第10レース 不良馬場
☆第10レース☆
函館2歳S後も特に脚も問題なく、おれはこのまま北海道シリーズ続戦となった。
まぁ当然だと思う。
おれ的には札幌2歳に出た後は東スポ杯2歳Sから、朝日杯でもホープフルSでも相手関係の楽な方に行けばいいくらいの考えでいるが、やっぱり一口時代じゃないが、多分、自分の思うようなローテにはならないんだろうね。
現代競馬では故郷の牧場に放牧に出される事はほぼ無くなったので、札幌2歳S勝っても石田牧場に帰れる事は無いと思うが、もし叶うのなら2週間くらい牧場の連中とまた会いたいな…とちょっと思ってる。
シズカや雪ちゃんとまた会いたいなぁ。
ま、重賞一つくらいで帰れるわけないか(笑)
ま、札幌2歳Sも楽勝するしかねーやな。
そして札幌2歳Sの最終追い切り。
身体自体はほぼ仕上がってるので、単走でさらっと汗を流す。
うん、今日も体調はいい。
函館制覇してから似鳥のオッチャンが毎日おれにリンゴをくれるようになったからだな。
うん、リンゴが今のおれには一番の褒美だ(笑)
本当にすっかり馬化しちまったな〜
そして
札幌2歳S当日。
天気はこの時期の札幌にしては珍しい大雨。
「ありゃ!?何だか寒そうじゃないのよ」
おれの口からも思わず愚痴が溢れる。
そして少し考える。
…おれの蹄の形状…
見た目にはダートでもかなりいけそうに見えるが、裏返せば横に広い分扁平にも見える。
扁平足だと多分濡れた洋芝はよくねーよなぁ…
もし…脚でも滑らせて脚やったら安楽死か。
人間の脳が余計な恐怖を連想させる。
これは多分他の馬よりかなりマイナスに働くだろう。
「本日の札幌メインレース、札幌2歳S G3。例年にないような不良馬場でのレースとなりました。一番人気は前走函館2歳Sを勝ったアナタが辛うじて一番人気ですが、距離とこの馬場を嫌われてオッズは混戦模様であります。」
まぁこのオッズは仕方ないよな。
おれが馬券買う側でも疑うよ、こんな不良馬場だったらさ。
おれは馬となってデビューして、初めての恐怖と戦っている。
身体が緊張と寒さの両方で強張る。
「スタートしました!あっ〜〜とっ!一番人気のアナタは痛恨の出遅れ!」
…やべっ
やっちまったわ。
気持ちが軽く動転する。
「激しい先行争いの中、ロータリーターボが逃げてます。アナタはまだ馬群の最内。馬身にしてまだ12馬身ほど後方にいます」
思ったより脚は滑らない。
むしろ絡みつく芝がいつもと違い気持ち悪い感じだ。
ロータリーターボの逃げもスローなお陰で中盤から先行ペースが激流に変わる。
4コーナーを周り、おれは最内をスルスル回って走る。他の馬達は荒れた馬場を嫌い皆大外に膨れて行く。
「もうガラ空きのインから行ってだめならしゃーないな」
クリスティも同じ考えのようだ。
「進路を外に取ったロータリーターボその他。そしてガラ空きのインからアナタが伸びてくる!こここでアナタがロータリーターボに並ぶ!どっちだ?」
あ…
負けたか。
馬の視界を得たおれにもどっちが勝ったのかまでは分からない。が、多分かなりのとこまでは追い込んだはず。ロータリーターボ…この馬なかなか強いな。顔覚えておこう。
おれ的には負けだと勝手に思ってたので2着の馬のレーンに入ろうとしたら、ロータリーターボも2着のレーンに入ろうとしてるので、ここで本当に際どい写真判定なんだなと気づく。
もし、ロータリーターボが進路を外にとってなかったらもっと完全に負けてたかも知れないな。
今回の負けは今までの自分の奢りや過信を改めさせてくれる良い薬となったと、雨降りしきる中、一人ブツブツと沈むおれ。
「写真判定が出ました!」
「長い写真判定の結果…」
「何と、1着は同着ですっ」
え?
まぢ?
結果論を言うと先行勢は中盤から激しい消耗戦になったせいで、進路を外に出してももはや伸びる体力も無く、完全に脚の上がったロータリーターボと、最内をロス無く回って脚を最大に溜めたおれの脚が最後の最後に並んでゴールしたって事みたいだ。
戦いとしては今日は負け戦。
でも…本当に負けないで、尚且つ、怪我もしないで不良馬場を走れて良かったと思ってる。
運も味方した。
今までの自惚れが無くなったアナタ。
今日のレースでの教訓は競争馬である限り忘れる事はないだろう。
まぁ何はともあれ…
今日は頑張りましたよ、おれ。