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lyrics

作者: つぐお

やっとの思いで家の最寄駅に着いた。

疲弊しきった身体は、会社を出る前からすでに自炊を拒否していた。

駅構内には、終電に乗ろうとする人たちが、朝の通勤とは違った慌ただしさを点々と見せていた。

もう後は家まで歩くだけだ、と自覚したせいか、限界だった空腹感が一気に押し寄せてきた。

でも、コンビニ弁当続きで身体に悪いかな、と、下らない意地を張りながら、帰り道にある牛丼屋に入って適当に定食を頼んだ。

時間が遅いおかげで注文が早く通った。

店内を見渡してみると、客層は私に似たような人たちばかりだった。

みんな遅くまで頑張ってるんだなぁ、と思いながら、定食が来るまでスマホをいじろうとしたが、予想以上に早く来た。

ふと、牛丼を口に運んでいるとき、懐かしい曲が流れていることに気がついた。

それは高校の頃によく聴いていた洋楽だった。

当時、歌詞の意味は分からなかったけど、曲調に一目惚れして何度もリピートして聴いていた。気分が沈んだときや、受験のストレスが溜まっていたときも、この歌を聴けばいつでも前向きになれたことを思い出した。

思わず箸が止まり自然と笑みがこぼれていた。その時の感情は、懐古と哀愁が入り交じった複雑な感情だった。

その感情を認識した途端、溢れかけた当時のような歓喜は表情からゆっくりと飲み込まれ、胸からはざわつきが飛び出ようと圧を上げていた。別々の場所から生まれた二種類の感情は、衝突しながらもゆっくりと混ざり合っていった。それを冷静と呼ぶのかは分からなかったが、とにかく静かに均衡を保たせようとしていた。

大人になってから、見たくもないものは見えるようになって、見ようとしなかったものは見えないままだった。

今流れているあの頃の歌詞は、まだ見えないまま美しかった。

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