好き嫌い
ギルドの向かいの店は少し前にフィリさん達と話してた時に使ってたけど、どうやら蜜標林という名前の料理屋のようだ。このお店、テラスみたいに外にもテーブルと椅子があって食事処っていうかカフェみたいだな。名前も甘味処ぽいし、
「店からいい匂いがします。ここはきっといいお店ですよ」
「ちょっとはしたないぞ。まぁこの町の飯は美味いから気持ちは分かるが」
「そうなんですよ。やっぱり素材が違うんでしょうね。昨日もほんっとに美味しくて思い出すと食欲が湧いてきますもん。今ならいくらでも食べれちゃいそう」
さっきまでとは雰囲気も声色も変わっていてちょっと別人みたいだ。目が爛々としてて顔もまるでとろけているような笑顔。放っておいたら涎でも垂れてきそう。
「冗談にならないんだよなぁ。せめて店に迷惑かけるなよ」
ガチャっと扉を開けて中に入る。店内からは確かに美味しそうな匂いと木材中心の建物独特の木の香りが漂う。それに加えて身を包み込むような暖かさと森にいるような雰囲気で安心感が湧いてくる。
「いっ、いらっしゃいませ。」
何故かおどおどしている店員さんが一生懸命振り絞ったことがわかるような震えた声で接客してくれた。
「たぶんこの店に迷惑かけそうだから先に払っておくね」
そうい言いながら店員さんに一枚の硬貨を渡していた
「ひっ!なんで500メニーも、店で何するつもりなんですかぁ」
「普通に食事ですよ。こいつが信じられないぐらい食べるんでたくさん料理してもらう迷惑料です」
「うー、いっぱい頼んでもらえてうれしいような。忙しくなって悲しいような」
「ははっ、ごめんなさい。ボクは燃費が悪くて、、とりあえず料理は一通り全部ください」
「ひいーっ!」
容赦がないな。
これから忙しくなる店員さんたちを後目に席に座って料理を待つ。
「待ってる間に自己紹介でもしましょうか。ボクはアン・セフィです。よろしくお願いしますね。こっちは
「自己紹介ぐらいできる。ベック・カルアだ。死ぬほど頼んだけど他に欲しいものあったら遠慮なく言ってくれ」
「そうですね、甘いものとかは好きですけど今は別にいいです。あっ僕はサクラ・レンです。今日は奢ってくれてありがとうございます。でもなんでこんなによくしてくれるんですか?」
「初めての後輩と仲良くしたいっていうのは本当なんですよ。でも他に気になることがあるのは事実です。ボクもそれが何故かは分かわかりませんが」
もしかしなくても相棒のことだよね。契約したから隠す意味もあんまりなくなったのかな。でも相棒が怯えてたのはなんでだろう。
(相棒?)
(キュウ)
服の中にいる相棒は前に怯えていたのが嘘のようで、いつも通りに丸くなってじっとしている。じゃあ言っても大丈夫なのかな。
「あの
「おっとと、 お待たせしましたぁ。森鯨のアップルステーキと宝晶兎のシチューと塩紅樹のサラダに大麦のパンです。よいしょっと、料理を出す順番は今みたいにバランス良くだそうです。要望があればなるべく善処するので急いで次を持ってきますぅ」
両手のお盆に合わせて四つも乗せた店員さんはグラグラと料理を運び慌てるように次の準備をする。心配だなぁ
「この料理の食材ってなんですか」
「森鯨は木の上で生活する猪、宝晶兎は魔石のついた兎、塩紅樹は塩を凝縮する木の実で大麦はただの小麦を生産しやすくしただけだ。さぁ食うぞ!」
すごい早口、ベックさんも食べたかったんですね。
どれを選ぶか迷いそうだが、僕は好き嫌いが激しい。特に野菜が大嫌いでサラダなんてもってのほかだ。シチューも野菜が入っているので好きじゃないなので、実質的な選択肢は一つ、でも手はシチューを選んでいた。ステーキに果物のソースがかかっているのは好みじゃないとはいえ野菜より100倍マシ。
しかし、シチューを見ていると思い出す。今日僕が相手にした宝晶兎のこと、とどめがフィリさんとはいえ僕が殺したようなもの。
そもそもあの時は殺すつもりで戦っていた、薄々現実なのかもと感じながら信じきれずに。
初めて兎の肉を食べてみた。噛むとじっくりと煮込まれているのに跳ねるような弾力、あっさりとした兎の味と優しいソースの味がほっこりする。でも遅れてしっかりと肉の脂の旨味がやってくる。そして時折主張してくるかすかな獣の臭みと煌びやかに感じる少しの刺激、その全てが宝晶兎の生命を確かに訴えてきており僕は10匹の兎が倒れている景色と重なり幻視する。
気づくといつのまにか僕の目からひとすじの涙が流れていた。
「レン君泣いてるけど大丈夫ですか」
「いえ、料理に感動しただけで問題ないです」
「そう、ならいんですけど、でもお肉ばっかり食べちゃダメですよ。お野菜もしっかり食べないと大きくなれませんから」
「いつもいつも、お前はお母さんか」
「うっさいです」
野菜か、、好きじゃないんだよなぁ。でもこっちだと大丈夫かもしれないし試してみてみたいかも。うーん、パクッ
「あっ美味しい」
「そうでしょう。ここの食べ物は美味しいですから」
野菜の苦味や食感の嫌悪感も感じない。ただ甘みとさっぱり感が美味しいと感じる。他のはどうなってるんだろう、いろんなものを食べてみたい!
