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モブ令嬢アレハンドリナの謀略  作者: 青杜六九
アレハンドリナ編
7/22

幼馴染は女の敵

本日2話目です。

「……これだからあなたから目が離せないんです」

幼馴染の美少年・イルデフォンソは不機嫌さに輪をかけて、私に冷たい視線を向けた。

「うう……だってさ、あの子」

「少しは令嬢らしくしたらどうなんです?」


血を見て驚いた王子が助けを呼びに行った結果、大人数がかけつけて酷い騒ぎになってしまい、私は一団から隔離されて生徒指導室に籠められた。

隣に座って私に説教をしているのが先生でなくて、一つ年下の幼馴染ってのが癪だけど。

「私、悪いことしてないもん」

「自分に素直なのは悪くありませんが、人を傷つけるのは犯罪です。悪いことだと教わったでしょう?」

「やってないもの、あの子が勝手に……!」

「そうやって人のせいにするのは、あなたのよくない癖です」

「信じてよ、イルデ!私、ナイフで切ったりなんかしてない!」

腕を掴んで縋りつくように見た。イルデは信じてくれる……はず。

そもそも、悪役令嬢イベント的なものが、モブ令嬢の私に起こるなんてありえないわ。


「……あのご令嬢が、セレドニオ殿下の近くに寄ろうとしたから、嫉妬したのではないのですか?」

「ぁあ?」

聞き返し方がつい雑になってしまった。イルデがあんまり変なこと言うから。

「殿下に近づいたくらいで嫉妬なんかしないよ。殿下とあの子がどうなってもいいってば」

考え込んだイルデは、私の話を聞いていない。一人でぶつぶつ言っている。

「彼女は私達がテラスにいる時も、図書室にいる時も、気づくと後ろから追いかけてきていましたし。いつも、殿下にビビアナ嬢、ルカ、私が……」

そこまで言うと、イルデは何度か瞬きを繰り返した。

「い、いや……まさか、そんな……」

口元を手で覆い、視線を逸らして顔を赤くする。


「イルデ、どうしたの?顔赤いけど」

「な、何でもありません。……そうですよね、メラニア嬢は、殿下を狙っていたとは限りませんね」

殿下に近づくなって言われたから、王子狙いだとは思うよ?

「はっ、イルデ、メラニア嬢に狙われたいの?」

「……どうしてそうなるんですか」

「あの子、外見は可愛いし、一応伯爵令嬢……」


……えっと。

イルデさん?目が怖いんですが。

怒ってるよね、物凄く怒ってるよね?

「そこそこ可愛くて、伯爵令嬢なら僕に相応しいと?」

あ、僕って言った。大人ぶって『私』って言ってたのに、時々ポロッと出るのよ。

――主に怒ってる時だけど。

「れ、令嬢らしくなくて、気さくで明るくて、皆に好かれそうだなって……」


にっこり。

目の前の美少年、目測で顔までの距離三十センチ。

悩殺スマイルで私を威嚇してる。背凭れがなかったら倒れてるよ、私。

近い関係だからって、不用意に顔を近づけてくるのはやめてほしい。

「あのご令嬢をすすめる前に、もっと条件にぴったりな人がいますよね」

誰?っつか、イルデはその子が……。

「イルデは、その人が好きなの?」

「……はい。愛しています」

「そう……」

「好きすぎて……時々自分が抑えられなくなりそうです」

熱い吐息が私の首筋にかかった。


   ◆◆◆


衝撃だ。

幼馴染が私より先に、好きな人を見つけてしまった。

いつまでも彼を子分にして一緒に遊んでいられると思っていた、自分の子供っぽさにあきれる。

「イルデの奴……全然気づかなかった……くっ!」

熱に浮かされた発言に動転して、思いっきり腹を蹴とばして逃げてきてしまった。イルデは椅子から転げ落ちて、動けずに私を追わなかった。


「『はい。愛しています』って、どの口がっ!」

べしっ!

ベッドに置いたクッションを殴る。

「ガキのくせに、愛してるとかほざくなんて百年……五十年早いってのよ!」

愛してるって百年言えないのは可哀想だから、五十年に短縮してあげた。死ぬまで愛を囁いてもらえないなんて相手にも悪い気がする。


相手――。

イルデの好きな人って、どんな令嬢なんだろう?

令嬢らしくないって私を叱るくらいなんだから、マナーも見栄えも完璧なご令嬢なんだろうな。将来神官になるくせに、女神みたいな令嬢に告白するの?両想いになっても結婚できないのに、不毛よね?相手がその気になったところで、『私は神殿で神に生涯お仕えするのです。あなたとはお別れです』みたいなこと言って別れるんだ。

「最低、女の敵!イルデの馬鹿!」


部屋でギャーギャー絶叫していると、末娘が乱心したと勘違いしたお母様が様子を見に来た。

「リナちゃん。どうしたの?何かつらいことがあったの?」

つらい?よく分かんない。けど、頭の中がぐちゃぐちゃだ。

「お母様……」

ほっとして、つい涙が出てしまった。安堵の涙だ、悲しいわけじゃない。

「あのね……イルデが、っす、好きな人がいるって、その人を愛してるって言ったの」

「まあ……」

お母様は絶句して、私の赤茶色の髪をよしよしと撫でた。


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