因縁の過去に溺れて 一話
第一地区の詳しい場所は分からないが町の中心ということがわかっているので急いで走る。
忘れていたことを思い出した今、止まるわけにはいかない。記憶を戻す方法も手がかりもないなら最後の希望はあの熊しかない。それかもう一回死んでみるか?いやっ、それは最終手段だ。これ以上死ぬわけにはいかない。
「キュ!」
相棒が声を上げてフィリさん達がいるであろう建物を教えてくれる
「見つけたの!相棒」
方向を変えて走る勢いそのままで扉に近づいていく、そしてドアノブに触れようとした時。逆に勢いよく扉が開かれて、おなかにドアノブが突き刺さり吹き飛ばされた。
「うぐっ、開き戸だった」
「あっごめんなさい。あれっ蓮?何してるのこんな所で。」
「皆さんに話したいことがあるんです」
「そう。ならこっちに来て。みんながいる部屋に行く。」
差し出された手を掴んで起き上がる。そのまま手を掴まれた状態で宿屋に入り部屋まで案内される。なんか懐かしい感じがするなぁ。記憶は今でも思い出せない、でも気持ちは残っている。握った手を
振り回される感覚が。
もう子供じゃないからかな。手を繋ぐのはちょっとだけ恥ずかしいや。
階段を登り扉の前に着いた。フィリさんが数回ノックしてすぐさま
扉を開けて部屋に入る。
「ちょっとフィーリアさんノックしてもすぐ入ってきたら意味がないでしょう」
「イサラを探しに行ったにしては随分と帰りが早かったな」
「ていうか後ろにいるのはレンじゃねぇか!どうしたんだ」
「私たちに話したいことだって。」
「うーん。あまり良い話では無さそうですね」
口に出すのが少し憚られる。それは僕がやろうとしていることが間違っているというのが自分でも分かるからだ。少し息を吸い呼吸を整える。そして意を決して話す
「大きな、とても大きな熊に会いました」
4人の表情が変わった。
「その体はまるで水の塊いや、川そのものでした。弱い僕は見ただけで意識を失うことになりました。でもそれでよかったのかもしれません、大切なことを忘れていることに気づいたから。」
今まで黙って話を聞いていたフィリさんが口を開いた
「それで。本題は、私たちになにを言いたいの?」
「はい、みなさんが深獣を狙ってると聞いて、そして反応を見て確信しました。僕もあの深獣を倒す手伝いをさせて下さい」
「おいおい、それは流石に危険すぎるぞ」
「そうですよ。今の私たちでも勝てるか分からないのに」
「今回は俺も賛成はできないな」
普通はそうだよね。間違ってるとか以前の問題だ。でも
「理由は?レンはアイツに何を求めているの。」
「八つ当たりに近いかもしれません。僕は絶対に記憶を取り戻したい。でも手がかりが全くないんです。深獣が関係しているのかもう一回死にかけるかどちらかしか可能性がない。それに僕はこのままじゃダメなんです。変わらないと前に進めない」
危険なことも間違っていることも意固地になる所じゃないのもわかっているでも僕にも譲れないものがある!
「レン君。大切な思いがあることは十分伝わりました。そしてそれを忘れてしまう辛さは私達が本当に理解することは出来ないでしょう。それでも他に方法があるはずです。」
「レン。お前は今焦ってるんだ、生き急ぐと言っても良い、それでは視界は狭まり思考は鈍る。そして手段を選択を間違う」
「そうだ。そもそも俺たちは深獣を狩るためそして深獣から守るためここにいるんだ。そこを曲げるわけにはいかねぇ」
こうなることは分かっていた。でもそうだとしても僕も曲げない、説得しなくちゃいけないんだ。その準備も考えてきた。
「私はレンの話を聞いても良いと思う。」
「「「フィリ(さん)!!」」」
「待って。みんなの意見には賛成。でもレンにもそれぐらいは分かってる。その上で私たちを納得させるものがあるんでしょう。レンは私たちの戦力になれるの?君には何ができる。」
思いもよらない援護がきた。自分に出来ることそれを今まで考えてきた。前は答えを出すことできなかった。でも今なら答えられる。
「僕は、、今の僕はお金を稼げます!!!」
「「「はぁーー!!!」」」
「へぇー」
「僕には契約をしてくれた相棒がいます。相棒にはどういうわけか動物が寄ってきます。これを利用すればお金は効率的に稼げる」
「お金を稼いでどうするつもりですか」
「刻陣石、これが僕が出した結論です。大量に刻陣石を買って擬似的な魔法使いとして最低限の力になれます」
「レン、お前さんは魔法を使えるのか?ぱっと見そうは見えないが」
「今はまだ使えないです。でも魔力は今日覚えました。魔石も扱えたんです。」
刻陣石は使ったことがないからできるか分からない、でも最悪投げてぶつければ暴発することは聞いた。大丈夫なはずだ。
少しの間沈黙が流れる。
「うん。思った通りしっかりとした考えがあった。それに私には具体性のある提案にも聴こえた。最後に聞きたいのは私達の場所をどうやって見つけたの?」
「えっと、大まかな場所はベックさんに聞いて後は相棒が近づいた時に教えてくれました」
「やっぱり、おそらくその子は会った生き物の魔力を覚えてる。深獣が近づいた時その子は発見できる?」
「キュウ!」
呼ばれた相棒は元気よくフィリさんに向かって飛び出して返事をした。
「大丈夫だそうです」
「みんなはこれでも反対する?私もしっかりレンを鍛えるつもり、時間はかかるかもしれないでも可能性はある。」
「そうだな。あの熊は気配を感じねぇし普通にやっても見つからなかったからな」
「はぁ。怪我をしない実力をつけたら許可しますよ。私達がそれまでの面倒をみるメリットもあるようですしね」
「なんか途中からフィリがアピールしてなかったか?」
「皆さん本当にありがとうございます。これからよろしくお願いします」
僕の価値を見出してくれたのも流れを作ってくれたのはフィリさんだ。本当に頑張らないと
「レンには武器も教えるけどメインは魔力だと思う。教えるからには本気でやるから私のことはこれから師匠って呼んで。」
「はい!ししょー!」
「私もいるんですけどね。ていうか私の部屋なんですが。まぁいいんですよ本当に、良いんですけどね」
部屋の隅で呟かれた一言は誰に届くこともなく部屋に消えていった。




