ポル
”な・・・何を言っているのか わからねーと思うが
ありのまま 今 起こった事を話すぜ。”
前世で俺が読んでた漫画の一文だ。
他にも名台詞が沢山あるがこの台詞はもの凄く有名だ。
この文だけが一人歩きしても過言ではない。
様々な場面で応用して使える。
愛され台詞なのだ。
と、俺は思う。
でも、実際、自分が使う場面になると、
いや使いたく無かったんだけど、
使わざるを得ないような場面に出会うと、何とも言えない気持ちになる。
聞いてくれ。
”ありのまま 話すぜ”
俺は、いわゆる異世界転生をした。
前世は、この漫画を読んでいたという事から察してくれ。
で、本題はそこじゃないんだ。
転生した先が多分乙女ゲー的な感じだった。
で、俺は主要人物じゃなかった。
見事なモブ顔。
で、そこからの逆転でも無かった。
モブ顔でも前世知識で無双とか、チート能力で俺最強とか、そんなんでも無かった。
ウインダー公爵家派閥の男爵家三男に生まれて、家継げる訳もないし、スペアとして家に居座れもしなかったから早々に騎士団に入って、地道に努力して小隊長くらいに出世した。筋トレ方法とかは役にたったが、あくまで俺の努力があってのことだ。
それはともかく。
これで独り立ちかな。
やれやれ だぜ。
ぐらいに思っていた所に、派閥の親玉のウィンダー公爵家からお抱え護衛として働かないかと声をかけられて好待遇に喜んで飛びついた俺の気持ちは一気に落ちた。
担当した公爵令嬢が、これまた、ハズレだったんだ。
乙女ゲーの悪役令嬢だった。
多分テンプレ悪役公爵令嬢だったんだと思う。
高慢ちきで人を人と思わない。
親がそうだから子供もそうなるんだろうな。
って、前世の知識もある俺は冷静に思った。
他のヤツは疑問に思う余地もないようだったけどな。
それで・・だ。
乙女ゲー的、悪役令嬢のテンプレとして、何かヒロインが婚約者の王子様にコナかけてくるのがウザいと、それでメイドとかに当たり散らす訳だ。
お前がウザいよ!
と、内心ツッコミ入れつつ、この世界の身分制度もしっかり解ってるから黙っている訳だよ。
あ~、これ、断罪エンド終わったら公爵家解体かな。
その前にトンズラすっかな。
って思ってたら急展開があった。
何か、街を散策してたら、破落戸に絡まれたらしく、それを助けてくれた平民のちょい悪風な男にメロメロパンチくらったんだと。
で、王子様なんて優柔不断で軟弱、ワイルドさが足らない。
みたいな事をお上品な言葉で熱弁を振るっていた。
で、王子様と婚約破棄したいって言い出したんだ。
俺は、お嬢さんが俺の護衛を上手に撒いて、そんな目にあった事がバレて、職務怠慢だと叱られ減俸処分をくらった。
で、ここまで話したが、まだ本題に辿り着いていない。
もうちょっと付き合ってくれ。
この後の後なんだよ。
お嬢さんは、バカ正直に公爵に話して、何ならそのワイルドイケメンを公爵に紹介した。
意気揚々と。
私の好きになった人、ご覧になって!
みたいな感じで。
それで、公爵閣下は怒った。
で、お嬢さんも怒り返した。
「私は貴族令嬢として、結婚相手を勝手に決められ、やりたくもない王妃教育を押しつけられた。なりたくてなった訳じゃないのに。何をしても人に誹られる。自由の無い生活なんてウンザリなのよ。」
いやいや、誹られるのは自分の行動が悪いんじゃねぇの?
なんて俺は思ったんだが、何か知らんけど乳母とかは
「お労しいお嬢様。お心をこんなに痛めて。」
なんて言ってハンカチで目を押さえてたんだよな。
で、そっからお嬢さんがハンストとかしちゃって、
初めての反抗期に公爵がビビっちゃって、
「公式には認められない、勘当される覚悟があるのなら見て見ぬ振りをしないでもない。」
みたいな事を言い出したんだよ。
それ聞いてお嬢さん、喜んで荷造りして出ていったよ。
正面玄関から。
公爵家の馬車使って。
俺、お嬢様の新居まで護衛させられたんだ。
何か立派なホテルだった。
仮住まいなんだって。
多分、お金はお嬢様持ち。
引いては公爵閣下持ちだ。
だって、普通の一般市民は泊まれない部屋だったし。
あれ?勘当って、何?
