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モブ令嬢アレハンドリナの謀略  作者: 青杜六九
アレハンドリナ編
11/22

次の一手を打つしかないでしょ

結局、医務室にはお父様が迎えに来てくれた。

二週間学校を休んで復帰すると、怪我の元凶のクラウディオが心配して、かいがいしく世話を焼いてくれた。

「アレハンドリナ、階段は無理してはいけないよ」

「大丈夫ですよ。すっかり良くなりましたから」

「しかし……まだふらついているように見える。僕の腕に掴まって?」

優しいなあ、クラウディオ。攻略対象キャラなんだろうけど、驕ったところもないし普通にいい人に見える。ビビアナ嬢も優しいと評判だけど、兄もいいじゃないか。

誰だ、こんないい人をツンデレだなんて言っているのは。


   ◆◆◆


怪我から三か月。

休み時間はクラウディオと行動することが多くなった。

クラスに友達がいないと相談したら、

「それなら僕が友達になるよ」

と言ってくれたのだ。もしかして、人生で初の友達かもしれない。


図書室で本の話をしたら、結構趣味が似ていることが分かった。

男だけど女性向けの恋愛小説も好きなんだって。妹が集めているのを借りて読んでるって言ってたから、ビビアナ嬢の趣味も分かって、ファンとしてはうれしい限り。

てっきり難しい本ばかり読んでいるのかと思ってたよ。話が分かる奴でよかった。


「僕はここの台詞はおかしいと思う」

「何でですか?」

「二年ぶりに会った恋人に冷たい仕打ちじゃないか」

「そうですか?だって、『結婚しよう』って言ってから二年も放置されたんですよ?もっとブチキレてもいいくらいだと思います」

「アレハンドリナ、君は放置されたら怒るのかい?」

「当たり前でしょう?」

「一途なんだね。……ほら、放っておかれると浮気する女性もいるから」

「べ、別に……一途とか、考えたことがないですわ、ほほほほ」

悪かったな、恋愛経験値が低すぎるって言いたいんだろう?

経験なさすぎて、上手に浮気できるスキルもないからね!

ってか、浮気も何も、本命もいないからね。どうだ、参ったか!


堂々とふんぞり返っていると、クラウディオはくすくすと笑った。

「面白いね、君は。……イルデフォンソの気持ちが分かった気がするよ」

どうしてそこでイルデの名前が出てくるかなあ?


   ◆◆◆


イルデがキラキラ王子+ルカ+ビビアナ嬢のトリオに加わっても、違和感がなくなった。王子と仲良くしているようで何よりだ。そろそろ次の段階に進もう。


『セレドニオ王太子はイルデフォンソを溺愛している』


この噂を広めたいんだよなー。

だよなー。よなー。なー……。

空しく響くわ。本当に。だって広めようがないじゃない。

女子同士の噂話なんてできないのよ、友達いないし?


試しにクラウディオに

「王子とイルデのこと、どう思う?」

って聞いてみたら、

「殿下は王として素晴らしい素質をお持ちだし、イルデフォンソも将来有望だね」

と当たり障りない回答が帰ってきた。


違う!そうじゃないの!

「あの二人、ちょっと仲が良すぎるよね」

とか、

「昨日見つめ合っているところを見たよ」

とかさ。

妖しい雰囲気だったって言って欲しかったのよ。


まあ、無理か。

クラウディオはバカがつくほど真面目だもんね。

休んでる間に私の分のノートを書いてくれていたっけ。字が綺麗すぎて、ちょっとどうなの?って思うレベル。主に私が。

こっちなんかミミズがのたくってるとは言わないまでも、所々半分寝てるから字になってないし。もし、クラウディオが学校を休んで、ノートを写させてくれって言っても貸さない。絶対貸すもんか。恥ずかしくて穴掘って埋まるわ。


やはり、ここは。

二人に『恋人の聖地』に行ってもらうか。

恋人達が愛を語らうような場所に二人だけでいるところを、誰かに見つけてもらえばいいのよね。噂好きな奴が通りかかればいいけど、そればっかりは運次第か。


ところで、この学校に『恋人の聖地』ってあるのかな?

クラスのバカップルを追跡して確かめようとしたら、私って人ごみでも目立つみたいで、めちゃくちゃ気味悪がられた。もう、本当、ぐっさぐさにハートにナイフが突き刺さったわ。二度とやらないから許して。


クラウディオに訊いたら知ってるかな。

「……『恋人の聖地』ですか?」

「正確にそういう名前でなくても、それらしいところをご存知ですか?」

知ってるだろ?あんなにモテるんだからな。

じっと相手の出方を見る。おっと、狼狽えてるな。


「僕に聞いて、どうするの?」

え……。

まずい、全然言い訳を考えてなかったわ。

王子とイルデをBLカップルに仕立てようとしてるだなんて、知られたら死活問題だ。

王族の名誉を傷つけたとか何とか言われて、どこか遠くの修道院送り、下手すりゃ死罪よ。

……ちっとも考えたことなかったけど、実はかなり危ない橋を渡ろうとしてるんじゃ?


「アレハンドリナ、……君、もしかして」

「え、と、……い、言わないでくださいっ!」

「むうぐ」

何か言いかけたクラウディオの口を手で塞いだ。息苦しかったのか真っ赤になっている。

「……ごめんなさい。クラウディオ様にお聞きすることではありませんでしたね」

可愛い令嬢ブリッコをして、視線を逸らして俯いた。

これで会話は終了だ。令嬢が恥らったんだから、紳士たるもの突っ込んでくるなよ?

「その……西の庭園は……花々が見事だと聞いたんだ。今度、一緒に行ってくれないかな」


   ◆◆◆


いいぞ、クラウディオ。流石モテる男は違うわ。

西の庭園ってどんなところかしら?ってんで、放課後にこっそり見に行ってみた。


予想通りだ。

どこを見てもイチャイチャバカップルしかいない。

手作りだか何だか知らないけど、怪しい菓子を食べさせ合ってる。こっちでは、完全に二人の世界で見つめ合ったまま動かない。あんたら銅像ですか?それとも地蔵ですか?って感じ。


独り者には目の毒でしかなかったわ。チッ。

舌打ちしながら迎えの馬車に乗り、従者に街に寄るよう告げた。行き先は高級文具店だ。

作戦には投資が必要よね。

色とりどりのペンや可愛~いレターセットが買える。白地に縁がピンクの花柄で、これまたピンクのリボンが罫線部分を囲んでいる便箋と、開け口の部分にレースの型抜きがあるピンクの封筒を選んで買った。こんな乙女チックな物、前世でも買ったことないや。

もう一種類は、クリーム色でハートの透かし模様が入っている便箋と、アクセントに金色の鳥が飛んでいる白い封筒にした。


よし。

あとは書くだけだ。

手紙につられて、奴らが庭園に来れば……。

ふふ、ふふふふふふ。

大勢のバカップルに『逢引』を目撃されて、一躍公認カップルになるはず。


待っててね、ビビアナ嬢。

これであなたは、円満にあの王子と別れて、ルカとの愛を貫けるわ!


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