偽りの友達。
目の前には動かぬカカシがいる。至ってシンプルなカカシ、だがファムはトラウマであるようだ。ぼくはその、カカシを殴った。
「そうそうなんで心の主の声が聞こえるか疑問でしょ? チュートリアルだから気にしないで! あとボクのカカシに対するトラウマは消えたよ! あとは心の主に向かって『好きなもの』をあげよう。それでミッションコンプリートだよ! 」
まあ『影の国』という妖しいところに来た時点でどうでも良くなっていたので、あまり気にしていなかったがおかしいと思う。だって『人のトラウマを失くすことなんて簡単ではない』から。
例えば、ぼくのトラウマの『あの人間について』はそう簡単に消せるものでないし、消されたくもないものだから。
「えーとファムの好きなものは『スイーツ』『自分磨き』…どう調達すべきなのかが問題だ。スイーツなんてよく知らないし、自分磨きってのは『ファムを褒める』で良いのか…? いまいち理解ができない」
…あたりを見渡すと都合よく丁寧に包まれたケーキがある。疑問に思っちゃダメだな、またまた長い説明を聞くことになるだろう。
「スイーツはこれで良いとして…褒める? 今日知りあったばかりなのにか」
誰でも当てはまる決まり文句でも良いならアリはする。言うなら、カッコいいい真面目かわいいとか…
「ファムはカッコいいです。真面目で良い子です」
棒読みだったが視界が手放された。つまりは成功だったのか。あんなんで良いのか。
「わぁー!! おめでとう! たぶんセンスあるよ。初心者にしては! 」
小馬鹿にされたが気にせず質問をぶつけた。
「どうして人間のぼくなんだい? もっと…友達を増やせそうなモンスターはたくさん、動物だっているのに」
「やっぱりやりたくない? のかな。むりやり連れ出してごめんね」
はぐらかされた気がした。が、それ以上追求すると人間の『役目』を失ってしまいそうで怖かった。なので深くは考えず。ファムの言うように家に帰った。廃墟の家に。
誰もいない家に戻り彼の言葉を反芻した。どうしてニンゲンしか影の国を救えないのかって? そーいう運命、そーいうモノだからさ。
なぜその言葉がきになるかだって? ニンゲンとしての運命に惹かれたからだと思いたい。