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灰色と白 3



彼女は、綺麗だった。名前も分からない、全くの初対面。それでも僕は、心を撃ち抜かれたのだ。


いわゆる、一目惚れってやつだろう。恥ずかしながら、初恋だ。なんて、声をかければ――




「おーい。聞こえてるか?君は?」


先に喋られてしまった。真っ白になった頭から、あわてて言葉を絞り出す。



「……あ。ああ。いや、君と、灰色の機体が戦ってるのを見てて、戦ってると思ったら落ちてくるのが見えて、心配で……」



ぽつり、ぽつりと、状況を思い出す。何か記憶が欠落している気もするが、トラブル続きの今の事だ、気にしている場合ではない。





「――待ってくれ。何故ハッチを開けれたんだ?戦闘行動中は外部から干渉できないようになっているはずなのに……」



そうだったのか?確かに開きそうにない感じだったが、触れたら開いたので、特には気にしていなかったのだが。


「ん?なんか……勝手に開いたけど」



「……そ、そうか。まあ、もしかしたらシステムが若干故障しているかもしれないからな。うん」



よく分からないが、何だか納得した様なのでよしとしよう。



すると、彼女が何かに気がついたように目を見開いた。


「そ、そうだ。私は撃破出来たのか?最後の一機を」




最後の一機?






……思い出した。最優先事項を忘れて自分は何をしているんだ。




「――あ、そうだ!これを伝えに来たんだ!!」



再び、彼女が目を見開く。




息を吸って、彼女に伝える。



「外に、大量の灰色が来てるんだよ!あなたが仕留め損ねた灰色が引き連れて!!」




「な……。どうしてそれを早く言わない!迎撃しないと不味いのに!!」



ごめん。君にみとれてたんだ――


……とか、シャレでも言えない。



自分が言葉に詰まってる間にも彼女は瞳に意思を宿らせていた。




「――今さら言っても仕方ない。この状況の打開策を考えなければ……」



うわぁ、頼もしい。こうなったらとことん協力していこう。可愛いし、な。



「さっき沢山の灰色と言ったな。何体位だったかは覚えているか?」



「――確か、16体くらい?」



とたんに、彼女の顔が暗くなる。



「一個中隊並か……」



自分で言っておきながら、確かにえげつない量だ。しかし、彼女への協力を誓った身、自分でもアイデアを絞り出す。



そうだ。軍事物の定石、援軍は――


「見方は?いるんだよね?」



「 残念ながら私一人だ。テスト稼働の帰りでな。非戦闘艦は早々に離脱してしまった」



「援軍は?」



「ああ。近くの駐屯地に要請しているが、トラブルに会ったとかで、近くに基地もない。援軍は見込めそうにないな」



速攻で否定された。まあ、自分みたいなトーシロが思い付く案だ。それくらい実行しているだろう。




「なにか他に案は――」




瞬間、轟音。アニメで聞いたような甲高いビームの音が鳴り響く。


遠くで爆発もしたようだ。黒煙と熱波が伝わってきた。



「……不味い。奴等がこっちに来たぞ」



「逃げなきゃ……!」



焦る自分を、彼女は冷静にたしなめる。




「落ち着け。敵は16体だ。機体が動かないこの状況でどう逃げる?それならばこの岩影に隠れていた方が安全だ」



いわれてみればそうだ。周りは平地だから逃げても隠れる場所はない。これまた一般人と軍人との判断力の差と言ったところか。



「――しかし、ここに留まっていてもジリ貧だな。なにか打開策を考えないと……」



なにかしなければならないのは事実らしい。逃げるでもなく助けを求めるでもなく――



「機体を直すのは?」



少し旬順したあと、彼女は首を横に振る。



「いや、この機体の動力機関が先程の戦闘でオシャカになってしまった。修理は不可能だな。そうだ。不可能だ」



うーん。やっぱりダメか。そりゃあ直せないからこんな困ってんだよな。なにやら含みがある感じだった気がしなくもないけど……




「いや、じ、実は――」




その時、再び甲高い音とともに自分達の近くに転がっていた巨岩が砕け散った。欠片が自分達の方に飛んでくる。不味い――




――間一髪、彼女の乗ってきた機体に当たって守られた。砕けた岩の砂煙が勢いの凄さを物語っている。


彼女も無事みたいだ。



「いよいよ本格的に深刻になって来たな……」



彼女がよりいっそう顔をしかめる。確かに先程から捜索の範囲が狭まってきている気がする。



不意に、彼女の機体が歪み、もとに戻る。



「今のは……?」



「――不味い。電磁迷彩が今の衝撃で崩れた様だ。

……直ぐに見つかるぞ!ここから離れて――」





束の間、自分達を影が被いつくす。余りにも巨大な、それは――



「……エージス、フレーム?」




灰色の鉄の巨人が持っている銃がゆっくりと此方に向く。自分達の身体を確実に消滅させられるように。殺意が、黒い意志が、ぶつけられる。



時間がゆっくりになっていく。世界の、一つ、一つが、緩やかに、停滞していく。





――――死ぬ。




間違いなく。死ぬ。嫌だ。せっかく女の子――まだ名前さえ聞いてないのに――にも出会えて。無駄に過ごしていた日々が動き出した気さえしたんだ。だから、嫌だ。死ぬのは。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。



嫌だ――――――




「嗚呼ぁぁぁあぁぁぁぁあ!!」






声を枯らして叫ぶ。意味の成さない事だと分かりながらも。


圧倒的な力が向いているのが解る。ゆっくりと、それが指向性を以て此方に放たれようとする。そして、その収束が臨界に達し、ゆっくりと――




――放たれた。



襲い掛かる悪意に、目を背けながら、死を受け入れて――







――瞼を、開ける。ここは、死後の――?



