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モブ令嬢アレハンドリナの謀略  作者: 青杜六九
アレハンドリナ編
2/22

私、悪役令嬢を応援します

「リナ……あなたはまた、皆さんを見ているのですか?」

「日課だもの」

昼時の食堂は絶好の観察スポットだ。何の障害もなく例の三人をじっくり観察できる。私の密かな楽しみなんだから邪魔しないで頂戴。

「じろじろ見るのはおやめなさいとあれほど言ったじゃないですか」

「いいでしょう?見られても減るもんじゃなし」

ガリガリと揚げ物を頬張る。ちょっと硬いポテトチップスみたいな料理は、この世界では大好物だ。

「そんなに……ですか?」

「あ、ごめん。ガリガリしてて聞こえなかった」

「……いえ。気にしないでください」

気にするなって言うくらいなら、初めから言わなきゃいいのに。


   ◆◆◆


例の三人、とは。

キラッキラの王太子と、その側近と、王太子の婚約者のご令嬢だ。


三人組の紅一点、ビビアナ嬢は公爵令嬢。一人娘なのに王子の妃になっちゃうんだって。

一人娘で婿取りを望まれ、独身アラフォーのまま事故で死んだ私とは、スペックも家庭状況も雲泥の差。

美人で家柄もよくって、性格も優しいと言われている。

王太子の婚約者で美人なのに、これといって悪口を言われていないから、本当に嫌味がないんだろう。

少し癖がある黒髪はつやつやしていて、つり目ぎみの大きな青い瞳は、マスカラもつけまつげもないのに、ついでにアイラインも描いていないのにぱっちりとしている。

いいなあ。私もああいう顔がよかったわ。


彼女を好きだというオーラが出まくっているのが、王子の側近で侯爵家のルカ。

見た限りでは王子より少しほっとするようなイケメンで、頭も切れるという噂がある。彼のジョークにビビアナ嬢が笑っているところをよく見る。ま、好きな男の話には、誰でも笑顔を作りたくなるんだろうけど。王太子に遠慮して、ビビアナ嬢に告白できなさそう。多分、一生。煮え切らないのは立場上仕方なくなのか、元々彼の性格がそうなのかは知らない。


ビビアナ嬢を応援すると決めたのには理由がある。

外野の、思いっきりモブの私が見ていて、はっきりと分かるくらいに彼女とルカは想い合っている。なのに、殿下の妃になるからってルカは手を出せないみたいだし、ビビアナははっきりと彼に気持ちを伝えられない。


とにかく焦れるのよ!

食堂で遠くから見ているだけなのにバンバン机を叩きたいくらいよ。

セレドニオ殿下が邪魔。そりゃ、見ていて心が浮き立つような美形だけど、美人は三日で飽きるって言うじゃない?ルカとビビアナ嬢が入学してから、三人を観察し続けてきた私としては、もはや殿下は単なる邪魔者、歩く障害物よ。王子だろうが知ったことか。さっさと二人の前から消えて頂戴!って感じ。

乙女ゲームらしい設定で、ビビアナ嬢は幸せになれない悪役令嬢なんだろう。

去年、廊下でひっそり、

「婚約破棄されて死ぬなんて嫌よ。あと一年もないなんて……」

と呟いて窓におでこと鼻をぶつけていた。鼻息で曇って彼女の顔の型がついたガラスに、ルカがそっと口づけていたのにはドン引きしたけど。


もう一人、忘れていたわ。


セレドニオ・ブエナベントゥラ・何とかかんとか・イノセンシア殿下は、この国の王太子様。公爵令嬢のビビアナと婚約しているんだけど、これがどうも乙女ゲームくさいのよね。夜会で王子とビビアナ嬢が一緒にいるところを見て、自分の前世の記憶が一気にフラッシュバックした。私、乙女ゲームに転生したのね、って。


王家は代々美人を妃に迎えているから、代を重ねればイケメンや美女がぞろぞろいるのは当たり前。でも、セレドニオ殿下の美青年ぶりは半端じゃない。殿下の周りにいるメンバーも皆キラッキラ。将来は美中年間違いなしの粒ぞろい。殿下やビビアナ嬢と幼馴染のオルディアレス侯爵の次男・ルカも、騎士団長の息子のニコラスも、ビビアナ嬢の兄のクラウディオも、タイプは違うけどイケメンだ。校内ですれ違うとついガン見してしまうくらいには。


あ、美少年も美青年も嫌いじゃないよ。流石は二次元の産物、モブとは比べ物にならない美しさだもの。目の保養になるわ。でも、美中年は別格でしょ。見ているだけでときめきが止まらない。うちのお父様もなかなかいいし、国王陛下も、うちのクラス担任のバルドゥイノ先生もカッコいい。


だからつい、授業中に先生を見つめていたら、

「悩み事があるなら私に話してみなさい」

って相談室に連れて行かれた。隣同士に座り、あれよあれよと手を握られて。

バルドゥイノ先生って既婚者だって噂があったけど、よく見れば指輪がない。仕事場では外しているのかなって首を傾げて、先生の顔をじっと見た。

「……アレハンドリナっ!」

先生が私の肩に腕を回して身を乗り出した瞬間、ドアを蹴破ってイルデが飛び込んできたのには驚いた。

「リナ。私とのことを先生に相談していたのですね」

「え?イルデ?」

「あなたが思い悩むことはありません。全て私が解決して差し上げます。……では、失礼いたします、先生」

あの後、鍵が壊れて蝶番がガタついたドアを丁寧に閉めて、私を見つめたイルデの顔が超怖かったっけ。思い出したら……いけない、膝が震えそう。


   ◆◆◆


「リナ、リナ!」

「……何よ、うるさいわね」

「呼びかけても返事もしないで、皆さんをずっと見つめて……」

「趣味なんだからいいでしょう?」

「趣味……」

イルデが視線を落とした。

「本当に、単なる趣味、ですか?」

は?

何言ってんの?

……という顔で見つめると、イルデはふるふると首を振った。

「……いえ。気にしないでください」

ったく。

さっきから何?言いかけてやめられると、消化不良になりそうよ。

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