灰色と白 4
『――何をやってるんですかあなたは?!』
「いや?確かに跳んだよ?」
『違います!跳躍してどうするんですか?!このままだと敵のいい的です!飛んで!飛行して下さい!!』
「り、了解!!」
そういわれて全力でスラスターを吹かす。周囲の景色が一瞬にして移り変わり、なにかの衝撃で一瞬減速したがかまわずーーー
『ストーップ!!』
慌てて止まる。
「どうした?!」
『どうした?!じゃないですよ!上空に離脱って言ったのに全力で前に進むし、加速のし過ぎで敵にぶつかったことも気づかないし!』
「そんなこと言われても……」
『文句言わない!まあ、今かなりの距離を移動したことで、メリットを発見したので許してあげます』
やけに上からだな……
……って考えるとまた心を読まれそうで怖いから素知らぬフリをしておこう。
『……聞いてます?』
「ん?」
『はあ。まあいいです。先程増援要請をした話をしましたね?その増援が、敵機と交戦中の姿が確認できました。先程から機数のわりに数が少ないと思ったら、そちらに数を裂かれていたそうです』
……なるほど。図らずも味方と共に戦っていた形になるわけか。
『……ただ。事態はあまり良くありません。数で劣勢なのが響いているようです。このままでは共倒れもあり得ます』
それを聞くと、コクピット後ろの空間に座っていた彼女が顔色を変えた。
「私の同じ隊のメンバーもそこにいる。助けなければ……」
……仲間、か。彼女にもちゃんといるんだよな。それに比べて、俺と言ったら……
…… ダメだ。今の状況に集中しないと。
「ああ。助けなきゃ。……それで、どうすればいい?」
『……まずは、周辺の敵機の殲滅からですね。この状況で救援にいっても、お互いに敵を増やすだけなので』
彼女も首を縦に振って同意する。
「ああ、正しい判断だ。どうか、私の仲間を救ってくれ……!」
……ドキッ。そんな上目遣いでいわれて断れるわけないじゃないか。よーし。おじさんがんばっちゃうぞ。
「了解!」
『ではまず……三時方向に敵機が二機ほど見えますね?あれの中心に対してビームバスターを打ち込んで下さい。おそらく散開すると思われますが、各個撃破が目的なので問題ありません。一機づつ確実に撃破して下さい』
「随分簡単に言うな……」
『どうせやらなきゃやられるんだから仕方ないでしょう?さあ、頑張って下さい』
「くっ……殺せ!」
『はいはい。そろそろ敵来ますよ?』
隊列の中心に照準を合わせ、発砲。二手に分かれ、双方向から攻撃を仕掛けてくる。慣れない機体と余りある機体のパワーに振り回されながら、なんとか敵機に対応する。
『二時方向と十時方向から敵機。優先撃破は左側の機体です。』
言われた通りに左側ーー十時方向の敵機に集中する。
『敵機解析完了。装備から勘案するに万能型だと思われます。警戒して接近して下さい』
「ああ!」
ブースト。敵機の周囲を円を描くように機動し、射撃。コンソールパネルに表示されるターゲットサイトが合うのを待つ。――今だ。続けて、一射。二射。三射。
しかし――
「――避けられた?!」
『流石にそこまで甘くはないようですね。埒が飽かないので接近戦に移行して下さい』
「……ッ!」
左手の操縦桿のトリガーを押し込み、近接戦用装備――《SVS》――を選択する。両肩に二対に備え付けられた剣のロックが外れ、星の力に引っ張られる剣を両手が掴んだ。
途端、剣が深紅に輝く。剣本来の力を取り戻すように。
『即、接近してください。猶予を与えないように!』
「ああ!」
応答。円運動から直線に。敵の予測システムが狂う。砲身が一瞬頓珍漢な方向へ向いた。
最大出力。敵の胴体の中心を見定める。ここだ。
「ハァァァア!」
剣先は怯むことなく、素早く敵を上半身と下半身に両断。即座に離脱――
――途端、警告音。
『九時方向です。回避をーー』
「ッ……!」
敵の射撃。ギリギリで回避出来たが、今のはかなり危なかった。
「もう一機の方か……」
『肯定です。先程と同じ要領でやっちゃって下さい。』
側から聞くとなんとも無茶な話だが、さっきの下意識にインストールとかなんとかの影響で一応どうにかはなりそうな気がする。この状況に対応できているのもずっと見てたロボアニメの影響だろう。なんとも複雑な気分だな……
『正面。来ます!』
接近戦か?だったら、さっきの方法で……
と、思った途端、敵の持っていた《ビームソード》が投擲された。
「投げた?!」
すんでの所で回避。剣を投げるとは、油断ならないな。なら……
保持していた剣を手放し、素早く腰部の《ビームバスター》を構える。近距離からの射撃。回避はし辛いはず……
ーーが、避けられる。不味い。この先を考えてなかった。考えろ。考えろ。こんな時、アニメではどんな動きをしていた?こんな時はーー
「まだぁ!」
脚部のスラスターを吹かし、頭突きのような形で肉迫。武装選択。肩部の二問のビームバルカン。通常ならば威力が足りないが、この至近距離なら…
「喰らえ!!」
一斉掃射。弾かれる、がーー
ーー徐々に敵機に孔を穿っていく。一つ、二つと。そして遂に、余りある衝撃に身を悶え、爆散。瞬時に離脱する。
……出来た。案外、やればできるもんだな……。自分の思い描いた通り。だったらいいのだけどーー
『撃破成功です。周囲の敵機は……見当たりませんね。先程と二機だけでしょうか?あまりにも少ないような……。それとも友軍機が善戦しているのでしょうか。怪しいですね』
「少ないの?」
後ろの彼女も頷く。
「ああ。あちらは16体いる筈なのに、2体しか此方に回ってきて居ない。私の隊の戦力は旧型のエージスフレーム4体だけだ。いずれも大した機体ではないので間違いなく新鋭機の此方を重点的に狙ってくるものだと思っていたのだが……。そいつの言う通り、確かに怪しいな」
成る程。やっぱり普通の機体じゃないのか。通りで先程から不思議なことが……
ーーいやまてよ。もしかして、これ、実は凄いんじゃ?言わば主人公機なんて可能性もあるんじゃないか?ワクワクしてきたぞ。お約束だもんな!