いや、違う。音が、色が、この目に、耳に、五感に、伝わって来る。まだ僕は、生きてる――



――何故して?確かに、彼処で助かる訳が――



「――き……きみ……君……君!君!聞こえてるか?!」



「……?」



「何故だ?どうやったんだ?!」



「どうやった……って何が?」



「後ろだ……!後ろ!」



「後ろ……って?」



そう言って、振り返ると、そこには――



胸部に輝く深紅の球体。両肩に備え付けられた二本の剣。右手に構えた勇壮な銃。

そう、確かに先程まで動力まで破壊され、鉄屑同然だったその「機体」は輝きを増し、傷一つない完全な姿になっていた。



そして、確かに自分達に死をもたらそうとしていた灰色の機体は、黒煙を上げて、横たわっている。



「……君の、叫びに応えて、コイツが動いた。誰も、()()に起動さえさせれ無かったのに」



そう言って、複雑な表情を浮かべる彼女。そして、決意を浮かべる。



「君なら、動かせるんだ。多分。早く、乗ってくれ……」



「……え?何を言って……?」



「いいから、早く!!」



彼女に急かされて、よくわからないまま機体に近づく。そんな自分達を受け入れるように、ハッチが開いた。見えない力に引っ張られるが如く、コックピットに乗り込む。

内部は広く、かなり空間がある。二人で乗り込んでも問題なさそうだ。



「よし。機体の起動シーケンスは……」



彼女がそう言い終わるやいなや、操縦席に座ったとたん、ハッチが閉まり、目の前のパネルが明滅する。そして、様々な英数字が現れたあと、器械のようなぎこちない声が聞こえてきた。



『【因子】を確認。適合確認中……適合。

《GRN-02 グランバスター》完全起動を開始します』



再び複雑な文字の羅列。合成音声による読み上げも続く。



『……各部エネルギー供給――クリア。

電子系統――問題なし。

ES-SPHEREによるエネルギー制御――問題なし。

スカーレット・スフィア――平常稼働。

四次元空間からのエネルギー抽出――問題なし。

最終チェック――オールグリーン。

《GRN-02 グランバスター》起動シーケンス完了。パイロット認証を行います。【因子】を確認。

現パイロットをR-01と認証。

バイタルクロス――完了。

操縦者サポートシステム《アルストロメリア》クロス完了。以後起動シーケンスを《アルストロメリア》に継続します……』



そう告げ終わると、一瞬機体の中が真っ暗になった。そして、再びモニターが点灯。先程よりも若干流暢な機械音声が聞こえた。



『ハロー。マイマスター。私は操縦者サポートシステム《アルストロメリア》です。《アルス》とお呼び下さい』



発音もそうだが、喋り方も大分人間らしくなった気がする。流石はサポートシステムと名乗るだけはあるということか。


「わかった。アルス……でいいんだな?」



『声紋認証完了。安全性・秘匿性が増しました。ご協力ありがとうございます』



……こいつ、わざわざ誘導してきやがったな?直接言えばいいのに。若干得意げだった気がするし。もしかして嫌なやつなのか……?



『マスターのバイタルに異常確認。どうなされましたか?推測が不可能です』



「……絶対わざとやってるだろ。お前。」



『失礼。なんのことやら』



間違いない。コイツは嫌なやつだ。



『さて、マスターの緊張もほぐれたところで、早速戦闘行動に移行しましょう。時間は有限です。』



「そうか。じゃあ、早速彼女に変わって――」



『不要です。この機体はマスター専用に調整されてしまっています。操縦者の変更は不可能です』



助けを求めるような目でコックピットの隅の方で黙っていた彼女を見る。しかし――



「そいつの言う通りだ。私にはできん」



冷たく突き放された。そういえば何だか不機嫌に見える。


……先程から置いてきぼりだったし。そりゃそうか。



「で、でも動かし方とか分かんないし、そもそも動かせるかどうかも……」



『大丈夫です。マスターなら出来ます』



「いやだからどうやって――」



『今の無駄な問答中にマスターの下意識にこの機体の扱い方、戦闘方法、戦術等の情報をインストールしました。安心して下さい。マスターなら、出来ます』



「で、でも――」



『いいから早くやって下さい。時間はないですよ?体が覚えてますから。早く!!』




最早脅迫じみた《アルス》の声に急かされて、機体を立ちあがらせようと試みる。そんなこと急に言われてもできる訳が――





――出来た。




「すげぇよ!立ったよ!」



『当たり前です。他も行けそうですね?』



……今機体を動かしてみてわかったが、確かに操縦するための体が勝手に動く。人は歩くときにわざわざ体の動きを意識しないように、同じ感覚で機体が動かせるのだ。これなら――



「……行ける。」



『分かりました。ではエネルギーフィールドを解除します。場当たり的な行動は、私もサポートしますが、後ろにいるベテランパイロットにも指示を受けて下さい。周囲の状況を鑑みるに、まずは即、上空へ離脱してください。いいですか?』



怒濤の言葉の羅列でよくわからなかったが、取り敢えず上に跳べば良いことだけは分かった。やり方はわかる。




「ああ。上に()()()いいんだな?」




『そうです。何故か若干不安なニュアンスを感じますが……

では行きますよ?フィールド解除まで、3、2、1……今です!!』




――その合図と共に、俺は空高く()()した。




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