事件1一家無理心中殺人事件
『ご起立ください』
関東地方裁判所906号法廷。黒い法服を纏った裁判官と裁判員が法廷内にぞろぞろと入って来ると、裁判所書記官が号令をかけた。
『ご着席ください』
書記官が再び号令をかけると、法廷内の人間すべてが椅子に座り、しばしの静寂の時が流れる。
静寂を破ったのは、裁判官席の中央に座った大きなメガネをかけたショートボブの女の子だった。年は高校生ほどであろうか。
『はい、はい。それでは開廷しますね。被告人、証言台の前へ。』
ニコニコしながらその裁判官が声をかけると、弁護席前に座っていた男がノロノロと歩いて証言台の前に立つ。
『長い審理お疲れ様でした。これから判決を言い渡しますね。判決文でわからないところの質問は、全て読み終わった後でお願いします。まあ、後から弁護人に聞いた方が早いでしょう。』
メガネっ娘裁判官が弁護席に座る弁護人に目をやりながら言った。
その弁護人と指された者も年端もいかない少年である。黒い髪で、背格好は中肉中背。セットに拘りのない髪は、四方八方に向かって好き勝手はねている。少年は、目を瞑ってじっと運命の時を待っている。
その対岸の検察官席には、弁護人を鋭く睨む、これまた高校生くらいの少女が腕組みをしながら座っている。明るい色の髪は肩のあたりで緩やかなカーブを描き、その愛らしい顔を際立たせている。鋭く弁護人を睨む眼光だけが、その姿に似合わない。
傍聴人が固唾を飲んで見守る中、メガネっ娘裁判官が再び口を開く。
『それでは判決を言い渡しますね。よく聞いてください。主文、被告人をー』