って思った訳だよ。
まぁ、でも元凶のお嬢様はいなくなったし、そこから公爵閣下は大忙しで根回しに帆走してたらか、俺にとっては平和な日常が訪れた訳だ。
閣下は日に日に萎れていったよ。
王子様がヒロインと浮気しているとは言え、公爵令嬢が出奔した訳だから。
王宮に詰めて、何か上手く言い訳したらしくって表向きは処分されなかった。
だけど、予定されていた王族との婚姻が適わなかった訳だから政治的痛手はあったと思う。賠償金みたいなのを支払う事になったらしいし。
まぁ、でも断罪エンドによってはお家取り潰しもあっただろうことを考えたらずっとマシだよな。
王子様の浮気を追求しない。
ヒロインの養子先を紹介する。
って色々譲歩して、表向きは上手におさめてた。
普通は収まらないと思うんだけど。
だから、”やっぱり高位貴族の権力恐ろしいわ。”とは思ったんだよ。
ま、俺みたいな末端の人間には関係ないんだけど。
取りあえず、今の雇い主、公爵家が何とか無事だった事の方が重要な訳で。
生き延びたことで、もうちょっと、此所で働いていようかなって思ったら、どうもきな臭い空気になってきたんだ。
お嬢様がホテルの仮住まいに飽きて、物件を探し始めているけど、中々良い物が無いって言い出してさ。
あ、お嬢様は家から出たけど、いつでも公爵家に手紙を送ってこれる。
側仕えのメイドも連れていったからさ。
メイドからの伝言聞いた、公爵閣下が
「娘の行く末が心配だ。」
と、お気持ちを呟くだけで、どこからともなくお嬢さんの新居を提供してくれる人が現れたりした。
権力、こわっ。
って思いつつも、
大丈夫なのか?
って俺は思ったよ。
何と言っても、一応は王家に恥をかかせた訳だし。
娘に勘当という処分を下したっていう形をとっているはずだ。
なのに、こんなに大っぴらに援助していいの?
ヤバさは公爵閣下も感じているっぽいんだけど、親馬鹿の方が勝るんだろうな。
俺の減俸も、お嬢さんがいなくなってからすぐ取り消されて、その上、
「少し、街を散策しておいで。」
と、言って俺に金を掴ませるんだよ。
つまり、散策と言う名のお嬢様の周囲の見回りって訳だ。
そこを忖度できなければ公爵家でなんて働けません。
見回りに行ったら、お嬢さんはね、とっても楽しそうに暮らしていたよ。
繰り返しになるけどメイドまで連れていってたから平民ではあり得ない広い部屋に住んで、家事は使用人に任せてぐうたらしてるよ。
時々、前世の主婦雑紙みたいなのを買ってこさせて読んでるよ。
”素敵な奥様”
みたいなヤツだよ。
節約レシピ。
節税。
狭い家でも快適、収納術!
みたいな呷り文が本当むなしいんだけどな。
お前、読んでもやらないだろ?
