第15レース ホープフルS 前編
☆第15レース☆
前代未聞の初ダートで初G1制覇の偉業は瞬く間に広がり、何と海外からも取材が来る事態となった。
そして、もう一つ。
ちょっと馬が強すぎるのではないか?と周りの関係者達がこぞって騒ぎ出したのもこのタイミング。
実際にあぶなかったのは不良馬場の札幌2歳Sのみで、後は出れば楽勝のワンサイド勝ちばかりなのだから無理もない。
川崎競馬場のアナウンサーが思わずセクレタリアトと言ったのも無理はないような、2着に20馬身の差を付けての勝利も異常事態といえた。
似鳥のオッチャンがラジオを流しながらおれのそばでくつろいでいる。
「本日のメインレースは阪神カップG2。一番人気は香港を自重してこのレースを選んだレインスザクが2.5倍のオッズを付けております」
あ、
京子かっ!!
やっぱり人間馬は強いよな。京子の全成績を知ってるわけではないが多分G1ウイナーなんだろう。
人間レベルの思考とそこそこの肉体があれば、馬に混ざったらやっぱり負けないと思うんだよね。
いつの時代からおれ達みたいな連中が存在するのか知らないが、過去のG1でも馬身を離して勝ってるような馬達はもしかしたら人間馬だったのかも知れない。
おれの興味はレースは普通に走れば勝てるので、むしろ同じ人間馬同士で走ったらどうなるのかに気持ちが向いていた。
基本的には鍛え上げた肉体とレースの駆け引きのみのシンプルな勝負となるはず。
分かりやすくて一番面白いやつだ。
「レインスザクが大外から豪快に伸びるっ!!レインスザクだ!今一着でゴールインっ」
お〜、
京子はやっぱ強いな〜
しかも勝ち方が競走馬っぽいじゃないかい(笑)
また近い内にアイツと話す機会があるといいんだけどな。
または
他の人間馬がいればいいんだけどなぁ。
今の生活に大きな悩みこそないけど、今の自分は生物的にはどっちつかずの存在。
それが時折とても寂しい。
「あ〜。アイツ、もうおれが死んだショックから立ち直ったかなぁ。年末だから仕事に追われてまた泣いてないかなぁ。」
おれも孤独だけど、一人残して先立たれたアイツも孤独だよな…
今頃、どうしているのだろう。
生前の記憶があるのも辛いもんだな。
そしておれは、
ホープフルS前夜まで、人間としての記憶を思い出しながらあまり眠れない日々を過ごした。