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モブ令嬢アレハンドリナの謀略  作者: 青杜六九
アレハンドリナ編
8/22

約束は守ります

「その歳で、好きな人の一人もいないんですか?」

イルデはふっと鼻先で笑い、上から目線で私を見た。今では結構身長差ができてきて、意図しなくても私を見下ろしている。

「リナは本当に、お子様ですね」

「悪かったわね!」

鉄拳を食らわせてやろうと、突き出した握りこぶしを掴まれる。痛い、手首折れそうだから、やめて。天使のような顔して、力が強いってありなの?なしでしょ?


「私が羨ましいのですか?」

「う、羨ましくなんかないもん!」

「素直じゃありませんね。好きな人がいて、恋をしている私が羨ましいのでしょう?」

「羨ましくないって言ってんでしょ!」

振り払った手で鉄拳を……って、私の攻撃パターン読まれまくり?手首をもっと強く掴まれ、身体の後ろで固定される。

「ちょっと、やめてよ、イルデ」

「お子様のリナに、大人の私が教えてあげますよ」

空いている方の手で私の顎を持ち上げ、イルデは艶っぽく笑った。


「……最初は、口づけから。慣れたら、他のことも、ね?」

「ね?って何よ、待って……んっ」

少し強引な口づけが降ってくる。

「はっ、ダメ、待っ」

「待てません」

口づける合間に抗議しても、イルデは聞く耳を持たない。

長い指が私の制服のリボンにかけられ、するすると解かれる。

「あ、あの」

「言ったでしょう?……他のことも教えてあげますと」

第二ボタンが外され、喉元からすぅっとイルデの指先が下がってくる。

こ、心の準備がぁああああああ!


   ◆◆◆


ガッシャーン!

大きな音に跳ね起きる。

……ん?起きる?

私、寝てたの?


ベッドサイドのテーブルにあったランプが落ち、原型をとどめないほどに割れている。大きな音の原因はこれだ。私が蹴とばしたからだ。

「お嬢様!」

物音を聞きつけた侍女のアナベルが飛び込んできた。ランプの惨状に絶句する。

「……ごめん。蹴とばしちゃった」

「お嬢様……頭と足を逆さにしてお休みになられたのですか?」

「……」


アナベルほか三名がランプを片づけている間、私はぼんやりと夢を思い出していた。

幼馴染相手に妄想爆走しまくってる夢を見るなんて、私、欲求不満なのかしら?

適当に彼氏を見つけるべき?


イルデにキスされる夢……あのまま起きないでいたら、多分……。

それ以上のことに進んでたのかな。

誰と誰が?イルデと私が?

いやいやいやいや、ありえないでしょ。イルデは弟みたいなもんだし、っそれに……。

イルデには好きな人がいるんだから、私にキスなんかしない。

告白するのかしないのか、どうでもいいけど……イルデなら、胸にしまったまま神殿に行きそうだな。令嬢達と話をしている姿を見かけないし、社交はあまり得意じゃなさそう。好きな令嬢にも声をかけられずに終わるわね。


『私は神に、あの方の幸せを祈ります』

と満面の笑みで言うイルデを想像して、何だか無性に腹が立った。

ムカつく。通り越して、一周回って、……やっぱりムカつく。

夢の中のイルデの上から目線を思い出し、イライラが最高潮になった。つい、ベッドサイドのランプに手を伸ばし、これを割ったらアナベルが泣くと思ってやめた。


   ◆◆◆


好きな人がいないって、そんなに変なことなのかな。

校内では殆ど、私に声をかけてくる男子生徒はいない。いても隣のクラスの王子くらいだ。王子のお気に入りってだけで、女子からは嫌味を言われるし、男子には遠巻きにされる。イルデは私の指示通りにキラキラトリオにくっついてるから、一人で私のクラスに来ることはない。


廊下の壁にぶつかりながら歩いていると、向こうからイルデが歩いてきた。

視界は相変わらずぼんやりしているのに、イルデだと分かった。何だろ、見慣れてるからかな。

「リナ!」

ガツッ。

突き出た柱に額をぶつけた私に、イルデが慌てて駆け寄ってくる。柱と私の間に身体をすべり込ませて、よろけた私を抱きしめた。

――抱きしめなくてもよくない?

やりすぎよね。ああ、周囲の視線が痛い。


「ああ……赤くなっていますね」

「――!!」

何、今の?

おでこに、何か、当たったんですけど?

柔らかくて生温かい何かが、ねえ……。

「イルデ?」

「あなたは目を離すとすぐにこれだから……」


「イルデ、離れて!」

ぐっと胸を押すと、イルデの後頭部が柱にガツンとぶつかる音がした。

「……痛」

「久しぶりに会ったのに……」

頭を摩りながら呟く。結構いい音したから、痛かっただろうなあ。

「ごめんね。あ、と、校内では話しかけないで」

「話って……」

イルデの紫の瞳が戸惑っている。そりゃあそうだよね、いきなり絶交宣言だもんね。

「王太子殿下と約束したの。イルデに近づかないようにするって」

「なっ……リナ、約束って」

引き留めようとするイルデの手を払いのけ、私は自分の教室へと逃げ帰った。


   ◆◆◆


イルデは私を構いすぎる。これでは王子との約束が守れなくなる。

王子はイルデを傍に置いておきたいだろうし、私がイルデを引き留めては邪魔になる。

……よし。

いきなり彼氏は難しいから、一先ず友達を作ろう。

教室に入ったら明るい笑顔で挨拶だ。基本だ、基本に戻ろう。

一・二年の時は何してたっけ?一年の時は適当に女子と話ができていたのに、二年になった途端に休み時間にはイルデに連れ去られてたな。そうか、あいつのせいで友達ができなかったのか。


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