節約する必要性ないもんな。
と、思いつつも、一応裏取っとこうって思って、仲の良いメイドにちょっと話聞いたら、
「お嬢様は火を起こしてお湯を沸かされました。愛する旦那様の為に。素晴らしい成長です。」
なんて言っていたからお察しだろう。
大人の貴族のお飯事ってスケールが違うな。
なんて呆れつつ、そろそろ次の転職先でも探すかぁ。と、思っていた訳だ。
で、そこから一ヶ月弱。
転職活動が上手くいかなかった俺は、後悔する羽目になった。
で、ここからようやく本題になる訳さ。
長かったな。
ここまで付き合ってくれてありがとうよ。
いくぜ。
もう大分記憶が曖昧だから、台詞が正しいかわからないけど。
言いたいから言う。
後悔はしない(多分)
”俺は今まで、高位貴族の理不尽さを、ほんのちょっぴりだが体験してきた。
い・・・いや・・・ 体験したというよりは まったく理解を超えていたのだが・・・・・・”
だから考えることを放棄して流されてきたんだが、今回の事は理解の範疇を完全に超えた。
”ありのまま 今 起こった事を話すぜ。
な・・・何を言っているのか わからねーと思うが”
おれも何を命令されたのか。
させられたのか わからなかった。
公爵閣下が、お嬢さんを迎えに行け。
って言った。
流しの馬車を装って、変装しろとコスプレ指令まで出た訳さ。
既に市井の馬車は買って中身を改造してあるからって言うんだよ。
本当に普通の街中で見るような馬車で、中身は貴族仕様に改造された馬車が用意されてて、言われるがままお嬢さんを迎えに行ったんだよ。
で、お嬢さんは、当然って感じで馬車に乗り込んできて、当然って感じで公爵家に入り込んで(正門から)、数時間、そのまま残っていた自室でメイドに命じて荷物纏めさせたんだよ。
高価なアクセサリーや、換金性の高い物を重点的に。
いやいや、ちょっと待てよ。
公爵家のメイドって、中には男爵家の令嬢とかもいるんだぜ?
お前は勘当されて貴族籍もなくなって平民じゃ無いのか?
って話だろ?
で、自分はメイド達を顎で使っておいて、奥様や閣下とお茶して、市井での話に華を咲かせていたんだよ。
「不自由はありますが、私が選んだ道ですもの。苦労ではありませんわ。支え合って生きていく人がいれば苦難の毎日も新しい発見に満ちていますの。それに、人に誹られる事のない心穏やかな毎日が送れていますわ。」
って、お嬢さんが言って。
「困った事があったらいつでも言ってきなさい。私たちはお前の親なんだから。」
って公爵夫妻が涙ながらに言っていて、
それを壁に突っ立って聞いていた俺は”頭がどうにかなりそうだった”。
だって、俺以外の同室にいた人間、全員涙ぐんでいるんだぜ?
執事とかもだぜ?
お嬢様が可哀相みたいな空気になってるんだよ。
いや、自分で望んで家出たんだろう?
それに、閣下が勘当って言ったんだろう?
普通、身一つで出て行くもんじゃねぇの?
何、普通に里帰りしてんの?
しかも一ヶ月で帰るの?
早くない?
何も無かったかのように、何でのうのうとお茶してるの?
おかしくない?
蒸し返すとあれだが、人に誹られるって、ヒロインどころか人に意地悪してたじゃねぇか。
火の無いところに煙は立たないって言うだろ。
滅茶苦茶あちこちで炎上してたじゃねぇか。
皆が忖度して自己消火に励んでただけなんだよ。
それも自分ばかり責められるみたいな被害妄想。
もっと言うなら
”富や名声よりも愛だぜ!”
って金まみれの人が言ってるおかしさを、誰も気づかない。
この家全体が洗脳・・もしくは催眠術にかかっているんじゃないかって俺は怖気が走った。
いや、この後、そんなチャチなもんじゃあ 断じてないって思い知ったんだ。
帰りの馬車にはお嬢さんのアクセサリがいっぱい積み込まれて、更に、公爵夫妻とハグの上に、金貨ぎっしり入った袋をいくつも受け取ってるの見て、俺は驚愕したよ。
最初に家から出て行くときも、色々持ち出してたけど、俺、その時何も感じないようにしてたけど、それ、元は、公爵領の領民が納めた税金ですよね。
いくら、この時代では好きに使えるとしても、領地内の公共事業とか、福祉とか、何かもっと使うべき所あるんじゃないのか?
って俺は思ったんだよね。
かく言う俺も税金納めています。
前世も、現世も税金を取られる側。
何とも世知辛い。
転生ガチャ失敗したわ、俺。
なんて思ってたんだけどさ。
まぁ、元は何にも出来ない貴族のお嬢さんだし仕方ない・・って思い込もうとした訳なんだけど。
無理でした。
お嬢さん、その後、何回も帰ってくるんですわ。
俺、お迎えに行かさせられるんだよ。
なんなら、お買い物にパシリもさせられるんですわ。
しかも
「品物が違っててよ!全く無能ね!」
なんて罵られるんですわ。
その度に、俺、同じ病にかかりました。
何が起きたかわからないんだが、ありのままを語るぜってね。
毎回リセット。
毎回そこから始まる。
重ねて言いますけど、あなた勘当されて平民ですよね。
何で、俺、頭ごなしに怒られているの?
