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モブ令嬢アレハンドリナの謀略  作者: 青杜六九
アレハンドリナ編
5/22

モブ令嬢は黙って身を引くものよ

私が立てた作戦通り、イルデは次の日から殿下に付きまとうようになった。元々華のあるイルデだけに、ルカとビビアナ嬢を加えた四人は、校内でも憧れの存在になった。気があるルカとビビアナ嬢が二人で話していると、手持無沙汰になった殿下がイルデと会話をする。……それでいい。すぐに殿下はイルデがお気に入りだと噂になった。もうひと押しだ。親友以上に仲が良すぎるところを全校生徒に見せつけてやるのだ!頑張れ、イルデ。


   ◆◆◆


イルデがキラキラ軍団に入ってしばらく経ち、学年が上がって私は三年生になった。イエイ、最上級生。あとちょっと頑張れば、正式に社交界にデビューできる。


この国では高校にあたる学校を卒業しないと、一人前の貴族として認められない。高位貴族は中等部に行かずに家庭教師で済ませることも多いけど、高等部は強制入学だ。ゆえに、キラッキラの王子もやる気がない私も、同じように三年間学校に通っている。

残り十か月我慢すれば、夜会夜会の毎日になる。セレドニオ殿下とクラウディオは同じ歳だし、夜会で会うこともあるかな。ビビアナ嬢やイルデとはしばらく会えなくなる。一年に入って来た『ザ・ヒロイン』な女の子の動向も気になる。モブならモブらしく、卒業まで彼らの恋愛模様を観察させてもらうとしよう。


「やあ、リナ」

目下、モブ生活を満喫したい私のところに、ちょっとした顔見知りレベルにも関わらず、王太子が時々顔を出すようになった。クラスメイトが騒ぐし、視線が突き刺さるからやめてほしいんですけど?

「……殿下。私の名はアレハンドリナです」

「あれ?イルデは君をリナって呼ぶんでしょう?可愛いね。私も同じように呼んでみたいんだ」

「そんな。愛称で呼んでいただくなど恐れ多いことですわ。ご遠慮いたします」

心からご辞退申し上げますよ。イルデに愛称呼びを許したのだって、私の名前が長くて言いにくそうだったから仕方なくなのよ。幼いころから三日とあけずに遭ってるのに、友達の名前で噛んでるイルデが不憫だったから。


「君も私を愛称で呼ぶといいよ」

「ご遠慮いたします。それこそ恐れ多い」

「君、なかなか強情だね」

「しっかり者だと父も兄も褒めてくれますの」

にっこり。後はお辞儀して……逃げっ!


……痛いわ。

腕を掴まれてる。誰に?キラキラ王太子殿下によ。

めっちゃ笑顔なくせして、握力が半端じゃないんですけど、どこをどう鍛えてるのかしら。

「まだ、話は終わっていないよ?」

「早くしないと、昼休みが終わってしまいますわ」

「……リナ。君、イルデとどういう関係?」


おっと!

その質問、どういう意味?

って、こっちが聞き返したいわ。


殿下はイルデをお気に入ったのね。だから、イルデの交友関係が気になると?

よしよし。いい感じ。

このまま殿下がイルデの美しさにぐらっときて、美少年との愛もありかなって思ってくれたら、ビビアナ嬢は晴れて婚約解消、ルカと幸せになれるんだよね。

ここはいっちょ、押すしかないよね?


「イルデと私は、幼馴染ですわ。私の父はイルデの叔父様と同級生で親友なのです。その縁で、我が家に遊びに来ていたのです。私がイルデの傍にいることで、殿下がお気を悪くされたのでしたら……」

「うん。……そうだ。私は不快だったよ」

やはり!私の読みは合っていたのね。

「ですから、私は、イルデに近づかないようにいたしますので……」

思う存分、イルデを愛でてやってちょうだいな。

この頃憎たらしいことを言うようになったけど、元々すっごい可愛いんだから。

礼をして微笑むと、王太子は満足して教室を出て行った。


やったわ、私。

今の会話、クラス全員が耳を大きくして聞いていたわよね。

お聞きになりまして?皆様。殿下はイルデにご執心ですのよ!

私という邪魔者がいなくなり、明日から思う存分……あら?

なんだろう?

視線が痛くて仕方がないわ。


   ◆◆◆


小さいころのイルデは可愛かった。

一つ年上の私を神のように崇めていた。本物の神を崇める叔父様がいるから、いちいちほめたたえ方が宗教臭かったのを覚えているわ。

「リナは、女神様みたいだね」

「神殿の天使様より、リナのほうがずっと綺麗だよ」

乙女ゲームで奴を攻略している女子に教えてやりたい美辞麗句漬け。

すっかり漬物になるレベルよ。


「リナ、僕、ずっとリナのそばにいるからね」

ある時、イルデは真剣な顔で私に言った。

『一緒にいる』と告げると引越したり死んだりするのが物語のお約束だから、私はイルデが死んでしまうのかと焦った。……うん、あれは焦っただけだわ。知ってる子が死ぬのは見たくなかったし。

「本当?」

「うん、リナのそばにいるよ」

「イルデ、死んじゃいや!おうちに帰らないで、帰ったら死んじゃう!」

「リ、リナ?」

「いかないで、お願い!リナと一緒にいて!」


結局、私が大泣きして、イルデは叔父様と一緒に我が家に一泊したんだったわ。

イルデが目の前からいなくなると、私が大泣きするからって、お父様とイルデの叔父様が話し合って、同じ部屋に寝かせてくれた。今考えると、いくら子供だからって男女一緒のベッドはまずかったわ。朝起きた時、私、イルデの抱き枕にされていたんだもの。

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