『マスターのバイタルに変化を確認。ポジティブな気分ですね。何かいい案でも?』
……そうだ。コイツいちいち心を読み取ってくるんだ。迂闊に妄想すらできやしない。
『マスターのバイタルがネガティブに。いい案を思いついたわけではなさそうですね。残念です』
ニュアンスがめっちゃ失望した感じだ。いちいち腹がたつなぁ。AIのくせに……
『そんなことはどうでもいいですね。取り敢えずは友軍の元へ向かうのが先決でしょう。行きましょうか』
何事も無かったかのように言ってのける。機械の特権なのだろうか。
ーー諦めて向かうことにしよう。
「……了解」
『ナビゲートは私がします。従って操縦してーー』
『ーーいや、待って下さい。読みが当たったようです。五体ほど敵が此方に向かって来ています。』
やはり増援か。ーーってちょっと待て。
「五体?!」
『肯定です。1対5は流石に不味いですね。動力レベルを4段階目に上昇させます。これで対応してください』
「え?え?」
『ですから、敵が増えたので、出力を上げます。いいですね?』
なんとなく把握した。わかりやすいのかにくいのか……
『追加で使用可能になる武器があります。強力なので使用して下さい。』
コンソールに《クレシェンドバスター》の表記と図が表示される。恐らく今言っていた武器の詳細だろう。砲身は上下対照で、中央にスリットが入っている。スリットに合わせて上下に分割するようだ。
『《クレシェンドバスター》はエネルギーチャージによる威力調整が可能です。最高出力で発砲すると高威力ですがタイムラグが生じるのであしからず。』
理解はしたが……なんとも扱いづらそうな武器だな。威力調整とかどのタイミングで……
そう思考を巡らす間もないまま、《アルス》の言葉。
『来ます。最大出力で振り払って下さい。』
「え?逃げたらダメなんじゃーー」
『いいから、早く!』
機械越しでも伝わる迫力に気圧されて、ブースト。出力の向上も本当のようで、先程を上回るGに意識を持っていかれそうになる。そのせいもあり、距離はぐんぐん離れていくがーー
『止まって、振り返って!』
言われた通りに振り返る。はるか遠くに豆粒のようなものが見える。間違いなく敵機だ。
『《クレシェンドバスター》展開!最大出力!!』
「り、了解!!」
敵の方へ向けて《クレシェンドバスター》を構える。モードは、最大放射。迫り来る敵機と同調するように、銃が展開する。
標準的な形から先端を機転とした三角形に変わっていく。開いた隙間にはエネルギーの閃光が見える。プラズマのように光輝く砲身。生身で近づくだけでひとたまりもなさそうだ。
『充填率、80……85……』
《アルス》による読み上げが続く、敵も接近し、5機が隊列を組んでいる姿さえ見えてきた。
『95……98……』
近づいてくる。敵の有効射程にそろそろ入ってしまいそうだ。大丈夫なのか……?
「おい!《アルス》!!」
『まだ大丈夫!合図を待ってください!!』
そのやりとりの間で遂に姿がはっきりと見えた。いつ弾が飛んでくるかわからない状況だ。
『99……100%!!今です!!』
《アルス》が言い終わるやいなや、トリガーを引く。
砲身に閉じ込められていたエネルギーが敵を蹂躙していく。機体の直径の半分はあろうかというその極大の光線は、個々の区別などつけず、敵をまとめて薙ぎ倒した。
一度、まさしくエネルギーの塊としか言い様のない力が過ぎ去った後の空中には、なにも残っていなかった。
「な、なんだコレ……」
『敵機は5体とも消滅……。増援も、時間の問題でしょうが、確認できません』
いや、冷静にいってくれちゃってるけどえげつない威力だったぞ。これさえあればもう問題ないんじゃ……
『……先程の射撃で、クレシェンドバスターの内部回路に異常が生じました。やはり最大出力での射撃は銃が耐えきれなかったようです。以後はチャージ不可能になります』
「そ、そうか……」
『まあ、普通の戦闘機動では実用不可能なロスタイムがあります。まあ、あまり支障がないと捉えて下さい。』
「う、うん……」
確かに、あのチャージ時間を普通の戦闘の合間にとってる場合はないと思うけど、それでも強力過ぎませんか……?
『さて、ここに居ても仕方ないですね。さっさと救援に向かいましょう。』
なんだか色々と腑に落ちないところではあるけど……
今は割り切るしかないか。そもそもこの状況が異常な訳だし。
「了解!」
お決まりの言葉を口にして、加速。少しでも早く向かわないとーー