全くもって解せないんだけど。
って、思ってたら、今度はお嬢さん、隣国に行くって言うんだぜ?
おかしくない?
「人の目が気になる。悪意に満ちた言葉を浴びせられる。」
いや、いくら治安が良いって言っても貴族街じゃない所に住んだんだから、ある程度はストレートに言われること想定してたよね?!
人に言うのは良いけど、言われるのには弱いって何なの?
俺が、閣下に言われて散策という名の巡回に行く度に、お嬢さん夫婦の評判爆下がりなんだけど。
逆に、どうやったらそこまで下げられるのか知りたいわ!
なのに、未だに公爵家にはお嬢さんの部屋があって、お嬢さんが持っていった分、公爵夫妻が何か物を補充していて、更には手土産持たせてるんだよ。
盤石のサポート体制。
サポートするのソコじゃなくね?
もっと周り見ないとヤバいんじゃね?
本当に危機感を感じた俺は、次の転職先が決まる前に公爵家を辞めたんだ。
お嬢さんの護衛として隣国へついていけみたいな話をされそうだったからさ。
でも、辞めて良かったよ。
数ヶ月後、公爵領で反乱が起きてさ。
一揆みたいな感じ。
だって、閣下ってジャブジャブお金をお嬢さんに流すんだよ。
お嬢さんは更に、ベタ惚れのワイルドイケメンに流してさ。
ワイルドイケメンは更に、自分の家族、引いては舎弟みたいなヤツに流してさ。
好き放題してたんだよ。
そりゃ、怒るよな。
そんで、何か、お嬢さんが国を出る前に、最後に公爵領を旅しちゃおうって新婚旅行気取って態々怒りの坩堝の中に飛び込むから、まぁ、結果は推して知るべし・・・。
ってヤツだ。
領民達は
”やったッ!勝ったッ!仕止めたッ!”
みたいになってました。
某、「ケーキを食べれば・・。」発言したとされる(本当は違うらしい)王妃様の恋人も領民になぶり殺しにあったみたいだしね。
あれ?違ったか?
もう記憶が曖昧だから良くわからないけど、これだけは確かだ。
もう、集団で怒ると、本当、恐ろしい。
理性を無くすと本当に恐ろしい。
集団心理の暴走、制御不能。
最後は大元まで根こそぎ倒しちゃったよ。
多分、多分だけど、全部ヒロインが手引きしてたっぽいんだよね。
多分ヒロインも転生者だわ。
やり方が狡猾すぎる。
最初のワイルドイケメンでハニトラ引っかけて、悪役令嬢を自主退場させて、公爵家も権力持ちすぎてたから、財力削った上で世論操作して、反乱煽って襲撃。
じゃなきゃ、あんな銃器を農民持ってるはずないもんな。
いやいや、本当に素敵な手際でした。
関わらなくて良かったよ。
俺は、転生ガチャ失敗したって思ってたけど、普通が一番。
やっぱりね。
身の程を弁えないと恐ろしい目に合うっていうことだな。
俺の性格には、このモブ顔、この能力、この生活がぴったりだ。
分不相応な事。
それが、どんな被害を齎すのか。
もの凄い近くで、見させて頂きました。
本当に腹一杯で気持ち悪いほどです。
俺は無事で良かった。
と、いうことで、やっぱり、あの名台詞の最後で締めさせて頂きます。
俺は
”もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ・・・”
本当そんな気持ち。
いや、本当、この台詞、使い回し力抜群だな。
まさか異世界来ても使えるなんてな。
って、事で、最後まで聞いてくれてありがとう。
俺、こっちの世界で地道に生きていくことにするよ。
じゃあ!
To Be Continued・・・
とはなりません。
当然です。
読んだことありますが色々記憶があいまで
って言い訳です。
すみません。
大好きなんです。
これ読んで興味持った方是非読んで下さい。
素敵なセリフてんこ盛りですよ。