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おれは人間サラブレッド ANATA号  作者: 桐生 ハム太郎
10/25

第8レース 新馬戦

☆第8レース☆


6月の函館競馬場。

今日、いよいよおれはデビューする。

似鳥のおっちゃんが藤平先生としてた会話から、おれのデビュー戦が何と1000m戦である事は知っていた。


「はぁ、何でそんな短距離なんよ」

おれは短距離は怖いって事を知っている。

短距離戦は基本的に出遅れ=負けなのである。

日頃…優等生面して調教積んでたのが裏目に出たかな?

又は他の期待馬との使い分けの為か?

何にせよ、オルフェーブル産駒で1000m戦は常識的には忙しいと思える。

藤平先生は基本的には策士だと前々から思っていた。

どんな所が?

一言で言うなら、駆け引きの天才だと思ってる。

おれが調教で好タイムを出し、尚且つ、それを大袈裟に記者共にアピる。

そして…

リーディングジョッキーのクリスティが乗るとなりゃ、当然この新馬戦は避けて違う新馬戦に投票しようとなる。

新聞記者達は蜜蜂みたいな役目なのだ。

おれは新聞を読ませてもらったわけではないから相手関係は分からない。が、他の調教師や騎手だってバカじゃないから評判馬とは対戦は避けたいはず。


そう

藤平先生は評判馬をレース前から作り上げるプロなのだ。


そして

おれが走る時間がやってきた。


パドック。

サークル内から人間を眺めるとこうなるんか(笑)

新しい世界の始まりに興奮が止まらない。

「お、こ、これは」

おれの愛馬のヒババッチャンがよく食べようとしてた花キャベツがパドックの周りに綺麗に植えられてある。

これがなかなか美味しそうに見える。

おれもすっかり馬なんだなと感じる瞬間である。


「よしっ」

半分寝ながら歩いてる似鳥のおっちゃんの身体が飛ぶ。


おれは勢いまかせに花キャベツに喰らいついた。

「うまっ。ヒバオの気持ちがよく分かったわ〜」


…隣では吹っ飛ばされて糞まみれになったおっちゃんが必死におれを止めようとしてる。


パドックに来てる人間達が爆笑してる。

「やっべー、あの馬大丈夫かぁ!?」

「アナタ、アナタ、この葉っぱとても美味しいわ」

「なんだよアナタって(笑)超弱そうで草」


冷やかし共のアナタをおちょくる声。

おしっ。

おれに喧嘩売ってんだな、てめぇら。


そして、

次の瞬間、

おれはおれを冷やかしてる若者の群れ目掛けて突進していた。


若者達は多分…「馬って怖い」と思ったろう。

おれは若者の一人に思い切り嚙みつこうと試みたが結果は上手く噛む事が出来ず未遂に終わった。

似鳥のオッチャンにもめっちゃ怒られた。


「なんだよ、オッチャン、無口なのは演技かよ(笑)」


全てはこの名前を付けたばあさん(オーナー)のせいやん。


そしてこのやり場の怒りはレースでとんでもないレコードを出す事になる。



「函館競馬場、これから今年最初の函館2歳新馬戦が発走します。人気はクリスティ鞍上のゼッケン1番アナタがダントツの1.3倍の支持を受けております。」

「アナタと言えば、先程パドックで前代未聞の花キャベツと噛み付き騒動を起こし、一時はどうなるかと思われましたが、今はとても落ち着いてるように見えます」


落ち付いてるんじゃない。

やり場のない怒りで爆発寸前なんだよ。

ただ、馬と違って人なんで行動に出さずに何とか耐えてるだけ。


「こんな糞レースはさっさと終わらせて糞して今日は寝る」


「各馬ゲートもスムーズで、最後の一頭が今、ゲートへ誘導を受けます」



スタートしましたっ!!

「ゲートが開くなり1番アナタが凄い勢いで先頭へ。もう2番手とは7馬身開いてます。」

「クリスティも諦めたのかアナタの行く気のまま独走態勢に入る。先頭はアナタっ」


「アナタ、アナタだ!アナタ、何でこんな速いの?一体どこまで着差開くのか!?これは新暴走王アナタの伝説の幕開けか?」



「今、独走でアナタ1着でゴールインっ!」



観客も静まり返る。

掲示板に点灯されたレコードの文字。

【53.6】



「何と今日デビューした2歳馬が、コーナーのある函館芝1000mで日本レコード更新っ!!」

「パドックでも常識外だったこの馬が何と競馬でも常識外なタイムで勝ち上がり。一体この馬はなんなんだっ!」



あー

まだ怒りは収まりきらないが、糞まみれの似鳥のおっちゃんと仲良く口取りする中、「あ、よく覚えてないけど勝ったんだな、おれ(笑)」とやっと少し冷静に戻る。


馬が興奮するとはこういう事なんだな。


まぁ、何はともあれ…

おめでとう、おれ(笑)





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