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モブ令嬢アレハンドリナの謀略  作者: 青杜六九
アレハンドリナ編
22/22

卒業パーティー前日

アレハンドリナ編最終話です。

「イルデぇえええっ!」

絶叫に苦笑し、セレドニオ殿下が私の肩から手を退かそうとした時、

ガタ、バキ!

重厚な生徒会室のドアが音を立てて倒れた。

助けに来てくれて単純に嬉しい。でも、こんなに毎度ドアを破壊していいの?

「リ……リナ……」

イルデは倒れたドアの傍で固まっていた。

長椅子に横たわる私、それを押し倒している王子。私の目は涙に濡れている。


「殿下……リナに何を……」

「嫌だなあ、イルデ。入る時はノックくらいしてくれ……おっと」

私の上の殿下の胸を押し、イルデは無言で睨んだ。迫力に圧倒された殿下が立ち上がり、私はやっと身体を起こした。

「あなたが王子でも関係ありません。リナはあなたに触れられるのを嫌がった。これ以上彼女に無理強いするなら、僕は反逆者と言われようとも、あなたと戦います」

低い声だった。いつもの優しいイルデからは想像できないくらい、ドスの効いた声だ。一人称が子供の頃のような『僕』に戻っている。


私のためなら、王子に楯突いてもいいってこと?

権力者に追われ逃亡する恋人達……神官と令嬢の許されざる恋……。

うん、いい。結構ときめくかも。どうしよう、顔がにやけてきた。

「伯爵に婚約を打診したそうですね。……権力を笠に、横から来て掻っ攫うおつもりですか?リナはもうずっと、僕のものなのに」


……ん?

ゴメン、お姉さんちょっと理解できなかったわ。

僕のものって言った?誰が?誰の?


「リナが望んだとしても、殿下の妃にはなれません。彼女はもう、僕を知ってしまったから」

「知った……?」

「はい。僕は何度も、リナと……」

うわああああああああ!

ちょ、何言ってる!

「イルデ!変なこと言わないでよっ!」


   ◆◆◆


それからのてんやわんやは思い出したくもない。

殿下から私がイルデを『知っている』と聞いたお父様は、物凄い剣幕でイルデのお父様に怒鳴りこみに行った。普段温厚な人は怒ると怖いのね。アレセス侯爵は平謝りして、速攻で私とイルデの結婚を決めた。

卒業パーティーを前に、ドレスの衣装合わせを何度もさせられた。お腹周りを測られて、本気でダイエットしなくちゃって思ったわよ。


「すみませんでしたっ!」

伯爵家の私の部屋で、イルデは何度も土下座させられている。

元はと言えば、こいつの言い間違いからこんなことになったのよ。

「『知っている』って、そういう意味だなんて知らなくて……私は、キスを知っていると、いう、つもり、で……」

声が尻すぼまりになっていく。ちらちら窺うように見る。

本当に知らなかったのか?どうなのよ、そこんところ。

「そう。殿下はあなたと同じ意味には取らなかったようよ?お父様に『結婚式を急がないとお腹が膨らんでくるかもしれない』と仰ったそうだもの」


つまり。

私とイルデは身体の関係がある――それも何度も――と誤解したセレドニオ殿下は、純潔でない私を妃にするのを諦めたのだ。諦めてもらってよかったけれど、結果がこれだ。

学校では、『聖職者志望のイルデフォンソを食った女』と言われ、相変わらず後ろ指を指され続けているわけで。

私は正真正銘、清らかな乙女だっての!