「野菜をもっと食べてみたいです!」
「了解。店員さん!料理は野菜から持ってきて後甘い物とかも」
「わっかりましたぁ。今すぐ着きます」
「はい、水ブナの甘露煮、ツブラドングリの炒め物、葉鱒のソテーに紅林檎のタルトです」
「これジュワジュワしてて甘い、こっちはカリカリで楽しいな、お魚もめっちゃ美味しく感じる!りんごが中まで赤い美味しそう」
「ふふっ楽しそうに食べてるなぁ。ボクも元気が出るよ」
「なんかほのぼのしてるけど結構な量あるぞ。俺はもう最初のサラダだけで十分なんだが。ていうかこれからどうする俺達」
「お肉をもっと頼もうとかじゃないよね。このままで十分でしょ、
今日の調査依頼で異変は見つけたし後は信じてもらうだけ、とっかかりもあったじゃん」
「よっこいしょっと、お待たせしました。森のチーズのアーモンドパスタ、兜鶉のパイ合わせ、籠豆、山苺とチーズのキッシュです。」
「パクッパクッ美味しいっ!」
「牙狩りの人たちか、驚くほど条件に合ってるな。魔法の話しができるからきっかけをつくりやすいしていうか普通に議論したいな。でもどこまで言っていいんだ」
「別に隠す必要はないと思いますよ。極秘の仕事ならボクら選ばないし、どうやら素性を公にして計画を進めるみたいです」
「お待たせしました」
「ありがとうございます。バクバク」
「まっ、それもそうか、、、、ていうかお前らいつまで食べてんだよ。もう店員さん往復しすぎて疲れてるよ」
「だっ大丈夫ですから気にしないでください」
店員さんの両腕がプルプルしてて足もガクガク震えている。我慢していることが目に見えて現れている。
「ごめんなさいあまりにも美味しくてつい」
「すごいですね、ボクより食べたんじゃないですか」
「いや、喋りながらだったのにお前の方が食ってる量が多いぞ」
お互いのまえに積み上げられた皿の山が2人の尋常じゃない食欲を物語っていた。
たくさん食べて幸福感と充実感に包まれる。満腹感はあるが苦しくはない。その時、頭に声が響いた。
「必要魔力充填完了。遅延循環を解除」
思い出した。持っていたフォークが落ちてカランコロンと音を立てる。
「レンどうした」
「牙狩り、牙狩りのみなさんどこにいますか!」
「えっと第一地区の青月の兎亭にいたけど。」
「ありがとうございます。すみません用事が出来ました。相棒!」
「キュウウ!」
その言葉を待ち侘びていたかのように蓮の体から飛び出し元気よく返事した。
「それは!精霊か」 「何その子!可愛い!」
「後で埋め合わせしますからー」
「相棒、フィリさんの場所分かるかい」
流石に近くにいないと無理か。
「どうしたんだろう。レン君」
「そうだな、でも珍しいもの見たな。精霊しかも肉体を依代にしていた」
「可愛いかったねー」
「そこじゃねぇだろ」
ポンポンと辿々しく肩を何者かが叩いてる。
「あっあのー、すみませんっお金が足りないです」
「食費が倍かよー!」




