では本来ありえないかもしれない光景をただ四人だけが静かに見守っていた。