恥じらいを捨てて窓から大声で叫びたくなったわ。


周囲の勘違いを最大限に利用し、イルデは私の婚約者になった。殿下が危惧したように、お腹が膨らむ心配はないのに、両家の両親ズが結婚式を急ぎ、明日の卒業パーティーが終わったらすぐに式を挙げる予定だ。

殿下が男色家だって噂を立てる前に、私が噂を立てられ、計画は進展しないまま殿下も私も卒業してしまう。ヒロインのナイフ女はイルデにも粉をかけてきたけど、見事攻略失敗。あらゆるイベントが不発に終わり、ゲームの期限を迎えようとしている。


「あの場ですぐ、訂正してくれてもよかったんですよ、リナ」

立ち上がって私の隣に座る。叱られていたくせに、やたらにこにこしている。毎日楽しそうでいいわね。ちょっとムカつく。

「……だったの」

「何です?」

「嫌だったのよ。折角のチャンスをふいにするのが」

「私を使えば、殿下から逃れられますからね」

イルデは溜息をついた。彼が望んでいるのはこんな答えではないことを、私はよく知っている。


「殿下から逃れても、私に捕まってしまったから、あなたが望んでいたような夜会での恋なんて一生できませんよ?……いいんですか?」

だー、もう!

どうしてそこで訊くかなあ?

夜会で見つける恋人の顔なんて思い描けないって知ってるでしょ。

「そうね。素敵な人と出会って恋をするんだものね」

「リナ」

あ、瞳が昏くなった。声が少しだけ低くなってる。

「リナ、私だけを見て……」

ぐい、と顔を向けさせられ、至近距離で見つめあう。

私を見つめるイルデの表情にドキドキして、他のことが考えられない。

こんなに真っ赤になってるってのに、浮気を疑うの?察してよ、馬鹿。


王子に押し倒された時、頭の中にはイルデのことしか思い浮かばなかった。

イルデのキスも、私に触れる指先も、全て殿下が上書きしていくって思ったら、何故だかとても嫌だった。相手がクラウディオでも、夢に出てきた美中年でも、イルデじゃないってだけで嫌な気がした。

これって『すりこみ』ってやつ?


「夜会、ねえ……イルデは行きたい?」

「卒業したら、私も社交をと思っていますよ。神官になる道は諦めました。私の一番は神ではなく、あなたですから」

そこで蕩けた顔で見つめるな。心臓に悪い。

神殿で出世するのを諦めて、イルデは宰相を目指すらしい。クラウディオがいるから無理よとは言わずにおこう。夢は大きく、これ大事。


「そう……既婚者でもあなたはモテるでしょうね。私、心配だわ」

「あなたが行くなと言うなら、夜会には出ません。ずっと領地に引きこもってもいいと思っています」

それはちょっと……。

「領地と言わず、邸に籠っても」

だから、それはちょっと……。たまには外に出たいわ。

「本当はずっと……あなたを隠しておきたかったんです。私以外の目に触れないように」

アレ?それは犯罪では……?

セレドニオ殿下に押し倒された日から気になってた。

イルデって、私に関して独占欲が尋常じゃないわよね?


「イ、イルデ?怖いこと言わないで?私、社交の場に出ても、あなた以外に靡かないわ」

「……本当ですか?」

疑わないでよ。監禁だけはマジ勘弁。お願いだから普通に暮らそう?

「勿論。神に誓って!」

「……」

うわ、神を引き合いに出したら睨まれた。


「僕、まだあなたの気持ちを聞いていません。毎日僕はあなたの部屋で、あなたが好きだと囁いているのに」

って、囁く傍から耳たぶ齧るのやめようか?甘えたように『僕』って言うのもね。

箍が外れたイルデは、聖職者になろうとしていたのが嘘のように、エロエロ魔人に変身してしまった。昨日は耳たぶを皮切りに、最後は押し倒されたからね。

殿下の話が現実になったら、お母様が泣いちゃうよ、ホント。婚約してなかったら出入り禁止だよ。そこんとこ分かってる?


「す、好きだよ?私もイルデが好き!」

「本当に?」

「本当……だと思う」

「……思う、ねえ……」

これが恋なのか何なのか、はたまた単なる独占欲なのか。

まだ自分の中で結論が出ていないけど、堪らなくドキドキする。

「お願い、信じて?」

カワイコブリッコで首を傾げて見せた。

「……あ……くぅ」

口元に手を当てて真っ赤になって俯いたイルデの耳元で、

「大好きよ」

と囁いて耳たぶを噛んでやる。

「あ゛~~~~!!!」

絶叫して悶絶したイルデを眺めて、少し胸がスッとしたのは言うまでもない。


ありがとうございました。

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