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タルミナ邸の住人たち 〜奴隷少女と転生者〜  作者: 狐囃子 星
転生者と奴隷少女
13/52

2-2-1

 暗い、暗い、暗い。

 真っ暗で足元さえまともに見えない暗闇。

 右も左も前も後ろも、どこを向いてもそこにあるのはドス黒く重たい暗黒だけ。

 一歩足を出してみる。

 まるで水の中にいるかのような感覚。

きっと立ち込めるこの闇が、体に絡みつくのだ。

 その考えはとても正しいように思えた。

 無性に疲れの溜まる歩くという行為を何の目的もなく続けていると、徐々に息苦しさが胸にのしかかってくる。

 直観で感じた。この先には何かとても嫌なものがあると。

 見たくない、関わりたくない、逃げ出したい――。

そんな思いがこみ上げてくるほど心の底から凍り付くような恐ろしいものが待ち構えている。

 いやだ。足を止めたい。

 しかしそんな思いに反して足は動き続けた。まるで操り人形にでもなったような気分だ。

 やがて何かが見えてくる。

 薄っすらと闇に赤い朧げな光が浮かび上がり、近づくほどに色は鮮明なものへと変化していく。

 赤、紅、朱、緋、丹――。

 多種多様な“あか”が、もがき苦しむようにのた打ち回り赤き虹の蛇を作る。

 更に足は進む。

 吐き気がする。息が苦しくなる。頭の中はパニック寸前で、心臓は爆発しそうなほどに激しく鼓動する。


 ――そしてソレが見えた。


 それはよく見知った形をしていた。

 頭が一つあって、体が一つあって、手と足が左右対称的に二つずつ決まった場所にある、口があって、耳があって、鼻があって、――そして目が合った。

 虚ろな瞳は自分をまっすぐに見ていた。

 空虚で何も無い真っ暗な穴のような目は、しかし何もできない自分を責めているような気がして、耐えられなくなり顔を背けてしまう。――その先にも目は合った。

 何処を向いても、何処に視線を逸らしても必ずその先に目はある。

 みんな自分を見ている。

 やめてくれ。そんな目で見ないでくれ。自分には何もできない。何の力も無い。無理なんだ。不可能なんだ。だから許してくれ。お願いだから、そんな目で見ないでくれ。

 この悪夢からはやく目を覚ましてくれと神にすら祈る。

 ギュッと閉じた瞼の先、そこでも目は合った――。


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