モブなんで注目するのはやめてください
イルデのことをクラウディオに相談するわけにもいかず、私は悶々としていた。
「今日こそ、一緒に行ってくれるよね?」
「……ほぇ?」
図書室で暇に任せてミジンコの本をめくっていたら、クラウディオに話しかけられた。真剣な眼差しだ。適当に返事して悪かったわ。
庭園か……。
何度か庭園に誘われたけど、王子とサシで話をした恐怖がよみがえるんだよな。
正直、行きたくなかったので先延ばしにしてきていて、そろそろクラウディオがキレそう。
いや、キレたりしないよね?バカ真面目ないい人だもん。
何気なくクラウディオを見て、ひっ、と息を呑んだ。
うわあ……。
こういう顔で恋愛イベントをするんだろうな。
頬が微かに赤くなり、瞳がウルウルしている。多少鼻の穴がパフパフしてるけど、イケメンだから許す。
この顔でどんな甘い台詞を吐くんだろう。ゲーム自体知らないから想像できない。きっと、カタブツなド直球の台詞なんだろうな。
そりゃあ、この顔で『愛してる』だの『僕の恋人になってほしい』だの言われたら、ちょっとは絆されるよね?おまけに王子の次に高い身分で、パパが宰相、実家はお金持ち。断る理由はないだろうねえ。……私は興味ないけど。
空想に浸ってしまって返事をしなかったら、クラウディオはOKだと思ったらしい。
「放課後、教室に迎えに行くよ」
って、はにかんだ笑顔を向けてきた。……どうしよう、好意が重い。
◆◆◆
学校での初友達・クラウディオだ。
できることなら卒業まで友達づきあいを続けたい。が……。
周囲がそれを許さなくなってきている。
私とクラウディオは、クラスは違っても同い年だ。仲良くしても問題はない……はずなのに、周りからはどういうわけか、以前にも増して白い目で見られている。
クラウディオがイケメンだから、一緒にいる私へのやっかみかと思ったら、問題はそう単純ではなかった。
トイレに行って戻ってくると必ずと言っていいほど机が荒らされている。教科書がどこかへ行き、翌日庭で発見され、先生に渡される。
貴族の学校仕様の豪華な椅子に生卵が乗っていた時は、ちょっと笑ってしまった。
小賢しい令嬢の企みくらい手に取るように分かる。ある程度は未然に防いできたつもり。
でも、攻防戦も面倒になってきたんだよな。
いろいろと面白い事件が続いていたので、庭園に誘われているのを幸い、私はクラウディオにそれとなく相談することにした。
午後の庭園は、思い思いに話をする恋人達で溢れている。
相談する雰囲気はあまりよくないな。他に適当な場所がないんだもん。仕方ないよね。
「……そうか」
あれ?
お好みじゃなかったかしら?
やっぱり生卵椅子を首謀者の椅子と交換してやったのはまずかったかな?
私、やられっぱなしは嫌いなのよ。だから、汚れた教科書もその令嬢のと交換してあげた。
武勇伝ぽく喋ったから呆れられた?
「僕では、君を守れそうにないな……」
いやいや、宰相の長男が守れないって、それ以上の権力者は王子しかいないでしょ。あの人絶対腹黒だから、関わり合いになりたくないんですってば。
「クラウディオ様……お願いです。私を見捨てないでくださいませ」
頼みの綱、唯一の友達を失いたくなくて、令嬢ブリッコで軽く涙ぐんで見せた。涙?下を向いた瞬間に欠伸を堪えたのよ。全然悲しくないもの。
「アレハンドリナ……」
クラウディオの青い瞳が悲しげに揺れる。うわー罪悪感。
こんな誠実な人を泣き落としで騙そうとしてるなんて、私、あざとすぎる?
「君に黙っていたことがあるんだ」
「何でしょうか」
秘密の暴露?図書室で見たパンツの話を友達にバラしたとか?
だったら最悪。学校やめて家に引きこもろう。ついでにクラウディオに不幸の手紙でも出してやる。
「……実は、僕には婚約者がいるんだ」
はて……コンヤクシャ?
「ええと……」
「僕には中等部に通う婚約者がいてね」
おっと!
驚いて目を丸くした私に、クラウディオも驚いたらしい。
「あ、た、単なる政略結婚なんだ。だから、好きだとかそういうのはなくて。君が迫害されているのは、婚約者がいる僕と仲がいいから……」
しどろもどろになりながら、なんだかんだと言い訳している。
浮気の言い訳?こっちは浮気だと思ってないんだけどなあ。
なぁんだ、そっか。納得。
私、婚約者がいるクラウディオを誘惑するビッチだと思われていたわけか。
他人の男を横取りする趣味はないから、早々に手を引いた方がよさそうね。校内で会っても挨拶する程度の関係に戻ろう。やっぱり、攻略対象キャラと友達になったのがよくなかったのね。
モブはモブらしく、モブ友を見つけろってこと?
そんなの無理だ……。女子には嫌われているんだもの。
「僕と仲良くなる前は、君はイルデフォンソと仲が良かっただろう?だから、彼から僕に乗り換えたと思われて」
「はあ?」
「……はあって、アレハンドリナ?」
「乗り換えるも何も、イルデは幼馴染です。……わけがあって疎遠になりましたが」
この間も泣かせそうになったわ。幼い頃も泣かせまくったし。
「単なる幼馴染に見えなかったよ?君を見つめる彼の瞳は、いつだって……」
「やめてください!」
イルデの話は聞きたくなかった。
抗議すると思ったよりも声が響いて、おしゃべりに夢中だったカップルが何事かとこちらを睨んだ。
――うわ、視線が刺さる!
庭園中の注目を一身に集めて、私は卒倒しそうになった。
まずいわ。
絶対クラウディオに「何か」されたと思われてる。
好奇の視線に耐えきれず、私は短く挨拶すると庭園から逃げ出した。




